国際協力 社会課題コラム

スポーツ界から考える人種差別問題

人生は生まれた環境に左右されるという面が少なからずあると思います。
こう思ってるのは私だけかと思っていましたがどうもそうではないようでノーベル経済学賞を受賞した偉大なヘックマン教授も言っていました。

『今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因の一つになっている。アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両者の相違は乳幼児期の体験に根差している。恵まれない環境に生まれた子供は、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的なさまざまな問題に直面するリスクが非常に高い。機会均等を声高に訴えながら、私たちは生まれが運命を決める社会に生きているのだ。』  (『幼児教育の経済学』から引用)

例えば両親が幼い頃からいい教育を受け、そのお陰でそれ相応の地位や財力を手に入れていたとします。彼らが自分の子どもたちにも質の高い教育を受けさせようと考え、そのためにお金を使うのはごく自然な考えです。

そんな環境で育ち、教育を受けた子どもたちはヘックマン教授が言うような『専門的な技術』を得られる可能性が広がります。

一方、両親が幼い頃に十分な教育を受けられず、子どもをどう教育すればよいのか理解していなかったら子どもたちにも悪影響を及ぼしてしまいます。
教育が全てではないかもしれませんが、生まれた環境に左右される部分はやはり大きいのです
しかも残酷なことにどの国のどの地域のどの家に生まれるかなんて運以外の何ものでもありません

生まれた環境が影響を与えるのは自らの将来やどんな技術を得られるのかだけでなく価値観考え方もそうであるはずです。世の中には色んなバックグラウンドを持つ人、色々な考え方を持つ人がいることくらい頭で分かっていても無意識のうちに自分基準の価値観で他人にものを言った経験ありませんか?私は割と思い当たってしまいます。

それくらいならまだいいとしてその凝り固まった考え方が命を奪ってしまったケースが今回のジョージ・フロイドさんの事件なのではないでしょうか。今に始まったことではありません。黒人が白人警官により殺された事例なんて過去にたくさんあります。銃で発砲されても仕方ない行為なんてしていないのに適当に理由をつけて正当化されたりなかったことにされたりしています。その背景にあるのは黒人への偏見、差別意識に他ならないと思います。黒人を差別的な目で見るような環境で育ってきたからそんな行動に繋がるのです。

生まれた環境を表すものは幅広いので慣習も含まれると思います。この『慣習』の厄介さが色濃く表されている映画が『42 〜世界を変えた男~』です。

黒人初のメジャーリーガーであるジャッキーロビンソンを描いた映画です。今やメジャーリーグの試合で全選手が背番号『42』をつけて試合をする日があるくらい偉大な人物と認められていますが初めは全くそうではありませんでした。

彼がメジャーリーガーになった頃、まだ球場のスタンドは白人と黒人で席が分かれていたり、白人専用トイレがあったりした時代です。映画の中でもジャッキーが飛行機に乗ろうとしたら適当に理由をつけて乗せてもらえないというシーンがありました。白人にその席を譲るためです。

野球でも打席に立てばスタンドからブーイング、ピッチャーから頭を狙われる、相手ベンチからの理不尽な野次は日常茶飯事です。
罵倒されて怒りを露にすれば白人たちの思う壷です。だからやり返さない勇気を持つ選手になれとジャッキーは言われます。

ドジャースの球団事務所でリッキーが黒人選手をメジャーリーグに入れると部下に言った時もちろん部下はもちろん反対しました。

『気は確かですか?』『叩かれますよ』

黒人のメジャーリーグへの参加は違法ではないのにも関わらずにこの反応です。

部下たちは数々の言葉でジャッキーがメジャーのチームに加わることに異議を唱えていましたが、私が最も印象的だったのは『慣習がある。法律に逆らえば時に称賛される。慣習に背けば社会から排斥される』というセリフです。

何の拘束力もない、背いても罰せられることのない慣習がこんなにも社会を支配してるものなのだと驚いた記憶があります。
法律は面倒な手続きを伴いますが変えることはできて、守らなければ罰するぞと言えば人々を従わせることは可能ですが人々の根底に根付いてしまっている慣習は変えることは困難です。
幼い頃に植え付けられた黒人への差別意識は歳を重ねるにつれどんどん覆すのは難しくなっていきます。

いくら白人と黒人が一緒に野球を見られたり、結婚出来たりする時代であるからって根本にある偏見や差別意識が無くならない限りはこのような事件は繰り返され、何も変わらない現状に人々が嘆き続けるだけなのではないでしょうか

人種差別問題を解決するための最善の方法は『1人1人が偏見や差別意識をなくそう!』ですがそんな簡単にできることではありません。法律や偉い人たちの指示で規制できるものではないし、できたとしても人々の内面まで介入するようなことはすべきではないと思っています。

そんな厳しい状況の中でも『自分の世界だけにとどまらない』ことはできるのではないでしょうか。自分の考えを貫き通す姿勢は大事ですが、自分の価値観が絶対だと思ってしまうのは危険です。それが差別的な考え方のもとになり得るのです。他人から言われて気付くこともたくさんあります。

自分の頭の中や特定のコミュニティから飛び出して、今まで知らなかった世界に飛び込み、今まで全く頭になかった考え方に出会って、それが自分のためになったりならなかったりする経験は必要だと思います。

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