前回は、WFPに入社するまでの坂本さんの過去について迫りました。

第三弾では、実際にどのようなステップを踏めば、国連の職員として活躍できるのか。

また、その時に必要なモチベーションの保ち方について、坂本さんのご経験をベースにした考え方を紹介したいと思います。

プロフィール
坂本 和樹(さかもと かずき)

東京大学教養学部 国際関係論分科卒業
2012年 P&Gマーケティング部門に新卒で入社
日本・シンガポールで7年間勤務した後、2019年に退社
国際協力NGO・コンサルティング業務を経て、2019年9月より英国サセックス大学院開発学研究所(Institute of Development Studies)に進学し、開発学修士号を取得中
2020年7月よりWFP国連世界食糧計画日本事務所で政府連携コンサルタントとして勤務中


契約社員として働く方法

ーーー坂本さんは、国連での空席のポジションに応募してコンサルタント(契約社員)になられたそうですが、実際にはどのようなプロセスで応募したのでしょうか?

”〇〇のポジションが空いていて、〇〇ができる人を求めてます”といった内容が書かれた求人公募が、国連関連機関それぞれのサイトに載っています。

応募するときには、専用の履歴書と志望理由書のようなものを提出しました。

それらの書類を提出して受かった人には筆記試験の機会が与えられます

筆記試験は英語の試験などではなく、実際の業務に近い内容のものが出されました。

その試験に受かった後は、英語と日本語での面接を2回受けました。


英語や第二言語について

ーーー英語を使用した業務が国連では多いと思いますが、具体的にどれぐらいの英語力が必要なのでしょうか?また、第二言語(英語を第一言語とする)は必要ですか? 

外務省が管轄するJPO*1制度の説明では、英語資格の平均点は2019年JPO合格者平均はIELTS7.4、TOEFL105.4になってますね。

第二言語が必要かどうかは国際機関によると思います。

私が所属するWFPでは、正社員になる時には基本的には必要になります。

*1 2年間外務省が資金を負担して、35歳以下の日本人を国連に派遣する制度

ーーー第二言語にはどういったものがありますか?

国連の公用語は、英語、フランス語、スペイン語、中国語、アラビア語、ロシア語です。

基本的に英語は必須で、それに追加したもう1言語で一定のスコアをとれればいいのだと思います。

テストとしては、TOEFLのような外部試験もありますし、国連が主催している内部試験もあります。

どちらかに合格すれば大丈夫というような理解です。


普段の業務に必要なスキルについて 

ーーー普段の業務ではどのようなスキルが必要ですか?

民間企業で習得できるようなビジネスマンとしてのスキルは、基礎として活かすことができると思います。

プレゼンテーション資料作成のスキルや、英語で文書作成やメールを書けることが、コンサルタント(契約社員)としても求められます。

それに加えて、大学院で学んだような国際協力の知識や潮流の理解は必須です。

また、ポジションごとに類似経験や専門性が求められます。

正社員になるためには、業務内容に関するより深い経験や、高い専門性が求められると思います。


民間企業での就労経験について 

ーーー坂本さんのお考えとして、国際機関で勤務するためには民間企業での就労経験は必要になってくるとお考えですか?

はっきりそうだとは言えません。

P&Gのマーケティング部門で7年働いたのですが、そのうち2年以上はマネージャーとして部下を教育したりチームを率いたりすることに重きがおかれた業務を担当していました。

しかし現在は、契約社員のプレーヤーとしての仕事であり、マネージャー時代に身につけたスキルはあまり使っていません。

また、前回お伝えしたようにマーケティングの専門性が高く活かせているわけでもないので、民間企業がスタートである必要はないと考えています。

本当に国際協力に興味があるのであれば、NGOや青年海外協力隊などで現地での実務経験を積んだ後、大学院にいって修士号を取得すれば、最短で国連職員への道が開けると思います。

だから正直、民間企業に入らなければいけないことはないです

ただ日本に関して言えば、大きな民間企業では新卒入社した際に、しっかりとした研修を受けられるため、基本的なビジネススキルをつけるための安全な選択肢にはなります。

いきなりNGOに行くと、場合によっては仕事の量が多すぎたり、慣れない発展途上国の生活があったりと、大変な面も多いのかなと感じます。

自分の性格や強みにあった形での経験とスキルを積むことが大切になってくるのではないでしょうか。

国連で正社員になる

ーーー今坂本さんは契約社員のコンサルタントとして働いているのだと思うのですが、これから正規職員を目指すにあたってのステップを教えていただきたいです。

日本人の国連職員の半分以上の人は、JPO制度を利用して正社員になっているので、私もそれを利用しようと思っています。

そのために今の私の経歴に必要なのは現地での実務経験です。

WFPの中で契約社員として現地での経験を積むのか、他のJICAなどの機関を通すのかは今のところ決めていません。

しかしどちらにせよ、1、2年の現場経験を積んだ後にJPOに応募しようと考えています。

ーーー契約社員は1年スパンで契約更新ですが、正規職員になったとしても同じような形態なのですか?

正規職員の人は、地域によっても違いますが、日本やニューヨークなどの先進国での勤務は約4年だと思います。

紛争地や発展途上国は約2、3年のスパンです。

契約満了時にその都度、社内で別の空席ポジションに応募をします

社内に空席ポジションがわかるシステムがあって、そこから選びます。

受け入れ先のマネージャーが応募者のそれまでの経歴やスキルを鑑みて移動を承認するかどうかを決めるシステムです。

 

ーーー契約が2~4年スパンだと、その都度就職活動のようなことをしなければならないため、長年続けるのは大変だと聞いたことがあるのですが、坂本さんのお知り合いで長年勤め続けていらっしゃる方はいますか? 

組織によっては違うのかもしれませんが、WFPに勤めている人には長く働いている人も多いようです。

私の上司は15年ぐらいWFPに勤務していますし、東京事務所の代表の方は更に長い期間WFPに勤務しています。

しかし、就職活動とまではいかなくても、次のポジションに異動するための作業は大変だと思います。

空席を自分で探して応募しなければならなりませんから。

日本の一般企業のように、人事が勝手に次の異動先を決めるわけではないため、より自発性が必要な作業です。

自分に異動先の選択権があるという良さはありますが、手間はかかるし安定もしないです

ポジションの異動は国を跨いだものになる可能性も高いので、結婚や子育てなどを考慮するのであれば、人によって良し悪しがある制度なのかなと思います。

新しい国や地域を楽しめる人にとっては最高の環境とも言えると思います。

 

ーーー先ほど国連の職員になるにはJPOが近道だとおっしゃっていましたが、知り合いの方の中に他の方法をとられた方はいますか?

います。

他には2つ方法があります。

1つは空席公募といって、正社員のポジションが空いているところに外部から直接応募する方法です。

その場合、NGOやJICAなどで相当の経験を積んでいなければ、入るのは困難であると予想されます。

私の知人で国際機関に空席公募で入った方も、JICA、NGO、大使館などで15年ぐらい働いて多様な経験を積んでおられました。

もう1つはYPP*2という制度です。

世界中から才能のある人を数十人だけ集めて正規職員に採用するという制度です。

日本のみの制度というわけではありませんので、非常に高い競争率になります。

以上の2つに加えて、JICAや省庁から出向するといった形で国連で働く人はいます

WFPにはあまりいませんが、FAO*3では、農林水産省から出向している人が数十人いるそうです。

出向した後、そのまま国連に残って働きたいなと思えば、農林水産省をやめて空席公募に応募し、国連職員を目指すという手段も可能なのだと思われます。

*2 Young Professional Programm
*3 国際連合食糧農業機関


坂本さんの将来のキャリアプランについて

ーーーWFPの場合、長年勤務されている人も多いとのことでしたが、坂本さんも正規職員になれるとしたら10年程度の長期勤務を見据えていますか? 

5年ぐらいは勤めたいなとは思っているのですが、10年務めるかと言われればわかりません。

というのも、私は大きな組織の駒になることはあまり好きではないからです。

理想としては、例え小さな組織であっても、自分がその仕事をやるからこそ、自分ならではのユニークな結果が出るという状況を作りたいです。

WFPは組織として素晴らしいし、優秀な人材もたくさんいます。

しかし大きな組織なので、私がいるからこその付加価値を出せるかと言われれば、現在はそのような感覚はあまりありません。

5年ぐらいしてある程度自分に力が付いたら、民間企業やNGOなどで、世の中に付加価値を与えられるような仕事ができれば嬉しいです。

日々のモチベーションの保ち方

ーーー日々の生活のなかで、目標があってもモチベーションが下がるということは起こりうることですが、その対処法としてはどのようなものが有効だとお考えですか? 

一番大事なことは、目標に対して、自分が本当にそれを実現したいと強く思えることだと考えています。

そして、目標は達成可能かつ具体的であることが必要です。

実際に取り組んでみて、半分ぐらいはできるけど残りの半分はできないぐらいのバランスでないと、実行するのは辛いと思います。

加えて、目標を中目標、小目標に分解することも、とるべき行動が具体的になるので効果的です。

小目標は自分ができる一番近いことで、小目標を組み合わせていけば、現時点では目標が遠くても、達成できるのではないかなと思います。


最後に

ーーー最後に、国際機関を目指す就活生に向けてメッセージをお願いします。

 一番大事なことは自分がやりたいことを見つけることだと思います。

それが見つかったら情報収集をし、目標をセットして、目標に向かって行動することが大切です。

とりあえず行動しようといった考えを持つ人も多くいます。

しかし今の時代、多くの情報がオンラインなどで入手できるので、できる限りしっかり情報を集めて、進むべき道が見えてから動き出すのがベストではないかなと私は思っています。