今回は、コロンビア大学院卒業後、朝日新聞社に十数年勤め、その後にジャーナリストとしての経験を生かし、UNESCOで勤務されている斎藤珠里さんにお話を伺いました。

そして、社会貢献を仕事にするまでに様々な経験の一部始終に迫ってみました!

プロフィール
斎藤珠里

20歳から10年間ニューヨークに住み様々な仕事を経験。
その後朝日新聞社で記者として16年間働く。
国際機関で働きたいと思い46歳でパリに渡り、大学院に通ってユネスコへ。

ジャーナリストから国際機関へ

これまでの経緯

――国際協力を始めたきっかけやユネスコで働くまでの流れを教えてください。

今までの知識や経験を国際という畑で試してみたい」と思ったことがきっかけです。

私は、幼少の頃から、父の仕事の関係で海外を転々としていたため、海外に興味がありました。

20歳からの10年間はニューヨークに住んでいました。

その期間に、バレエやピアノなど自分の好きなことに打ち込んだり、興味の赴くままに様々な仕事に挑戦したりしました。

たまたま後半の4年間に日米のテレビ局でアルバイトをした関係で、皆が知らない情報を伝えていくジャーナリズムに興味を持ちました。

さらにもっと高いレベルでジャーナリズムを学びたいと思い、コロンビア大学大学院のジャーナリズムスクールに入学しました。

卒業してからの就職活動時に、朝日新聞社の中途採用の話を聞き、4年間のメディアでの実務経験+アメリカでの修士号という経歴がうまくプラス作用に働いて、就職できました。

そこから16年間は記者として働きました。

しかし、40代に入ったころから今までのジャーナリストとして培った経験や知識、恩恵を日本の読者だけでなく、世界の人のために活かしたいと思い、影響を与えられる範囲の大きい国際機関で働きたいと考えるようになりました。

その中でも、教育や文化の交流を通じて、国際平和実現のために活動しているユネスコに魅力を感じていました。

少しでも距離を縮めようと思い、46歳で選択定年制度を使ってユネスコの本部があるパリに渡りました。

最初は大学院に通っていましたが、運よくユネスコにポストが空いて入ることが出来ました。

国際機関で働く

――国際機関で働くメリットデメリットは何ですか?

 メリットは、活躍の場が世界であることです。

ユネスコの場合、200カ国近い加盟国があるため、様々な国の教育のトップの人と仕事ができます。

教育大臣や文部科学大臣とやりとりしながら、どのようにその国にとって必要な手助けやノウハウ、スキルを提供できるかを考えます。

「世界中のみんなで協力しましょう」という地球市民的なポリシーに基づいて、国のトップの人とスケールの大きい仕事ができるので、そこが1番のメリットです。

デメリットは、作業やプロジェクトのスピードが遅いことです。

民間企業だと、利益を出さなければならないので、そういったスピードが速いです。

国際機関になると、国同士の調整が必要で、何をするにも「これで良いでしょうか?」など各国の承認が必要なことが多いため、基本的に長期スパンになリます。

また、本部に長くいると、書類作成や各国への合意形成などが多くなり、1番向き合うべき現場と接点が少なくなります。

 

――国連職員として働くために必要なスキルを教えてください 

やはり語学力です。

それも、自分が思っていることを、100%伝えられるレベルでないとダメですね。

人の話を聞き、自分の中の価値観や考え方といったフィルターを通し、その意見や考えををまとめ、自分の考えとして発信できる力です。

元々、ある考えに、「NO」といっていた人が「YES」と考え方を変えるような、説得力のあるコミュニケーション能力

この能力は、国際機関で働く上で一番大事な能力だと思います。

200カ国近い国がいる中で、活動していると、それぞれの国で考え方や文化が違うという当たり前の事実に直面します。

その多様な考え方や文化を認めたうえで、「世の中のためには、このほうが良いのでは?」と、話の筋道を変えて、相手にきちんと論理立てて、伝える。

そういったコミュニケーションをとることを意識しています。
2019年7月、約200か国から教育関係者を招いてベトナム・ハノイで開催されたUNESCO Forumにて


日本は教育後退国ではない。

ユネスコでの仕事

――ユネスコでは、どのように教育に関わっていますか? 

持続可能な開発のための教育というセクションESDEducation for sustainable development)プログラムで、ユース世代(18~35歳)が持続可能な世界に貢献できるための枠組みづくりに携わっています。

具体的には、ユースの育成や世界各国のユースが協力しあえるように、各地域でワークショップの開催などをしています。

例えば、アフリカの23カ国から、ユースリーダーを50人程呼び、ワークショップを行っています。

そこでは、自分たちの地域ではやってない他の国の良い活動に気付けたり、新たな解決策や気づきが生まれるので、ポジティブな化学反応が起きます。

今は地域的な単位で行なっていますが、ワークショップをもっとグローバルなレベルで行っていきたいです。

2017年2月、ケニア・ナイロビで開催したESDユースのためのワークショップにて

日本の教育について

――日本の教育はよく時代遅れと言われますが、どう感じていますか? 

実は日本の教育はすごくレベルが高いです。

学力という視点ではなく、「ものを考える力」と「他人を思いやる精神」がすごいと思います。

そういった精神がないと、いくら知識があっても、実際には行動に移せません。

だから、クールな頭と温かい心の両方が必要です。

この2つが結びついて、発信力になる。

そこは日本のすごくいい部分だと思います。

実際、日本では、家庭教育や学校の課外活動、地域のクラブなど、いわゆる学校教育のカリキュラム外での学びの文化があります。

ESDを本当に推進させるためには、学校のカリキュラムだけではなく、その非慣習的な文化を手厚くすることが重要だと感じます。

日本人には、当たり前のことでも、世界では違う。

私は、もっと日本人1人1人が発信者になって、日本の良い所を発信していって欲しいです。


Youth saves the planet

ユネスコで働く上で大切にしている考え

――UNESCOで働く上で大切にしているポリシーはありますか? 

Youth saves the planet(ユースが世界を変える)をポリシーに活動しています。

ユースは、純粋に自分たちの経験やVisionをどうやって、世界や社会に役立てられるか考えている人が多いです。

ただ、彼らが就職したり、組織に所属すると、その思いがうまく機能しなくなります。

だから、その思いが薄れていないユース世代に着眼して、彼らの声を吸い上げる。

彼らのやりたいことをサポートでき、ユースと国際機関が直接やりとりできる仕組みがあれば良いと考え、働いています。

2018年5月、ユネスコ本部で70人のユースの参加をえて開催されたESDユース世界会議 Youth saves the Planetにて

読者へメッセージ

――国際機関で働きたい人への応援メッセージをお願いします。

まず、国際機関で働くことは非常にやりがいがあり、世界に貢献できる良い仕事ですので、目指している方は頑張ってください。

国連職員になるには、2つの方法があります。

1つ目が、大学院まで出て、1からコツコツと国連職員になるために努力することです。

様々な経験を重ねることで「自分は国際職員として何ができるか」を考えながら、経験を積みながら上を目指します。

具体的には外務省のJPO制度などを利用するのが近道です。

2つ目は、自分の興味のあることをしばらくやってみることです。

私の場合は、バレエやピアノにしばらく打ち込んでいましたが、アルバイトを転々としているうちに自分が向いているのはマスコミだと気づきました。

そうした様々な経験を通した視点やスキルは、中途採用される際には重宝されます。

1つ目のプロパーで這い上がっていくタイプと2つ目の私のような即戦力タイプが組み合わさることで、国際機関としてより大きな結果が出ると感じています。

自分はどちらの方法が向いているか考えて、努力を重ねて行って欲しいです。