今回は現在農林水産省に勤務しており、途上国と日本の関係性を向上させるために政府という立場から国際協力の活動を行っている西村はじめさんにお話を聞きました。TICAD(アフリカ開発会議)やチュニジアへの出向など、現地での活動も行ってきた社会貢献を仕事にする彼の思いとキャリアとは!?
大学では福祉政策を学ぶ
福祉系のNPOで働いた後農林水産省へ
入省後は農地制度、農業の担い手育成、食料・農業・農村白書、農業税制、国際関係などを担当
3年間の大使館出向中は、経済協力、技術協力、広報文化、日本企業支援などを担当
目次
1. 政府機関で働くとは?
農林水産省での仕事
ーーー 今はどんな活動をされていますか?
農林水産省国際部に所属しています。
国際部は、
「農林水産業や食品産業が関係する国際交渉」
「途上国への国際協力」
「農林水産物の輸出や企業の海外進出が上手くいくよう、農業者、企業、消費者、農林水産省内の各部局の意見を聞きながら、より良い環境作り」
を行う部署です。
私自身は、農林水産省の一員として、その時にやるべきこと、やれることを、上司と相談しながらやっています。
最近では、TICAD7の担当をしました。
TICAD(アフリカ開発会議)は、3年に一度開催されている、日本とアフリカの首脳が集まる会議で、その7回目の会議(TICAD7)が8月下旬に横浜で開催されました。
私は以前、在チュニジア日本大使館に出向させてもらった経験もあったので、TICAD7の農林水産省担当者の一員にしてもらえました。
アフリカでは7割近くの人が農村に暮らしているので、農業はとても重要な産業です。
農林水産省では、アフリカの農業開発に様々な支援をしていますが、貴重な税金が大切に使われ、アフリカの発展に意味があるものになるよう、農林水産省から専門家を派遣したり、現地の日本大使館やJICA事務所と協力したりして、より意味のある協力内容を目指しています。
ーーーチュニジアではどんな活動を行っていましたか?
農林水産省からの出向で、在チュニジア日本大使館で2009年から2012年まで働きました。
大使館にいたので、農林水産省の一員というよりは、日本政府全体の仕事が中心となりました。
例えば、日本人がチュニジアで安全に旅行したり、ビジネスをするにはどうしたら良いか、日本がチュニジアでもっと信頼されるようになるかを考え、JICAチュニジア事務所と相談しながら新しい協力内容やボランティアの派遣先を考えたり、日本文化の広報活動などを行っていました。
大使館での勤務だけではなく、全ての経験・時間が仕事の情報源となりました。
例えば、家族でチュニジアの地方に旅行に行くだけでも、各地域で売っている食料品の産地や価格、走っている車の種類、道路の整備状況、カフェで話した現地の人の仕事など、全てを生かして、協力が必要な分野や地域を考えていました。
政府機関で働くメリット
ーーー政府機関で働くメリットを教えてください。
国民全体に影響を与える政策決定に関われることです。
それと、例えば農林水産省であれば、農林水産業者、食品の製造業者、流通業者、小売・外食、また、それぞれの資材(農業機械や肥料や包装材など)の製造業者、農産物の輸出入業者など、農林水産業を起点としたさまざまな業界で働く人たちと関わることができます。
幅広い世界を知って、全体の最善策を考えられることが、魅力だと思います。
“たまたま”で見つけた国際協力
国際協力のきっかけ
ーーー国際協力を始めたきっかけを教えてください。
農林水産省に入ったのは「たまたま」です。
元々、公務員志望ではあったのですが、具体的に農林水産省に入りたいわけではありませんでした。
国家公務員の試験を受けて、たまたま入れてもらえたのが農林水産省でした。
チュニジアで国際協力を担当したのも「たまたま」です。
農林水産省に入った時には、担当になるとは思っていませんでした。
たまたま在外公館への出向を奨められ、たまたま行った国がアフリカのチュニジアだったのです。
チュニジア出向中に、たまたま革命(ジャスミン革命)が起き、たまたま独裁政権の終わりと民主化の始まりを間近に見る機会を得ました。
そして今も、たまたま農林水産省国際部で働かせてもらい、たまたまTICAD7でアフリカを接する機会をもらえました。
農林水産省のような大きな組織で働いていると、自分の想いをそのまま形にできる機会は少ないです。
私たちの仕事は、多くの国民、場合によっては世界中に影響を与える可能性があるので、慎重に意思決定をする必要があります。
そんな中でも、自分にできること、やるべきことを見つけて、一つでも、少しでも形にしていく。
そのためには、努力して信頼を勝ち得ていくしかないと思うので、まだ努力をしている最中です。
活動する上で大切にしている考え
ーーー アフリカで活動する上で、大切にしている考えはありますか?
相手の国に行ったら、相手の文化や歴史を尊重することです。
日本人にとっては意味のないことであっても、彼らにとってはとても重要な場合があります。
「日本だったらこうやっている・・・」と言ういい方や考え方は、避けた方がいいと思います。
日本の技術や製品には素晴らしいものがたくさんありますが、それらを押し付けるのではなくて、相手の国の生活や仕事のやり方に、上手くマッチする方法を考えた方がいいと思います。
途上国の発展は日本を守ることにつながる
国際協力における今後のキャリア
ーーー国際協力におけるキャリアとなぜそこに自分が関わりたいのかを、教えてください。
日本は、多くの食料を輸入している国です。
農林水産省では国内生産の増大にも努力していますが、狭い国土で1億人以上の国民の食料を全て賄うことは不可能です。
輸入が必要な食料を安定的に輸入することも必要です。
一方、アフリカ諸国は、経済発展を続けつつも多くの食料を輸入しています。
このまま更に輸入量が増えれば、世界全体の食料需給に影響を与えるかもしれません。
アフリカの農業生産の増大・安定、ロスのない消費に協力することは、日本人の食卓を守っていることに繋がっていると思います。
国際協力のこれから
ーーー今後の国際協力の潮流や新しい動きがどのようになって行くか何かお考えがあれば教えてください。
国際協力は、相手の国に発展してもらい、日本からの輸出や日本企業の投資を活発にすることも目的です。
日本の財政事情が厳しくなる中、より効果的な国際協力ができるよう、民間企業やNPOの活躍が更に必要になると考えます。
民間企業もSDGsの取り組みが盛んになっています。
これまでよりも幅広い立場で、国際協力に携わることができるようになると思います。
読者へメッセージ
ーーー最後に国際協力の道を志す人たちに応援メッセージをお願いします。
志は社会で経験を積みながらでも見つかるものです。
志を持つことは大切ですが、人間の行動原理は志だけではありません。
様々な立場、様々な考え方、様々な環境で暮らす人々に行動を変えてもらうための手法を、幅広く知った方が良いと思います。
経験を積み重ねることが一番だと思います。
最後は、志が違う人を動かすことが必要になるので、今の段階から、志を同じにする人と行動することはないと思います。
組織に属するにしろ、個人として活動するにしろ、全ては貴重な経験になりますので、「運と縁」を大切にしてほしいと思います。
この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。