18年間にわたりバングラデシュでストリートチルドレンの支援を続ける渡辺大樹さん。
第二弾では、子どもたちとの関わり方や、渡辺さんご自身が心がけていることについて伺います。
困難な状況でも諦めず、強いリーダーとしてエクマットラを牽引してきた渡辺さんですが、意外な葛藤も抱えているようです。
神奈川県育ち。大学時代はヨット部に所属。ヨット国際大会出場のため訪れたタイ・プーケットでストリートチルドレンの男の子と出会う。そのときの衝撃から、抑圧された子どもたちの問題解決のためにバングラデシュへ単身渡航。
同年、在学中に出会った仲間たちとNGOエクマットラを立ち上げる。バングラデシュ出身のシュボシシュ・ロイ氏と共同代表として活動を指揮。青空教室やチルドレンホーム、アカデミーの運営、映画制作を通じた啓発活動などを精力的におこなっている。
2010年内閣総理大臣奨励賞「人間力大賞」受賞
2013年に収益事業を組織化するため、エクマットラが実質100%株主となるエクマットラアントレプレナーズ株式会社を設立
代表取締役社長に就任した。
子どもたちとの関わりについて
ーーー子どもたちの心のケアはどう対応していますか。
親がいなくて寂しい思いをしている子や、共同生活に息苦しさを感じる子、突発的な喧嘩で逃げ出してしまう子などがいて、アカデミーでも日々さまざまな問題が起こります。
スタッフが関わったり歌やダンスなどで発散させたりしていますが、ダッカの施設と大きく違うのは、木の下にたたずんで涙を流したり心を落ち着けたり自然セラピーをできる環境があること。
そういう意味では、以前よりも心のケアがしやすいと思います。
難しいのは、エクマットラを卒業した子や途中で出て行った子たちへの関わりですね。
いろんな支援団体を見てきましたが、18歳まで大事に育てた後に、いきなり社会に出すことが多いのです。
社会の厳しさに直面した彼らは、自分の人生をどう切り開けばいいのかわからなくなってしまいます。
施設を出て一人になったときに、何ができるのか。
彼らが生き抜く力を持つためにも、私たちは社会の厳しさをしっかりと伝えるよう心がけています。
ただ、いくら事前に伝えても、実際に社会に出て初めて痛感するんですよね。遅めの思春期もあいまって、現実逃避してしまう子が少なからずいます。
ーーーそのときはどのようにフォローしていますか。
私が会って話をすることもありますが、父親のような存在なので厳しいことも言うんですね。
それで「突き放された」と感じてしまう場合もあるので、母親のような存在である私の妻が会いに行ったり、年代の近いスタッフが話を聞いたりもします。
いろんな立場の人が関わって、説得をするよりも彼らの話を聞くことを大事にしています。
性別や年齢、職業、宗教など、いかに多様な人と関わっていくかが、その人を支える柱になっていくと思うんですよね。
そのためにも、さまざまな人と触れ合える機会をたくさん提供していきたいです。
心のケアも必要ではありますが、苦しさに直面した経験は今後の自分に生かされてくるはずです。
私の息子も含めて、子どもたちには苦しさを体験してもらいながら、それを糧にして強い人間になってほしいと思います。
ーーー渡辺さんにとって、アカデミー建設時の苦しみはどんな強みに変わっていますか?
あの苦しい経験があったからこそ、実際にアカデミーを運営できていることへの感謝の気持ちが強くなりました。
あの挫折があるまでは、うまく出来すぎだったんです。
いいタイミングで挫折を味わったことで、多くの支援者の方々と繋がれましたし、改めて自分たちの活動や思いについて伝えられました。
別の場所にアカデミーを作るタイミングが来たら、過去の教訓を生かすこともできます。
また、クラウドファウンディングで繋がったご縁はとても大きな財産だと思います。
これからも、支援してくださる皆さんへいい報告を続けていきたいし、それが自分自身のモチベーションにもなっています。
活動で心がけていること
ーーー子どもたちと関わる上で心がけていることを教えてください。
私たちが大事にしているのは、「可哀想だからサポートする」という同情心に流れてしまわないことです。
子どもたちが「自分も変われるかもしれない」と思えるように、私たちがしっかりとビジョンを見据えて、自分からエネルギーを発せられる人間になろうと心がけてきました。
私は、大学時代から自分のテンションをコントロールするように意識していました。
青空教室の前に気持ちが落ち込みそうになったときは、「今からテンションを上げるぞ」と数字をカウントして切り替えるんです。
そうすると何事にも動じなくなるし、いつもポジティブでいられるようになります。
ーーーその積み重ねで強い心を培われたのですね。
私自身は常にエネルギー全開の状態でいられるのですが、実は最近、それが行き過ぎてもよくないと思うようになってきました。
活動を継続する上では引っ張っていく強い心も必要ですが、家族と生活していると、妻から「もっと共感してほしいのにわかってくれない」と言われることもあって。
それは私自身がいろんな経験をしてきた中で、なんとか心が折れないように必死だったからです。
「強さ」を追い求めた結果、時に人の気持ちがわからなくなるほどの鋼鉄の心になってしまいました。
日本で講演会をさせていただいた際にも、大学生の方から「圧倒されて、自分には無理だと思って落ち込みました」という感想をもらったことがありました。
皆さんを鼓舞するはずが、そんな気持ちにさせてしまうこともあるんだ、とハッとさせられましたね。
妻の場合は子どもたちに共感しすぎて心を痛めてしまうこともありますが、真摯に向き合う姿勢から私も影響を受けています。
これからは鋼鉄の心をほどいていって、強さと優しさのバランスをしっかり取りながら、人間らしい心を大事にしていきたいと思っています。
次回予告
苦しみを乗り越えてきた経験は強みになる。
しかし、バランスが偏ることで自分自身に生じた課題に気づき、向き合い続ける渡辺さんのお話がとても印象的でした。
その姿勢と人柄が、多くの協力者を得られて成り立つ今の活動に繋がっているのではと感じます。
次回は、団体として今後さらに力を入れていきたいことや、読者へのメッセージなどをお届けします。
大切なのは、どんな環境にいても自分の思いを大事にすること。#3〜NGOエクマットラ渡辺大樹さん〜
安果(やすか)
発達障がい児支援士。フリーライター。
過去に保育施設コンサルの営業、マッサージセラピスト、コピーライター、旅行業などを経験。
2011年から国内外の孤児院やNGO団体、戦争跡地、フェアトレードタウンなどを巡る。
海外放浪・就労を経て2021年より地元愛知にUターン。