バングラデシュでストリートチルドレンの支援を続ける、渡辺大樹さんへのインタビュー第三弾です。
今回は、収益事業と今後の展望、渡辺さんが大事にする生き方、そして読者へのメッセージをお届けします。
1980年宮城県生まれ
神奈川県育ち。大学時代はヨット部に所属。ヨット国際大会出場のため訪れたタイ・プーケットでストリートチルドレンの男の子と出会う。そのときの衝撃から、抑圧された子どもたちの問題解決のためにバングラデシュへ単身渡航。
2003年にダッカ大学に入学し4年間在籍
同年、在学中に出会った仲間たちとNGOエクマットラを立ち上げる。バングラデシュ出身のシュボシシュ・ロイ氏と共同代表として活動を指揮。青空教室やチルドレンホーム、アカデミーの運営、映画制作を通じた啓発活動などを精力的におこなっている。
2010年内閣総理大臣奨励賞「人間力大賞」受賞
2013年に収益事業を組織化するため、エクマットラが実質100%株主となるエクマットラアントレプレナーズ株式会社を設立
代表取締役社長に就任した。
今後の展望について
ーーーー収益事業と、今後力を入れていきたいことについてお聞かせください。
自分たちのやりたいことを形にするために、寄付だけに頼らず自立した運営を心がけています。
日本企業とバングラデシュ企業のコーディネートや飲食業などさまざまな事業をおこなっていますが、主力でもあり得意分野でもある映像制作にもっと力を入れていきたいと思っていますね。
映像制作は、エクマットラにとっての単なる収益事業ではなく、活動の根幹を支えるものでもあるのです。
ーーー具体的にはどのような役割を持っているのですか。
私たちの役割は大きく分けて2つあります。
1つ目は、子どもたちの生活や教育環境を整えてサポートすること、そして2つ目は、映像を通じて社会の現状を人々に投げかけることです。
ストリートチルドレンや児童労働の問題をしっかりと認知してもらうことで、自分の行動を少しでも変えてもらう。
最終的には、子どもたちが誰からも不当な扱いを受けることなく、自己実現できる社会をつくりたいと思っています。
そのためにも、映像を通して自分たちのメッセージをしっかりと伝えていきたいですね。
私たちが生きている間に実現させて、本当の意味で大きく変わった社会を見たいです。
理想の生き方について
ーーー渡辺さんが理想とする生き方について教えていただけますか。
学生時代に大きな病気をしたり、バングラデシュで壁にぶち当たったりしてきた中で、どんな場所にいても目の前のことを楽しむ姿勢を大事にしてきました。
人生ではひとつの道しか歩けないので、何に対しても自分が後悔しない道を選ぼうと思っています。
日本にいたら全く違うことをしていたかもしれないし、さまざまな選択肢がある中で、もしかすると最悪の道を選んでいるのかもしれません。
けれど多くの挫折も味わった上で、これまでの全てのことを経験できてよかったと思えています。
充実しているかどうかに限らず、今選んでいる道を「一番いい道」と思うことで、視点が変わります。
自分の心と一緒に生きているのだから、自分自身は騙せません。
だから、自分がその人生に納得しているとき、人は一番輝くのだと思います。
ーーー最終的には自分の心が決めることなのですね。
そうですね。
「こんなはずじゃない」とか「もっとできるはずだ」と思っているときは、自分に過度な期待を持っているのかもしれません。
人間は所詮「座して半畳、寝て一畳」それだけの存在です。
ちっぽけな存在でも、社会に何かいい影響を与えられると思うだけで、自分を肯定する要素になると思うんです。
否定ばかりするのではなく、自分のポジティブな部分に目を向けることも大切です。
人に対しても国に対しても、悪い面だけに目を向けていると視野が狭くなってしまいますから。
どんなことも、受け止め方は自分次第。
そして自分の心だけはコントロールすることができます。
難しいと思うなら、鏡の前に立って、変でもいいから笑顔を作ってみてください。ふっと気持ちが変わる瞬間がきっとあるはずです。
読者へのメッセージ
ーーー最後に、社会貢献に関心のある読者へのメッセージをお願いします。
ちょっとクサイ言い方かもしれないですが、突き詰めると、「あなたが生きているだけで社会貢献」だと思っています。
例えば、誰かと触れ合い話をする、何かを表現する、何かを買う、再利用する、そういう全ての行動が、少なからず社会に影響を及ぼしています。
だから、「社会貢献する会社に入らないと社会貢献できない」と思うのでなく、一つひとつの行動を意識してください。
私はバングラデシュでも日本でも、全員が1日10回「ありがとう」と「ごめんなさい」を心から言うことで、素晴らしい社会になると思うんですよ。
これは、自分の小さな行動からできる社会貢献です。
ーーー日常の積み重ねが大切なのですね。就職活動についてはいかがでしょうか。
ときどきキャリア相談を受けることもあるのですが、「一般企業で普通に働くか、NGOで社会貢献するかで迷っている」という方がいました。
でも、NGOだから社会貢献できるとか、一般企業だからできないとかはないと思います。
「社会に貢献したい」と思う人がいろんな場所にいるから、社会はいい方向に変わっていくんですよね。
NGOやNPOで働くのは、社会貢献に関心を持つ人たちの輪に入るということ。
そこで思いを共有することは、1を2にしていくような行動です。
逆に一般企業に入って、そこで新たな仲間ができたとします。
その中には、一度も国際協力や社会貢献のことを考えたことのない人もいるかもしれません。
そこで勉強会や、社会問題を題材にした映画を見てみよう、と働きかけてみる。全く関心のなかった人たちに知ってもらうことで、ゼロを1にできます。
それは、NGOではできないことかもしれないのです。
ーーーどんな環境でも、自分から発信することが大事なのですね。
はい。最初は相手にされなくても、発信を続けることで興味を持ってくれる人や、繋がりが増えていくこともあるでしょう。
だから、どんな環境にいたとしても「社会にいいことをしたい」という思いを大事にしてほしいです。
また、学生が今すぐできる国際協力は、留学生の人たちと関わることです。
日本では「ガイジンがいる」と異質な存在のように見られることもありますが、彼らは国から援助を受けて、代表として選ばれて来日している場合もあります。
もしかすると、自分の国に戻ってから重要な役職に就いたり政治に関わったりするかもしれません。
お互いの国で大事にしている精神や文化を伝え合い、その化学反応が大きな変化を起こしていく。
国際協力という文脈では、その行動がすごく大きな社会貢献になると思います。
編集後記
常に「自分の選んだ道が最善」と信じて突き進む渡辺さんのお話は、とても強く心に響きました。
人生は選択の連続。その道の途中で、トンネルに入ったり行き止まりにぶつかったりする局面は多々あるかもしれません。
けれどその都度、自分自身で悩み、考え、導き出した答えはどれも正解なのだと思います。
また、「生きているだけで社会貢献」という渡辺さんのメッセージから、たった一人の小さな存在でも、今日から自分が始められることが実はたくさんあると改めて気付かされました。
さまざまな場所で思いを発信する人が増えていき、一人ひとりの気づきによって、本当の意味で社会が変わっていくのかもしれません。
安果(やすか)
発達障がい児支援士。フリーライター。
過去に保育施設コンサルの営業、マッサージセラピスト、コピーライター、旅行業などを経験。
2011年から国内外の孤児院やNGO団体、戦争跡地、フェアトレードタウンなどを巡る。
海外放浪・就労を経て2021年より地元愛知にUターン。