今回は、「精神疾患の親をもつ子どものメンタルヘルス」というテーマに携わるNPO法人CoCoTELIで働く山縣勇斗さんにインタビューさせていただきました。

自身の原体験が今の活動につながったと語る山縣さん。

今回は山縣さんの社会活動への想いや、CoCoTELIで働く理由について伺いました。

※本インタビューは、2024年5月時点の情報です。

CoCoTELIの活動とは?

ーー現在の活動について教えてください。

精神疾患の親をもつ子ども・若者支援をしているNPO法人CoCoTELIで働いています。

NPO法人CoCoTELIは、精神疾患の親をもつ25歳以下の子ども・若者に無償でサポートを行っている団体です。

精神疾患の親をもつ25歳以下の子ども・若者支援の土壌づくりにチャレンジし、精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会を目指しています。

私は、主にオンラインの居場所運営やピアサポーターコミュニティの運営などを担当しています。

また、NPO法人ETIC.での創業期の社会起業家への伴走支援プログラム、社会起業塾の事務局も兼業しています。


当事者が必要な時に頼れる場所をつくる

ーー精神疾患の親をもつ子ども・若者支援では、どのようなことを行っているのでしょうか?

精神疾患の親をもつ子ども・若者に対して、主にオンラインの居場所づくりと個別相談をしています。

オンラインの居場所では、「どんな感情であっても大丈夫」ということを大切にしながら、Slackを使って嬉しかったことから悩みまで気軽につぶやける掲示板を設置しています。

また、月に4回程度同じ立場の人たちと顔を合わせて話すことができるオンライン交流会や、キャリアやメンタルヘルスなど、必要だけど届きにくい情報を届けるためのイベント開催などを行っています。

個別相談では、「引越し先をどこにするか考えたい」「感情の整理をしたい」などの声に対して、同じく親が精神疾患の立場であるメンバーや、場合によってはソーシャルワーカーさんにも入っていただきお話ししています。

また、ピアサポーター養成講座も開始しました。自分の経験を生かして何かをしたいと思っている方々を募集し、セルフケアや自分も相手も大切にするコミュニケーションなどを学んだのち、居場所での交流会やイベント開催を一緒に行っていきます。

一人一人の「やってみたい」が実現する場所になったらいいなと思っています。


今まで出会えなかった当事者に出会うために

ーー精神疾患の親をもつ子ども・若者への支援が必要とされている背景はなんでしょうか?

親が精神疾患である子ども・若者は、ヤングケアラーのひとつだと言われることがあります。

ヤングケアラーとは、本来は大人が担うべき責任を引き受け、家族の世話などを行っている子ども・若者のことを指します。

しかし、ヤングケアラーと一口に言っても、実は様々な形があり、1人1人の課題感と当事者が感じるものは異なると思っています。

私たちは「親が精神疾患の子ども・若者の課題に取り組んでいく」というスタンスをとることで、今まで出会いにくかった当事者と出会うことができることも価値の1つだと考えています。

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ーー対象を絞ることで、今までアプローチできなかった当事者に支援ができるのですね。

はい!そうですね。

さらに、予防的な介入ができる可能性という観点もあります。

精神疾患の親をもつ子ども・若者も、メンタルヘルス不調に陥るリスクや、将来的な社会生活上の困難に陥ってしまう可能性があります。

実は、海外の文献では精神疾患の親をもつ子ども・若者は2.5倍メンタルヘルスの不調を抱えるリスクが高いとも言われています。(※)

※蔭山正子, 横山恵子, 坂本拓, 小林鮎奈, & 平間安喜子. (2021). 精神疾患のある親をもつ子どもの体験と学校での相談状況:成人後の実態調査. 日本公衆誌, 第68巻(第2号), 131–132

しかし、現状では目に見える問題が起こってから支援が入ることが多いです。

1歩手前の名前がないフェーズの時に、当事者が必要とするときに必要な支援が入っていたら未然に防げることもあるかもしれない。

また、先ほどのヤングケアラーでいう「ケア」が表出する前のまだ名前がつかない困難にもアプローチすることができる可能性があると思います。

なので、私たちはそこに介入をしていきたいと思っています。


きっかけは、自分自身が受け入れられた体験

ーー社会課題に関心を持った原体験やきっかけを教えてください。

きっかけは、2つあります。

1つ目は、広く社会の課題に目を向けるようになったきっかけなのですが、大学の授業でボリビアのとある家庭のドキュメンタリービデオを視聴したことです。

小学生であっても過酷な労働環境で働きながら、遠くの学校に通う子どもの姿を目の当たりにしました。

その姿を見て、問題に目を瞑ったまま生きていくのではなく、向き合いたいと感じました。

2つ目は、自分自身の家庭環境からくる経験です。

大学1年のときに母親が統合失調症になり、父親は診断はされていなかったのですが、ほぼアルコール依存症であるだろう家庭環境の中で過ごしました。

その状況の中で大学3年の終わり頃にCoCoTELIと出会い、自分自身が悩んでいたことは決して自分や家族のせいだけではなく、社会としての問題があるのだと気づきました。

それが1つの原体験になっています。

ーー「自分自身が悩んでいたことは自分や家族のせいではなく、社会としての問題だと気付いた」と言う言葉が印象的でした。どんな瞬間に気付いたのか、具体的にお聞きしたいです。

CoCoTELIと関わっていく中で、私自身が「自分を主語として語る」ことができるようになっていった感覚があったんです。

以前は、自分よりも親の体調や感情を気にかけていたことなどもあり、自分の中に芽生える感情に気づきにくいことも多くありました。

それは怒りだったり、悲しさだったり、さまざまです。

そこから、CoCoTELIで話を聞いてもらう中で、「今自分が何を感じているか」を認識し、受け入れられるようになっていったと感じています。

また、今のCoCoTELIの代表に話を聞いてもらってる時に、「自分だけのせいではなく、社会側が支援を作ることができていないという現状もあると思いますよ」と言ってもらったことがあります。

目の前の親が、体調が優れなくなったり、少し機嫌が悪い時に、自分自身を責めてしまうことがあり、友達には話しにくいことから家庭の問題を家庭にとどめてしまっていたところがありました。

「親が精神疾患であったときに、安心して頼ることができる社会の仕組みがあったら、家庭で起きている問題を自分や家族のせいにするのではなく、親も子ども・若者も、より安心して社会生活ができる」というイメージが沸きました。

その視点に気づいたからには、それをつくっていきたいと思っています。

言葉にできない情熱に従う

ーー大学3年生でCoCoTELIに出会い、そのまま就職されたのですか?

初めはCoCoTELI一択ではなく、広く就活をしていました。

就活では、教育系やコンサル系の企業を見ていました。

しかし、就職活動をしていく中で、「なんか違うな」という違和感があったんです。

自分自身の当事者としての経験もあり、NPOだからこそチャレンジすることができる領域で活動をしたい想いが自分の中にありました。

そして、若いうちに自分が心からやりたいことに取り組みたいと思い、NPOに飛び込みました。

チャレンジしたい想いが感覚で分かることも多いと思います。

私自身も当時は自分の想いを言葉にはできずに、それでも飛び込む決断をしたので、言葉にできない情熱に従うことはすごく大切だと思っています。


NPOで働いてみて

ーー新卒でnpoに入る決断をして、実際に働かれてみてどうですか?

大変だけど楽しいですね。

お金の問題はすごく難しいのですが、そこに対して想いを曲げないでよかったと実感しています。

今も給料が高いわけではないですが、最低限生活していけるので、ありがたいと思っています。

どんなあなた/自分に出会っても大丈夫

ーー大切にしている考えや価値観や、その考えをもった原体験があれば教えてください。

「どんなあなた/自分でも大丈夫」ということを大切にしています。

自分がどんな感情を感じても、どんな状態でも、それを受け入れること、受け入れられること。

当事者としての自分が一番大事にしたかった、または大事にされたかったことだったと感じています。

お互いの中に安心安全というベースがあることが、全ての基盤になると思っています。

ーーどんな経験から生まれた価値観なのでしょうか?

CoCoTELIの代表と話していくうちに、自分の声がしっかり受け止められた感覚があったんです。

CoCoTELIだけではなく、周りの人たちも話を聞いてくれていました。

自分が大切にされた経験があって、今「どんなあなた/自分に出会っても大丈夫」という言葉をすごく大事にしたいと思ってます。


専門知識を持つことの大切さ

ーー今の活動をしていて必要だと感じたスキルや知識を教えてください。

心が関わる仕事なので、専門的な知識が必要だと実感しています。

現在CoCoTELIにはソーシャルワーカーが入っていますが、元々は学生団体で、精神疾患の親を持つ子どもである当事者の学生のみで運営していました。

そこには、同じ経験をした立場として共感できることがあり、支え合いの関係が築きやすくなるという良さがあります。

しかし、支援としての関わりの中で専門的な知識がなければ、被支援者を傷つけてしまうなどの危険な関わりになることもあります。

なので、専門知識を身に着けることは、支援の場をつくる上で必要不可欠です。

スタートアップ期に事業をつくるスピード感の中でも、絶対に見落としてはいけないところだと日々感じています。

1人1人に向き合いながら、社会に変化を起こしていく

ーー活動をする中で難しさを感じることはありますか?

私たちの事業では、1人1人に向き合いながらも、社会的な変化を起こすことが大切だと思っています。

社会的な支援の仕組みを整えていくことで、1人1人が救われていく循環ができると思うんです。

そのバランスはすごく大事にしたいなと思っていて、同時に難しさを感じているところでもありますね。

もがきながら進んでいる最中です。

ーーそこに向かっていく中で大切にしていることはありますか?

「私たちはどこを目指しているのか」を常に意識しています。

精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌を作るというミッションに向けて、「今何が必要なのか」「本当にその施策は必要なのか」という問いを大切にしています。

また、経営の知識や経験を身に着けることもしていきたいです。

仲間と一緒に取り組んでいくことも大切だと思うので、たくさん頼って、巻き込んでいくこともしていきたいです。

ーー理想とする社会となぜそこに自分が関わりたいのかを、教えてください。 

ひとりひとりの個性が輝くように支え合うことができる社会であってほしいと思っています。

様々な原体験、自分自身の価値観など、いろいろなものが重なり合って描いているものです。

自分自身の根底にある願いとして、「誰一人取り残されず、その人の個性が発揮されてほしい」というものがあります。


これからもこの領域で活動を続けたい

ーー社会課題解決における今後のキャリアを考えていれば、教えてください。

CoCoTELIはまだまだ創業期です。

目指している社会に向かうための軌道に乗るまでは、CoCoTELIで活動したいと考えています。

CoCoTELIで働くことは、自分のミッションを達成するための1つの手段であると感じています。

いつかはアカデミックの領域で活動することや、自分の慣れ親しんだ地域で、より多くの子どもや若者にとっての居場所づくりの実践をしたいともぼんやり考えています。

共通して、1人1人の個性が発揮されて、それを支えられるような社会を大切にしたい想いは変わらないと思います。

読者へのメッセージ

ーー最後に社会課題の道を志す学生へメッセージをお願いします。

社会課題は想いだけでは解決できないと日々痛感しています。

僕自身、成長しなければならないことがたくさんあります。

知識や経験を積んでいくことも、内面的な目に見えない心の成長も、もっとしていきたいです。

そのような中で、あまり年齢は関係ないと思います。

それぞれ領域は違えど、「社会は変えられる」という希望を持って取り組んでいる仲間がいるのはとても心強いことだと感じています。

一緒に成長させていただけると嬉しいです。