内閣府の令和7年版障害者白書によると、国民のおよそ9.3%が何らかの障害を有していることになります。
65歳以上の人も3,624万人にのぼり、総人口の29.3%を占めます(令和7年版高齢社会白書、2024年10月1日現在)。
階段や段差、届かない情報が暮らしの壁になる場面は、誰にでも起こりえます。
それでも「バリアフリー」と聞いて、スロープやエレベーター以外の姿を思い浮かべられる人は、多くないかもしれません。
この記事を読むと、バリアフリーの意味を自分の言葉で説明でき、街で見かける工夫の理由がわかります。
国が整理した「4つのバリア」、ユニバーサルデザインとの違い、場面別の具体例、バリアフリー法の最新の動き、関わる仕事の入り口を、国の資料をもとにまとめました。
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福祉に関する企業やキャリアの情報は、以下のページにまとめています。
バリアフリーとは
バリアフリーとは、障害のある人や高齢者などが暮らしのなかで出会う障壁(バリア)を取り除き、誰もが社会に参加しやすい状態をつくることです。
「バリアーフリー」という表記も、同じ意味で使われます。
簡単にいえば、生活の妨げになる壁をなくして、誰もが同じように暮らせるようにすることです。
物理的な障壁だけでなく、制度や情報、人の意識に潜む障壁まで含めて考えます。
「バリア」とは何か
バリアとは、障害のある人が日常生活や社会生活を営むうえで壁になる、社会のなかのあらゆるものです。
障害者基本法は、これを「社会的障壁」と呼び、「事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」と定めています。
つまり、バリアは階段のように目に見えるものだけではありません。
国土交通省は、障壁を取り除くのは社会の責務だという考え方を「障害の社会モデル」として紹介しています。
バリアフリー化とは
バリアフリー化とは、道路や建物、乗り物、サービスなどを、障害のある人や高齢者が使いやすく整えていくことです。
法律の条文では、バリアフリー化を「移動等円滑化」と呼びます。
誰のためのバリアフリーか
バリアフリーは、車椅子を使う人だけのものではありません。
障害者のための国際シンボルマークは車椅子の形ですが、内閣府がまとめた資料でも、すべての障害者を対象にしたマークだと説明されています。
高齢者やベビーカーを使う人、けがをした人、妊娠中の人にとっても、段差や情報の壁は身近な問題です。
高齢者や障害のある人の課題は、福祉問題の種類のひとつです。
バリアフリーの種類(4つのバリア)
国の「障害者対策に関する新長期計画」は、障害のある人の社会参加を妨げるものを、次の4つのバリアに整理しました。
物理的なバリア
物理的なバリアとは、交通機関や建築物などにある、移動や利用を妨げる障壁です。
階段しかない入口や、狭い通路が当てはまります。
制度的なバリア
制度的なバリアとは、資格制限など、決まりごとによって機会が閉ざされる障壁です。
障害者に係る欠格事由を定めた63の制度は、計画期間内にすべて見直す方針が示されました。
文化・情報面のバリア
文化・情報面のバリアとは、点字や手話サービスの欠如などで、必要な情報が届かない障壁です。
字幕や手話のないテレビ番組も、この種類にあたります。
意識上のバリア
意識上のバリアとは、障害のある人を「庇護されるべき存在」ととらえるなど、周囲の思い込みによる障壁です。
職場や学校で意識の壁を減らす考え方は、ダイバーシティ&インクルージョンの解説でも紹介しています。
ハードとソフトで考える
ハード面は、エレベーターやスロープなど、施設や設備を整える対応です。
ソフト面は、職員の声かけや介助、情報の伝え方、啓発など、人の側の対応です。
4つのバリアは重なり合うため、設備、情報、理解のどれが欠けても、壁は残ります。
エレベーターがあっても、場所が案内されていなければ、必要な人にたどり着けません。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
どちらも「誰もが暮らしやすい社会」を目指す点は同じで、違いは取り組みの出発点にあります。
出発点の違い
バリアフリーは、すでにある障壁を取り除く発想です。
ユニバーサルデザインは、はじめから障壁をつくらない発想です。
ノースカロライナ州立大学のユニバーサルデザインセンターは、ユニバーサルデザインを次のように定義しています。
できる限りすべての人が、特別な改造や専用の設計なしに使えるよう、製品や環境をデザインすることです。
後付けのスロープはバリアフリー、段差のない入口を最初から設計に入れるのはユニバーサルデザインの発想です。
ユニバーサルデザインの7原則
同センターは、設計の目安として7つの原則を示しています。
公平に使える、柔軟性がある、単純で直感的、必要な情報が伝わる、間違いに寛容、身体的な負担が少ない、使うための大きさと空間がある、の7つです。
参考:Principles of Universal Design(NC State University)
街中で見かけるユニバーサルデザインの例
シャンプー容器のきざみ
容器の側面のギザギザは、目を閉じていてもリンスと区別できるようにつけられた工夫です。
花王株式会社の公式サイトによると、1989年の消費者の声をきっかけに検討が始まり、1991年10月にきざみ付きのシャンプーが発売されました。
同社は実用新案の出願を取り下げ、業界で統一されるよう日本化粧品工業連合会を通じて働きかけました。
身近なバリアフリーの具体例
暮らしの場面別に、具体例を見ていきます。
交通の整備率などの数字は、国土交通省がまとめた2025年3月末時点のものです。
建物・施設のバリアフリー
段差の解消(スロープ・エレベーター)
スロープやエレベーターは、車椅子やベビーカーでも通れるように、段差を越える設備です。
バリアフリートイレ
車椅子のまま入れる広さと手すりを備えたトイレです。
人工肛門や人工膀胱を持つオストメイトの人向けの設備を備えたものもあります。
車椅子使用者用の駐車場・客席・トイレ
2025年6月1日に施行された基準は、一定規模以上の建物を建てるときに適合が求められます。
車椅子使用者用の駐車施設は、駐車施設の数が200以下なら、その2%以上を設けることになりました。
劇場などの客席には、座席数が400以下なら2以上、400を超えれば0.5%以上の車椅子使用者用スペースが求められます。
車椅子使用者用のトイレは、原則として建物の各階に1以上設けます。
参考:トイレ、駐車場及び劇場等の客席の新たなバリアフリー基準について(国土交通省)
移動・交通のバリアフリー
点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)
移動の方向を案内する線状のものと、危険な場所や目的地を知らせる点状のものがあります。
岡山県によると、1965年に三宅精一氏が考案し、1967年3月18日に岡山県立岡山盲学校に近い交差点付近に、世界で初めて敷設されました。
ホームドア
駅のホームからの転落を防ぐ設備で、国土交通省の集計では、ホームドアまたは可動式ホーム柵が2,830番線に設置されています。
ノンステップバス・福祉タクシー
ノンステップバスの導入率は72.1%で、福祉タクシー(ユニバーサルデザインタクシーを含む)は59,918台です。
音響信号機・エスコートゾーン
音で信号の状態を知らせる音響信号機と、横断歩道の中央付近に並べた突起で渡る方向の手がかりを示すエスコートゾーンは、視覚に障害のある人の安全を支えます。
国は、視覚に障害のある人の安全確保が特に必要な箇所について、2025年度までに原則すべてで両方を設置する目標を掲げました。
参考:公共交通機関におけるバリアフリー化の状況について(国土交通省)
情報・コミュニケーションのバリアフリー
手話通訳・要約筆記・電話リレーサービス
障害者総合支援法に基づく意思疎通支援事業では、手話通訳者や要約筆記者などが派遣されます。
電話リレーサービスは、聴覚や発話に障害のある人とそれ以外の人を、オペレータが手話や文字と音声で通訳してつなぐ公共インフラです。
2021年7月に始まり、2024年度末の利用登録者数は1万7,480人でした。
ウェブアクセシビリティ
ウェブアクセシビリティとは、障害のある人や高齢者を含めた誰もが、ホームページの情報や機能を支障なく使えることです。
サービス・制度のバリアフリー
合理的配慮の提供
合理的配慮とは、障害のある人から社会的障壁を取り除いてほしいと伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応することです。
2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられました。
補助犬の受け入れ
身体障害者補助犬法により、公共施設をはじめ、飲食店やスーパー、ホテルなどいろいろな場所で、盲導犬・介助犬・聴導犬の受け入れが義務づけられています。
参考:合理的配慮の提供(内閣府 障害者差別解消ポータルサイト)
心のバリアフリー
心のバリアフリーとは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことです。
ヘルプマーク
外見からは配慮が必要だとわかりにくい、義足や人工関節の人、内部障害や難病の人、妊娠初期の人が身につけるマークです。
東京都が2012年10月に都営地下鉄大江戸線で配布を始め、席を譲る、声をかけるといった行動が呼びかけられています。
白杖SOSシグナル
視覚に障害のある人が白杖を頭上50cm程度に掲げたら、助けを求める合図です。
家の中のバリアフリー
厚生労働省によると、介護保険では、手すりの取り付けや段差の解消、引き戸への取り替えなどの住宅改修が給付の対象です。
支給限度基準額は生涯で20万円(転居などで再設定される場合もあります)で、保険給付は原則9割(上限18万円)です。
誰もが安全に移動できる街づくりは、SDGs目標11の住み続けられるまちづくりとも結びついています。
バリアフリー法と日本の現状
日本のバリアフリーは、法律に基づいて進められています。
バリアフリー法(2006年施行)の仕組み
バリアフリー法とは、高齢者や障害のある人などの移動や施設利用を円滑にするための法律で、正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」です。
2006年12月20日に、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充して施行されました。
- 新しくつくる施設は基準への適合が義務、すでにある施設は努力義務
- 国の基本方針で、各施設の整備目標を設定
- 市町村が、地区ごとのバリアフリー化を進める計画を作成
- 高齢者や障害のある人などが、進み具合を定期的に評価
直近の改正と動き
- 2020年の改正(2021年4月全面施行):公共交通事業者にソフト基準の遵守を義務づけ
- 同じ改正:市町村の計画に「心のバリアフリー」を追加し、優先席やトイレなどの適正利用の推進を関係者の責務に
- 2024年の政令改正(2025年6月1日施行):トイレ、駐車場、劇場などの客席の基準を見直し
- 2025年6月27日:2026年度から2030年度を対象とする第4次整備目標の最終とりまとめを公表
- 2026年7月:国土交通省が「バリアフリー施策の新たな枠組みに関する検討会」の設置を発表
参考:市町村等による「心のバリアフリー」の推進(国土交通省)
参考:第4次バリアフリー整備目標の最終とりまとめを公表します!(国土交通省)
整備状況と残る課題
2025年3月末時点の旅客施設(1日の平均利用者数が3,000人以上の鉄軌道駅などが中心)の整備率は、次のとおりです。
- 段差の解消:94.3%
- 視覚障害者誘導用ブロックの設置:47.8%(改正後の基準による)
- 障害者用トイレの設置:92.4%
2025年度末の目標は、各項目で100%です。
段差の解消が9割を超える一方、誘導用ブロックは5割に届いていません。
国土交通省は2026年7月、ハード面の整備が進展した一方で、ソフト面の課題や地域差による課題も指摘されていると述べています。
参考:公共交通機関におけるバリアフリー化の状況について(国土交通省)
参考:バリアフリー施策の新たな枠組みに関する検討会(国土交通省)
バリアフリーに取り組む企業と当事者の参画
先ほどのシャンプー容器のきざみは、一企業の工夫が業界の標準になった例です。
具体的な企業は、以下の記事で10社を紹介しています。
≫バリアフリー社会に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大企業からベンチャー
法律には当事者が進み具合を評価する仕組みがあり、第4次整備目標の検討でも、主要課題の一つに「当事者参画」が挙げられました。
バリアフリーに関わる仕事・キャリア
バリアフリーは、福祉の現場だけでなく、ものづくりや建築、ITとも結びついています。
製品・設備の開発職
製品・設備の開発職は、使う人の困りごとを聞き取り、形にする仕事です。
建築・都市計画職、自治体や交通事業者の担当職
建築・都市計画職は、バリアフリー法の基準を踏まえて、建物や街を設計します。
自治体や交通事業者には、整備や職員教育、利用者対応を担う職があります。
手話通訳者・ウェブアクセシビリティ担当
手話通訳者は、聞こえの違いを言葉でつなぎます。
ウェブアクセシビリティ担当は、サイトやアプリを誰もが使えるよう設計し、検証します。
介護・福祉の支援職
介護・福祉の支援職は、高齢者や障害のある人の暮らしに寄り添う仕事です。
業種や職種、キャリアの積み方は、以下の記事で解説しています。
≫福祉問題のキャリアとは?業種・職種・キャリアパスを徹底解説
現場で人と向き合う仕事全般は、以下の記事で紹介しています。
≫社会課題解決 × 現場職のキャリアとは?目の前の人と向き合うキャリアの選び方
COCOCOLOR EARTHのインタビューには、香川県の小豆島で活動する篠原智昭さんが登場します。
篠原さんは、娘さんと車椅子で旅行した際に、事前の手配がとても大変だったことを、事業を始める動機に挙げています。
以前の「車椅子で行ける場所を探す」仕事から、いまは「車椅子で旅行できる環境そのものをつくる」仕事へと変わってきたそうです。
≫「誰もが旅を楽しめる世界」へ。小豆島から描くインクルーシブな未来〜地域おこし協力隊/セブンシーズトラベラーズ株式会社 篠原智昭さん〜
よくある質問
バリアフリーについて、よく寄せられる疑問に答えます。
Q. バリアフリーとは何ですか?
A. バリアフリーとは、障害のある人や高齢者などが暮らしのなかで出会う障壁(バリア)を取り除き、誰もが社会に参加しやすい状態をつくることです。国は、建物の段差などの物理的な障壁だけでなく、制度、情報、意識上の障壁も含めて「4つのバリア」と整理しています。ベビーカーを使う人やけがをした人など、誰にとっても暮らしやすい環境づくりにもつながる考え方です。「バリアーフリー」と書かれることもありますが、意味は同じです。
Q. バリアフリーにはどんな種類がありますか?
A. 国の「障害者対策に関する新長期計画」は、障壁を物理的、制度的、文化・情報面、意識上の4つに整理しています。段差や狭い通路などの物理的なバリア、資格制限などの制度的なバリア、点字や手話サービスの不足といった情報面のバリア、「庇護されるべき存在」ととらえる思い込みといった意識上のバリアです。たとえば、エレベーターがあっても案内がなければ使えないように、4つは重なり合います。施設や設備を整えるハードと、人の対応や情報のソフトの両面で考えます。
Q. バリアフリーとユニバーサルデザインの違いは何ですか?
A. バリアフリーは、すでにある障壁を取り除く発想です。ユニバーサルデザインは、できる限りすべての人が特別な改造なしに使えるよう、はじめから障壁をつくらない発想です。後付けのスロープはバリアフリー、段差のない入口を最初から設計に入れるのはユニバーサルデザインの発想にあたります。シャンプー容器のきざみも、ユニバーサルデザインの例です。どちらも誰もが暮らしやすい社会を目指す点は共通し、違いは取り組みの出発点にあります。
Q. 身近なバリアフリーの具体例には何がありますか?
A. 駅のエレベーターやスロープ、点字ブロック、ホームドア、バリアフリートイレ、ノンステップバス、音響信号機などが身近な例です。手話や筆談での対応、電話リレーサービスもあります。点字ブロックは、1967年に岡山県で世界で初めて敷設されました。ヘルプマークを見かけたら席を譲るといった、人の行動による心のバリアフリーも含まれます。家の中では、手すりの取り付けや段差の解消も身近な例で、介護保険の住宅改修の対象にもなります。
まとめ
バリアフリーとは、障害のある人や高齢者が社会に参加するうえでの障壁を取り除く考え方で、国は物理、制度、情報、意識の4つのバリアに整理しています。
整備は少しずつ進んでいますが、誘導用ブロックの整備や地域差など、課題も残っています。
まずは今日の通勤・通学路で、エレベーターや点字ブロックを一つ見つけ、それが取り除いているバリアは何かを考えてみてください。
ヘルプマークを着けた人や、白杖を掲げる人に出会ったら、ひと声かけることも、意識上のバリアを減らす小さな一歩です。
バリアフリーに関わる企業や仕事を具体的に知りたい方は、ココキャリアに掲載された企業の紹介を読むところから始めてみてください。
街で気づいた小さな違和感が、あなたのキャリアの出発点になるかもしれません。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
