文部科学省の調査によると、令和6年度に調査に回答した全国の大学等が民間企業と行った共同研究は32,093件で、企業から受け入れた研究費は約1,065億円でした。
「産学官連携」と調べると、大学の広報、自治体の計画、国の施策と話があちこちに広がり、誰が何を担っているのか整理しにくいと感じる人もいるでしょう。
実は、研究費の額や連携の形は、国の調査や資料で具体的に確かめられます。
国の調査の数字と実在の事例を手がかりに、産学官連携の意味と、産・学・官それぞれの役割を、自分の言葉で説明できるようになります。
産・学・官の役割から関わる仕事まで、文部科学省、経済産業省、地域未来戦略本部事務局の資料をもとにした構成です。
※【企業様向け】産学官連携への取り組みをPRしませんか?
掲載を希望する企業様はこちら
地方創生に関する記事や企業、キャリア情報は、以下のページで一覧できます。
産学官連携とは
産学官連携とは、産業界の企業、学術界の大学や研究機関、官にあたる国や自治体が連携して、研究開発や新しい事業の創出に取り組むことです。
大学ポートレート(私学版)の用語辞典も、産学官連携を、企業(産)と大学等(学)と政府や地方公共団体等(官)の連携と説明しています。
言葉の成り立ちからは、「産学連携」は産と学の連携、「産学官連携」は官が加わった連携です。
ただし、両者を区別して定義した文書は、文部科学省と経済産業省の資料の中には見当たりません。
文部科学省の調査の名称は「大学等における産学連携等実施状況」で、民間企業等との共同研究や受託研究の実績を調べています。
一方、共同研究の強化を掲げるガイドラインの名称には、「産学官連携」が使われています。
企業が大学などの外部と組んで新しい価値を生む取り組みは、オープンイノベーションとも呼ばれます。
オープンイノベーションに取り組む企業は、以下の記事で紹介しています。
≫オープンイノベーションに取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
文部科学省の資料によると、国立大学法人法は、産学官連携を国立大学法人の重要な役割の一つに位置づけています。
参考:大学ポートレート(私学版)「産官学連携、産学官連携」、文部科学省「産学官連携」、文部科学省「令和6年度 大学等における産学連携等実施状況について」
産・学・官それぞれの役割
産学官連携では、3つの立場が、それぞれ別のものを持ち寄ります。
産(企業)
産は、企業のニーズを持ち、研究の経費を負担して、大学等と共同研究を行います。
学(大学・研究機関)
学は、研究成果というシーズを持ち、共同研究や技術移転、大学発ベンチャーの創出を担います。
2006年の教育基本法の改正は、大学の役割として、社会貢献(産学官連携等)を明文化しました。
官(国・自治体)
官は、国が法律やガイドライン、交付金で仕組みを整え、自治体も、地域の事業に参画機関として加わります。
産学官連携の主な形態
文部科学省は、共同研究、受託研究、治験等、知的財産を、産学連携の主な実績として毎年調べています。
治験等は、大学等が外部からの委託により行う、医薬品や医療機器等の臨床試験などです。
数字は、令和6年度(調査時点は令和7年3月31日現在)のものです。
調査の対象は、国公私立大学(短期大学を含む)、国公私立高等専門学校、大学共同利用機関の1,077機関で、1,051機関が回答しました。
大学発ベンチャーの数だけは、経済産業省の別の調査によります。
共同研究
民間企業からの研究資金等の受入額は、共同研究、受託研究、治験等、知的財産をあわせて約1,504億円で、共同研究はその約70.8%を占めます。
文部科学省の調査は、共同研究を、大学等と民間企業等が共同で研究開発を行い、大学等が要する経費を民間企業等が負担しているものとしています。
民間企業との共同研究は32,093件で、前年度より907件増えました。
研究費の受入額は約1,065億円で、1件当たりの平均は約332万円です。
受託研究
受託研究は、大学等が民間企業等からの委託により研究開発を行い、そのための経費が民間企業等から支払われているものです(治験等を除く)。
民間企業からの受託研究の受入額は約146億円で、前年度より約13億円減りました。
技術移転・ライセンス
技術移転とは、大学等の特許などを企業が使えるようにすることで、実施許諾(ライセンス)や譲渡の契約で行われます。
文部科学省の資料によると、1998年8月に、大学等技術移転促進法が施行されました。
同法は、研究成果の特許化と産業界への移転を促すもので、承認された技術移転機関(TLO)は支援措置を受けられます。
知的財産権等による収入額は約72.6億円で、前年度より約9.5億円減りました。
この収入額には、民間企業以外からの収入も含まれ、うち特許権は約52.2億円で、71.9%を占めます。
大学発ベンチャー
経済産業省の調査は、研究成果ベンチャーや学生ベンチャー、教職員等ベンチャーなど6つの類型のうち、1つ以上に当てはまる企業を、大学発ベンチャーとしています。
その調査の報告書では、2025年10月末日現在で6,220社あり、2024年度の5,074社から1,146社増えました。
文部科学省の調査にも大学等発ベンチャーの項目がありますが、定義が別のため、数字は別のものとして読みます。
大学発スタートアップの利点と課題は、以下の記事にまとめました。
人の行き来
文部科学省の調査でいうクロスアポイントメント制度は、出向者が出向元と出向先の両方と労働関係を持ち、両方の業務に従事できる在籍型出向の仕組みです。
制度を導入した機関は270機関で、制度を活用した教職員は、企業から大学等への受入が416人、大学等から企業への出向が76人でした。
参考:文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について(令和6年度実績)」
国の制度と施策の歩み
経済産業省は、産学官連携に関わる国の主な動きを、年表にまとめています。
| 年 | 主な動き |
|---|---|
| 1998年 | 大学等技術移転促進法(TLO法)を制定 |
| 1999年 | 産業活力再生特別措置法で、日本版バイドール条項を導入 |
| 2004年 | 国立大学法人法が施行され、承認TLOへの出資が可能に |
| 2006年 | 教育基本法の改正で、大学の役割に社会貢献(産学官連携等)を明記 |
| 2013年 | 産業競争力強化法で、国立大学によるベンチャーキャピタル等への出資が可能に |
| 2016年 | 産学官連携による共同研究強化のためのガイドラインを策定 |
| 2020年 | ガイドラインの追補版を策定 |
日本版バイドール条項は、文部科学省の審議会資料によると、国の研究委託の成果を、委託を受けた側に帰属させる仕組みです。
文部科学省と経済産業省は、2016年のガイドラインで、研究者同士の個人的な連携から、「組織」対「組織」の本格的な連携体制の構築を促してきたと説明しています。
2020年の追補版は、産学官連携を「コスト」ではなく「価値」への投資ととらえ、「知」に値段をつける手法を整理しました。
視点を「組織」から、大学発ベンチャーを含む「エコシステム」へ広げた点も、追補版の特徴です。
2023年3月には、内閣府、文部科学省、経済産業省が、大学知財ガバナンスガイドラインを取りまとめました。
参考:経済産業省「産学官連携の系譜」、文部科学省「ガイドライン【追補版】」、文部科学省 審議会資料(2013年7月)
産学官連携のメリットと課題
地域未来戦略本部事務局の資料と文部科学省の資料から、確認できる範囲で整理します。
大学・企業・地域にとってのメリット
資料によると、島根大学の外部資金獲得額は、プロジェクトを契機として、2018年度の約1.7億円から2024年度の約5.2億円に増えました。
徳島大学のポストLEDフォトニクス研究所の外部資金も、2018年度の約0.8億円から2024年度の約2.1億円へ伸びています。
徳島県の事業で設けた専門人材育成プログラムの受講生では、地元就職数は2018年度の11名から、2024年度の22名になりました。
島根県の事業では、株式会社プロテリアルとの超耐熱合金の共同研究が、実用化に向けた企業主体の研究へ移っています。
これらは、国がまとめた事業の取組概要に載る数字で、連携以外の要因の影響までは分かりません。
費用の決め方と人材が課題
文部科学省と経済産業省は、ガイドライン追補版で、大学等で体制づくりのボトルネックになっている課題への処方箋を示しています。
文部科学省の調査は、ガイドラインに係る取組状況として、費用負担の規程の整備状況を調べています。
1件1,000万円以上の共同研究は、件数で約6.3%、受入額で約56.9%を占めます。
共同研究の間接経費の割合を定めている機関のうち、30%以上と定めているのは203機関で、36.0%です。
共同研究で教員の人件費の企業負担を規定している機関は、67機関です。
人材の面では、文部科学省は、研究資金や知財をマネジメントする人材が大学等で十分ではなく、研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じているとしています。
文部科学省は、この研究マネジメント人材(URA)の育成と定着を支援しています。
参考:地域未来戦略本部事務局「採択自治体取組概要」、文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について(令和6年度実績)」
参考:文部科学省「ガイドライン【追補版】」、文部科学省「URAを育成・確保するシステムの整備」
実践事例と地方創生
地方創生の施策にも、官、学、産が参画機関として並ぶ事業があります。
地方大学・地域産業創生交付金
地方大学・地域産業創生交付金は、平成30年法律第37号にもとづく制度です。
法律の名称は、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」です。
採択された計画は、評価委員会の評価を経て、法に基づく認定を受けます。
2018年度には、岐阜県、島根県、広島県、徳島県、高知県、富山県、北九州市の7団体が採択されました。
地域未来戦略本部事務局の資料は、各事業の参画機関を、官、学、産に分けて示しています。
以下の島根県と徳島県の内容は、令和7年9月時点の資料の記載です。
地方創生そのものの課題は、以下の記事で解説しています。
≫地方創生とは?11種類の課題や企業の事例を分かりやすく解説
島根県
島根県では、島根大学の「次世代たたら協創センター」(2018年11月設置)が、金属材料の研究を進めています。
資料は、株式会社プロテリアルで生産される素材をもとに、地元の中小企業グループSUSANOOの加工技術と連携した、一貫生産体制を構築するとしています。
2023年4月には、島根大学初の工学系学部として、材料エネルギー学部が新設されました。
クロスアポイントにより、プロテリアルから島根大学へ、モーターに関するプロジェクトのリーダーや協力研究員が派遣されています。
徳島県
徳島県の計画は、LED関連企業が多数集積する強みを生かして、光関連産業の振興に取り組むもので、徳島大学が「ポストLEDフォトニクス研究所」を設置しています。
株式会社島津製作所と徳島大学が結んだ包括連携契約の一環で、特定の化合物を超高感度に検出できる小型センサの、製品化検討と共同研究体制の構築に発展しました。
県内企業は、事業の成果である深紫外LEDを使って、商品化もしています。
2018年度の採択団体の一つである高知県の、産学連携の取り組みは、以下の記事で解説しています。
≫高知県の地方創生とは?出産・育児支援制度や産学連携の取り組みを解説
京都大学iPS細胞研究所と武田薬品工業
産学官のうち、産と学の連携の例として、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業株式会社の「T-CiRA」があります。
CiRAのページは、これを産学連携プログラムと呼んでいます。
2016年度に始まった、10年間の共同研究プログラムです。
湘南ヘルスイノベーションパークで、アカデミアの研究者と武田薬品工業の研究者が協働する体制でした。
がん、難治性筋疾患、消化器疾患、神経疾患などで、iPS細胞技術の臨床応用に向けた研究を進め、プログラムは2026年3月末に終了しました。
同ページには、山中伸弥名誉所長のコメントが載っています。
「10年にわたる共同研究契約が締結できましたことは、iPS細胞技術を用いた医療応用を実現する上で大きな力になります」という内容です。
参考:地域未来戦略本部事務局「地方大学・地域産業創生交付金」、同「採択自治体取組概要」、京都大学iPS細胞研究所「T-CiRA」
産学官連携に関わる仕事
産学官連携を進める職種として、文部科学省の資料には、産学官連携コーディネーターやリサーチ・アドミニストレーター(URA)が出てきます。
JSTが運営するJREC-IN Portalは、研究人材のキャリア支援ポータルサイトで、求人や公募の情報を検索できます。
産学官連携コーディネーター
1999年の学術審議会の答申は、企業のニーズと大学等のシーズをつなぐ「産学のコーディネーター」の配置などによる、組織体制の強化を挙げました。
2013年7月の文部科学省の審議会資料は、コーディネーターの業務を分類しています。
共同研究・受託研究や守秘義務、ライセンスの契約の支援のほか、企業訪問やマッチングなども業務に含まれます。
和歌山大学のページには、企業等からの問い合わせに研究者を紹介し、共同研究等の契約締結までの間に入って助言する業務が載っています。
リサーチ・アドミニストレーター(URA)
URAとは、研究開発の内容について一定の理解を持ちながら、研究資金の調達・管理や、知財の管理・活用等をマネジメントする人材です。
文部科学省の調査では、令和6年度にURAを配置した機関は212機関で、配置人数は2,010人でした。
主たる担当業務別では、産学連携支援を担うURAが533人で最も多くなっています。
文部科学省は、プロジェクトの企画・運営や、知的財産の管理・運用などの研究支援業務を行う人材群として、URAの育成と確保を進めています。
知財・技術移転(TLO)の担当
知財・技術移転の担当は、大学等の研究成果の特許化や、産業界への移転を進める仕事です。
文部科学省の調査では、令和6年度の特許権の実施等件数は23,420件でした。
企業の共同研究・新規事業の担当
企業側では、共同研究の経費を負担する立場から、大学等との連携を進めます。
2020年の追補版は、大学等と産業界を対等なパートナーとして、産業界向けの記載を新たに体系化しています。
自治体(官)の担当
島根県や徳島県は、交付金の事業で、官の参画機関として示されています。
地域の企業を支える取り組みは、以下の記事で紹介しています。
≫地域企業支援に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
大学発ベンチャー
大学発ベンチャーは、経済産業省の調査が6つの類型で数えている企業です。
経済産業省の産学官連携のページには、「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業」が載っています。
大学発の企業は、以下の記事で紹介しています。
≫大学発スタートアップで社会課題に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
研究職や政策の面から関わるキャリアは、以下の記事が手がかりになります。
≫社会課題解決 × 研究・政策のキャリアとは?制度と構造を変えるキャリアの作り方
参考:文部科学省「URAを育成・確保するシステムの整備」、文部科学省 審議会資料(2013年7月)
参考:和歌山大学 産学連携イノベーションセンター「産官学連携コーディネーターについて」
参考:JREC-IN Portal、経済産業省「産学官連携」
よくある質問
産学官連携を調べるときによく出てくる疑問を、3つ取り上げました。
Q. 産学官連携とは何ですか?
A. 産学官連携とは、企業などの産業界、大学や研究機関などの学術界、国や自治体などの官が連携して、研究開発や新しい事業の創出に取り組むことです。文部科学省の調査では、令和6年度に大学等が民間企業と行った共同研究は32,093件で、研究費の受入額は約1,065億円でした。民間企業からの研究資金等の受入額は約1,504億円で、共同研究はその約70.8%を占めます。連携の形には、共同研究のほか、受託研究、技術移転、大学発ベンチャーの創出などがあります。
Q. 産学連携と産学官連携は何が違いますか?
A. 言葉の成り立ちからは、産学連携は産(企業)と学(大学等)の連携、産学官連携はそこに官(国や自治体)が加わった連携を指します。ただし、両者を区別して定義した文書は、文部科学省と経済産業省の資料の中には見当たりません。文部科学省の調査の名称は「大学等における産学連携等実施状況」で、民間企業等との共同研究や受託研究の実績を調べています。共同研究を強化するガイドラインの名称には、「産学官連携」が使われています。
Q. 産学官連携に関わる仕事にはどんなものがありますか?
A. 産学官連携に関わる職種には、文部科学省の資料に出てくる産学官連携コーディネーターとURAのほか、知財・技術移転の担当などがあります。コーディネーターは企業のニーズと大学等のシーズをつなぎ、URAは研究資金や知財をマネジメントします。知財・技術移転の担当は、研究成果の特許化や産業界への移転を進めます。文部科学省の調査では、令和6年度にURAを配置した機関は212機関で、2,010人が配置されています。文部科学省は、URAのスキル標準や研修・教育プログラムの整備も進めています。
まとめ
産学官連携とは、企業、大学や研究機関、国や自治体が連携して、研究開発や新しい事業の創出に取り組むことです。
令和6年度の民間企業との共同研究は32,093件で、国は、1998年のTLO法から2020年のガイドライン追補版まで、制度を重ねてきました。
大学の産学連携や研究支援のページを開き、共同研究の相談窓口や、公開されている連携事例を、一つ読んでみてください。
ココキャリアでは、社会課題に取り組む企業の事業内容を読めます。
産学官連携に関心があれば、大学や研究機関、自治体との連携に触れている企業を探す入口にもなります。
文部科学省の調査は毎年度行われ、経済産業省の大学発ベンチャー調査も毎年公表されています。
次の数字が出たときに、この記事の数字と見比べると、変化が見えてきます。
関連記事
≫大学発スタートアップとは?利点と課題をわかりやすく解説
≫地方創生とは?11種類の課題や企業の事例を分かりやすく解説
≫オープンイノベーションに取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
【企業様向け】産学官連携への取り組みをPRしませんか?

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
