研究や技術を、社会課題の解決にどう生かせばいいのか。

理系の勉強をしてきた人ほど、その答えが見えにくいと感じるかもしれません。

ヒントになるのが、科学技術振興機構(JST)が2019年度から続けている「STI for SDGs」アワードです。

科学技術を使って社会課題の解決に取り組む国内の団体を表彰する制度で、2026年度までの8回で60件の取り組みが受賞しています。

受賞団体は大学や研究機関だけでなく、スタートアップから大手メーカー、自治体、高校の科学部まで幅広く、60件のうち36件には企業が加わっています。

この記事では、全60件を年度ごとの一覧で紹介します。

一覧の「企業」の欄に●がある取り組みは、企業が関わっているものです。

あわせて5つの賞の違い、受賞の傾向、受賞取り組みのピックアップ、研究や技術で社会課題に関わるキャリアまで紹介します。

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「STI for SDGs」アワードとは

「STI for SDGs」アワードとは、科学技術・イノベーション(STI)を使って社会課題を解決する日本発の優れた取り組みを表彰する制度です。

STIは「Science, Technology and Innovation」の頭文字をとった言葉です。

主催は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)で、文部科学省が後援しています。

表彰によって取り組みをさらに発展させ、同じ課題を抱える国内外の地域へ広げることで、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することを目的に、2019年度に創設されました。

応募できる団体と条件

応募できるのは、科学技術を使って社会課題を解決し、SDGsの達成を目指す国内の団体です。

地方自治体、民間企業、大学、高等専門学校、国立研究開発法人、NPOなどの非営利法人、高校や中学校、自治会やサークルまで対象になり、法人格の有無は問われません。

条件は、取り組みが計画や研究の段階にとどまらず、社会課題解決のための具体的な活動実績を持つか、近い将来に実績が見込めることです。

2026年度は4月1日から6月1日まで募集し、書類選考と面接選考を経て、9月16日に受賞取り組みが発表されました。

参考:公募情報(「STI for SDGs」アワード)

5つの賞の違い

賞は5種類あり、それぞれ選ばれる取り組みの性格が違います。

賞選ばれる取り組み2019〜2026年度の受賞件数
文部科学大臣賞最優秀賞として選ばれる1件8件
科学技術振興機構理事長賞大臣賞に次いで優れた取り組みのうち、科学技術の活用で特に優れた1件8件
優秀賞大臣賞に次いで優れている数件26件
奨励賞具体的な成果はまだ少なくても、近い将来に本格的な成果が見込まれる数件7件
次世代賞大学生以下の若い世代が主体となって活動している数件11件

奨励賞は2025年度の受賞から登場した賞で、2025年度に4件、2026年度に3件が選ばれています。

次世代賞の11件には、2022年度に1件だけ選ばれた「最優秀次世代賞」も含みます。


「STI for SDGs」アワード受賞者一覧

2019年度から2026年度までの受賞取り組み60件を、新しい年度から順に掲載します。

団体名と取り組み名はJSTの受賞取り組み紹介と発表資料にそろえ、その後に社名が変わった企業は現在の社名を添えました。

「企業」の列の●は、受賞団体に企業が含まれる取り組みです。

2026年度(第8回)

2026年9月16日に発表された最新の受賞取り組みで、計10件です。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞豊田市上下水道局人工衛星・AI・ビッグデータで「水道クライシス」に挑む!
科学技術振興機構理事長賞株式会社宇宙木材工房、京都大学、龍谷大学、九州工業大学、住友林業株式会社、有限会社黒田工房、利昌工業株式会社木造人工衛星「LignoSat」の開発●
優秀賞国立大学法人徳島大学革新的デバイス「ヴァスガイド」によるロボット手術の標準化と社会実装
優秀賞株式会社中川大型ドローンの導入による林業の働き方改革●
優秀賞新潟県厚生農業協同組合連合会佐渡総合病院、佐渡市立両津病院、株式会社ヘルスケアリレイションズ、株式会社ケアコム、新潟県イノベーター育成臨床研修コースプロジェクトワークIIメンバー佐渡地域における入院病床統合管理体制の構築●
奨励賞高度マテリアルリサイクル研究会(公益財団法人全日本科学技術協会、TOPPAN株式会社)自治体指定ごみ袋における家庭プラごみ再生材活用●
奨励賞株式会社ハンマーバード、千曲市役所『ポリネコ!CHIKUMA』による中学生からの市政参加●
奨励賞牛乳石鹼共進社株式会社コップ一杯の水で洗髪出来るポータブル洗髪デバイスセット「SUSUGU」●
次世代賞愛媛県立松山南高等学校 ばーちゃるずデジタル校舎保存プロジェクト~記憶の保存と未来の可視化~
次世代賞Team SAYA、スズキイノベーションセンター(SIC)インドと日本の廃棄作物使用のSAYAポットで「捨てる」を「育てる」へ

参考:2026年度「STI for SDGs」アワード 受賞取り組みの決定について(JST)

参考:2026年度「STI for SDGs」アワード 受賞取り組み一覧(JST)

2025年度(第7回)

奨励賞の受賞が初めて出た年で、受賞件数は8回のなかで最も多い12件です。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞リガード(千葉大学大学院看護学研究院雨宮研究室、株式会社アイ・メデックスホールディングス、医療法人社団千葉いずみ会 泉中央病院)尊厳ある暮らしと寄り添うケアを支えるシステム開発●
科学技術振興機構理事長賞LiSTie株式会社世界各地からリチウムを独自技術LiSMICで超高純度回収●
優秀賞金沢大学、小松市、株式会社クボタ、富山県立大学、情報・システム研究機構下水モニタリングの情報発信による市政の価値創造と感染症への意識変革●
優秀賞株式会社シリウス介護用洗身機器による介護の質の向上と持続可能な社会への貢献●
優秀賞千代田化工建設株式会社水素の大規模貯蔵輸送技術の実用化による脱炭素社会構築の推進活動●
優秀賞ヤマハ発動機株式会社水の改善が必要な地域に安心な水を届けるクリーンウォーターシステム●
奨励賞株式会社アストロスケール衛星「ADRAS-J」による本物のデブリへの接近・観測ミッション●
奨励賞株式会社トライフ、株式会社優しい研究所、九州大学乳酸菌バクテリオシン、ナイシンを利用した安全な口腔ケア剤の開発と事業化●
奨励賞ペガラジャパン合同会社南部アフリカにおける食料安全保障及び人権問題の複合的な解決●
奨励賞早稲田大学、株式会社ササクラ、吉野石膏株式会社海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証●
次世代賞COWNECT(函館工業高等専門学校)、函館高専アントレプレナー同好会酪農乳業界の正常化を行う牛乳由来の本革風素材開発事業
次世代賞山口県立徳山高等学校 IKA girlsイカから出る廃棄物の再利用法~イカでイカを釣る~

2024年度(第6回)

受賞は5件で、2020年度と同じく次世代賞の受賞はありませんでした。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞公益財団法人榊原記念財団附属榊原記念病院遠隔心臓リハビリテーション
科学技術振興機構理事長賞一般社団法人ICTリハビリテーション研究会、ファブラボ品川自助具3DプラットフォームCOCRE HUBによる持続可能社会の共創
優秀賞buoy合同会社(現:buoy株式会社)ボランティアと共に海岸漂着プラスチックごみをアップサイクル●
優秀賞群馬大学 次世代モビリティ社会実装研究センター、桐生市、群馬県立桐生高等学校、株式会社桐生再生、株式会社シンクトゥギャザー、日本モビリティ株式会社、ゆっくりズム研究所低速電動バスの社会実装による地域課題解決の取り組み●
優秀賞IT FORCE株式会社介護タクシーを手軽に呼べる配車アプリ「よぶぞー」の開発・運営●

2023年度(第5回)

受賞は6件で、文部科学大臣賞を含む5件に企業が関わっています。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞OUI Inc.日本発・世界の失明と視覚障害の根絶●
科学技術振興機構理事長賞豊橋技術科学大学 資源循環工学研究室、株式会社豊橋バイオマスソリューションズ小規模普及型メタン発酵システムによる「誰ひとり取り残さない」社会の実現●
優秀賞インバックスグループ持ち出さない、持ち込まない、そこにある土砂を資源化●
優秀賞株式会社ミライロデジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営●
優秀賞株式会社モリサワUDフォント(ユニバーサルデザインフォント)開発と普及促進●
次世代賞盲学校用教材開発普及サークル Soleil盲学校教育現場において使用する音声式環境計「大気くん」の開発

2022年度(第4回)

30件の応募から8件が選ばれ、次世代賞3件のうち1件が最優秀次世代賞に選ばれました。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞株式会社TOWING高効率な炭素固定と有機肥料活用を両立可能な「高機能ソイル」の開発と普及●
科学技術振興機構理事長賞東京大学医用情報工学講座、株式会社Kompath誰もが自分の医療データを持ち歩ける時代へ●
優秀賞株式会社ブルーライトワークスVocagraphy!(ボキャグラフィー)●
優秀賞信州大学 信大クリスタルラボ信大クリスタル®が拓く世界の水課題ソリューション
優秀賞ニッポニア木材株式会社(現:株式会社フランウッド)、京都府立大学 森林科学科 生物材料物性学研究室・森林資源循環学研究室林業活性化と熱帯林の保護を目指したフラン樹脂加工木材の開発●
最優秀次世代賞愛媛県立西条高等学校 SSHセスキ合成班炭酸ナトリウムの洗浄剤への転換~おむつ灰の再資源化を目指して~
次世代賞熊本県立天草高等学校 科学部 アマモ班天草ブルーカーボンニュートラル~地域循環型クリーンエネルギーの創造~
次世代賞新潟県立佐渡総合高等学校 農産・加工系列ネリカ米栽培技術研究、そしてザンビアの孤児院への食料支援プロジェクト

2021年度(第3回)

受賞は8件で、企業が関わる取り組みは1件だけの年です。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞東京藝術大学COI拠点「だれでもピアノ®」の開発~障がい者から高齢者までへのユニバーサルな活用~
科学技術振興機構理事長賞株式会社Smolt、宮崎大学サクラマス循環養殖による温暖化対応種の開発とイクラの持続的生産●
優秀賞農業・食品産業技術総合研究機構ICTを活用した水田管理で地域の水利用を最適化
優秀賞宇宙航空研究開発機構(JAXA)暮らしを支える人工衛星を宇宙ゴミから守り持続可能な社会を実現する
優秀賞一般社団法人Pine Grace獣医学×林業による未利用地域資源の活用
優秀賞高知大学、静岡理工科大学、宮崎大学防災と環境を両立する「蛇籠技術」の普及に向けた機関横断型の取り組み
次世代賞追手門学院大手前中・高等学校 ロボットサイエンス部デザイン思考をもとにSDGsの課題解決を目的としたロボット開発活動
次世代賞福島県立福島高等学校マグネシウムとヨウ素を用いた二次電池開発

2020年度(第2回)

受賞は4件で、8回のなかで最も少なく、次世代賞の受賞もありませんでした。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞一般社団法人WheeLog、島根大学総合理工学研究科、株式会社オリィ研究所、株式会社ナノコネクトみんなでつくるバリアフリーマップ「WheeLog!」●
科学技術振興機構理事長賞香川大学、メロディ・インターナショナル株式会社、NPO法人e-HCIK(イーシーク)超小型モバイル胎児モニターを用いて安心・安全な妊娠・分娩を実現する●
優秀賞しまあめラボ(福井工業大学)赤島活性化プロジェクト~雨水活用による持続可能社会の模索~
優秀賞Craif株式会社独自デバイスを用いた尿中miRNAの網羅的解析による高精度がん早期発見●

参考:2020年度運営実績(「STI for SDGs」アワード)

2019年度(第1回)

最初の年で、50件の応募から7件が選ばれました。

賞受賞団体取り組み名企業
文部科学大臣賞北陸先端科学技術大学院大学、山梨県立大学染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め
科学技術振興機構理事長賞みんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)「応援」やブロックチェーンを通じて再生可能エネルギーの生産者と消費者をつなぐ「顔の見える電力」●
優秀賞農業・食品産業技術総合研究機構農業に起因する温室効果ガスの排出緩和と気候変動適応技術による食糧安定生産への取組
優秀賞アイ‐コンポロジー株式会社バイオプラスチック複合材の活用によるSDGsの推進●
優秀賞高知大学、高知県、香南市、前澤工業株式会社、日本下水道事業団汚水処理の持続性向上に向けた高知家(こうちけ)の挑戦~産官学による新技術開発と全国への展開~●
優秀賞株式会社スマイリーアース循環型環境ストレスフリーを実現したタオル生産プロセスの構築で「日本タオル製造発祥の地」の地場産業を未来へ繋ぐ●
次世代賞熊本県立天草高等学校 科学部 海水準班あなたの地域は何cm?~高校生が主導して行う、地球温暖化による海面上昇量を推定する取組み~

参考:受賞取り組み一覧(「STI for SDGs」アワード)

参考:「STI for SDGs」アワード受賞取り組みの決定について(JST、2019年10月31日)

受賞60件から見える4つの傾向

60件を並べて数えると、どんな取り組みが選ばれてきたかが見えてきます。

企業が関わる取り組みは60件中36件

受賞団体に企業が含まれる取り組みは36件で、全体の60%です。

そのうち20件は企業だけで受賞し、残る16件は大学や自治体、病院などとの共同です。

賞別に見ると、奨励賞は7件すべて、科学技術振興機構理事長賞は8件中7件に企業が加わっています。

年度別では2025年度が12件中10件と最も多くなっています。

企業と大学の共同は13件

大学や高等専門学校が受賞団体に入る取り組みは20件あります。

そのうち13件は、企業と大学が一緒に受賞した産学連携の取り組みです。

たとえば2025年度の優秀賞は、金沢大学、小松市、株式会社クボタ、富山県立大学、情報・システム研究機構の5団体による下水モニタリングの取り組みでした。

大学の研究を企業が製品にし、自治体が現場で使う形は、産学官連携の典型です。

2019年度に優秀賞を受けた高知大学などの汚水処理技術は、受賞当時3ヵ所だった導入施設が8ヵ所に増え、さらに1ヵ所が建設中です。

参考:汚水処理の持続性向上に向けた高知家(こうちけ)の挑戦(JST)

SDGsのゴール9を挙げた取り組みが最も多い

JSTは受賞取り組みごとに、関係するSDGsのゴールを示しています。

個別の紹介ページがある2019〜2025年度の50件で数えると、ゴール9「産業と技術革新の基盤を作ろう」を挙げた取り組みが23件で最も多くなりました。

次いでゴール12「つくる責任つかう責任」が19件、ゴール8「働きがいも経済成長も」が17件です。

ゴール3「すべての人に健康と福祉を」、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」がそれぞれ16件で続きます。

少なかったのは、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」とゴール16「平和と公正をすべての人に」で、それぞれ3件でした。

技術で産業の仕組みを変える取り組みが中心ですが、医療や介護、まちづくりにもほぼ同じくらい広がっています。

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」の中身は、別の記事でくわしく紹介しています。

代表団体の所在地は東京が15件

2019〜2025年度の50件を代表団体の所在地で分けると、東京都が15件で全体の30%です。

次いで大阪府、神奈川県、茨城県、熊本県が各3〜4件で、50件の代表団体は22の都道府県に分かれています。

熊本県の3件はすべて次世代賞で、熊本県立天草高等学校の科学部は海水準班が2019年度、アマモ班が2022年度に受賞しています。

次世代賞11件のうち8件は高校(中高一貫校を含む)の部活動や班で、残りは高専や大学のサークルなどです。


受賞取り組みから5件をピックアップ

60件のなかから、企業が中心になり、技術と社会課題の結び付き方がわかりやすい5件を紹介します。

株式会社TOWING

TOWINGは、農地の土づくりの技術を開発する名古屋市の企業です。

2022年度に、企業単独の受賞として初めて文部科学大臣賞を受けました。

農業・食品産業技術総合研究機構が開発した土壌微生物を定着させる技術と、自社の多孔体製造や微生物培養の技術を組み合わせた「高機能ソイル技術」を実用化しています。

もみ殻燻炭や木炭などのバイオ炭に土壌由来の微生物を定着させ、通常3〜5年かかる良質な土づくりを1ヵ月程度で可能にしたと同社は説明しています。

バイオ炭を農地にまくことで炭素を地中に固定でき、化学肥料から有機肥料への転換と温室効果ガスの削減を同時にねらえます。

参考:高効率な炭素固定と有機肥料活用を両立可能な「高機能ソイル」の開発と普及(JST)

OUI Inc.

OUI Inc.は、眼科医療機器を開発する企業です。

2023年度に「日本発・世界の失明と視覚障害の根絶」で文部科学大臣賞を受けました。

世界には視覚障害のある人が約22億人、失明した人が約4,300万人いて、その半数以上は予防や治療が可能だといわれています。

同社が発明した「Smart Eye Camera(SEC)」は、スマートフォンに取り付けるだけで、眼科医が使う細隙灯(さいげきとう)顕微鏡と同等の光で目を観察できる機器です。

眼科医のいない地域で医療従事者が撮影した画像を、離れた場所の眼科医が診断する使い方もでき、国内に加えて60ヵ国以上で導入を進めています。

参考:日本発・世界の失明と視覚障害の根絶(JST)

株式会社ミライロ

ミライロは、障害のある人が社会参加するときの不便を、デジタル技術で減らすサービスを手がける大阪市の企業です。

2023年度に、デジタル障害者手帳「ミライロID」で優秀賞を受けました。

障害者手帳は全国で形式が統一されておらず、280種類以上の形式があるため、割引を提供する事業者の確認作業にも時間がかかっていました。

ミライロIDは2019年に仕組みがつくられ、2020年にはマイナポータルとの連携が実現し、3,800以上の事業者が導入しています。

初回登録時の確認作業には障害のある当事者も関わっていて、障害者雇用の場にもなっています。

段差や情報の壁といったバリアフリーの課題に、技術で向き合う例です。

参考:デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営(JST)

ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ発動機は、二輪車やマリン製品などをつくる静岡県の輸送機器メーカーです。

2025年度に、浄水装置「ヤマハクリーンウォーターシステム(YCW)」の取り組みで優秀賞を受けました。

世界では2024年時点で約22億人が、安全に管理された飲料水を利用できない環境で暮らしています。

YCWは自然界の浄化の仕組みを応用した緩速ろ過方式で、電力が不安定な地域向けに太陽光発電にも対応しています。

交換部材のいらない構造で現地の住民が運用でき、アジアやアフリカへの普及を進めて2025年12月時点で63基を設置しています。

安全な水を届ける仕事に関心がある人は、水問題に取り組む企業10選もあわせて読んでみてください。

参考:水の改善が必要な地域に安心な水を届けるクリーンウォーターシステム(JST)

株式会社Smolt

Smoltは、宮崎県でサクラマスの養殖と種苗の研究開発を手がける企業です。

宮崎大学と共同で取り組んだ「サクラマス循環養殖による温暖化対応種の開発とイクラの持続的生産」で、2021年度に科学技術振興機構理事長賞を受けました。

寒い環境を好むサクラマスを温暖な宮崎県で完全養殖するため、海水温のモニタリングや選抜交配を組み合わせ、高い水温に強い品種を開発しています。

冬場にオフシーズンとなる海の養殖設備をサクラマスの養殖に使い、地元の漁業者と漁業版の「二毛作」を実現しました。

生産したイクラは「つきみいくら」としてブランド化されています。

参考:サクラマス循環養殖による温暖化対応種の開発とイクラの持続的生産(JST)

研究や技術で社会課題に関わるキャリア

受賞60件の顔ぶれを見ると、科学技術で社会課題に関わる働き方は4つに分けられます。

研究機関や大学で技術の種をつくる

1つ目は、大学や国立研究開発法人の研究者として、社会課題を解く技術そのものを生み出す働き方です。

農業・食品産業技術総合研究機構は2019年度と2021年度の2回受賞し、2021年度には宇宙航空研究開発機構(JAXA)も優秀賞を受けています。

専門分野の研究経験がそのまま生き、入口は大学院への進学や、研究機関の研究職採用が一般的です。

研究と政策の両面から課題に向き合う道は、社会課題解決×研究・政策のキャリアで紹介しています。

産学官連携で研究成果を社会につなぐ

2つ目は、大学の研究と企業の事業、自治体の現場を結び付ける働き方です。

受賞60件のうち13件は企業と大学の共同で、研究成果を製品や行政サービスにするには、間に立って調整する人が欠かせません。

大学の産学連携部門や、研究支援を担うURA(リサーチ・アドミニストレーター)、自治体の産業振興部署などが受け皿になります。

研究の内容を理解したうえで、契約や資金、事業化の段取りを進める力が求められ、研究経験と企業での実務経験のどちらも生きます。

仕事の中身やなり方は、産学官連携コーディネーターの記事にまとめています。

研究開発型スタートアップで技術を事業にする

3つ目は、研究から生まれた技術で事業をつくるスタートアップで働く道です。

TOWINGやOUI Inc.のほか、リチウムを回収するLiSTie、がんの早期発見に取り組むCraif、宇宙ごみの観測に挑むアストロスケールなどが受賞しています。

研究者として入るほか、事業開発や営業、広報として技術を社会に届ける側に回る関わり方もあります。

アストロスケールが向き合う宇宙ゴミ(スペースデブリ)のように、技術がなければ手が出せない課題に挑めるのが特徴です。

研究成果をもとに生まれた企業は、大学発スタートアップで社会課題に取り組む企業10選で紹介しています。

メーカーや事業会社で技術者として課題を解く

4つ目は、大手メーカーや事業会社の技術職として、自社の技術を社会課題の解決に使う働き方です。

ヤマハ発動機の浄水装置、千代田化工建設の水素の貯蔵輸送技術、モリサワのUDフォント、TOPPANが加わる家庭プラごみ再生材の活用などが受賞しています。

大きな組織の生産設備や販売網を使えるため、一度実用化した技術を広い地域に届けやすい立場です。

新卒の技術職採用や、エンジニアとしての転職が入口になります。

技術職として社会課題に関わる道は、社会課題解決×エンジニア・データ職のキャリアでくわしく紹介しています。


まとめ

「STI for SDGs」アワードは、科学技術を使って社会課題を解決する取り組みを、JSTが2019年度から表彰している制度です。

2026年度までの8回で60件が受賞し、そのうち36件には企業が加わっています。

文部科学大臣賞、科学技術振興機構理事長賞、優秀賞、奨励賞、次世代賞の5つの賞があり、大学、自治体、病院、高校の科学部まで受賞団体は幅広くなっています。

選考では、科学技術の活用に加えて、他の地域へ広げられるかどうかが重視されてきました。

気になる受賞取り組みがあれば、JSTの紹介ページで「解決したい社会課題」を読み、その団体がどんな人を採用しているかまで調べてみてください。

あなたが学んできた研究や技術の経験も、社会課題の解決に生かせる力です。

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よくある質問

「STI for SDGs」アワードについて、よく見かける疑問にお答えします。

Q. 「STI for SDGs」アワードとはどのような賞ですか?

A. 科学技術・イノベーション(STI)を使って社会課題を解決する日本発の優れた取り組みを、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が表彰する制度です。文部科学省が後援しています。表彰によって取り組みをさらに発展させ、同じ課題を抱える国内外の地域へ広げることで、SDGsの達成に貢献することを目的に2019年度に創設されました。2026年度は4月1日から6月1日まで募集し、書類選考と面接選考を経て9月16日に10件の受賞が発表されています。

Q. これまでに何件の取り組みが受賞していますか?

A. 2019年度から2026年度までの8回で、60件の取り組みが受賞しています。年度別では2019年度が7件、2020年度が4件、2021年度と2022年度が8件ずつ、2023年度が6件、2024年度が5件、2025年度が12件、2026年度が10件です。賞別では文部科学大臣賞と科学技術振興機構理事長賞が8件ずつ、優秀賞が26件、奨励賞が7件、次世代賞が最優秀次世代賞を含めて11件です。60件のうち36件は、受賞団体に企業が含まれています。

Q. 企業も応募できますか?

A. 応募できます。対象は科学技術を使って社会課題を解決し、SDGsの達成を目指す国内の団体で、民間企業のほか、地方自治体、大学、高等専門学校、国立研究開発法人、NPOなどの非営利法人、高校や中学校、サークルまで含まれ、法人格の有無は問われません。ただし、取り組みが計画や研究の段階ではなく、具体的な活動実績を持つか、近い将来に実績が見込めることが条件です。これまでの60件のうち、企業だけで受賞した取り組みは20件あります。

Q. 5つの賞にはどのような違いがありますか?

A. 文部科学大臣賞は最優秀賞にあたる1件、科学技術振興機構理事長賞は大臣賞に次いで優れた取り組みのうち、科学技術の活用で特に優れた1件です。優秀賞は大臣賞に次いで優れている数件が選ばれます。奨励賞は具体的な成果はまだ少なくても、近い将来に本格的な成果が見込まれる数件が対象で、2025年度から受賞が出ています。次世代賞は大学生以下の若い世代が主体の取り組みが対象で、これまでの11件のうち8件は高校の部活動や班です。


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