今回インタビューさせていただいたのは、アジアを中心に無形文化遺産保護のプロジェクトを企画している、大貫美佐子さん。

第三弾となる今回は、国際協力を仕事にしたい人へのメッセージを中心にお伝えします。

プロフィール

大貫美佐子(おおぬきみさこ)
東京外国語大学を卒業、財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)図書開発課に勤務、アジア人のためのアジアの言語による教材開発事業を担当。その後同センター文化協力課長として、2003年にユネスコ総会で採択された「無形文化遺産の保護に関する条約」の普及活動にユネスコ本部とともに従事。また日本女子大学講師として社会に出るための自己表現の講座を担当。2011年より独立行政法人国立文化財機構アジア太平洋無形遺産研究センター(IRCI)副所長・研究室長として、アフガニスタンやフィリピンなどを中心に、紛争後の地域で消滅の危機に瀕する無形文化遺産の復興プロジェクトに従事した。2021年より、NGO“LHN”代表。

人と人はわかり合えないんじゃないか、そう思った

ーーー大貫さんは、外国語大学でミャンマー語を学ばれたとのことですが、最初から東南アジアに興味があったんですか?

実は、最初は別の大学で英語を学んでいたんです。国際協力をするのなら、英語を学ばないといけないだろう、っていう安直な考えで、英文科に進学していました。

ーーーそこから、なぜミャンマー語に……

当時英語を学ぶ際によく聞く「英語を学んで世界の友達とコミュニケーションをしよう」、「英語をマスターして君も国際人になろう!」などのキャッチフレーズに惹かれたのですが、次第に違和感が生まれてきて。

本当にそれだけで理解し合えるのか、という疑問。

例えば、本屋に行ってみるじゃないですか。欧米の文学はもちろん、ドイツの民話、イギリスの民話、中国の昔話、などなどたくさん出ている。じゃあ、インドネシアの作家は? ベトナムの作家は? そう考えたときに数が全然なかった。

若いなりに本当に世界の人々と分かり合うためには、こちらから一歩も二歩も入る、その民族の文化や言葉を理解することから始めることが大切なんじゃないかと思ったんです。

ーーーなるほど。英語ではなく、その民族の言葉を理解するからこそ、分かり合うことができる。

とはいえ、仕事を通じて、なかなか分かり合えることは難しい、と痛感したんです。

ーーー相手国の人とは分かり合えない、ということですか?

分かり合えない、というところから始めるしかない、と思っています。

分かり合えなくても良いんですよ。分かり合えなくても良いから排除するのではなく存在を認めあう関係で仕事をしていく。

「あなたの考えはこうなんだね」と認めある状況をつくっていく。心の中に。するんです。「私の考えとは違うけど、そういう考え方もあるよね」として、アウトプットを共同で模索していく。

どうしても良い結果をうまないと思うところ、譲れないところは、説明を丁寧にしていく。その議論には激しいやり取りも含みますが。

人と人とは分かり合えない。

だからこそ、違いを認めて議論を重ねていくことが大切なんだと思います。


言語はツール。専門分野を持つことが大事

ーーー国際協力を仕事にしたい学生に向けて、何かメッセージはありますか?

一つは、専門性を磨いて欲しいということですね。

よく「国連で働くにはどうしたら良いですか?」と聞かれるんですが、その際にも同じように答えています。

ーーー専門性、ですか。

例えば、法律の知識などですね。途上国の文化政策などの活動支援に関わっていると、国内の関連法の整備が進んでいないケースが多いんです。

アフガニスタンでは、文化遺産保護法が2004年に改正され憲法とともに各民族の権利や有形の文化財の保護の方針がまとめられていますが、無形文化遺産についての条項はまだないんです。

じゃあ、それを無形文化遺産にも適用できるような形にするには、どうしたらよいのか、という議論が生まれるのですが、政府間関係者や専門家に経験があまりないため、協力要請がくるわけです。

法整備には、信頼関係の構築が大前提ですが、こういうときに、専門性があると、そのスキルを使って一緒に仕事を進めていくことができますよね。

法律を例に出しましたが、他の分野でも同じことです。英語や言語はツールにすぎない。そのツールを使って、どのようなスキルを発揮できるか。

そういう観点で勉強することが大切なんだと思います。

ーーー言語はあくまでもツールということですね。他に、意識した方が良い点などはありますか?

もう一つ、今の学生さんにお聞きしたいのは、COVID-19の影響のなかで、自身の中のテーマがどのように変化したか、ということですね。

具体的には、COVID-19の影響のなかで、世界はどのように変化し、課題を生み、それに対してあなたは何を考え、何をしていましたか、ということです。

ーーー海外の渡航制限がある中で、行動できることは限られていそうですが……

本当にそうでしょうか。今や、途上国のどの地域でもネットワークはつながっています。

ネットワークがあるということは、日本にいながらも、その地域の人とつながることができるということです。

SNSでもなんでも良いんです。たとえば、ある地域における自身の大学での研究課題がパンデミックでどう変化したのか、SNSを通じてアンケートを拡散させてみるとか。聞き込み調査してみるとか。

実際に渡航可能になるまででも、現地の声に触れることは可能なんです。問題意識と課題の深堀り、そしてそこのコミュニケーションは怠らないで欲しいな、と思いますね。

ーーーなるほど……。たしかに現地に行けなくてもできることはありますもんね。

そこで大事になるのが、英語ではない現地の言葉なんですよ。

現地の言葉も交えてコミュニケーションをすることで、ネットワークは一気に広がるはずです。COVID-19による世界の断絶があっても、それぞれの地域で生活は続いているわけですから。

言語というツールを使い、確固たる信念や専門性で形作られたスキルを発揮する。私は、そういう人たちと一緒に課題解決に向けたアウトプットの想定をしていきたいと思います。

ーーー編集後記

インタビューをするなかで感じたのは、大貫さんの確固たる信念。「現地の声を大切にする」という信念が主軸にあるからこそ、さまざまな地域の復興プロジェクトを進めていけるのだろうな、と強く感じました。

最後に、大貫さんが勧めてくださった書籍の紹介で、記事を締めたいと思います。

・『バウルの歌を探しに』川内有緒

・『土地所有の政治史―人類学的視点』杉島敬志

・『ガザに地下鉄が走る日』岡真理

この書籍たちから、大貫さんの思考の一端を学ぶことができるかもしれません。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。