旅先で長い列に並びながら、この混み方は地元の人にとってどうなのだろう、と考えたことはありませんか。
日本を訪れた外国人旅行者は、2025年に4,268万人を超えました。
人が集まるのは地域にとってありがたい話ですが、生活道路やバスが埋まれば住民の日常は削られます。
サステナブルツーリズムは、その削られる部分を抑えるための考え方です。
この記事では、国連世界観光機関(UN Tourism)による定義、エコツーリズムなど似た言葉との違い、国際基準、国と自治体の取り組みを解説します。
観光を仕事にする道筋は、後半にまとめました。
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サステナブルツーリズムとは
旅行の広告でも見かける言葉ですが、国際機関の定義は環境・社会文化・経済という3つの側面を具体的に挙げています。
国連世界観光機関が示す定義
サステナブルツーリズムとは、現在と将来の経済的・社会的・環境的な影響に十分配慮し、旅行者、観光産業、環境、受入地域それぞれの必要に応える観光です。
UN Tourismが国連環境計画(UNEP)と2005年にまとめた手引きに書かれた定義です。
参考:持続可能な観光の定義(UN Tourismアジア太平洋地域事務所)
開発の指針も管理の手法も、マスツーリズムからニッチな分野まであらゆる形態の観光に当てはまります。
参考:Sustainable development(UN Tourism)
UNWTOは2024年1月24日付で、新しいブランドとしてUN Tourismを使い始めました。
参考:UNWTOからUN Tourismへ(UN Tourismアジア太平洋地域事務所)
環境・社会文化・経済という3つの側面
UN Tourismは、持続可能な観光に求められることをまず3つ挙げています。
1つ目は環境資源の最適な利用で、不可欠な生態系のプロセスを保ち、自然遺産と生物多様性の保全に貢献することです。
2つ目は受入地域の社会文化的な真正性の尊重で、文化遺産や伝統的価値を守り、異文化理解につなげる役割が示されています。
3つ目は長期にわたって成り立つ経済活動で、すべての関係者に公正に配分される利益、安定した雇用と所得機会、貧困の緩和への貢献が並びます。
3つに加えて、関係者が事実を知ったうえで参画すること、影響の継続的な監視、旅行者の満足度の維持も求められています。
商品名ではなく観光地の運営方法
サステナブルツーリズムはツアー商品の名前ではなく、観光地をどう運営し、利益と負担をどう配分するかという地域経営の方法論です。
住み続けられるまちづくりの考え方とも、重なる部分が多くあります。
≫【SDGs目標11】住み続けられるまちづくりとは?現状と私たちにできること
エコツーリズムやグリーン・ツーリズムとの違い
エコツーリズムやグリーン・ツーリズムは、焦点も定義の出どころもそれぞれ違います。
| 名称 | 主な焦点 | 定義の出どころ |
|---|---|---|
| サステナブルツーリズム | 観光全体の経済・社会・環境への影響 | UN Tourism |
| エコツーリズム | 自然観光資源の保護と、案内を通じた理解 | エコツーリズム推進法 |
| グリーン・ツーリズム | 農山漁村での滞在と、自然・文化・人々との交流 | 農林水産省 |
| アドベンチャーツーリズム | 自然・アクティビティ・文化体験の組み合わせ | 観光庁 |
| レスポンシブルツーリズム | 事業者や旅行者が負う責任 | ケープタウン宣言 |
エコツーリズムには法律の定義がある
エコツーリズムとは、観光旅行者が自然観光資源について知識を持つ人から案内や助言を受け、その資源の保護に配慮しながら触れ合い、知識と理解を深める活動です。
2007年6月27日に公布されたエコツーリズム推進法の、第2条第2項が定める内容です。
基本理念に掲げられているのは、自然観光資源が損なわれない利用方法を定めること、観光の振興、地域社会と地域経済の健全な発展、環境教育の場としての活用の4つです。
自然環境を守る仕事にも、観光と重なる領域があります。
グリーン・ツーリズムは農山漁村での滞在が軸
農林水産省は、グリーン・ツーリズムを農山漁村地域で自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動と説明しています。
アドベンチャーツーリズムは要素の組み合わせ
観光庁によると、アドベンチャーツーリズムは「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行です。
レスポンシブルツーリズムは責任の所在を問う
レスポンシブルツーリズムは2002年8月のケープタウン宣言が掲げた考え方で、負の影響の最小化や、暮らしに関わる決定への地域の人々の参加を特徴に挙げています。
参考:Cape Town Declaration on Responsible Tourism
背景にあるオーバーツーリズムという課題
この言葉が語られるのは、観光地で具体的な不具合が起きているからです。
訪日外国人旅行者は年間4,268万人に
日本政府観光局(JNTO)が2026年1月21日に発表した推計では、2025年の訪日外客数は42,683,600人でした。
前年比15.8%増で、2024年の36,870,148人を580万人以上上回る過去最高です。
混雑とマナーが住民の生活を圧迫する
観光庁は2026年4月時点で、観光客が集中する一部の地域や時間帯によっては、過度の混雑やマナー違反が住民生活に影響していると整理しています。
旅行者の満足度が下がる懸念にも触れます。
参考:オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組(観光庁)
観光の負荷が表面化した例として、京都市があります。
≫京都市の社会問題とは?財政悪化やオーバーツーリズムの課題を解説
富士山では人数の上限が決められた
山梨県は条例にもとづき、富士山吉田ルートで7月1日から9月10日まで登山規制と通行料の徴収を行っています。
登山者数は1日あたり4,000人が上限で、超えると五合目のゲートが閉じられます。
午後2時から午前3時までも閉鎖されますが、時間規制も人数規制も山小屋の宿泊者は対象外です。
通行料は1人1回4,000円です。
国際的な枠組みと日本版のガイドライン
持続可能かどうかは、国際団体がつくった基準と、それを日本向けに置き換えたガイドラインで測られます。
GSTCの基準は4つの分野で構成される
グローバルサステナブルツーリズム協議会(GSTC)は、持続可能な旅行と観光の国際標準を策定・管理する組織です。
かつてGSTC Criteriaと呼ばれた一連の基準は、現在はGSTC Standardsという名前です。
観光地向けはGSTC Destination Standardと呼ばれ、現行版はv2.0にあたります。
構成は、持続可能なマネジメントと、社会経済・文化・環境それぞれの持続可能性の4分野です。
持続可能なマネジメントの分野には、観光地の運営に責任を持つ組織を置くことや、複数年の戦略を公開することが含まれます。
日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)
観光庁は2020年6月、自治体やDMOが持続可能な観光地マネジメントを行えるよう、国際基準に準拠したガイドラインを公表しました。
英語名の頭文字からJSTS-Dと呼ばれ、付録にはGSTCの観光地向け基準の和訳も付いています。
参考:日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)(観光庁)
日本で進む取り組み
国の基本計画、対策パッケージ、京都市の宿泊税と、この数年で動いた制度は具体的です。
観光立国推進基本計画は第5次に入った
2026年3月27日、2026年度から2030年度を期間とする第5次の観光立国推進基本計画が閣議決定されました。
柱の1つは「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」で、地方誘客を通じたオーバーツーリズム対策の強化が位置づけられました。
2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円という目標は据え置かれています。
そのうえで、オーバーツーリズムの未然防止・抑制と観光産業に関する目標が新たに加わりました。
住民の意見を取り込んで混雑やマナー違反の計画をつくる地域を、2025年の47地域から2030年までに100地域へ増やす目標もその1つです。
対策パッケージと先駆モデル地域
国の対応の土台は、2023年10月18日の観光立国推進閣僚会議で決定された「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」です。
観光庁が2023年度の補正予算で実施した事業では、先駆モデル地域型として26地域が選ばれました。
京都市は宿泊税を負担能力に応じて引き上げる
京都市は2025年10月3日、宿泊税の見直しが正式に決まったと公表しました。
2026年3月1日からの宿泊分では、6,000円未満は200円で据え置く一方、10万円以上は1人1泊10,000円になります。
京都市は見直し後の税収を2025年10月時点で約126億円と見込み、増える分を「観光」の推進と「市民生活と観光の調和・両立の更なる推進」に充てるとしています。
観光業の企業が進める取り組み
旅行会社や宿泊施設の側でも、国際基準に沿った運営を対外的に示す動きが出ています。
株式会社JTBは国際認証を取得した
株式会社JTBは2024年11月15日、国内ツアーを対象としたGSTCツアーオペレーター認証を、第三者国際認証機関のBureau Veritasから同年11月1日に取得したと発表しました。
土台になった観光産業界向け基準も、持続可能な経営と、社会経済・文化・環境の持続可能性の4つの柱でできています。
この基準はその後2025年に、ホテル向けとツアーオペレーター向けの2つに分けられました。
星野リゾートは温泉街全体の構想から関わる
株式会社星野リゾートは2023年から、自社の考え方を「ステークホルダーツーリズム」と呼んでいます。
旅行者と、地域の生活や経済、自然環境までを含むコミュニティ全体に公正な見返りを届ける観光だという説明です。
山口県の長門湯本温泉では再生の全体構想を提案し、街のリニューアルが進むなかで地域の方の飲食店開業や新しい路線バスの運行が生まれたと記しています。
観光だけでなく、地域の事業そのものを支える会社もあります。
≫地域企業支援に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
観光・地域づくりに関わる仕事
観光地を回す仕事は、役場にもホテルにも、地域の現場にもあります。
自治体とDMOで観光地をマネジメントする
JSTS-Dやオーバーツーリズム対策の実務を担うのは、自治体の観光部局と地域のDMOです。
住民アンケートの設計、混雑データの計測、協議の運営、計画の文書化が中心です。
宿泊税のように条例が絡む場面では、財政や法務の知識も生きます。
業界や職種から進路を考えるときは、地方創生の仕事の広がりから見ると全体像がつかめます。
≫地方創生・まちづくりに携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説
旅行・宿泊業でサステナビリティを担当する
旅行会社やホテルでは、認証の取得、仕入先の点検、排出量の算定、地域の事業者との利益配分の設計を担います。
国際認証の審査では、方針の文言よりも記録と証跡が問われます。
地域おこし協力隊という入口
任期付きで地域に入り、観光協会や役場で働く道もあります。
報酬や任期後の進路まで含めた制度の仕組みは、事前に知っておくと選びやすくなります。
≫地域おこし協力隊とは?制度の仕組み・活動内容・任期後のキャリアを解説
誰が旅に参加できるかを設計する
香川県の小豆島でアクセシブル・ツーリズムに取り組む篠原智昭さんに、COCOCOLOR EARTHが取材しました。
篠原さんはアクセシブル・ツーリズムを、障がいの有無に関わらず誰もが観光を楽しめる形だと説明しています。
取り組んでいるのは、旅行の場面から、誰もが当たり前に同じ場を楽しめる社会の仕組みをつくることだそうです。
観光地の設計には、誰を迎えられるようにするかという判断も含まれます。
≫「誰もが旅を楽しめる世界」へ。小豆島から描くインクルーシブな未来〜地域おこし協力隊/セブンシーズトラベラーズ株式会社 篠原智昭さん〜
旅行者ができること
制度や企業の話に見えて、実際の負荷を決めているのは一人ひとりの旅程です。
時期と時間をずらすだけでも、混雑の山はなだらかになります。
地元の店で食べ、地元のガイドに案内を頼むことも、利益の配分を変える選択です。
お土産や食べ物をどう選ぶかは、つくる責任とつかう責任の話ともつながります。
≫【SDGs目標12】つくる責任つかう責任とは?現状と私たちにできること
よくある質問
言葉の範囲や似た概念との境目など、調べるときにつまずきやすい点をまとめました。
Q. サステナブルツーリズムとは何ですか?
A. サステナブルツーリズムとは、現在と将来の経済的・社会的・環境的な影響に十分配慮し、旅行者、観光産業、環境、受入地域それぞれの必要に応える観光です。国連世界観光機関(UN Tourism)はこの定義とあわせて、3つの条件を挙げています。環境資源の最適な利用、受入地域の社会文化的な真正性の尊重、長期にわたって成り立つ経済活動です。特定のツアー商品ではなく観光地の運営方法を問う言葉で、マスツーリズムからニッチな分野まであらゆる観光が対象です。
Q. エコツーリズムとどう違うのですか?
A. 対象とする範囲が違います。エコツーリズムには、エコツーリズム推進法第2条第2項の定義があります。観光旅行者が自然観光資源について知識を持つ人から案内や助言を受け、その資源の保護に配慮しながら触れ合い、知識と理解を深める活動です。自然観光資源とガイドの存在が前提にある点が特徴です。一方のサステナブルツーリズムは、自然を扱うかに関係なく観光全体を対象とし、経済・社会文化・環境の3側面で影響を評価します。エコツーリズムは、その中に含まれる具体的な形の1つです。
Q. サステナブルツーリズムに関わる仕事にはどんなものがありますか?
A. 自治体の観光部局やDMOでは、住民アンケートの設計、混雑データの計測、協議の場の運営、計画の文書化といった業務があります。旅行会社やホテルでは、国際認証の取得、仕入先の点検、排出量の算定、地域の事業者との利益配分の設計を担うサステナビリティ担当の役割が生まれています。任期付きで地域に入る地域おこし協力隊も、観光協会や役場の現場から関わる入口の1つです。文書と記録を丁寧に扱える人ほど力を発揮できます。
まとめ
観光は地域にお金と誇りを運ぶ一方で、住んでいる人の時間や静けさを削ることもあります。
サステナブルツーリズムは、その両面を同じテーブルに載せて配分を決め直す試みです。
山梨県が人数の上限を決め、京都市が税率を組み替えたように、設計は実際に動かせます。
次の旅で時期を1週間ずらす、宿を1泊延ばす、地元のガイドに頼む。
そうした選択が、訪れた先の明日の条件を少しだけ変えます。
観光や地域づくりを仕事にする道は、ココキャリアに並ぶ求人からも見えてきます。
旅を好きでい続けるために、訪れた場所が明日も続くことを願う。
その願いに名前をつけたものが、サステナブルツーリズムです。
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≫【SDGs目標11】住み続けられるまちづくりとは?現状と私たちにできること
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
