「大学」と聞くと「勉強や研究をする場所」というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。
大学に通いながら、あるいは大学の研究成果をもとに起業する動きである「大学発スタートアップ」が近年広がっています。
この記事では、大学発スタートアップの概要と事例、そのメリットと課題について解説します。
将来のキャリアを考えるうえでのヒントにしてください。
目次
大学発スタートアップとは?
大学発スタートアップとは、大学での研究成果や学生のアイデアをもとに設立された企業のことを指します。
研究室で開発された技術や知識を社会に活かすために生まれることが多く、イノベーションの源泉として注目されています。
日本でも近年、大学発スタートアップの数は増えており、IT/ ソフトウェア、バイオ・ヘルスケア・医療機器、環境・エネルギーなど幅広い分野で活動が進んでいます。
特に、社会課題の解決につながるビジネスが多い点が特徴です。
参考:経済産業省 「令和6年度技術開発調査等推進事業 大学発ベンチャーの実態などに関する調査 」
経済産業省による大学発スタートアップの定義
経済産業省の「大学発ベンチャー実態等調査」では、次の6つのうち1つ以上に当てはまる企業を「大学発ベンチャー(大学発スタートアップ)」と定義しています。
・研究成果ベンチャー
大学で得られた研究成果(特許、新技術、新しいビジネス手法など)を事業化するために設立されたベンチャー。大学発の技術シーズを社会実装することを主な目的としています。
・共同研究ベンチャー
創業者がもともと保有している技術やノウハウを事業化する過程で、設立から5年以内に大学と共同研究や受託研究などを行っているベンチャー。設立時点で大学と直接の関わりがなくても、後から共同研究を行えば対象となります。
・技術移転ベンチャー
既存事業の維持・発展のために、設立から5年以内に大学との共同研究や技術移転(ライセンス供与など)を受けているベンチャー。大学の技術を取り込みながら、自社の事業を高度化していくタイプです。
・学生ベンチャー
現役学生が関与している、もしくは過去に関与していたことのあるベンチャー。経営メンバーや創業メンバーに学生がいるケースなど、大学在籍中の起業を含みます。
・教職員等ベンチャー
大学に所属する教員・職員・研究者・ポスドクなどが設立したベンチャー。大学での研究・教育活動で培った知見を基盤として起業しているケースがここに含まれます。
・関連ベンチャー
大学からの出資、大学のファンドによる投資、大学関連組織との資本・業務提携などを通じて、大学と組織的に強い関係を持つベンチャー。
参考: 令和6年度 大学発ベンチャー 実態等調査 調査結果概要
大学発ベンチャーの現状
経済産業省の調査によると、2024年度(2024年10月時点)の大学発ベンチャー数は5,074社となり、前年(4,288社)から786社増加し、企業数・増加数ともに過去最多を更新しました。
この5,074社のうち、直近1年間に新たに設立された大学発ベンチャーは357社、一方で解散やM&A等により市場から退出した企業は84社とされており、退出が一定数ある中でもネットでは大きく増加している状況です。
大学別では、東京大学(468社)、京都大学(422社)、慶應義塾大学(377社)の順に会社数が多く、いずれも前年から大きく社数を伸ばしています。
一方で、前年からの「増加率」に注目すると、関西大学(9社→47社で約5.2倍)、沖縄科学技術大学院大学(9社→26社で約2.8倍)、神戸大学(55社→113社で約2.0倍)などが上位に入り、京都大学や同志社大学、近畿大学、大阪工業大学といった関西圏の大学の伸びも目立ちます。
このように、絶対数では旧帝大や大規模私立大学が中心である一方、地方・中堅大学からも大学発ベンチャーが次々と生まれており、日本全体で大学発スタートアップの裾野が広がっていることが現在の大きな特徴と言えます。
出典: 令和6年度 大学発ベンチャー 実態等調査 調査結果概要
代表的な大学発スタートアップの事例
ここで、大学から生まれた代表的な3つのスタートアップを紹介します。
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ユーグレナ(東京大学発)
ミドリムシを活用して食品・化粧品・バイオ燃料を製造する企業です。
代表取締役のバングラデシュの体験が元になって3人で起業され、現在は連結で約800人の従業員を抱える企業になっています。
栄養不足やエネルギー問題といった社会課題の解決を目指し、バングラデシュでの栄養支援活動など、事業と社会貢献を両立しています。
インタビュー記事を読む
≫【株式会社ユーグレナ 】人が成長し続けられる社会を軸にした就活とは~喜多倫久~
Preferred Networks(東京大学発)
人工知能や機械学習の分野で世界的に注目される企業です。
自動運転や医療画像診断、製造業の効率化など、多くの産業にAI技術を応用し、新しい価値を生み出しています。
また、機械学習のインフラと言える部分においても、パラメータの最適化ツールの開発等も行っています。
Spiber(慶應義塾大学発)
山形県に本社をおく企業で、植物由来のプロテイン繊維である「プロテインファイバー」を開発しています。
これは、サトウキビを主原料とした繊維であり、そのほとんどが海中で分解されるため自然に優しいです。
環境負荷を減らすサステナブルな取り組みとして注目されています。
大学発スタートアップの利点
大学発のスタートアップには、他の起業にはない強みがあります。ここでは代表的なメリットを3つ紹介します。
研究成果を社会に還元できる
大学で培った知識や技術をそのまま社会に役立てられます。
たとえば医療や環境分野の研究が製品やサービスとなれば、人々の暮らしを大きく改善できます。
支援制度やネットワークが豊富
大学や政府は、学生や研究者の起業を支援するために、資金提供や施設の貸し出し、経営のメンター制度などを用意しています。
こうした制度を利用できるのは、大学発スタートアップならではの強みです。
東京都の例: 大学発スタートアップ創出支援事業
若いうちから挑戦できるキャリアの可能性
学生時代に起業を経験することは、将来にとって大きな財産になります。
たとえ失敗しても学びが多く、再挑戦しやすいのも若さの特権です。
大学発スタートアップの課題
一方で、大学発スタートアップには課題も存在します。
資金調達の難しさ
研究成果をビジネスにするには、開発費や人件費が必要です。
しかし、投資家を見つけたり売上を伸ばしたりするのは簡単ではありません。
経営ノウハウの不足
研究と経営・マーケティングのどちらにも強い学生は多くありません。
そのため、経営の専門家やビジネスパートナーの協力が必須なケースが多いでしょう。
人材確保のハードル
魅力的な仲間や人材を集めることも大きな課題です。
優秀な人材を仲間に入れるには、理念や事業内容の魅力をしっかり伝える必要があります。
おわりに- 大学発スタートアップの未来とあなたにできること
今までお伝えしたように、大学発スタートアップは社会課題の解決に直結する可能性を秘めています。
たとえば環境に優しい素材開発や、医療の進歩、教育格差を埋めるサービスなどがその例です。
大学生のあなたでも、以下のような形で関わることができます。
- 大学の起業サークルやビジネスコンテストに参加する
- 大学発スタートアップでインターンを経験する
- 起業に関するイベントや講演会に足を運ぶ
まずは小さな一歩からでも、大学発スタートアップの世界に触れてみることで、将来のキャリア選択に新しい視点が生まれるでしょう。
