以下の文章を読んで、場面を想像してみてください。
路上で交通事故がありました。大型トラックがある男性とその息子をひきました。父親は即死です。息子は病院に運ばれました。病院の外科医は「この子は私の息子!」と悲鳴を上げました。
皆さんは、この状況を理解できましたか。
多くの人は「あれ、死んだはずの父親は?」と思ったのではないでしょうか。
実はこの病院の外科医は、母親だったのです。それがわかれば矛盾はまったくありません。しかし「医者は男性の仕事」という無意識の思い込みが、状況を正しく読み解くことを邪魔していたのです。
これがジェンダーバイアスです。
この記事では、ジェンダーバイアスの意味・具体例・日本の現状・問題点をわかりやすく解説します。
ジェンダーバイアスとは
ジェンダーバイアスとは、社会的・文化的な意味での性差に対する固定観念や偏見のことです。
「ジェンダー」とは生物学的な性別(セックス)とは区別される、社会的・文化的に形成された性別を指します。ジェンダーバイアスはその「社会的性差」に対する偏った見方であり、文化・教育・メディア・伝統などさまざまな要因によって形成されます。
日常生活の中で無意識のうちに行動や判断に影響を与えるのが特徴で、本人が気づかないまま誰かを傷つけてしまうケースも少なくありません。
ジェンダーバイアスをもっと簡単に理解しよう
冒頭の物語に戻ります。「医者=男性」という思い込みがあれば、物語の矛盾が解けません。しかし「外科医は女性かもしれない」と捉えれば、何の矛盾もなく読めます。
この「医者は男性の仕事だ」という無意識の思い込みが、ジェンダーバイアスです。
私たちの身近には、気づかないうちに潜んでいるジェンダーバイアスが数多く存在します。「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」という固定観念が重視されるせいで、生きづらさを感じている人が大勢いるのです。
ジェンダーバイアスは、その人らしさを否定して個人の可能性を狭め、自由を奪う原因になります。
ジェンダーバイアスの現状と日本のジェンダーギャップ指数
2025年、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146か国中118位(G7内最下位)という結果でした。スコアは0.666で、16年連続1位のアイスランド(0.926)と比較すると大きな差があります。
参照:Global Gender Gap Report 2025 – World Economic Forum
日本の分野別ジェンダーギャップ(2025年)
この調査では経済・政治・教育・健康の4分野ごとにスコアが算出されています。
| 分野 | 日本の特徴 |
|---|---|
| 経済 | 賃金格差・管理職比率の低さが主因で低スコア |
| 政治 | 最も低い(女性議員・閣僚の比率が極端に低い) |
| 教育 | 比較的高い(識字率・就学率は男女ほぼ同等) |
| 健康 | 比較的高い |
日本のジェンダーギャップ解消に向けて、最優先で対処すべき分野は政治です。
政治分野でのジェンダーバイアス
2025年時点で、日本の女性国会議員の割合は約16%、女性閣僚は10%にとどまります。
一方、女性議員割合が世界で最も多いルワンダでは54.7%と過半数を超えており、開発途上国と呼ばれる国が先進国・日本を大きく上回っています。政治分野のジェンダーギャップが大きいことは、日本社会に潜むジェンダーバイアスの根本的な一因といえます。意思決定の場に女性が少ないことで、ジェンダー問題に対応する政策も後手に回りやすくなります。
身近に潜むジェンダーバイアスの具体例
ジェンダーバイアスは日常生活のあらゆる場面に潜んでいます。ここでは代表的な3つのカテゴリ別に解説します。
色・形に表れるジェンダーバイアス
「女の子はピンク、男の子はブルー」という色の刷り込みは、幼少期から始まります。おもちゃ売り場の「女子コーナー」「男子コーナー」の分け方、ランドセルの色の選択傾向などにも、色によるジェンダーバイアスが現れています。
また、「女性向け商品は丸くかわいいデザイン」「男性向けはシャープで機能的」といった形状のステレオタイプも根強く残っており、メーカーが製品開発に際して無意識に固定観念を反映させているケースがあります。
言葉に表れるジェンダーバイアス
言葉には時代の価値観が反映されます。次の3つは、日本で広く使われているにもかかわらずジェンダーバイアスを含む言葉の代表例です。
イクメン
「イクメン」という言葉に違和感を覚えたことはありますか。
女性は育児をするのが当たり前とされているため、男性が育児をするとイクメンと呼ばれ、過度に褒められます。これは「男は仕事、女は家事・育児」という偏見が深く根付いていることの象徴です。
イクメンという言葉が必要なくなるほどに、男女ともに家事も育児も仕事も自分らしくできる社会を目指したいですね。
女子力
2009年の新語・流行語大賞にノミネートされて定着した「女子力」という言葉もジェンダーバイアスの一つです。
女子力が高い人の例として「ハンカチを持ち歩く」「料理やお菓子作りが上手」などがよく挙げられますが、これらは「女性であるから持ち合わせるべき要素」とは言えません。にもかかわらず、女子力という言葉の奥底には、女性であることを理由に「女性らしく」いることへの期待感がこめられています。
「女性らしく」ではなく「自分らしく」いることを大切にしていくことが重要ではないでしょうか。
理系女子(リケ女)
「リケ女」という言葉は、「理系分野を学ぶ女性が少ない」という現実と「理系は男性の領域」という偏見から生まれています。
理系女性を特別視することで、女性の選択に大きな影響を及ぼす可能性があります。偏見や決めつけによって女性の可能性を狭めてしまうことがあってはなりません。
役割分担に表れるジェンダーバイアス
「家事・育児は女性の仕事」「男性は外で稼ぐべき」という役割分担の固定観念は、職場・家庭・地域社会のあらゆる場面に存在します。
育児休業取得率を見ると、女性80%超に対して男性は17%程度(2022年度)にとどまっており、育児は女性が担うものとする社会的圧力が数字に表れています。管理職・役員などリーダーポジションへの女性登用が進まない背景にも、この役割分担バイアスが大きく関わっています。
ジェンダーバイアスが引き起こす問題点
ジェンダーバイアスは個人の価値観にとどまらず、社会全体にさまざまな問題を引き起こします。
雇用格差・賃金格差
OECDの調査(2021年)によると、日本の女性の賃金は男性の8割未満にとどまります。上場企業の女性役員比率も依然低く、採用・昇進の場面で「女性はいずれ辞める」「リーダーは男性が向いている」といった無意識のバイアスが働くことが、雇用格差の大きな要因となっています。
経済分野のジェンダーギャップが縮まらない限り、日本のジェンダーギャップ指数の順位改善も難しい状況です。
人権侵害・暴力
ジェンダーバイアスに基づく差別は、ハラスメント・DV・性暴力といった人権侵害にもつながります。「女性は従順であるべき」「男性は感情を見せるべきでない」といった固定観念は、被害者が声を上げにくくする環境を生み出します。
また、男性がジェンダーバイアスの被害を受けるケースも増えており、「男らしさ」の強制による精神的負荷や、育児・介護に関われない環境も問題視されています。
ジェンダーバイアスを解消するために
個人でできること
まずはジェンダーバイアスに気づくことが重要です。内閣府男女共同参画局は「無意識のバイアスチェックシート(23問)」を公開しており、自身の固定観念を確認できます。
普段自分が何気なく使っている言葉を見直して、無意識のジェンダーバイアスに気を付けて生活していくことも大切です。そうすれば、誰もが自分らしく生きられる社会に近づいていきます。
社会・企業レベルの取り組み
国際的・国内的には、以下のような施策が進んでいます。
- クオータ制:政治・企業の女性比率に数値目標を設ける制度。ノルウェーでは上場企業取締役の女性比率40%以上を義務付けており、ジェンダーバイアス解消の代表的な施策として世界に広まっています。
- UN Women「HeForShe」:男性が主体となりジェンダー平等を推進する国際キャンペーン。男性こそがジェンダーバイアス解消の当事者であることを訴えます。
- 女性活躍推進法(日本):101人以上の企業に女性活躍推進に向けた行動計画の策定・公表を義務付けています。
ジェンダーバイアスの問題に取り組む企業3選
ジェンダーバイアスの問題に取り組む企業を3つ紹介します。
関連記事:
– ジェンダーの問題に取り組む企業10選~ベンチャーから大企業まで~
– フェムテックに取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大企業からベンチャー
– 女性のエンパワーメントに取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大企業からベンチャー
株式会社アウローラ
株式会社アウローラは、女性の世界を変え、女性も男性もフラットな世界の実現を目指している企業です。働く女性を応援する人材事業や仕事と子育ての両立をサポートする保育事業、女子大生向けWebマーケティングスクール「WeRuby」の運営など、多岐にわたるサービスを提供しています。
株式会社fruor
株式会社fruorは、個人向けのオンラインキャリア相談サービス「ミートキャリア」を運営し、女性をメインにキャリアコーチングしています。2020年からは女性管理職育成や離職防止のための支援も開始。「誰もが自分に合った生き方ができる社会」の実現を目指しています。
エンパワテック ソサエティー株式会社
https://empowertec.co.jp/about/
エンパワテック ソサエティー株式会社は、「現代女性が持てる力を発揮し、人生をほほえんで歩んでいくことができる社会の実現」をビジョンに掲げています。働く女性の心身の健康を未然にケアするアプリ「Marbera」や「家事サポート保険」を運営しています。
ジェンダーバイアスと向き合うキャリアとは
ジェンダー問題は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進・政策立案・NPO活動・キャリアコンサルタントなど、多様な職種と直結する社会課題です。特定の業界に限らず、あらゆる企業・組織でジェンダー課題に関われる点が特徴です。
ジェンダー課題に関わるキャリアについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
ジェンダー課題のキャリアとは?D&I推進・政策・NPOなどキャリアの全体像を解説
ジェンダーに取り組む企業への就職・転職を検討している方は、ococキャリアの企業一覧もご活用ください。
よくある質問
Q. ジェンダーバイアスとジェンダーギャップの違いは何ですか?
A. ジェンダーバイアスは「偏見・思い込み」という意識の問題であり、ジェンダーギャップは「男女間の格差」という結果を指します。バイアスがギャップを生み出す原因の一つとなっています。
Q. ジェンダーバイアスが生まれる主な原因は何ですか?
A. 幼少期からの教育・家庭環境・メディアの影響による長年の刷り込みが主な原因です。また、マジョリティ中心の社会構造が固定観念を強化する側面もあります。
Q. 職場でのジェンダーバイアスにはどんな例がありますか?
A. 「女性はお茶くみをすべき」「女性は結婚したら辞める」「リーダーは男性が向いている」といった思い込みが代表例です。採用・昇進・給与設定などの場面でバイアスが働くことがあります。
Q. ジェンダーバイアスをなくすために個人でできることは何ですか?
A. まず自分の無意識のバイアスに気づくことが大切です。内閣府の「無意識のバイアスチェックシート」を活用したり、日常の言葉遣いを見直したりすることから始められます。

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
