日本は海に囲まれ国土の6割以上が森林であり、豊かな自然に恵まれた国です。

しかし、地形が険しく台風や火山活動などの負の側面もあります。

また、都市化に伴う開発により日本の自然を取り巻く環境は大きくかわっています。

そこで近年、持続可能な社会へ向けて自然環境を保全・再生するのみならず、自然環境を我が国が抱える課題解決の手段として積極的に活用していくまちづくりが注目されています。

それが”グリーンインフラ”です。

グリーンインフラとは

国土交通省の定義よると、グリーンインフラとは「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるもの」です。

つまり、環境に配慮しつつ、自然の機能を活かして地域課題に対応する取り組みです。

また、日本は自然災害による被害が顕著です。

そのため、国家や民間企業において自然生態系を活用した防災の考え方が示されています。

参考:グリーンインフラ推進戦略 – 国土交通省


グリーンインフラが生まれた背景

グリーンインフラという言葉は、アメリカで生まれています。

成熟社会を迎えたアメリカでは、経済成長と自然豊かで市民が健康的に生活できる社会の両立が求められました。

また、社会課題や気候変動への対策も影響しています。

そこで社会資本整備手法の一つとして2007年にグリーンインフラの推進に関する協定が交わされました。

グリーンインフラの推進によって次の3つが求められています。

「国土の適切な管理」、「安全で持続可能な国土づくり」、「社会課題に対応した地域社会の形成」です。

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グリーンインフラに対する世界と日本の取り組み

グリーンインフラがどのように取り組まれているのかを見ていきましょう。

 海外の事例

海外の例を2つ紹介します。

1つ目はニューヨークです。

ニューヨークでは排水に使われていた下水道に代わるものとして、土壌や植生が用いられています。

これはコンクリートに覆われて吸収されなかった雨水などが行き場を失わないようにしたものです。

ビルの屋上を芝生で緑にする屋上緑化がそれにあたります。

これらの取り組みは都市に自然をもたらすとともに、エネルギーの節約や生物の生息地の確保、下水道整備に伴うコストの削減に貢献しています。

2つ目はシンガポールです。

シンガポールはグリーンインフラ先進国として有名で、特に水分野での取り組みが充実しています。

シンガポールは水資源が乏しく、水道水の約4割を隣国のマレーシアから輸入していました。

この状況を打開するべくガイドラインがつくられました。

国内の一定面積以上の敷地の開発におけるグリーンインフラの適用が義務付けられています。

その結果、芝生の養生や雨水をためる貯水施設が多く見られます。

日本の事例

日本の例を2つ紹介します。

1つ目は、栃木県那須市にある”那須ちふりメガソーラー”と呼ばれるものです。

那須の広大な土地を利用した太陽光発電施設で敷地内の除草に羊を利用します。

羊を放すことで雑草を食べさせるのです。

これは今までの草刈りの労力を削減できるとともに、CO2削減や自然共生、廃棄物削減にも貢献しています。

2つ目は、東京湾や大阪湾における”生物共生型港湾構造物”です。

これは防波堤の機能を有しながら、藻場等の生息場の機能をあわせもつものです。

多くの種類の生き物が集まるので、地域の子どもたちに向けて海洋レクリエーションが行われています。

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グリーンインフラの問題点

グリーンインフラは比較的新しい取り組みです。

そのため、問題は国や地域によってさまざまです。

今回はアメリカ・ポートランドにおける問題を紹介します。

1つ目は市民とグリーンインフラのかかわりです。

グリーンインフラをいつどこで導入することが市民の生活にメリットがあるのかを考えるのが難しく、予測で導入することが多いようです。

2つ目は機能が期待どおり十分に働くかわからないことです。

多くの予算を導入して作ったものが実際に利用されなければ意味がありません。政府や企業も導入には慎重になっているようです。

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グリーンインフラに対する今後の取り組み

グリーンインフラや生態系を基盤とするアプローチは、今後も防災・減災といった気候変動への適応に貢献します。

また地域社会における多様な社会・経済・文化の互恵関係の創出、生物多様性の保全と持続可能な社会への貢献など様々な効果が期待されています。

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まとめ

グリーンインフラは屋上緑化や動物の利用など比較的取り組みやすいものも含まれます。

しかし、細々した取り組みが多いため短期間で多くのメリットが生まれるわけではありません。

長期的に多くの場所でグリーンインフラが浸透すれば、それは大きなエネルギーとして社会課題やSDGsに貢献するでしょう。

自然と調和した生活空間づくりが大切です。

ライタープロフィール

小寺 一綺(こでら かずき)
中央大学 理工学部都市環境学科2年
途上国、都市開発、水不足、教育に興味あり
Twitter:こでらーき