「社会課題をビジネスで解決する」
その言葉の響きは美しいですが、現実は泥臭く、時に孤独で、そして継続的な収益力という裏付けを必要とする世界です。
今回は、株式会社キャリア・ウィーバーの代表取締役、安藤龍之介さんにインタビューしました。
安藤さんは、株式会社LIFULLでの経験を経て、地元・大分で独立。現在は26歳という若さで、地方特化型の人材総合サービスのCEOとして、地方の採用市場が抱える構造的な欠陥に挑んでいます。
本記事では、工業高校時代の就職活動で感じた「一人一社しか応募できない」という地方特有の慣習への憤りから、フリーランス時代の孤独な闘い。
そして、「個人のプライドよりも社会課題解決のスピード」を優先し、組織のトップとして生きる決断をした背景までを深く掘り下げます。
目次
地方企業の魅力を「ショート動画」で可視化する
ーーーまずは現在、安藤さんが代表を務める株式会社キャリア・ウィーバーの事業内容と、どのような社会課題に向き合っているのかを教えてください。
大分県を拠点に、地方企業の採用支援を行う「キャリア・ウィーバー」のCEOを務めています。
具体的には
・人材紹介
・採用コンサルティング
・SNSを活用した採用特化型ショート動画制作
の3つの柱で事業を展開しています。
向き合っている課題を一言で言えば、「地方の採用・転職に関する情報格差と、それに伴う機会損失」です。
地方、特に大分のような地域では、いまだにハローワークが採用・転職の主役です。
大分県はハローワークの利用率が全国トップ5に入るほど高いのですが、求人票1枚という極端に少ない情報量では、企業と求職者のミスマッチが避けられません。
HP:株式会社キャリア・ウィーバー
YouTube:大分の人事部チャンネル
ーーーそのミスマッチを、なぜ「ショート動画」という手法で解決しようとしたのでしょうか?
地方には魅力的な企業がたくさんありますが、その魅力が言語化・可視化されていないんです。
ハローワークの紙1枚では、職場の雰囲気や、社長がどんな思いで働いているかまでは伝わりません。
そこで、私たちが企業の中に入り込み、社員さんの働く姿や社長の生の声をショート動画として切り出し、SNSで発信します。
そうすることで、「働く人の顔」が見える透明性の高い採用ブランディングが可能になります。
結果として、求職者が「ここなら自分らしく働けそう」と確信を持って応募できる環境を作っているんです。
「情報搾取」から地方企業を守るために
ーーー地方創生という文脈では、どのような難しさがあると感じていますか?
企業目線で言うと、「都市部モデルのサービスがそのまま地方に持ち込まれている」という構造的な問題があります。
東京や福岡の企業が都市部の価格体系のまま地方企業にサービスを提供するケースも多く、地方企業にとっては負担が大きくなりがちです。
例えば人材紹介では、年収の30〜35%の手数料が一般的ですが、地方の経済圏から見ると決して軽い金額ではありません。
これでは、地方企業が疲弊していくばかりです。
だからこそ、私たちは「地方の経済規模に合った価格設計」にこだわり、一律料金や上限設定を設けることで、地元の優良企業が適正なコストで良い人材を採用できる仕組みを整えています。
原体験は、工業高校時代の「一人一社」ルールへの憤り
ーーー安藤さんがそこまで地方のキャリア教育や採用の在り方にこだわるのは、何か原体験があるのでしょうか。
最大の原体験は、私自身の工業高校時代の就職活動にあります。地方の工業高校には、「生徒は一人につき一社しか応募できない」という、今考えれば信じられないような暗黙のルールがありました。
学校内の成績順で希望する企業の推薦枠が決まり、一度決まったら他は受けられない。
センター試験のように一斉に試験を受けるのですが、もしそこで落ちたら、残っている二次募集の企業から選ぶしかないんです。
自分の人生を左右する進路を、1社だけで、たった数ヶ月で決めなければならない。
この不自由な仕組みに対して、「何かがおかしい」という強い憤りを感じたのが始まりです。
ーーーその後、立命館アジア太平洋大学(APU)に進学されてからも、その違和感は続いたのでしょうか。
はい。大学に行けば解決するかと思いましたが、現実は違いました。
誰もが知る有名企業を狙えるような優秀な大学生でさえ、ブランド志向や惰性で会社を選び、入社後に「思っていたのと違う」とすぐに辞めてしまう。
高校生は情報がなさすぎて選べない。大学生は選択肢は増えたけれど選び方がわからない。
つまり、「日本のキャリア教育そのものが機能していない」という、より深い闇に気づいたんです。
地方出身で、高校・大学両方の就活の歪みを経験した私だからこそ、この構造的な問題を「自分ごと」として解決したいと思いました。
「社会課題を解決しながら収益を上げる」難しさ
ーーー新卒で入社した「株式会社LIFULL」での経験は、現在の活動にどう活きていますか?
LIFULLを選んだのは、社是である「利他主義」に強く共感したからです。
学生時代のキャリア教育活動を通じて「社会貢献だけで稼ぐ難しさ」を痛感していた私は、収益基盤を持ちながら社会課題に挑む企業の構造を学びたいと考えていました。
実際の仕事は、泥臭い営業の連続でした。既存顧客の不動産会社300社を担当し、1日数十社へ電話をかける日々。
そこで学んだのは、「高い利益率がなければ、回収に時間がかかる社会課題への投資は継続できない」という厳しい現実です。
ーーー「良いこと」をしているだけでは、社会は変わらないということですね。
その通りです。
収益の柱があるからこそ、次なる社会課題に挑める。
それを肌身で感じられたのは、私にとって大きな財産になりました。
ただ、社会課題をビジネスとして成立させる時間軸の長さと難しさも同時に痛感し、自分ならもっとスピード感を持って地方の課題に直接介入できるのではないか、と考えるようになりました。
個人のプライドよりも社会課題解決のスピード
ーーーその後、2024年に退職し、地元・大分でフリーランスとして独立されましたね。
はい。あえて先に退職して自分を追い込むことで最大馬力を出すという、自分の性格を理解した上での決断でした。
独立して良かったのは、「時給」ではなく「生み出した価値」でお金をもらうという感覚を徹底的に叩き込まれたことです。
今日自分が誰に貢献したのか。それを意識しない日は一日もありませんでした。
ただ、Uターン先での独りでの活動は、想像以上に孤独でした。
周りからの心配の声に「大丈夫」と答えながらも、相談相手もいない中で精神的にきつい時期もありました。
ーーーそこから、なぜ現在の「キャリア・ウィーバー」に入社し、社長になるという道を選んだのでしょうか。
フリーランスとして活動する中で、20代半ばで肩書きがないがゆえに、地方企業の経営者に話すら聞いてもらえない「営業負け」の事態に直面したからです。
そんな時、お世話になっていた当時のキャリア・ウィーバー代表から「常務執行役員」という名刺の武器をもらいました。
すると、面白いように営業成績が上がったんです。
その時、決断を迫られました。
独りでやり抜くという「個人のプライド」を貫くか、それとも組織という「箱(免許や実績、肩書き)」を活用して、自分が成し遂げたい「地方の採用力向上」という課題を最速で解決するか。
ーーー安藤さんは、スピードを選んだのですね。
そうです。私のプライドなんて、社会課題の解決に比べればちっぽけなものです。
入社後半年間でショート動画事業を軌道に乗せ、会社の主軸となるサービスへと確立しました。
その実績を認められ、前代表から「安藤が代表になった方が会社は伸びる」と打診を受け、快諾しました。
泥臭い寄り添いが、地方企業の文化を変える
ーーー安藤さんが仕事をする上で、営業において大切にしていることは何ですか。
「顧客の懐に泥臭く入り込み、寄り添う力」です。
これは不動産営業時代に培ったスキルですが、地方の経営者には、特に正論よりも「愛嬌」や「誠実な寄り添い」が重要です。
外からやってきた人間が「お宅の採用はここがダメです」と言っても、誰も耳を貸しません。
まず現場に潜り込み、社員さんと対話し、社長と一緒に悩む。
その過程で信頼を得て初めて、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の形成といった、企業の根幹に関わる提案ができるようになります。
単に人を一人紹介して終わりではなく、企業の文化そのものを変えていく。
それが私の信念です。
ーーー現在のキャリアに対する、満足度と達成度を教えてください。
達成度は100%です。
東京で修行し、地元に戻って社長になるという計画を完璧に遂行できているからです。
でも、満足度はまだ50%程度ですね。
人材紹介だけで解決しない課題が山積していますし、地方の人材不足という大きなフィールドで、私たちが動きやすい環境を作るための戦いはまだ始まったばかりです。
地方特化型人材サービスの全国展開
ーーー安藤さんが描く、これからのビジョンについて聞かせてください。
短期的には、2027年までに「大分県で最も影響力のある総合人材会社」になります。
転職に悩んだら、ハローワークではなく「キャリア・ウィーバー」にまず相談するという状態を作りたいです。
そして、大分での成功モデルを武器に、2027年中に宮崎県へ支社を出し、将来的には各県に特化した「まるまる県特化型人材総合サービス」を全国展開したいと考えています。
各地域で生まれ育った人が、地元の企業を支える。そんな「地域密着型のキャリア支援」をインフラにすることが目標です。
最終的には、本質的な「キャリア教育」の領域にも踏み込んでいきたいです。
生まれた環境によって選択肢が制限されることなく、キャリアについて真剣に考え、自分の人生を生き生きと歩める人を増やす。
それが、私がこの道を志した原点でもあり、これから実現していきたい未来です。
パイオニアになることにワクワクしてほしい
ーーー最後に社会課題の道を志す学生へメッセージをお願いします。
私から伝えたいのは、「パイオニアになること」にワクワクしてほしいということです。
地方出身だから、工業高校だから、前例がないから。そうやって、自分の選択肢を狭めてしまう理由はいくらでも見つかります。
でも、前例がないということは、あなたがその道の第一人者になれるチャンスだということです。
私自身、工業高校からAPUへ進学し、東京のベンチャーを経て大分で社長になるという、周りから見れば「ありえない」選択肢の連続でした。
でも、一歩ずつそれを正解にしていく過程こそが、何よりも面白いんです。
社会課題を解決する道は、決して楽ではありません。
でも、誰もやっていないことに挑戦し、自分の手で新しい価値を創り出すパイオニア精神を持てば、どんな壁も楽しみながら乗り越えられるはずです。
皆さんの挑戦を、心から応援しています。

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
