米系投資銀行でエグゼクティブ・ダイレクターとして活躍する一方、社会課題の解決に挑む若者たちを支えるメンターとしての顔も持つ堀川由則さん。

なぜ、資本市場の第一線でキャリアを築いてきた堀川さんが、若い世代の挑戦に寄り添うようになったのでしょうか。

今回は、働く中でで抱いた問題意識や、グロービス経営大学院での学びをきっかけに始めたプロボノ活動、そこで直面した葛藤について、詳しくお話を伺いました。

「志はソーシャル、仕組みはビジネス」という考えを大切にする堀川さんの歩みから、自分らしいキャリアと社会との関わり方を見つけるヒントを探ります。

プロフィール
堀川由則

日系証券・欧州系証券を経て、2004年からJPモルガン証券に勤務。
国内外グローバル機関投資家への日本株式リサーチ営業、日本株式営業部長、コーポレートアクセス部長を経て、2019年に投資銀行部インベスターリレーションズグループ長に就任。
日本の上場企業に対し、資本市場対話・株主戦略・エンゲージメント対応など、経営戦略に則した対話戦略を担当。

 

「ビジネスの仕組み」で社会課題を解決する

ーーー現在はどのような活動に取り組まれているのでしょうか。

本業では米系投資銀行に勤務しながら、プロボノとして、社会課題の解決に挑む高校生や大学生などの若い世代を支援しています。

これまでに、沖縄で毎年開催されている「ミチシルベ」というイベントや、若者の社会起業を支援する団体の活動などに、メンターとして参加してきました。

社会課題への想いを持続可能な取り組みにつなげられるよう、これまでの実務経験を生かして伴走しています。

ーーーなぜ、若い世代を支援するというアプローチを選んだのでしょうか。

私が大切にしているテーマの一つに、「社会性のある経営者育成の一助となること」があります。

ただし、起業すること自体がゴールだとは考えていません。

社会課題に対して自ら問いを立て、解決策を考え、実際に行動してみる。そのプロセスそのものに、大きな価値があると思っています。

試行錯誤の中で得られる気づきや、壁にぶつかりながら前に進む経験は、その後の人生やキャリアにもつながります。

若いうちにこうした経験を重ねることが、将来、社会の持続可能性を意識して意思決定できる経営者やリーダーが育つきっかけになるのではないでしょうか。

仮に挑戦が思いどおりの結果につながらなかったとしても、そこで得た経験が無駄になることはありません。

だからこそ、若者たちが早い段階から社会課題に触れ、自ら解決策を考えられる機会や環境を、日本全体に増やしていくことが重要だと考えています。

ーーー活動を通じて、若者たちの姿勢からどのようなことを感じていますか。

高校生や大学生の挑戦を間近で見ていると、そのまっすぐな動機に驚かされます。

少なくとも私が出会った若者たちは、単に利益を得ることを目的として起業を考えているわけではありません。

自分たちが暮らす地域や、身近にいる人が抱えている課題に対して、心から向き合っています。

こうした純粋な想いは、大人の目から見ても非常に力強く、未来への希望を感じさせてくれます。

若者たちが持つ問題意識や熱意を受け止め、実際の挑戦へとつなげられる環境を整えることが、私たち大人の役割ではないでしょうか。


海外機関投資家との対話で痛感した、企業の存在価値に対する期待値の差

ーーー社会課題解決の領域に関心を持ったきっかけを教えてください。

本職では、米系投資銀行でエグゼクティブ・ダイレクターを務め、主に企業の資本市場との対話、Investor Relations活動や株主戦略などに関する支援に携わっています。

海外投資家との対話を重ねる中で、日本企業が投資先として十分な関心や評価を得られていない場面を何度も目の当たりにしてきました。

日本には、何百年も事業を続けてきた長寿企業や、社会との信頼関係を大切にする経営文化があります。

しかし、そうした企業の価値観や経営者の想いが、海外投資家の評価軸とうまく噛み合わず、十分に伝わっていないと感じていました。

日本企業が本来持っている価値と、資本市場が求める価値との間にあるギャップを実感したことが、問題意識の原点です。

ーーーそのギャップに向き合う中で、どのような問いを持つようになったのでしょうか。

日本企業の魅力をどのように投資家へ伝えるべきかを考えるうちに、「企業は何のために存在するのか」という問いに行き着きました。

その一つが、「適正な利潤・利益とは何か」という問いです。

商品やサービスの価格設定において、利益を過度に追求すれば、消費者に大きな負担を与えてしまいます。

反対に、十分な利益を確保できなければ、従業員に適切な報酬を支払えず、企業そのものを持続させることもできません。

持続可能な経営を行うためには、経営者が明確な意思を持ち、社会的なバランスを見極める「ソーシャル」な視点が必要です。

現在の資本市場では、株主への短期的なリターンが強く求められる場面が多くあります。

そうした中でも、日本企業が培ってきた長期的な視点や、社会との信頼関係を大切にしながら、持続的に価値を創造する経営経営が今まさに求められるのではないかと思います。

そこから、社会性と経済性を両立する経営について、体系的に学びたいと考えるようになりました。

学び直しとプロボノで見つけた、自分なりの関わり方

ーーーそこから、どのような行動を起こしたのでしょうか。

実務で得た知識や経験を体系的に整理するため、コロナ禍にグロービス経営大学院へ入学しました。

大学院では、ソーシャルビジネスや起業に関する科目を中心に学びました。

その中で、教授から「頭の中で考えるだけではなく、まずは実際に行動することが重要だ」と教えられたことが強く心に残りました。

そこで、学んだことを現場で試すため、ソーシャルベンチャーを支援する活動にプロボノとして参加しました。

ーーープロボノに関わる中で、どのような葛藤や転機があったのでしょうか。

実際に参加してみると、自分がやりたいことと、当時関わることのできたプロジェクトとの間に違いがあることに気づきました。

私は、社会課題への想いを、持続可能なビジネスモデルに落とし込む支援をしたいと考えていました。

一方で、当時関わることのできたプロジェクトでは、非営利組織に対する組織運営の支援が中心で、私が関心を持っていた事業モデルの構築に深く関わる機会は限られていました。

もちろん、そうした支援にも大きな社会的意義があります。ただ、自分に合うのはビジネスの仕組みとして取り組んでいる組織と感じました。

その結果、プロジェクトには参加しないという判断をしました。

一見すると失敗のように見える経験ですが、私にとっては、自分の軸を理解する大きな転機になりました。

実際に行動したからこそ、自分が本当に関わりたいのは、「志はソーシャル、仕組みはビジネス」という考え方を持つ人や組織の支援なのだと、明確に自覚できたのです。


「ギブ」ではなく「学び」を得る、メンターとしての哲学

ーーー現在のメンター活動では、どのような役割を担っているのでしょうか。

私の役割は、若者たちの相談相手として、アイデアを整理したり、ビジネスとして成立させるための視点を伝えたりすることです。

これまで投資銀行で培ってきた、ビジネスの仕組みづくりや実務的な視点を生かしながら、彼らの考えを深めるための壁打ち相手になることを心がけています。

ただし、主体はあくまで彼ら自身です。

こちらが答えを与えるのではなく、本人たちの想いや意思を尊重しながら、自分たちで答えを見つけられるように寄り添うことを大切にしています。

ーーープロボノを続ける中で、負担や疲れを感じることはありませんか。

私自身は、今のところ大きな負担や疲れを感じていません。

それは、私自身がこの活動を「支援」や「ギブ」という一方的な義務として捉えていないからです。

むしろ、若い世代の自由な発想や行動力に触れることで、私のほうが多くのことを学ばせてもらっています。

仕事だけでは出会えない価値観に触れられることは、自分にとっても大きな刺激です。

自分も学びたいと思って取り組んでいるからこそ、無理なく前向きに関わることができています。

「まず飛び込む」ことで、自分にフィットする道が見つかる

ーーー今後、新しく取り組んでみたいことや将来の展望について教えてください。

今後は、学生を対象とした探究学習プログラムなどに、より深く関わっていきたいと考えています。

一方で、今後のキャリアや定年後の働き方について、具体的な計画を決めているわけではありません。

将来を厳密に設計するよりも、自分の健康を大切にしながら、その時々に生まれるご縁と向き合っていきたいと思っています。

健康である限り、目の前にある機会を大切にし、今の自分にできることを一つずつ積み重ねていきたいです。

ーーー最後に、社会課題の解決に関わりたいと考えている学生へ、メッセージをお願いします。

社会課題に関心があるなら、深く考えすぎる前に、まずは実際の現場へ飛び込んでみてください。

本を読んだり、頭の中で考えたりすることも大切です。しかし、自分にどのような活動が合っているのかは、実際に経験してみなければ分かりません。

ソーシャルベンチャーの活動に参加する、地域を訪れて現地の課題に触れるなど、最初は小さな行動で構いません。

現場に足を運ぶことで、その領域が自分の価値観や強みに合っているのか、どのような課題や葛藤があるのかを自分自身で確かめられます。 

そのプロセスを重ねる中で、自分の志と重なる活動やテーマに巡り会ったなら、その時こそ自らの大切な時間や力をそこに集中させてほしいと思います。

最初の一歩を踏み出すのには、少しの勇気が必要かもしれません。

しかし、その小さなアクションが、みなさんだけの「自分らしいキャリア」を切り拓くための、大きな可能性に満ちたスタートラインになるはずです。

心から、みなさんの挑戦を応援しています。

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