「文字だけを目で追って読んでしまう」経験はないでしょうか。
読まなければならない書類、関心を持てないニュース記事——文字は追えているのに、内容が頭に入ってこない状態を「機能的非識字」と呼びます。
SNSや動画が情報の中心となった現代において、長い文章を読んで理解する機会は減少しています。
この記事では、機能的非識字の定義・日本の現状・引き起こす問題・改善策をわかりやすく解説します。
機能的非識字とは?
機能的非識字とは、文字そのものは読めても、文章の意味や内容を十分に理解できない状態のことです。
「非識字」や「ディスレクシア」と混同されることがありますが、それぞれ異なる概念です。
機能的非識字の定義
機能的非識字とは、文字自体を読むことはできても、文章の意味や内容を理解できない状態を指します。
例えば、SNSに書かれている短い文章は理解できても、新聞の記事や契約書の内容は理解できない状態がこれにあたります。
かつては「文盲」と表現されることもありましたが、現在は差別的な表現として使われていません。
非識字との違い
非識字とは、簡単な文章の読み書きや計算ができない状態を指します。
文字そのものを読むことができないという点で、機能的非識字とは異なります。
ディスレクシアとの違い
ディスレクシアとは、文字の読み書きに限定した困難さを持つ疾患です。
文章理解ができない原因が脳機能の発達にある点で、機能的非識字とは異なります。
ディスレクシアは発達障害の中の学習障害に位置づけられており、支援・配慮が必要な状態です。
機能的非識字の現状
機能的非識字は、日本だけでなく先進国を含む多くの国で広く見られます。
情報技術の発達により、文章を読まなくても生活できる環境が整ってきたことが、問題の背景にあります。
機能的非識字者は、どのくらい存在するのか?
全米教育統計センター(NCES)によると、アメリカ国籍の成人の約21%が機能的非識字者とされています。
イギリスでは成人の約17%(6人に1人)が該当するとの調査もあります。
韓国では10人に2人が機能的非識字者にあたるとの調査結果が出ており、日本でも同様の問題が報告されています。
機能的非識字による損失
機能的非識字によって、社会での自立や就労が難しくなり、経済的な損失が生じます。
2015年の調査によると、アメリカでは年間4,000億円以上、韓国でも300億円以上の損失になると言われています。
社会で求められる識字能力が高度な国ほど、損失が大きくなる傾向があります。
機能的非識字に陥る背景
文章の内容が理解できなくても、必要な情報が得られる環境が整ってきたことが一因です。
電化製品の説明書はアイコンや漫画で説明されるようになり、iPhoneのように感覚で操作できる製品も増えています。
また、SNSや動画プラットフォームの普及により、短文・画像・動画で情報を得る機会が増え、長文を読んで理解するトレーニングを積む機会が相対的に減っています。
一方で、デジタル機器にアクセスできない人々が情報から取り残されるデジタルデバイドも、機能的非識字と複合して格差を広げる要因として指摘されています。
WIREDは「Facebookは読めても、現実は理解できない人が増えている」と問題を提起しており、デジタル社会における機能的非識字の広がりに警鐘を鳴らしています。
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日本の機能的非識字
日本の識字率はほぼ100%とされています。
しかし、「文字が読める」ことと「文章を理解できる」ことは別の問題です。
日本の状況
2017年の全国学力・学習状況調査によって、中学3年生の約15%が、主語がわからないなど文章理解の第一段階もできていなかったことが判明しました。
そのほとんどが、日本語をネイティブとする子どもです。
また、機能的非識字による日本の経済的損失は年間950億円以上で、世界3位と言われています。
参考:平成29年度 全国学力・学習状況調査 報告書(文部科学省)
学校での現状
機能的非識字にあたる生徒は、授業を受けることにも支障が出ています。
ある公立中学校の教師によると、授業中に生徒に音読をさせると、漢字をほとんど読み飛ばす生徒や、文字は書けても文章を作れない生徒がいるといいます。
そして、そのような生徒は少数ではありません。
日々の生活に支障がなくても、少し踏み込んだ内容になると途端に理解が難しくなるケースがあります。
機能的非識字が引き起こす問題
機能的非識字は、個人の生活や社会参加に様々な影響を与えます。
自覚しにくい問題だからこそ、具体的にどのような場面で影響が出るかを理解しておくことが大切です。
日常生活の危険に気づくことができない
避難情報や安全に関する注意事項を、適切に理解できない場合があります。
公的機関が発信する情報は複雑な文章で書かれることが多く、機能的非識字の状態では内容を把握しにくいです。
緊急時に必要な情報を正確に受け取れないことは、身の安全にも関わります。
社会や政治への参加が困難になる
新聞やニュースに書かれている内容が理解できなければ、社会の流れを把握することが難しくなります。
例えば、選挙で候補者や政策を比較・判断するためには、複雑な文章を読み解く力が必要です。
情報を正確に受け取れない状態は、民主主義への参加を阻む要因にもなります。
また、機能的非識字は経済的な困窮とも密接に関係しています。
就労や自立が難しくなることで貧困につながるリスクが高く、貧困家庭で育つ子どもが文章に触れる機会を得にくい環境に置かれることで、次世代へと連鎖する構造も指摘されています。
思考が浅くなる
複雑な内容や抽象的な情報を理解する機会が減ることで、思考の幅が狭まりやすくなります。
自分の経験や直感だけで物事を判断するようになり、短絡的な考えに陥りやすくなります。
WIREDが指摘するように、「読める」のに「考えられない」状態は、批判的思考力の低下につながります。
機能的非識字を改善するには?
機能的非識字は、意識的な取り組みによって改善できます。
子どもの段階での対策と、大人になってからの対策に分けて紹介します。
幼いころから、文章に触れる
小さな頃から文章を読んで理解する経験を積むことが最も効果的です。
親が幼い頃から絵本の読み聞かせをすることで、文章を理解することに自然と慣れていきます。
文章を読む楽しさを早い段階で体験しておくことが、その後の読解力の土台になります。
文章を読んで、まとめる
本や新聞をじっくり読んで、自分なりの意見や要点をまとめるトレーニングをすることが有効です。
大人になってからでも、毎日少しずつ「読んだ内容を自分の言葉で説明する」習慣をつけることで、文章理解力を徐々に高められます。
多様なジャンルの文章に触れる
SNSの短文だけでなく、ニュース記事・エッセイ・実用書など多様なジャンルの文章を意識的に読むことが大切です。
さまざまな文体や語彙に慣れることで、初見の文章への対応力が上がります。
社会問題をテーマにした本は、難しいテーマを平易な言葉で説明しているものが多く、文章理解力のトレーニングとしても適しています。
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よくある質問
Q. 機能的非識字とはどういう意味ですか?
A. 機能的非識字とは、文字そのものは読めても、文章の意味や内容を十分に理解できない状態のことです。SNSの短文は理解できても新聞や契約書の内容はわからない、というケースが典型例です。「読めない」非識字や、読み書きに特有の困難があるディスレクシアとは区別される概念です。
Q. 日本での機能的非識字の状況はどうですか?
A. 2017年の全国学力・学習状況調査によると、中学3年生の約15%が文章理解の第一段階に困難を抱えていることが判明しています。識字率はほぼ100%の日本でも、文章を読んで意味を理解する力には大きな個人差があります。経済的損失は年間950億円以上で、世界3位とも言われています。
Q. 機能的非識字はなぜ起きるのですか?
A. 文章を読まなくても生活できる環境が整ってきたことが主な背景の一つです。製品説明のアイコン化、SNSや動画中心の情報環境により、長文を読んで理解するトレーニングを積む機会が減っています。また、幼少期に文章に触れる機会が少なかったことも一因とされています。
Q. 機能的非識字を改善する方法はありますか?
A. 幼少期からの絵本の読み聞かせや、読書習慣の形成が最も効果的です。大人になってからも、本やニュース記事を読んで自分の言葉でまとめる練習を継続することで改善が見込めます。SNSだけでなく、新聞・書籍など多様なジャンルの文章に意識的に触れることも有効です。

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
