ソーシャルメディア分析ツールを提供するMeltwaterは、日本を含む世界15か国のLGBT関連法の現状を比較しインフォグラフィックに分かりやすくまとめ、「世界各国のLGBT関連法の現状比較!LGBTの受け入れが最も進んでいる国は?」を公開しました。
この記事では、Meltwaterがまとめた調査結果などを紹介します。
近年、世界的に性の多様性が進展し、LGBTなどの性的マイノリティへの差別撤廃が求められています。
日本でも性の多様化に関する取り組みが進行中で、2023年6月23日にはLGBTへの理解と平等な権利の促進を目的とした「LGBT理解増進法案」が施行されました。
しかし、同性婚を認める法制度や差別を禁止する法律が日本には未だ整備されておらず、他国に比べて遅れている実態があります。
目次
LGBTとは?
LGBTとは、性的指向および性的自認の多様性を表す言葉です。レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシャル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の頭文字で構成されています。
性的指向 |
レズビアン |
女性同性愛者 |
ゲイ |
男性同性愛者 |
|
バイセクシャル |
両性愛者 |
|
性的自認 |
トランスジェンダー |
身体の性と心の性が異なる人 |
性的指向は、どの性別の人に対して恋愛的な魅力を感じるかを表す概念であり、男性が女性に、または女性が男性に対して抱く恋愛的な感情とは異なる性的指向を指します。
性的自認は、自分自身の性別アイデンティティをどのように認識しているかを表すもので、身体的な性別と心の性別が一致していない人を指す言葉です。
日本におけるLGBTの現状
2023年11月現在、日本国憲法には、「性表現」「性的特徴」「性的指向」「性自認」に関連する差別禁止の規定が含まれていません。
また、LGBTに対する差別を禁止する法律や同性婚を認める法律も存在していません。
近年、地方自治体や企業の取り組みでは同姓パートナーを認める動きも出てきています。それでもなお、LGBTに関する認識が他の国々に比べて低く、法的な整備が遅れているという課題が存在します。
自治体が行なうLGBTの取組み
ここでは、国内の自治体が行なうLGBTの取組みについて一部紹介します。
埼玉県:企業のLGBTに関する取組の支援
埼玉県では、LGBTQの方にとって働きやすい職場環境づくりを促進するため、企業向けにLGBTQに関する研修動画の配信、企業情報交換会の開催、サポート・相談窓口の設置などの支援を行なっています。
従業員や顧客の中にもLGBTQの方が存在する可能性はあります。職場内でLGBTに対する理解や取り組みが不足していると、ハラスメントに発展したり、信頼を失ったり、人材の流出をしてしまったりなどの問題が発生する可能性があります。
宮崎市:性自認や性的指向による差別や偏見の解消のための広報活動(ALLY活動)
宮崎市では、性的指向や性的自認に基づく差別や偏見を撤廃するため、広報と啓発活動に力を入れています。LGBTに関する基本的な知識を身につけ、性的少数者の尊重を心掛けると同時に、虹色の旗を掲げたり、缶バッジを身につけたりなど、”ALLY”(アライ)であることをアピールする取り組みに注力しています。
”ALLY”(アライ)は、英語の”ally”(同盟者や支援者を指す言葉)に由来します。性的少数者を理解し、支援する考え方、その姿勢を持つ人々を指します。
日本とLGBT先進国の現状を6つの要素で比較
Meltwaterは、国際レズビアン・ゲイ協会の調査に基づき、日本を含む15カ国でLGBTの受け入れがどの程度進んでいるかをまとめました。
下記のインフォグラフィックは、日本を含む各国のLGBTへの法整備の充実度を表しています。
参照元:Meltwater
ILGA Worldが開発したツールを用いて、SOGIESCに関連する世界中のコンテンツを収集⇒翻訳⇒分類⇒ラベル付けしました。
SOGIESC(ソジエスク)とは、性的指向(Sexual Orientation)、性自認(Gender Identity)、性表現(Gender Expression)、性的特徴( Sex Characteristics)を組み合わせた用語です。
ILGA Worldが開発したツールは、メディア、市民団体、国家人権機関(NHRIs)、学術機関、批判的な組織や団体、法的データベース、政府のウェブサイトなど、毎日20,000以上のソースを追跡しています。
本調査は、各国においてLGBT保護の観点で6つの重要領域を4つのカテゴリーに分類し、0〜4点のスコアで評価。これらの領域に関する法的な保護が充実しているほど、国のLGBTへの取り組みが進んでいることを示し、最高得点はスペインを含む三カ国の20点です。
しかしながら、LGBTの受け入れが進んでいると言われる国でさえ、憲法レベルでの権利の保証がなく、法的な保護も限定的であることも分かります。
LGBT保護における6つの重要領域と4つのカテゴリー
国際レズビアン・ゲイ協会の調査は、LGBTの保護に関して各国の状況を6つの重要領域に分けて比較しています。ここでは、6つの重要領域と4つのカテゴリーについて紹介します。
6つの重要領域
重要領域 |
意味 |
憲法的保護 |
憲法において、LGBTへの差別を禁止する条文や保護規定があるか |
商品・サービス |
LGBTに対する商品・サービス提供の差別を禁止する法律や規制があるか |
健康 |
LGBTに対する医療・健康サービス提供の差別を禁止する法律や規制があるか |
教育 |
LGBTへの教育における差別を禁止する法律や規制があるか |
雇用 |
LGBTへの教育における差別を禁止する法律や規制があるか |
住居 |
LGBTへの住居における差別を禁止する法律や規制があるか |
4つのカテゴリー
カテゴリー |
意味 |
Sexual Orientation (性的趣向) |
自分がどのような性別の人に、性的魅力を感じ、興味や愛情を抱くか |
Gender Identity (性同一性) |
自分がどのような性別に所属し、自分自身をどう捉え、感じるか |
Gender Expression (ジェンダー表現) |
自分を外部にどのように表現するか(服装、髪型、化粧、言語、行動など) |
Sex Characteristics (生物学的性的特徴) |
自分の身体的な性別の特徴や生殖器の構造など |
ILGAのガイドラインに従い、各国が上記の4つのカテゴリー内で法的に明文化しているカテゴリーの数を評価し、それをレーダーチャート上に表示します。
【スコアについて】
0:どの要素も法的に明文化されていない
1:1つの要素が法的に明文化されている
2:2つの要素が法的に明文化されている
3:3つの要素が法的に明文化されている
4:4つの要素がすべて法的に明文化されている
例えば、「教育」の領域において、日本は「SO(性的趣向)」と「GI(性同一性)」のカテゴリーで、一部法的な保護があるが、全面的に保証されていないとされています。
レーダーチャートの中央の数字は、各国の総合スコアを示しています。
日本とLGBT先進国の実態
以下では、日本を含む世界15カ国において6つの重要領域のトータルスコアが高い順を一覧に示します。
順位 |
国 |
トータルスコア |
1 |
スペイン、デンマーク、オランダ |
20 |
4 |
フィンランド |
18 |
5 |
スウェーデン |
16 |
6 |
ノルウェー、カナダ |
15 |
8 |
フランス、ドイツ |
10 |
10 |
アイスランド |
8 |
11 |
イギリス |
5 |
12 |
アメリカ |
2 |
13 |
スイス、イタリア |
1 |
15 |
日本 |
0 |
LGBTに関するトレンド分析
グローバル企業であるMeltwaterがAIによるメディアモニタリングで行なった調査データをもとに、日本におけるLGBTに関する下記3つのトレンドの分析結果を紹介します。
- 単語「LGBT」の発言数の変動
- キーワード「LGBT」が含まれる投稿における感情の分析
- LGBTの共起語ランキング
単語「LGBT」の発言数の変動
以下の図は、日本における単語「LGBT」の発言数(X(Twitter)、YouTube、ブログなど)の変動を示しています。
参照元:Meltwater
発言数が急増した時期は、以下の3つのタイミングです。
2023年2月18日:
東洋経済がLGBTに関する記事を掲載。「同性婚に慎重な岸田首相が「LGBT法」成立は急ぐ訳」
2023年5月12日:
自民党がLGBT理解増進法案の修正案を了承。法案に反発する保守派議員らに配慮し、「差別は許されない」という文言を「不当な差別はあってはならない」に、「性自認」という言葉を「性同一性」に変更。
2023年6月13日:
与党案のLGBT理解増進法案の修正案が衆院本会議で多数決で可決
このデータから、LGBT法案の整備に伴い、単語の発言数が増加したことが分かりました。多くの人がLGBT法案に関心を持っていると考察できます。
キーワード「LGBT」が含まれる投稿における感情の分析
以下の図は、日本国内でのX(Twitter)上でのLGBTに関するセンチメント(感情)を分析し、ポジティブ、ネガティブ、中立の割合を示したものです。センチメントとは、X上で指定したキーワードがメンションされる投稿に含まれる感情を内訳したもので、Meltwater独自の自然言語処理アルゴリズムに基づいています。
参照元:Meltwater
この分析結果からは、LGBTに対する一般的な意見は中立的であることが明らかです。しかし、ネガティブな意見も存在。ポジティブな意見は比較的少ないことも示されています。
日本はLGBT法の整備において他国に比べて遅れを取っていますが、反対意見やネガティブな意見が多数派であるとは言えないことも明らかになりました。
LGBTの共起語ランキング
以下は、Meltwaterの調査によるLGBTの共起語ランキングです。共起語とは、特定のキーワード(今回は「LGBT」)と一緒に頻繁に使われる言葉を指します。この情報を通じて、日本におけるLGBTの最新トレンドを把握できます。
順位 |
共起語 |
1 |
LGBT法案 |
2 |
LGBT法 |
3 |
性自認 |
4 |
当事者 |
5 |
トイレ |
6 |
女子トイレ |
7 |
ネット |
8 |
LGBT法案 |
9 |
同性婚 |
10 |
活動家 |
共起語ランキングから分かることは、多くの人々がLGBT理解増進法案に大きな関心を寄せていることです。
また、「トイレ」や「女子トイレ」というキーワードは、女装をした男性による女子のトイレ利用に関する報道によって議論を巻き起こしていることが原因と考えられます。
性別に関係なく利用できるトイレの導入など、さらなる対策と取り組みが必要であることが浮かび上がります。
調査結果と今後の課題
本記事では、Meltwaterがまとめた記事をもとに日本と世界15か国におけるLGBTに関連する法制度と受け入れ状況を比較し、その違いを紹介しました。
今回の調査結果より、ヨーロッパはLGBTにおける先進地域であることが明らかとなりました。
一方、日本国内では、地方自治体レベルでの取り組みは進行中ですが、LGBT差別の禁止や同性婚の法整備には至っていません。日本も他国の前例に習いつつ、今後の更なる取り組みが必要です。
この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。