スーパーの棚で1袋30円前後のもやしを手に取ったことがある人は多いはずです。

2026年11月3日、帝国データバンクが「もやし生産者の倒産・休廃業が5年で13件に達した」と発表しました。

SNSでは「もっと値上げしていい」と「安くなきゃ買わない」で意見が割れています。

値上げできるかどうかは、消費者の気持ちだけでは決まりません。

この記事では、もやしが30年間値上げできなかった構造を総務省や農林水産省の統計で確かめ、食の持続可能性に仕事で関わる道を紹介します。

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もやし生産者の廃業で何が起きているのか

もやしとは、主に緑豆を水に浸して発芽させた野菜です。

工場で生産するため天候に左右されず、種を浸してから約1週間で出荷できます。

帝国データバンクの2026年11月3日の発表によると、2022年から2026年の5年間でもやし製造業者の倒産・休廃業・解散が計13件に達しました。

項目数字
5年間の倒産・休廃業(2022〜2026年)計13件
2026年の倒産・休廃業4件(10月に事業を停止したサイキ食品を含む)
業績悪化率(2025年度)65%(3社に2社が赤字または減益)
最終赤字(2025年度)約30%
業績の調査対象もやし製造が主力の全国約20社

参考:もやし生産業者の業績動向調査(帝国データバンク、2026年11月3日)

サイキ食品は1961年創業で、埼玉県所沢市とふじみ野市に工場を持つもやしの大手でした。

2026年6月に機械設備の故障でもやしを出荷できなくなり、金融機関に返済を待ってもらっていましたが、10月1日までに事業を停止しました。

参考:サイキ食品の事業停止(帝国データバンク、2026年10月2日)

もやし生産を主力とする全国約20社のうち、業績悪化が2021年度75%、2025年度65%、2025年度の最終赤字が約30%であることを示す棒グラフ

もやし生産者協会によると、全国のもやし生産者は2009年の235社から、2026年度初めには86社まで減っています。

参考:生産業者は17年で235社→86社に減少(関西テレビ、2026年10月14日)

全国のもやし生産者が2009年の235社から2026年度初めの86社へ減ったことを示す棒グラフ

食べものを作る担い手が国内で減っているという点で、食糧危機とも無関係ではありません。


SNSの反応は「値上げしていい」と「安くないなら買わない」に割れた

報道を受けて、SNSやYahoo!コメントでは意見が大きく割れました。

「もやしがなくなったら困る、1袋100円でも買う」「安くて当たり前ではない」という声が多く出ました。

八百屋を名乗る投稿者は「29円が39円になった程度」と書き込んでいます。

一方で「安くないならもやしは選ばない」「キャベツや白菜と同じ値段なら日持ちする野菜を買う」という声もあります。

もやしは水分が多く、冷蔵庫に入れても3日ほどで傷むため、値段が上がると保存性で不利になります。

「消費者のせいではなく、スーパーが特売の目玉にする仕入れ構造の問題だ」という指摘も出ました。

もやしが30年値上げできなかった3つの理由

背景には3つの構造があります。

原料の緑豆は値上がりし、売値は30年前より安い

もやしの主原料である緑豆は、国内で使う量のほぼすべてを輸入に頼っています。

J-CASTの2017年の報道によると、中国産緑豆の輸入価格は2017年1月時点で2005年の約3倍になっていました。

足元でも値上がりは続いており、財務省貿易統計をもとにした帝国データバンクの集計では、2026年1〜8月の緑豆の輸入単価は前年同期比7.2%上がっています。

参考:もやし生産業者の業績動向調査(帝国データバンク、2026年11月3日)

一方で、もやしの家計購入の平均価格は1992年をピークに2013年まで下がり続け、現在も30年前より安い水準です。

参考:もやしの統計(工業組合もやし生産者協会)

消費者物価指数(2020年を100とした指数)の2025年平均で比べると、もやしは113.1、食料全体は125.8です。

2020年からの上がり幅は、もやしが約13%、食料全体が約26%で、もやしは食料全体の約半分にとどまっています。

2025年平均(2020年=100)もやし食料全体
消費者物価指数113.1125.8

参考:2020年基準消費者物価指数(全国、2025年平均、総務省統計局)、もやしの消費者物価指数(GD Freak、総務省のデータをもとに作成)

天候に左右されない安定供給が裏目に出た

一般の露地野菜は天候不順で供給量が減ると、価格が自然に上がります。

もやしは工場栽培のため天候と無関係に安定して出荷できます。

需給による値上がりが起きないことが、「もやしの値段は変わらないもの」という認識を固定してきました。

スーパーの集客商品として価格決定権がない

もやしは客寄せの特売品として長く使われてきました。

販売価格が上がらないなかで原料種子や人件費が上がり、工業組合もやし生産者協会は2017年3月に「経費削減への努力はすでに限界を超え」ていると窮状を訴える文書を公表しました。

参考:日本の食卓から「もやし」が消える?生産者団体が「窮状」公表(J-CAST、2017年3月17日)

2022年11月には日本経済新聞に意見広告を出し、「安さばかりを追求していては続けていけない状況です」と訴えましたが、構造は変わりきっていません。

参考:値上げナシ!でも売り上げ3倍「サラダコスモ」躍進の秘密(テレビ東京 カンブリア宮殿、2024年2月)

原料の面でも見通しは明るくありません。

主産地の中国では、トウモロコシなどの主要穀物に比べて緑豆などの雑豆の生産が不利になりやすいと見る研究もあります。

参考:中国の雑豆生産と対外貿易(日本豆類協会)


豆腐にも共通する「安すぎる食品」の構造

もやしだけの問題ではありません。

小売店向けにパック豆腐などを作る豆腐店の倒産・廃業は、2024年1月から7月だけで36件にのぼりました。

年間で過去最多に並んだ2023年の46件を上回るペースです。

参考:「豆腐店」の倒産・休廃業解散動向調査(帝国データバンク、2024年8月)

農業全体でも、作る側がコストを売値に乗せにくい状態が続いてきました。

農産物の価格と、肥料や飼料など農業生産資材の価格の関係を示すのが農業交易条件指数(2020年=100)です。

100を下回るのは、2020年と比べて資材の値上がりに農産物の売値が追いついていない状態です。

この指数は2022年7月と8月に83.2まで下がり、2024年10月以降は米や野菜の値上がりで100を上回る水準になりました(2025年2月時点)。

時点農業交易条件指数(2020年=100)
2022年8月83.2
2023年12月92.7
2024年12月(概数)112.2
2025年2月(概数)110.6

参考:食料・農業・農村白書 令和6年度版(農林水産省)

同じ白書によると、中小企業庁が2024年9〜11月に行った調査で、食品製造業(中小企業)のコスト増に対する価格転嫁率は55.3%でした。

コストが上がっても約半分しか価格に反映できていない構造は、サプライチェーン全体の課題です。

2026年4月に食料システム法の取引ルールが施行

2025年6月に食料システム法が成立し、2026年4月1日に取引の適正化に関する規定が施行されました。

売り手と買い手の双方に、生産や流通にかかる合理的な費用を考えた価格の取り決めを促す仕組みです。

団体がコストの目安となる「コスト指標」を作る指定品目には、米、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳の5品目が選ばれています。

参考:食料システム法(農林水産省)

あわせて農林水産省は「フェアプライスプロジェクト」で、作る人・売る人・買う人のそれぞれにとって公正な価格を考える広報活動を続けています。

参考:フェアプライスプロジェクト(農林水産省)

もやし業界でも変化は始まっています。

大手のサラダコスモは、2026年5月期の売上高が271億円です。

大型工場での効率化に加え、もやしの製造で出る残りかすを酪農家の飼料に回したり、カット野菜を新たな柱に育てたりしてきました。

2024年の放送では、値上げをせずに43年連続で黒字を達成していると紹介されています。

参考:会社概要(サラダコスモ)、サラダコスモ特集(テレビ東京 カンブリア宮殿、2024年2月)

帝国データバンクの調査でも、利益を確保している企業にはスプラウトやカット野菜を併営するケースが目立つとされています。

もやしは日持ちしにくい野菜で、安さにつられて買いすぎると使いきれずに捨てることにもなりがちです。

必要な分を納得できる価格で買うことは、食品ロスを減らすことにもつながります。


食の持続可能性に仕事で関わる4つの道

食品の価格構造の見直しや、持続可能な農業の仕組みづくりに関わる仕事があります。

アグリテック企業で生産コストを下げる

植物工場の自動化やAI選別といった技術を使い、農産物の生産効率を高める仕事です。

農業の課題を技術で解く立場なので、IT職種からの転職ルートもあります。

≫スマート農業とは?背景や事例・課題を紹介

食品メーカーや流通の調達部門で価格構造を変える

原料の調達先の多角化や取引条件の見直しを通じて、生産者と消費者の両方が続けられる仕組みを作る仕事です。

≫農業問題に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大企業からベンチャー

農林水産省や自治体の食料政策に携わる

フェアプライスプロジェクトや食料システム法の運用など、制度の側から「作る人が続けられる仕組み」を整える仕事です。

国家公務員の総合職・一般職試験の農学系の区分や、自治体の農業職の採用試験が入口になります。

≫持続可能な農業のキャリアとは?仕事内容・入り方・キャリアパスを解説

フードロス削減で「食べきる仕組み」を広げる

フードバンクや規格外野菜の流通改善など、売れ残りや買いすぎで捨てられる食品を減らし、必要な量を届ける仕組みに関わる仕事です。

≫フードロスに携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説

≫フードロスに取り組む企業10選!就職・転職におすすめのベンチャーを中心に紹介

まとめ

もやし生産者の倒産・休廃業は5年で13件に達し、全国の生産者は2009年の235社から86社にまで減りました。

原料の緑豆の輸入価格が上がる一方で、小売価格は30年前より安い水準にとどまっています。

2025年平均の消費者物価指数で見ても、もやしの上がり幅は食料全体の約半分です。

天候に左右されない安定供給がかえって値上げの壁になり、スーパーの特売品として価格決定権を持てなかった構造が背景にあります。

この構造は豆腐にも共通し、2026年4月には合理的な費用を考えた価格づくりを促す食料システム法の取引ルールが施行されました。

食の持続可能性に関わるキャリアには、アグリテック、食品メーカーの調達、食料政策、フードロス削減の4つの道があります。

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よくある質問

もやしの廃業とその背景について、よく見かける疑問にお答えします。

Q. なぜもやしの生産者が減っているのですか?

A. 原料の緑豆の輸入単価が上がる一方で、小売価格は30年前より安い水準にとどまっているためです。帝国データバンクの2026年11月の調査では、2022年から2026年の5年間で倒産・休廃業が計13件に達しました。もやしは天候に左右されず安定供給できるため需給による値上がりが起きにくく、スーパーの特売品として価格決定権を持ちにくい構造が長く続いています。2025年度はもやし生産を主力とする全国約20社のうち65%が業績悪化で、最終赤字は約30%です。

Q. もやしの値段はどのくらい安いのですか?

A. 工業組合もやし生産者協会の統計によると、もやしの家計購入の平均価格は1992年をピークに2013年まで下がり続け、その後やや上がったものの現在も30年前を下回っています。消費者物価指数(2020年=100)の2025年平均は、もやしが113.1、食料全体が125.8で、もやしの上がり幅は食料全体の約半分です。一般の露地野菜は天候不順で供給が減ると価格が上がりますが、もやしは工場栽培で安定供給できるためこの仕組みが働きません。

Q. もやし以外にも同じ問題を抱えている食品はありますか?

A. 豆腐に同様の構造があります。帝国データバンクによると、豆腐店の倒産・廃業は2024年1月から7月だけで36件にのぼり、年間で過去最多に並んだ2023年の46件を上回るペースでした。農林水産省の農業交易条件指数は2022年7月と8月に83.2まで下がり、資材の値上がりに農産物の売値が追いつかない状態が続きました。こうした背景から、合理的な費用を考えた価格づくりを促す食料システム法の取引ルールが2026年4月に施行されています。

Q. もやしの問題に仕事で関わるにはどうすればいいですか?

A. 食の持続可能性に関わる仕事は大きく4つの道があります。アグリテック企業で植物工場の自動化やAI選別を通じて生産コストを下げる道、食品メーカーや流通の調達部門で原料調達の多角化や取引条件の見直しに取り組む道、農林水産省や自治体でフェアプライスなどの食料政策に携わる道、フードバンクや規格外野菜の流通改善でフードロス削減に取り組む道です。COCOCOLOR EARTHの姉妹サイト「ココキャリア」でも社会課題に取り組む企業の求人を探せます。

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