米国シンシナティの教育改善の取り組み「Strive」は、300人を超える地域のリーダーを巻き込みながら、子どもの学びを支えてきました。

2011年に発表された論文の時点で、Striveが追いかける53の成果指標のうち34が改善に向かっていました。

高校の卒業率や、4年生の読解と算数の成績も、その中に含まれます。

一つの団体が単独で出した成果ではなく、学校、行政、財団、大学、NPOが役割を分け合って生まれた変化でした。

良い活動をしている団体はたくさんあるのに、地域全体の数字はなかなか動かない。

そんな壁に突き当たったときに手がかりになる考え方が、コレクティブインパクトです。

言葉の意味も、よく引用される5つの要素も、出どころは2011年に発表された1本の論文です。

この記事では、その5つの要素と従来の協働との違い、バックボーン組織の役割、国内外の事例、批判されている点、関わる仕事までを解説します。

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コレクティブインパクトとは

コレクティブインパクトとは、異なるセクターの主要な担い手が、特定の社会課題を解決するために共通のアジェンダへ力を注ぐ取り組みのことです。

英語ではcollective impactと書き、「コレクティブ・インパクト」と中黒を入れる表記も見かけます。

行政、企業、NPO、財団、住民といった立場の違う人たちが、それぞれの持ち場で動きながら一つのゴールを共有する点に特徴があります。

提唱された論文

この言葉が広まったきっかけは、1本の論文です。

題名は「Collective Impact」で、書いたのはJohn KaniaとMark Kramerの2人です。

掲載されたのは、Stanford Social Innovation Reviewの2011年冬号(Vol.9, No.1)です。

2人は、大規模な社会変化が個々の組織による単独の介入ではなく、セクターを越えた調整から生まれると述べています。

参考:Collective Impact(Stanford Social Innovation Review、2011年冬号)

「孤立したインパクト」への問い

2人が問題にしたのは、社会セクターに根づいた「孤立したインパクト(isolated impact)」という発想です。

一つの組織が優れた解決策を見つけ、それを拡大したり複製したりすれば課題は解決する、という考え方を指します。

資金の出し手は、うまくいかない学校にも見つけ出すべき治療法があるかのように、より効果的な手立てを探しています。

医学の研究室で治療法が発見されるのと同じ考え方だ、という指摘です。

だからこそ、関わる人たちの動きをそろえる仕組みが要る、というのが2人の主張です。

NPOという組織そのものの仕組みは、以下の記事で整理しています。

≫NPOとは?意味・種類・会社との違い・働き方をわかりやすく解説

定義はその後に更新されている

コレクティブインパクトの定義は、2011年のまま止まっているわけではありません。

2022年には、John Kaniaらが同じ雑誌へ続編にあたる論考を寄せました。

題名は「Centering Equity in Collective Impact」です。

新しい定義は「集団やシステムレベルの変化を達成するために、ともに学び、連携して行動することによってエクイティの向上を目指す、コミュニティの人々とさまざまな組織によるネットワーク」です。

5つの要素そのものは残したうえで、エクイティを中心に据えることが前提として加えられました。

参考:Centering Equity in Collective Impact(Stanford Social Innovation Review、2022年冬号)/日本語版


コレクティブインパクトの5つの要素

KaniaとKramerは、コレクティブインパクトが成り立つための条件を5つ挙げました。

原語と訳語を並べると、それぞれが何を求めているのかが見えてきます。

共通のアジェンダ(Common Agenda)

共通のアジェンダとは、参加者の全員が変化に向けた同じビジョンを持つことです。

そのビジョンには、課題についての共通理解と、解決に向けた共同のアプローチが含まれます。

同じ言葉を使っていても、何が問題なのかの認識がずれていれば、活動はばらばらの方向へ進みます。

共有された測定システム(Shared Measurement Systems)

共有された測定システムとは、成果の測り方と報告の仕方を全員でそろえる仕組みです。

成功をどう測り報告するかで合意できなければ、共通のアジェンダの合意は見せかけにすぎない、と原論文は釘を刺しています。

Striveでは、共有されたデータから、就学前の子どもが夏のあいだに学びを後退させていることが見えてきました。

そこで就学前の各プログラムが夏の橋渡しとなる講座を一斉に始めたところ、地域全体の就学準備度の平均スコアが1年で10パーセント上がりました。

成果をどう測るかという論点は、社会的インパクト評価の考え方と深く重なります。

相互に補強し合う活動(Mutually Reinforcing Activities)

相互に補強し合う活動とは、全員が同じことをするのではなく、異なる活動を一つの計画のもとで調整することです。

参加者はそれぞれ自分の強みを生かした活動を続けながら、その中身を全体の目標と噛み合わせます。

Striveでは、参加する団体が活動の種類ごとに15のネットワークへ分かれ、それぞれの持ち場で動いていました。

継続的なコミュニケーション(Continuous Communication)

継続的なコミュニケーションとは、関係者が会い続けることで信頼と共通言語を育てていく過程です。

十分な経験が積み上がるまでには、数年にわたる定例の会合が必要になります。

KaniaとKramerが調べた取り組みでは、月1回から隔週の対面の会合にCEOクラスの出席が求められました。

Striveのネットワークも、2週間に1度の会合を3年以上続けていました。

バックボーン組織(Backbone Support Organizations)

バックボーン組織とは、取り組み全体を支えるために置かれる、独立した組織とスタッフのことです。

この役割には特有のスキルの組み合わせが必要で、参加団体とは別の体制を用意することが求められます。

支える体制がないまま協働が起きると期待することは、失敗の最も多い原因のひとつです。

従来の協働との違い

コレクティブインパクトは、連携やパートナーシップという言葉と混同されやすい概念です。

両者の違いには、2011年の原論文がはっきりと線を引いています。

求められるのは「構造」

孤立したインパクトからの転換とは、連携や官民パートナーシップをもっと促すことではありません。

必要になるのは、中央に置かれたインフラ、専任のスタッフ、そして構造化されたプロセスです。

単発の連携との違い

イベントの共催や、一度きりの共同事業も、立派な協働です。

ただし、そこでは成果指標の共有や、数年単位で会合を重ねること、専任の事務局を置くことまでは求められません。

コレクティブインパクトは、その先まで踏み込む取り組みを指しています。

SDGsの目標17が掲げるパートナーシップを、実務の手順に落とし込んだ枠組みだと考えると、位置づけがつかみやすくなります。

≫【SDGs目標17】パートナーシップで目標を達成しようとは?現状と私たちにできること

産学官連携との関係

大学、企業、行政が組む産学官連携も、セクターを越えた協働の一種です。

技術や製品の開発を目的にすることが多い点で、社会課題そのものの指標を動かそうとするコレクティブインパクトとは重心が違います。


バックボーン組織の役割

5つの要素のなかで、いちばんイメージしにくいのがバックボーン組織かもしれません。

置かれるのは専任のスタッフで、自ら事業を担うのではなく、参加団体の動きをそろえることに専念します。

3つの職能

Striveは、バックボーン組織に必要な初期の人員を3つの役割に整理しました。

プロジェクトマネジャー、データマネジャー、ファシリテーターの3つです。

進行の管理、データの収集と報告、話し合いの場づくりが、それぞれの持ち場にあたります。

小さな予算で大きな流れを動かす

2011年時点のStriveの年間予算は、150万ドルでした。

一方で、当時のStriveが調整していた組織の予算は、合計で70億ドルにのぼりました。

日本の中間支援組織との重なり

日本には、NPOと行政や企業のあいだをつなぐ中間支援組織という存在があります。

資源の仲介、人材の育成、情報の集約といった役割は、バックボーン組織の機能とかなりの部分で重なります。

中間支援に取り組む企業は、以下の記事で10社を紹介しています。

≫中間支援に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー

コレクティブインパクトの事例

米国で先に走り出した2つの取り組みと、日本で同じ考え方を掲げるプロジェクトを紹介します。

海外の2例の数字は、いずれも2011年時点のものです。

Strive(米国・シンシナティ)

Striveは、KnowledgeWorksの非営利子会社として、シンシナティと北ケンタッキー一帯の教育改善に取り組んできました。

財団、行政、学校、大学、NPOから、300人を超えるリーダーが参加に同意しました。

追跡していた53の指標のうち、34が改善に向かっていました。

しかも、不況と予算削減が続くなかでの変化でした。

Elizabeth River Project(米国・バージニア州)

Elizabeth River Projectは1993年、汚染が進んだ川の再生を目指して始まりました。

行政、企業、大学、環境団体など100を超える関係者が集まり、18項目の再生計画をまとめました。

始まってから15年後には、1,000エーカーを超える流域が保全または再生されました。

削減された汚染物質は、2億1,500万ポンドを超えました。

文京区こども宅食(日本)

文京区こども宅食は、東京都文京区で、経済的に厳しい家庭へ定期的に食品や日用品を届けるプロジェクトです。

運営しているのは、官民7団体が対等な関係で組むコンソーシアムです。

  • 認定NPO法人フローレンス
  • 一般社団法人RCF
  • 認定NPO法人キッズドア
  • 一般財団法人村上財団
  • 認定NPO法人日本ファンドレイジング協会
  • ココネット株式会社
  • 文京区

活動の主な原資はふるさと納税による寄付で、集まった寄付はすべて事業の推進に充てられます。

こども宅食は、この組み方そのものを「コレクティブ・インパクトの実践」と呼んでいます。

立場の異なる組織が壁を越えて互いの強みを出し合い、子どもの貧困問題の解決を目指すアプローチだとしています。

参考:文京区こども宅食とは(こども宅食)

教育をめぐる社会課題に取り組む企業やキャリアは、以下のページから探せます。

≫教育の社会課題に取り組む企業・キャリア情報をまとめて見る


うまくいかない要因と批判

コレクティブインパクトは、提唱されてから批判も受けてきました。

枠組みを使う前に、どこでつまずきやすいのかを知っておくと役に立ちます。

当事者の参加が組み込まれていない

コミュニティ心理学の実践者であるTom Wolffは、2016年にこの枠組みへの批判をまとめた論考を発表しました。

掲載誌はGlobal Journal of Community Psychology Practiceの第7巻第1号です。

題名は「Ten Places Where Collective Impact Gets It Wrong」といいます。

Wolffは、課題の影響をもっとも受けている地域の人々を実質的に巻き込むという要件を、コレクティブインパクトが扱えていないと指摘しています。

政策や制度の変更が成果に含まれていない

政策の変更や制度の変更が、協働の成果としてはっきり位置づけられていない点も、Wolffの指摘に含まれます。

目の前のサービスを調整するだけでは、課題を生み出す仕組みそのものは残ります。

参考:Ten Places Where Collective Impact Gets It Wrong(Tom Wolff、2016年)

バックボーン組織の資金が続かない

Wolffの指摘のうち、実務でいちばん重くのしかかるのが資金の問題です。

十分な資金を持つバックボーン組織を、ほとんどの協働体が用意できるという前提には無理がある、という批判です。

測定の負担が現場を圧迫する

共有された測定システムはコレクティブインパクトの要ですが、同時に現場の手間を増やします。

何をどこまで測るかを決めるときは、社会的インパクト評価の進め方が参考になります。

協働・中間支援に関わる仕事

コレクティブインパクトを支える仕事は、特別な資格が要る専門職ばかりではありません。

バックボーン組織の3つの職能を手がかりにすると、日本の求人にも当てはまる職種が見えてきます。

コーディネーター・プロジェクトマネジャー

コーディネーターは、複数の団体の予定と役割を調整し、話し合いの議題を整える仕事です。

データ・評価担当

データ・評価担当は、指標を設計し、集めた数字を関係者が読める形にまとめます。

統計やデータ分析の素養に加えて、現場が答えやすい様式を考える力が生きてきます。

ファシリテーター・対話の設計者

ファシリテーターは、利害の異なる人たちが同じ机に着いたときに、議論が前へ進むよう場をつくります。

行政の協働推進担当

行政の協働推進担当は、自治体の側から市民活動や企業との連携をつくる役割を担います。

≫政府機関で社会課題解決に関わるキャリアとは?民間企業との違い・仕事内容・入り口を解説

企業のサステナビリティ・社会連携担当

企業のサステナビリティ担当は、自社の資源を地域の課題解決へ結びつける窓口になります。

NPOの側から協働に関わる道筋は、以下の記事で解説しています。

≫NPOで社会課題解決に関わるキャリアとは?仕事内容・2つのタイプ・入り口を解説

COCOCOLOR EARTHのインタビューには、NPO法人フォレシアの代表理事を務める佐藤高輝さんが登場します。

佐藤さんは、不妊治療と仕事の両立を支えるために、企業向けの相談窓口を開き、社内研修も手がけています。

複数の自治体からは、プレコンセプションケアに関する健診や啓発の委託事業も受けてきました。

自分の力だけで解決しようとせず、仲間を集めて必要な人同士をつなげていくことが、結果的に課題解決を進めると語っています。

セクターをまたいで人をつなぐこの感覚は、バックボーン組織の仕事と重なります。

≫何者でもない自分から始めた不妊治療支援 〜NPO法人フォレシア 佐藤高輝さん〜


よくある質問

コレクティブインパクトについて、よく寄せられる疑問に答えます。

Q. コレクティブインパクトとは何ですか?

A. コレクティブインパクトとは、異なるセクターの主要な担い手が、特定の社会課題の解決に向けて共通のアジェンダへ力を注ぐ取り組みです。2011年に、John KaniaとMark Kramerが発表した論文「Collective Impact」で示されました。掲載誌はStanford Social Innovation Reviewです。2人は、大規模な社会変化は個々の組織の単独の介入ではなく、セクターを越えた調整から生まれると述べています。行政、企業、NPO、財団、住民が、それぞれの持ち場で一つのゴールを共有します。

Q. コレクティブインパクトの5つの要素とは何ですか?

A. 5つの要素とは、共通のアジェンダ、共有された測定システム、相互に補強し合う活動、継続的なコミュニケーション、バックボーン組織です。共通のアジェンダは、課題の共通理解と共同のアプローチを含む変化のビジョンを指します。共有された測定システムは、成果の測り方と報告の仕方をそろえる仕組みです。相互に補強し合う活動は、異なる活動を一つの計画のもとで調整することを求めます。継続的なコミュニケーションは数年にわたる定例の会合を、バックボーン組織は専任のスタッフを置く独立した組織を意味します。

Q. コレクティブインパクトと従来の協働は何が違うのですか?

A. 違いは、支える構造をどこまで用意するかにあります。2011年の原論文は、孤立したインパクトからの転換が、連携や官民パートナーシップをもっと促すことではないと書いています。求められるのは、中央に置かれたインフラ、専任のスタッフ、構造化されたプロセスの3つです。イベントの共催や一度きりの共同事業では、成果指標の共有や数年単位の会合、専任の事務局までは必要になりません。コレクティブインパクトは、そこまで踏み込んで仕組みを設計する取り組みを指します。

Q. バックボーン組織はどんな仕事をするのですか?

A. バックボーン組織とは、取り組み全体を支えるために置かれる独立した組織とスタッフです。Striveは、必要な初期の人員を、プロジェクトマネジャー、データマネジャー、ファシリテーターの3つの役割に整理しました。会合の運営、データの収集と報告、広報や技術の支援などを引き受けます。日本では、NPOと行政や企業をつなぐ中間支援組織が、これに近い役割を担っています。自分で事業を抱えるのではなく、すでに動いている資源の向きをそろえるところに特徴があります。

まとめ

コレクティブインパクトとは、立場の違う担い手が共通のアジェンダのもとで役割を分け合い、社会課題の指標を動かそうとする枠組みです。

2011年の論文が示した5つの要素は、いまもこの考え方の骨格になっています。

一方で、当事者の参加や資金の続き方といった課題も、実践のなかで指摘されてきました。

まずは、関心のある地域の取り組みを一つ選んで、誰が事務局を担い、どんな指標を共有しているかを調べてみましょう。

セクターをつなぐ側で働くことに関心が向いたら、ココキャリアで、協働を前提に事業を組み立てている企業の考え方をのぞいてみてください。

一人で抱えなくていい、という発想そのものが、この枠組みが残した財産です。

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