今回は、NPO法人フォレシア代表理事の佐藤高輝さんにインタビューしました。

佐藤さんは、不妊治療と仕事の両立に悩む人々を支援し、子どもを望むすべての人が納得して選択できる社会を目指して活動しています。

本記事では、佐藤さん自身の実体験をもとに、NPO法人を設立するに至った経緯や、組織を運営する中で直面した葛藤、そこから得た学びについて伺いました。

また、社会課題の解決に向けて、ご自身のキャリアをどのように選択してきたのか。

その意思決定の裏側にも迫ります。

自分の人生や力を誰のために使いたいのか。

キャリアに悩む方にとって、その問いを考えるきっかけとなるインタビューです。

 

不妊治療と仕事の両立を支える

ーーー現在の活動内容について教えてください。

NPO法人フォレシアの代表理事として、不妊治療と仕事の両立を支援する事業を行っています。

具体的には、企業向けに不妊治療に関する相談窓口を開設したり、社内研修を実施したりしています。

また、これまで複数の自治体からプレコンセプションケアに関する健診事業や啓発などの委託事業を受けてきました

今後は、より当事者のニーズに直接応えるため、民間事業をさらに強化していく予定です。

ーーー民間事業の強化とは、どのような取り組みなのでしょうか。

不妊治療と仕事の両立に理解のある企業を掲載するメディアを立ち上げ、求人サイトと連携させる準備を進めています。

当事者の方々が「この会社で本当に働き続けられるのか」を判断できるよう、制度の紹介だけでなく、職場の雰囲気や上司・同僚の様子など、リアルな情報を伝えるメディアにする予定です。

単に情報を可視化するだけではなく、その会社で働くイメージを具体的に持てるようにし、職場の空気感まで「体感」できるようなメディアを目指しています。

そのような取り組みを通じて、働きやすい会社と、両立に悩む人たちを直接つなげていきたいと考えています。

ーーー企業に対して不妊治療支援の導入を働きかけるのは、ハードルの高い領域かと思います。

そうですね。

企業が不妊治療に関する支援制度や休暇制度を整えても、現状では直接的な経済的メリットを感じにくく、どうしても優先順位が低い課題として捉えられがちです。

だからこそ、私たちは、企業の取り組みを社会に発信し、それが人材採用や企業評価につながる仕組みをつくりたいと考えています。

不妊治療と仕事の両立に理解のある企業がきちんと評価されることで、当事者にとっては安心して働ける選択肢が増え、企業にとっても人材との出会いや定着につながる。そうした前向きな循環を生み出していきたいです。

見過ごされてきた両立の負担

ーーー不妊治療を取り巻く社会的な課題とは、どのようなものなのでしょうか。

大きく分けると、仕事との両立に伴う負担、経済的負担、精神的負担、身体的負担の4つがあります。

特に仕事との両立については、治療のスケジュールが読みづらく、頻繁な通院が必要になるため、多くの方が働き方に悩みを抱えています。実際に、治療中の4人に1人は、離職したり、働き方を変えざるを得ない状況にあります。

本来、仕事は人生を支えるものであってほしいはずです。

しかし、不妊治療においては、仕事との両立が大きな壁になってしまうケースが少なくありません。

ーーー社会的な関心が高まっている一方で、まだ支援が届いていない部分があるのですね。

日本では体外受精が広く行われている一方で、生殖に関する教育が十分とは言えないという課題があります。

女性のキャリア形成を支援する施策は増えています。

一方で、妊娠や出産などの生殖医学的な側面を踏まえた情報提供は、まだ十分とは言えません。

正しい知識を持たないまま年齢を重ね、結果的に不妊治療が長期化してしまう方も少なくありません。

だからこそ、子どもを望む人が納得して選択できるように、早い段階から知識を得られる機会を増やしていくことが大切だと考えています。

当事者としての経験が活動の原点に

ーーー佐藤さんが不妊治療の支援を始めようと思った原体験を教えてください。

私自身が、27歳のときから不妊治療を経験したことが一番の理由です。

治療の過程では、特に妻の心身への負担が大きく、仕事との両立も大きな課題でした。

私たちは人工授精を経て体外受精へと進み、一度目の体外受精で子どもを授かることができましたが、その子を死産で亡くすことになりました。

その出来事は、私たちにとって言葉にするのが難しいほど大きな経験でした。

ーーーそこから、どのようにして支援活動へと向かっていったのでしょうか。

その後、私たちは一度、治療をやめることにしました。

しかし、やはり子どもがほしいという思いを諦めきれず、納得できるところまで頑張ろうと決めて治療を再開しました。

その後に授かったのが、長女です。

娘が生まれたとき、自分たちと同じような経験を、子どもたちの世代に残したくないと強く感じました。

そこで当事者として支援団体を探しましたが、全国的に見ても、不妊治療と仕事の両立を支える団体は多くありませんでした。

ないのなら、自分でやるしかない。

そう思い、2017年にフォレシアを設立しました。

不平不満の日々から、自分で選ぶ人生へ

ーーーNPO法人を設立する前は、どのようなお仕事をされていたのですか。

高校卒業後、地元の建設系企業に就職し、水道配管工事や公共事業の責任者の仕事をしていました。

その頃の自分は、社会課題の解決とは無縁の場所にいました。

自分の環境に対して、不平不満ばかりを言っているような毎日だったと思います。

ーーーそこから独立を決意された背景には、何があったのでしょうか。

27歳のときに、小学校の同級生が亡くなったことが大きな転機になりました。

自分と同じ年齢で亡くなってしまう現実を目の当たりにして、不平不満ばかり言っている場合ではないと痛感しました。

自分のやりたい人生を歩むなら、自分でリスクを取って決断しなければならない。

そう考え、昔から好きだった植物に関わる庭づくりの仕事で独立しました。

ーーーその後、NPO法人の活動へ一本化したのはなぜですか。

NPO法人を立ち上げた当初は、庭づくりの仕事と並行しながら活動していました。

しかし、メディアに取り上げていただく機会が増え、ありがたいことに仕事の規模も少しずつ大きくなっていきました。

それに伴い、求められる責任も大きくなっていきました。

その中で、両方を抱えながら運営することはできないと判断し、庭づくりの仕事は信頼できるメンバーに引き継いでもらい、自分はNPO法人の活動に専念することを決めました。

NPOという法人格を選んだ理由の一つは、事業の目的を利益最優先ではなく、社会課題の解決に置きたかったからです。

もちろん、事業を継続するためには収益も必要です。しかし、資本主義の中で取り残されてしまう人がいる領域だからこそ、利益だけを優先する事業にはしたくありませんでした。

また、これまでビジネスで培ってきたスキルを、社会のために活かしたいという思いもありました。

NPOという形であれば、そうした活動の意義や姿勢が周囲にも伝わりやすい点にも魅力を感じました。

何者でもない自分の戦い方

ーーー佐藤さんが仕事を進める上で、大切にしている価値観は何でしょうか。

私は、特別な経歴や専門性を持っている人間ではありません。

だからこそ、そのことを素直に認め、自分にできることとできないことを客観的に捉えるようにしています。

そのうえで大切にしているのは、無駄なプライドを持たず、課題解決につながる行動を最優先にすることです。

自分に足りない知識やスキルがあるのであれば、医療従事者や専門家など、その領域に強い方々に想いを伝え、協力をお願いするしかありません。

そうして仲間を集め、必要な人同士をつなげていくことが、結果的に課題解決を力強く進める方法だと考えています。

私自身にできることは、それしかないのだと思っています。

ーーー自分一人で抱え込まず、周りを巻き込んでいくのですね。

そうです。

医療に関する専門的な知識は、産婦人科の医師に監修をお願いしています。

できないことを自分の力だけで解決しようとすると、正確性に欠けたり、かえって時間がかかることで、支えたい当事者の方々のためにはならない、と考えています。

そして、さらに大事にしているのは、困難な状況に直面しても、決して社会や他の人のせいにしないということです。

すべてを自責で捉え、泥臭く『継続する』こと。

これこそが、事業を前に進める唯一の力だと信じています。

失敗から学んだ事業づくりの鉄則

ーーーこれまでの活動の中で、後悔していることや失敗談はありますか。

事業の立ち上げ期に、利益が安定して生み出される前に人を雇いすぎてしまったことです。

当時は、事業を前に進めたいという思いが強く、人を増やせば、できることも広がると考えていました。

しかし、結果として業績が伸び悩んだ時期に、会社都合で退職をお願いせざるを得ませんでした。

人の人生を背負うという覚悟が足りなかったと、今でも深く反省しています。

ーーーその経験から、どのようなことを学びましたか。

新しい事業を立ち上げる段階で、いきなり人を雇うことには慎重であるべきだと学びました。

まずは業務委託などで外部のパートナーと協働し、事業を形にすること。

そして、少なくとも数ヶ月安定してその事業単体で黒字化が継続できたら社員を雇用するべきだと思います。

実際に今の私たちの新規事業も、最初は業務委託などで形を作っていくようにしています。

海外展開と新たな技術開発へ

ーーー今後の挑戦について教えてください。

今後は、活動の視野を海外にも広げていきたいと考えています。

国内での取り組みに加えて、世界の課題に触れたり、南アジアなどで生理の課題解決に向けた取り組みを展開する予定です。

ーーーなぜ、海外で生理用品の配布を行うのでしょうか。

現在、日本国内ではNPO法人TGPと連携し、学校の各個室トイレに生理用ナプキンを設置する事業を行っています。

国内での活動が少しずつ広がる中で、海外で困っている子どもたちにも、何かできることはないかと考えるようになりました。

そうしたタイミングで、国際的な支援活動を行っている団体の関係者からお声がけいただいたことが、海外での取り組みを始めるきっかけになりました。

月経への理解を深めることや、早い段階から自分の身体について学ぶ機会を広げることは、子どもたちの将来の選択肢を守ることにもつながると考えています。

自分の力を誰のために使いたいか

ーーー最後に社会課題の道を志す方々へメッセージをお願いします。

皆さんがこれまで学んできたことや経験してきたことを、「誰のために」使うのか。

それが一番重要だと思います。

一般企業の仕事であっても、サービスの向こう側には必ず困っている人がいます。

それも、立派な課題解決につながっています。

もし「ソーシャル」という言葉にとらわれてキャリアに悩んでいるのだとしたら、少し視点を変えてみてください。

自分の人生と力を、誰のために使いたいのか。

誰の悩みを解決したときに、自分は幸せを感じるのか。

その問いに深く向き合うことが、皆さんにとって納得できるキャリアの第一歩になるはずです。

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