「途上国のために働きたい。」

そんな思いを胸に、新卒で入社した食品メーカーを離れ、海外協力隊としてアフリカ・ザンビアへ渡った小林さん。

しかし現地で待っていたのは、「世界を変えたい」という理想と、自分の無力さを突きつけられる現実でした。

帰国後、小林さんが選んだのは、ビジネスとして国際協力に携わる開発コンサルタントという道。

現在は大手開発コンサルに所属し、途上国のインフラ整備や技術移転を支えるODA(政府開発援助)事業に従事しています。

社会課題の解決に向き合いたい。しかし、事業としての持続可能性も無視できない。

理想と現実の間で葛藤を重ねながらも、自分なりの答えを模索し続ける小林さんに、これまでのキャリアや仕事への思い、そして今後の展望についてお話を伺いました。

 

途上国のインフラ整備を支える開発コンサルの仕事

ーーー現在取り組まれている活動について教えてください。

現在は、開発コンサルの海外事業部に所属し、開発コンサルタントとして活動しています。

主に担当しているのは、JICA(独立行政法人国際協力機構)が実施するODA事業のプロジェクト運営です。

現地での技術移転や機材調達、プロジェクトの進捗管理、報告書の作成などを担当しています。

プロジェクトには、各分野の専門家がチームとして参画しており、私はその一員として、現地のカウンターパートと連携しながら事業が円滑に進むよう調整・運営を行っています。

ーーー途上国のインフラ整備には、どのような課題があるのでしょうか。

世界的に見ると、日本のようにインフラが整った生活を送れている地域ばかりではありません。

清潔な水にアクセスできない人々や、最低限の電力・衛生環境が保障されていない地域も数多く存在します。

私は、こうした理不尽な状況を少しでもなくし、誰もが最低限の生活を保障されるべきだと考えています。

それぞれの国が持つ文化は尊重されるべきですが、生きていくために必要な基本的なインフラへのアクセスは、世界共通の課題だと捉えています。

ジブチの開発現場(これから開発される地域→地図が求められてるところ)

ーーー具体的にはどのようなプロジェクトに関わっているのですか。

私の所属する会社は、地図情報や地理空間情報技術に強みを持っています。

そのため、地図作成能力の強化に向けた技術移転プロジェクトなどに携わることが多いです。

プロジェクトには、地図の材料を調達する担当や作成方法を指導する担当など、さまざまな役割を持つ専門家が参加しています。

私はその中で、現場での細かな調整や予期せぬトラブルへの対応を担い、プロジェクトが円滑に進むようサポートしています。

歴史への関心から国際協力の道へ

ーーーそもそも、途上国の課題に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

小学生のころから、歴史の本や地図帳を読むのがとても好きでした。

地図を眺めながら、「世界にはどんな国があるのだろう」と想像を膨らませていたのを覚えています。 

中学生になると、世界の歴史や各国の成り立ちをより深く学ぶようになりました。

その中で、日本とはまったく異なる生活水準で暮らしている人々がいることを知りました。 

自分とは異なる文化や人種への純粋な興味は、次第に社会の理不尽さへの違和感へと変わり、現在の国際協力への関心につながっていきました。 

ーーー新卒では食品メーカーに就職されていますが、当時の思いを教えてください。

就職活動では、生きていく上で欠かせない「衣食住」のいずれかに関わる仕事がしたいと考えていました。 

その中でも、自分自身が食べることが好きだったこともあり、食の分野に強く惹かれました。

さまざまな企業を受ける中で大手食品メーカーから内定をいただき、営業職として働く道を選びました。

当時は、国内のスーパーマーケットを回る営業を担当し、チラシへの掲載交渉や売り場作りなどに奔走していました。

ーーー前職での経験から、なぜ途上国支援の道へ進もうと考えたのでしょうか。

食品メーカーでの仕事にはやりがいを感じていました。

一方で、日々数字を追いかけ、価格交渉に向き合うビジネスの現実に、少しずつ疲弊していったのも事実です。

また、1年を通して繰り返される仕事のサイクルが見えてきたことで、「このまま同じ業務を何十年も続けるのだろうか」と立ち止まって考えるようになりました。

そうした中で、利益を追求するビジネスの枠を超え、自分の能力やリソースを途上国支援のために使いたいという思いが強くなり、海外協力隊への参加を決意しました。

ーーー海外協力隊では、どのような活動をされていたのですか。

食品メーカーを退職後、家政・生活改善の隊員としてザンビアに2年間派遣されました。

現地の農業省の出先機関に配属され、主に都市近郊の農村地域で栄養改善活動に取り組みました。

現地の方々が少しでも収入を得られるように、米作りやキノコ作り、ドライフルーツの製作などを提案しました。

また、大豆を使った料理指導など、現地にあるものを活用しながら、草の根レベルで生活改善を支援する活動も行っていました。

キノコ種菌つくり

自分の無力さを知った協力隊での経験

ーーー協力隊として現地へ赴いて、想像と違ったことはありましたか。

派遣される前は、「自分の力で世界を変えてやる」と、とても高い志を持っていました。

しかし、実際に現地に行ってみると、インフラが整っていない環境での生活すらままならず、自分の無力さを痛感しました。

言葉の壁や文化の違いもあり、一人では何もできない状況の中で、現地の同僚や地域の人々にどれほど支えられているかを思い知らされました。

世界を変えるどころか、むしろ現地の人々から多くのことを学ばせてもらった2年間だったと思います。

ーーーその無力感から、どのように前を向くことができたのでしょうか。

最初は戸惑いもありましたが、最終的には、現場で求められている人的リソースとして、自分にできることへ全力で取り組もうと気持ちを切り替えました。

日本のように必要なものがすぐに手に入るわけではないため、その場にあるもので何とかする柔軟性や適応力も鍛えられました。

そして、現地で学ばせてもらったこの経験を、どうすれば日本の社会に還元できるのかを考えるようになりました。

自分の無力さを知ったからこそ、日本の国際競争力を強化し、より大きな枠組みで途上国に貢献したいという新たな目標が生まれました。

ーーー帰国後、開発コンサルタントという道を選んだ理由を教えてください。

協力隊での経験を通じて、引き続きODA(政府開発援助)事業に関わりたいという思いが強くなりました。

同時に、ボランティアではなく、民間企業としてビジネスの枠組みの中で途上国支援に取り組みたいと考えるようになりました。

さまざまな企業を検討しましたが、他の企業の多くは先進国間の取引が中心でした。

自分を育ててくれたアフリカに恩返しをしたいという思いと、ビジネスと国際協力のバランスを考えたとき、現場に近い開発コンサルタントという道が最も自分の志向に合っていると感じました。

ーーー実際に開発コンサルタントとして働き始めて、ギャップはありましたか。

業務の根本的な部分は協力隊での経験の延長線上にあると感じているため、大きなギャップはありませんでした。

一方で、プロの専門家として現地に赴く以上、求められるスキルの高さには日々直面しています。

地理空間情報などの専門知識はもちろん、語学力や交渉力、論理的な報告書を作成する能力も欠かせません。

会社での研修もありますが、現場で価値を発揮するためには、実務を通じて学び続ける姿勢が何よりも大切だと痛感しています。

利益と社会貢献のバランスで揺れ動く葛藤

ーーー国際協力の最前線で働く中で、大切にしている価値観は何ですか。

現地の文化や意思決定のプロセスを深く理解し、尊重することを最も大切にしています。

日本流のやり方をそのまま持ち込んでも、現地の状況には合わず、プロジェクトがうまく進まないことが少なくありません。

そのため、現場ではひたすら現地の人々と対話を重ね、どのような仕組みで社会が動いているのかを理解しようと努めています。

言語能力だけでなく、相手との信頼関係を築き、納得して動いてもらうためのコミュニケーション力が、この仕事の鍵だと感じています。

ーーービジネスとして国際協力を行う難しさは、どのような点にありますか。

会社の利益を確保することと、現地の国のために価値を提供することのバランスを保つことは、常に大きな課題です。

プロジェクトの現場にいると、求められる以上の支援をしたくなる瞬間が何度もあります。

しかし、民間企業として事業を持続させるためには、予算や要件の範囲内で現実的な落とし所を見つけなければなりません。

また、近年の円安の影響により、当初の想定よりもプロジェクトコストが大きく膨らむこともあります。

そうした制約の中で、いかに価値を提供するかという難しさにも日々向き合っています。

ーーーそうした難しさに対して、どのように向き合っているのでしょうか。

若いころは、とにかく現地のために理想を追求して突っ走っていた時期もありました。

しかし、結婚して守るべき家族ができ、会社組織としてビジネスを回す責任を実感する中で、少しずつ視点が変わってきました。

盲目的に支援を行うのではなく、日本側の持続可能性も考慮しながら、長期的な視点でプロジェクトを捉えるようになりました。

葛藤がなくなったわけではありません。

それでも、その現実的なバランス感覚こそが、長く国際協力の最前線で活動を続けていくために必要なのだと考えています。

専門性を磨き、国際協力の現場で価値を発揮し続けたい

ーーー現在のキャリアに対する満足度や達成度はどのように感じていますか。

現在のキャリアに対する満足度は100%です。

自分のやりたいことができている環境には、心から感謝しています。

一方で、自分自身の能力という観点での達成度は、まだ30〜40%程度だと感じています。

専門家としてはまだまだ未熟ですし、もっと学びたい、もっと成長したいというハングリーな気持ちを常に持ち続けています。

ーーーこれから挑戦していきたいことや、今後の展望を教えてください。

これまでは、さまざまな調整業務やプロジェクトの進行管理を中心に担ってきました。

今後は、よりテクニカルな領域に軸足を置き、自分自身の専門性をさらに高めていきたいと考えています。

特に、人工衛星の画像データを分析する「リモートセンシング」の技術に強い関心を持っています。

この技術をしっかりと身につけ、人に教えられるレベルまで専門性を磨くことで、開発コンサルタントとしての価値をさらに高めていきたいです。

セネガルで設置している人工衛星から位置を受信するインフラ

ーーー最後に社会課題の道を志す学生へメッセージをお願いします。

キャリアに迷ったり、今の状況に違和感を覚えたりしたとき、深夜に一人で就職サイトを見続けてしまうこともあるかもしれません。

しかし、一人で悩み続けても負のスパイラルに陥り、なかなか行動にはつながりません。

まずは、知識や経験を持っている人に相談し、自分の思いを言葉にして壁打ちをしてみてください。

誰かと対話することで、自分の進むべき方向性が少しずつ見えてくるはずです。

皆さんが勇気を出して、自分らしいキャリアへの第一歩を踏み出せることを応援しています。

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