今回インタビューしたのは、千葉市の起業家支援施設「CHIBA-LABO」を運営し、一級建築士としても活動する神長尊士さん。

その華やかな経歴の裏側には、バブル崩壊直後の「超就職氷河期」という、若き日の絶望がありました。

「社会に存在しないことの辛さ」を身をもって知る神長さんは、なぜ今、地方創生や起業家育成という社会課題に向き合い続けているのでしょうか。

建築士という専門性を軸にしながら、複数の「稼ぐ力」を築いてきた歩みを通して、不確実な時代を生き抜くための「キャリアのポートフォリオ」の重要性に迫ります。

就職活動に不安を感じる大学生や、今の働き方に違和感を抱く20代にとって、これからの時代を生き抜くヒントが詰まったインタビューです。

プロフィール

一級建築士としての専門性を軸に、「遊ぶように働く」を指針に掲げるローカルゼブラ企業である幕張PLAY株式会社を2013年に設立、代表取締役。起業家支援施設「CHIBA-LABO」運営やクラウドファンディング伴走など、地域を知り尽くしたアドバイザーとして「0→1」の起業支援を実践。挫折と成功を繰り返す経験を活かし、次世代の社会起業家育成にも注力。ソーシャルブランディング・循環型水耕栽培サプリメント・建築設計など多様な事業で千葉の未来の共創を目指す。

 

地方の衰退と貧困社会に、どう向き合うか

ーーー まず、神長さんが現在取り組まれている事業と、社会課題との接点について教えてください。

幕張PLAY株式会社の代表として、起業家支援やPUBLIC RELATION支援、建築設計などさまざまな事業を展開しています。

中心となっているのは、千葉市の起業家支援施設「CHIBA-LABO」の運営や、社会起業家を育成するプログラム「SOCIAL STARTUP STUDIO CHIBA(SSSC)」の活動です。

私の活動の根底にあるのは、「地方の衰退」と「貧困社会」という大きな社会課題への危機感です。

日本はこれから、人口減少と経済縮小が避けられない時代に入っていきます。

このままでは、インフラは整っていても経済的には貧しくなり、やがて人々の心まで貧しくなってしまうのではないか。そんな危機感があります。

そうした未来を食い止めるためには、個人、企業、行政がそれぞれ「稼ぐ力」を身につける必要があると考えています。

ーーー 「稼ぐ力」という言葉には、単なる金銭的利益以上の意味が込められているように感じます。

その通りです。

私が考える「稼ぐ力」とは、社会の中で自立して生き抜くためのレジリエンス、つまり回復力そのものです。

困難な状況に直面しても、しなやかに立ち直り、環境に適応していく力とも言えるかもしれません。

今の日本社会を見渡すと、多くの人が一つの会社や既存の仕組みに依存しすぎていて、その土台が揺らいだ瞬間に立ち行かなくなってしまう危うさがあります。

社会課題を解決するためには、まず解決の主体となる私たち自身が、経済的にも精神的にも自立していなければなりません。

情熱だけで動くのではなく、持続可能なビジネスモデルをつくり、社会に価値を提供し続ける。

その結果として得られる対価こそが、活動を継続するためのエンジンになるのです。

ーーー 「貧困社会」への危機感は、どこから来ているのでしょうか。

私の父の教えが強く影響しています。

戦前・戦後の激動期を生き抜いた父からは、幼い頃から「貧すれば鈍する」と聞かされて育ちました。

「貧すれば鈍する」とは、貧しさによって毎日そのことばかりを考えるようになり、心や知恵の働きまで鈍くなってしまう、という意味です。

父は、心が鈍くならないためには経済力が必要だと説いていました。

父の世代は高度経済成長を謳歌しましたが、私が社会に出るタイミングでバブルが崩壊しました。

経済縮小の流れは30年前から見えていたことですが、実際に貧困が現実のものとなっている今、私たちは国や組織に頼るだけではなく、自ら事業を立ち上げ、運営していく力を持たなければならないと思っています。


「社会に存在しない」半年間で知った痛み

ーーー 神長さんのキャリアの原点は、大学卒業時の超就職氷河期にあるとお聞きしました。当時の状況を詳しく教えていただけますか。

ええ、まさにそこが私の原体験であり、今の活動のすべてのエネルギー源になっています。

大学では4年間、建築を学び、設計というクリエイティブな仕事に就くことを夢見ていました。

しかし、いざ就職活動を迎えたとき、バブルが弾け、建築・設計系の求人はほぼ消滅していました。

特に、私が志望していた意匠設計の仕事は、景気の影響を最も受けやすい分野でした。

新卒を採用する余裕のある事務所は、どこにもなかったんです。

「大学で一生懸命学んできたことは何だったのか」

「自分はこの社会に必要とされていないのではないか」

そんな思いが頭の中を巡り、「仕事をすることの意味」を完全に見失ってしまいました。

結局、就職活動すらせず、どこにも就職しないまま卒業し、最初の半年間はいわゆる「プー太郎」として過ごしました。

ーーー その半年間は、どのような心境で過ごされていたのでしょうか。

一言で言えば、「社会に自分の居場所がどこにも存在しない」という強烈な恐怖と虚無感です。

朝起きても、行くべき場所がない。

誰からも必要とされていない。

当時、私はよく「暇ほどつらいことはない」と言っていました。

世の中には「自由になりたい」と願う人が多いですが、役割も責任もない完全な自由は、ただの「疎外」でしかありません。

このときに感じた「社会から切り離されている痛み」が、今までの私の人生キャリア形成の根底にあります。

「CHIBA-LABO」などで起業家や若者を支援しているのは、かつての私のように、社会に居場所を見出せずに苦しんでいる人たちに、新たな挑戦の場をつくりたいという思いがあるからです。


「社会の一部」に戻るために、まず動いた

ーーー その「痛み」が、どのように行動へと変わっていったのですか。

「社会に存在しない」という状態から抜け出すために、プライドを捨てて、まずは何でもいいから動こうと決意しました。

半年が経って、最初に始めたのは建設現場での配管工事の仕事です。

設計を学び、本来なら図面を引く立場を目指していた私にとって、油まみれ、埃まみれになって泥臭く働く現場は、理想とは程遠いものでした。

それでも、実際に自分の手を使って働き、現場の職人さんたちと汗を流す中で、「自分は今、社会とつながっている」という確かな実感を初めて得ることができました。

この経験があったからこそ、机上の空論ではない、現場に根ざした課題解決の重要性を学んだのだと思います。

ーーー 職人としての経験が、その後のキャリアにどう繋がっていったのでしょうか。

現場での経験は、私に「専門性」の重要性と、「表現すること」の楽しさを再認識させてくれました。

その後、もともと芸術に関心があったこともあり、テーマパークの壁画制作アシスタントのアルバイトを経験しました。

そこで出会った作家さんたちの、「自分の腕一本で世界をつくる姿」に強く触発されたのです。

その流れで、ディズニーシーの新築工事に関わる建築工事関連会社の社員になりました。

「将来は設計士になる」という夢を心の火種として持ち続けながら、まずは目の前の現場で結果を出す。

その積み重ねが、少しずつ私を「社会の一部」へと戻してくれました。

ーーー 設計士になる夢を諦めず、現場にいながら一級建築士の資格を取得されたのですね。

はい。現場監督として働きながら、25歳で一級建築士に一発で合格しました。

この時期は、過酷であり、同時に最も充実していた時期でもあります。

現場で仕事をしながら、合間で死ぬ気で勉強する。

「今の自分には何もない。だからこそ、この資格という『社会的評価』を勝ち取らなければ、一生社会の周辺部で終わってしまう」

そんな危機感がありました。

プライベートの時間を全て試験勉強の時間に充てた結果、合格をつかみ取ることができました。

この資格を得たことで、ようやく自分の中に、キャリアの「土台」ができたと感じました。

その後、歯科医院専門の設計や高級輸入住宅の設計管理へとステップアップしていきましたが、常に「現場を知る設計士」としての強みを活かすことができました。


会社に依存しないための「キャリアのポートフォリオ」

ーーー 着実にキャリアを築かれていた神長さんですが、38歳で独立を選ばれました。その背景にある「違和感」は何だったのでしょうか。

実は、独立は最初から計画していたような、華やかなものではありませんでした。

きっかけは、当時勤めていた会社の経営が急激に悪化し、将来の展望が見えなくなったことです。

結局、その会社も、さらにその前に在籍していた会社も、私が去った後に倒産や廃業をしてしまいました。

バブルの名残を引きずった経営手法のまま、時代の変化に対応できずに消えていく企業を目の当たりにしたとき、私の中に一つの確信が生まれました。

それは、「会社という組織は、決して個人を守ってくれる安定した場所ではない」ということです。

ーーー その確信が、現在の多角的な事業運営に繋がっているのですね。

その通りです。

私は、キャリア構築の基準を「大企業の看板」や「組織への依存」から、自分のスキルにつながる「体験価値」へと明確にシフトさせました。

会社員であっても、収入の柱が一つしかない状態は、実はとてもリスクが高い。

そう考えるようになってからは、収入の柱を複数持つことを意識するようになりました。

私は、建築士としての「ライスワーク(生活を支える基盤となる仕事)」を持ちながら、コミュニティ創出や起業家支援といった「ライフワーク(自らの志を果たすための仕事)」にも取り組んでいます。

いわば、複数の仕事を組み合わせながら、自分なりのポートフォリオ経営を実践してきたということです。

一つの柱が揺らいでも、別の柱で支えられる。

この構造をつくっておくことが、不確実な時代における最大のリスクヘッジになると考えています。

ーーー 「ライスワーク」と「ライフワーク」の両立において、大切にされていることはありますか。

どちらか一方に偏りすぎないことです。

社会貢献や社会課題解決を志す人は、「お金よりも志」と考えがちです。

しかし、経済的な基盤が不安定なままでは、どれだけ高い志があっても長続きしません。

逆に、お金のためだけに働いていては、心がどんどん疲弊していきます。

私は、自分自身が「稼ぐ力」を持ち、経済的に自立しているからこそ、誰に対しても忖度せず、本当に正しいと思える社会起業家支援ができると考えています。

「正しいことを実行し続けるためには、実力と経済力が必要だ」

これは、私が30年間のキャリアを通じて積み上げてきた、最も重要な「思考」の一つです。

外に出て初めて見える景色がある

ーーー 神長さんご自身が、20代の頃に「もっとこうしておけばよかった」と思うことはありますか。

あります。それは「もっと早く海外へ飛び出せばよかった」ということです。

50歳を過ぎたいま、やっとアジアの企業と事業連携できるようになりました。

「日本の常識が通用しない場所で、現地の課題を目の当たりにし、多様な価値観を持つ人たちと協働する」経験は、視野を一気に広げてくれると考えています。

今の日本の地方が抱える課題の多くは、実は世界各地で起きている課題と繋がっています。

地方創生の文脈では、よく「若者の流出を止めよう」と言われますが、私はむしろ逆で、若者はどんどん外に出るべきだと思っています。

ーーー 「外に出る」ことが、結果として地域のためになるということでしょうか。

その通りです。

一度日本や地元から飛び出し、海外の最先端の事業や、あるいはもっと過酷な社会課題の現場に身を置いてみる。

そこで得た知見やネットワーク、そして「外から地元を見る視点」を持って帰ってくる若者が増えることこそが、停滞した地域にイノベーションをもたらす道だと思っています。

地元を愛しているからこそ、一度離れる。

そんな覚悟を持った若者が増えることを、私は期待しています。


失敗が「体験価値」になる社会へ

ーーー 神長さんが目指す、これからの社会の姿について教えてください。

私が目指しているのは、誰もが何度でも挑戦でき、何度でもやり直せる社会です。

私自身、22歳のときに「社会に居場所がない」という絶望を経験しました。

だからこそ、今の若者たちに同じ思いを味わわせてはいけないと強く感じています。

たとえ失敗したとしても、それが「貴重な体験価値」として受け止められ、次のステップにつながっていく。

そんな優しいエコシステムをつくりたいと思っています。

そのために、私は千葉という場所から、新しい働き方や起業のあり方を提示し続けています。

「CHIBA-LABO」や「SSSC」といった場が、単なるビジネスの拠点ではなく、志を共にする仲間が集い、知恵を出し合って共創が生まれる場となればいいと考えています。

経済的な自立を支えながら、その根底には人間愛がある。

そんな温かいコミュニティを広げていくことが、私のこれからの挑戦です。

ーーー 最後に、社会課題の道を志す学生へメッセージをお願いします。

「社会のために何かをしたい」という純粋な想いは、今の世界にとってとても尊いエネルギーです。

でも、その想いを形にするためには、まずあなた自身が幸せであり、強くある必要があります。

自分を犠牲にする支援は、決して長続きしません。

まずは自分自身が、どのようなキャリアを歩み、どのような「稼ぐ力」を身につけたいのか、真剣に向き合ってみてください。

国内外をたくさん旅して、たくさんの人と出会い、自分のカラダで世界の「今」を感じてほしいと思います。

そして、何かを感じたら、目先の利益にとらわれることなく迷わず動いてみること。

失敗を恐れる必要はありません。

その失敗こそが、将来あなたを豊かにする最強の「体験価値」になるからです。

あなたの世代が持つ感性と行動力が、これからの日本を、そして世界を変えていく。

私はそう信じています。

自分を信じて、一歩前へ。

私はいつでも、あなたの挑戦を全力で応援しています。

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