2016年3月に内閣府のワーキング・グループがまとめた報告書に、日本と英国を並べた数字が載っています。
英国では約75%の団体がインパクト評価を実施しているのに対し、日本で事業の「効果」まで評価していると答えた団体は約33%でした。
活動に打ち込んでいるほど、その価値をどう示せばよいのかで手が止まる場面は多いものです。
用語の意味をつかんでおくと、団体の報告書や求人票に並ぶ言葉を、自分の判断で読み解けるようになります。
この記事では、定義と背景、ロジックモデルの4つの要素、代表的な手法、日本での広がり、関わる仕事までを解説します。
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社会的インパクト評価とは
社会的インパクト評価とは、事業や活動が生み出した社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、その事業や活動について価値判断を加えることです。
2016年3月に内閣府の社会的インパクト評価検討ワーキング・グループがまとめた報告書の定義です。
参考:社会的インパクト評価の推進に向けて(社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ、2016年3月)
報告書は、評価を「監査」や「査定」ではなく「価値を引き出す」ことだと位置づけています。
目的は2つに整理されており、外部の利害関係者に対する説明責任と、組織内部での学び・改善です。
「社会的インパクト」が指すもの
社会的インパクトとは、短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカムのことです。
内閣府の報告書による定義です。
ここで押さえたいのは、社会的インパクトがアウトカムの一種だという点です。
この定義がよく使われるのが、助成や寄付を受けて活動する非営利組織の現場です。
NPOという組織の仕組みを押さえておくと、そこで評価が求められる理由も見えてきます。
「インパクト評価」とは別の言葉
よく似た言葉に「インパクト評価」があります。
内閣府の報告書は、インパクト評価を、介入の有無を比べて純粋な効果(ネット・アウトカム)を取り出す方法だと説明しています。
一方の社会的インパクト評価は、計画から報告・活用までの評価プロセス全体を指す言葉です。
一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)も、社会的インパクト評価を略して「インパクト評価」と呼ぶことに注意を促しています。
参考:社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン(VERSION 2)(一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ、2021年3月)
なぜ社会的インパクト評価が求められるのか
背景にあるのは、お金の出し手の姿勢が変わったことです。
そこへ休眠預金等活用法、成果連動型民間委託契約方式、インパクト投資という3つの動きが重なりました。
資金の出し手が成果を求めるようになった
内閣府の報告書は、2008年の金融危機をきっかけに、助成財団や投資家が以前より成果を求めるようになったと述べています。
英国の調査機関NPCが2012年に行った調査では、評価を強化した理由の最多が「資金提供者の要求の変化」で51.8%でした。
環境や社会への取り組みを投資判断に生かす動きは、ESG投資と呼ばれます。
ESGという言葉の意味や、その周辺で生まれている職種は、次の記事にまとめています。
休眠預金等活用法が評価を制度に組み込んだ
日本で評価が身近になった転機は、休眠預金のお金が公益活動に回り始めたことです。
根拠は、2016年に制定された休眠預金等活用法(民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律)です。
この法律の第20条第1項にもとづき、内閣総理大臣は2019年1月11日に、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)を指定活用団体に指定しました。
参考:指定活用団体「日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」について(内閣府)
休眠預金等活用の基本方針が対象とするのは、JANPIA、資金分配団体、活動支援団体、実行団体の4者です。
この4者は、休眠預金等活用のすべての事業で社会的インパクト評価を実施することを求められています。
行政が成果に連動してお金を払う仕組みが生まれた
成果連動型民間委託契約方式(PFS)とは、解決を目指す社会課題に対応したアウトカムから、成果指標を設定する事業方式です。
内閣府の共通的ガイドラインによると、自治体などが支払う額は、その成果指標値の改善状況に連動します。
支払いが成果に連動する以上、何をもって成果とするかを先に決めなければなりません。
参考:成果連動型民間委託契約方式(PFS)共通的ガイドライン(内閣府成果連動型事業推進室、2024年2月改訂)
インパクト投資が広がった
民間の投資でも、社会や環境への効果を測る動きが進んでいます。
金融庁は2024年3月に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表しました。
指針は、インパクト投資の基本的要素を4つ挙げています。
投資プロセスにかかるのが「意図」「効果の実現に貢献」「特定・測定・管理」の3つで、4つ目として、市場や顧客の変革を支援することが特記されています。
参考:「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」の公表について(金融庁、2024年3月29日)
実際にインパクト投資へ踏み込んでいる企業は、次の記事で名前とともに紹介しています。
ロジックモデルで整理する4つの要素
評価の土台になるのが、事業の道筋を描くロジックモデルです。
内閣府の報告書は、ロジックモデルを、プログラムに投入される「資源」「活動」「アウトプット」「アウトカム」の論理的な結びつきを描いたものだと説明しています。
各要素は「もし〜なら、〜になる」という推論の連なりで結ばれます。
4つの要素の意味
SIMIが公開している「ロジックモデル解説」も、ロジックモデルは「インプット」「活動」「アウトプット」「アウトカム」の4つの要素で図示されると述べています。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| インプット | 事業活動などを行うために使う資源。ヒト、モノ、カネ、情報など |
| 活動 | モノ・サービスを提供するために行う諸活動。内閣府の報告書の図では「活動(Activity)」と表記 |
| アウトプット | 事業活動によって変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービス |
| アウトカム | 事業や取り組みのアウトプットがもたらす変化、便益 |
参考:ロジックモデル解説(一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)
子どもの学習支援を例にすると、講師とテキストがインプット、週1回の教室の開催が活動にあたります。
教室に何人が参加したかがアウトプットで、参加した子どもに学習の習慣がついたかがアウトカムです。
社会的インパクトは、この4つと並ぶ5番目の箱ではありません。
アウトプットとアウトカムの違い
実務で最も取り違えられやすいのが、この2つの区別です。
内閣府の報告書は、提供したサービスや製品の規模や範囲を示すアウトプットの測定のみでは、社会的インパクト評価にならないと明言しています。
求められているのは、事業によってどのような変化がもたらされたかという点まで、もう一歩踏み出すことです。
参加人数が去年より増えていても、参加した人の状況が変わっていなければ、アウトカムはまだ生まれていません。
セオリー・オブ・チェンジとの違い
ロジックモデルと並んで使われるのが、変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)です。
内閣府の報告書は、変化の理論を、活動の必要性からアウトカム、インパクトまでの道筋やプロセスを示すものだと説明しています。
ロジックモデルは描写的で構成要素のリスト、変化の理論は変化の経路の説明という違いがあります。
複数の組織が同じ変化の道筋を共有して動く進め方は、次の記事で扱っています。
≫コレクティブインパクトとは?5つの要素や事例、関わる仕事を解説
社会的インパクト評価の代表的な手法
社会的インパクト評価は、一つの決まった手法を指す言葉ではありません。
目的と使える資源に応じて、測り方を選びます。
SROI(Social Return on Investment)
SROIは、アウトカムを金銭に換算することを組み込んだ評価の進め方です。
内閣府の報告書が海外のガイドラインから整理したSROIのプロセスは、分析範囲とステークホルダーの特定から始まります。
アウトカムを洗い出して測定し、金銭換算したうえで、インパクトを確定してSROIを算出する流れです。
開示にあたっては、死荷重(deadweight)や寄与率(attribution)、置換効果(displacement)といった考え方も使われます。
ただし報告書は、社会的インパクト評価そのものについては貨幣換算が前提ではないと明記しています。
IMM(インパクト測定・マネジメント)
SIMIのガイドラインは、インパクト投資の分野で参考になるものを2つ挙げています。
Impact Management Project(IMP)によるインパクトの5つの基本要素が一つです。
もう一つは、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)が開発したIRIS+です。
そのうえで、インパクト投資ではこれらを「インパクト測定・マネジメント(IMM)」の一連の手法として扱うようになってきたと説明しています。
ランダム化比較実験などの分析手法
因果関係を厳密に確かめたい場合には、比較の対象を置く方法が使われます。
内閣府の報告書は、分析手法の例として、事前・事後比較、時系列、クロスセクション、一般指標、マッチング、実験的手法の6つを挙げています。
このうち実験的手法は、対象を無作為に分け、事業を実施したグループとしなかったグループを比べるやり方です。
医療分野で発展したランダム化比較実験(RCT)が、その代表として知られています。
報告書は同時に、厳密さを求めた実験的手法を現実の介入に当てはめることには、倫理的側面やコストの面から限界があると指摘しています。
こうした調査設計や政策の側から課題に関わる道は、次の記事で解説しています。
日本で社会的インパクト評価が使われている場面
日本で評価が根づいたのは、休眠預金を使う事業と、自治体の成果連動型事業の2つです。
どちらも、お金の流れそのものに評価が組み込まれています。
休眠預金等活用事業での評価
JANPIAは、社会的インパクト評価のガイドラインとして「評価指針」を定めています。
現行版は2024年5月改訂版で、2019年7月に策定されたあと、出資事業と活動支援団体の創設を受けて内容が追記されました。
対象になるのは、資金分配団体、活動支援団体、実行団体が休眠預金等を使って行う事業です。
評価結果の活用として示されているのは、説明責任を果たすこと、学びを改善につなげること、知識の創造のための材料とすることの3点です。
参考:評価指針・評価ハンドブック等(一般財団法人日本民間公益活動連携機構)
資金はJANPIAから資金分配団体を経て実行団体へ渡り、団体をつなぐ中間支援の働きがこれを支えます。
団体と団体をつなぐ中間支援を事業にしている企業は、次の記事で一覧にしています。
自治体のPFS・SIB事業
自治体の側では、成果指標を先に決める事業が各地で動いています。
ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)は、このPFSの一形態です。
内閣府のガイドラインによると、SIBによるPFS事業では、受託者が金融機関などの資金提供者から事業資金を調達します。
その償還は、自治体の成果連動払いの額に応じて行われます。
国内の実施例として挙がっているのは、次の3つです。
八王子市は、大腸がん検診と精密検査の受診率を高める事業をSIBで実施しました。
豊田市は、高齢者の社会活動量を増やすプログラムを通じて、介護予防による介護給付費の適正化を目指しました。
法務省は、少年院を出た後に最長1年間の学習支援を続ける事業を、SIBで実施しました。
一方でガイドラインは、国内ではSIBによるPFS事業の数は多くなく、多くのPFSは金融機関からの資金調達を伴わないと述べています。
社会的インパクト評価が実務で直面する課題
評価は万能ではありません。
内閣府の報告書は、普及に向けた課題として、意義や必要性の理解不足、手法への理解の不足、手法(ツール)の不足、基礎的な情報や資料の未整備、評価人材の不足、評価コストの負担と支援の在り方の6つを挙げました。
実務でつまずくのは、この6つのうち人材とコストの問題に、測定そのものの難しさが重なる場面です。
因果関係の証明が難しい
事業の後に変化が起きても、それが事業のおかげだと言い切るには、事業がなかった場合との比較が必要です。
コストと人材が足りない
課題として挙がっているのは、評価を担う人材の不足と、評価コストの負担や支援の在り方です。
対応策として示されたのが、共通の評価ツールや指標を作り、評価にかかるコストを下げることでした。
測りやすい指標に寄ってしまう
報告書は、インパクトは長期になり広範になるほど、把握の困難度が増していくと述べています。
どこまでを評価の対象とするかは、評価の目的、資金の提供者のニーズ、組織が持つ資源を踏まえ、関係者の合意の上で決まります。
測りやすさだけで指標を選ぶと、本当に目指していた変化がこぼれ落ちます。
複数の団体が指標を共有して測る進め方は、コレクティブインパクトという協働の枠組みとも重なります。
社会的インパクト評価・インパクト測定に関わる仕事
評価は、事業を行う団体だけで完結する作業ではありません。
公的なガイドラインにも、評価を支える立場が複数出てきます。
第三者評価機関の評価者
第三者評価機関は、内閣府のPFSガイドラインが実施体制の一つに挙げる立場です。
成果指標の測定やアウトカム評価に加え、事業活動の有効性などを第三者の立場から評価します。
評価の独立性を確保するうえで、設置が望ましいとされています。
中間支援組織のスタッフ
中間支援組織は、自治体やサービス提供者といった事業関係者の間の調整や、案件形成を担う立場です。
内閣府の報告書も、評価を力に変えようとする団体に寄り添い、支援する力を自ら高めていくことを、中間支援組織に呼びかけています。
中間支援の隣には、NPOの現場で課題解決に関わる働き方も広がっています。
コンサルタント・シンクタンクの研究員
内閣府の報告書は、シンクタンクや研究者が評価専門のチームを編成し、評価者に寄り添った支援を実施すべきだとしています。
課題の構造そのものに外から関わる進め方は、次の記事で取り上げています。
行政の担当者
PFS事業を発注する自治体や省庁の担当者も、成果指標の設計に関わります。
行政の立場から社会課題に向き合うキャリアには、制度そのものを設計できる強みがあります。
どの立場でも、ロジックモデルを描く力、データを集めて読む力、関係者と合意をつくる力が土台になります。
よくある質問
社会的インパクト評価を調べるときに、つまずきやすい点をまとめました。
Q. 社会的インパクト評価とは何ですか?
A. 社会的インパクト評価とは、事業や活動が生み出した社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、その事業や活動について価値判断を加えることです。2016年3月に内閣府の社会的インパクト評価検討ワーキング・グループがまとめた報告書の定義です。一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブも、この定義を踏襲しています。報告書は評価を監査や査定ではなく価値を引き出すものと位置づけ、目的を説明責任と学び・改善の2つに整理しています。
Q. アウトプットとアウトカムはどう違いますか?
A. アウトプットとは、事業活動によって変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービスです。アウトカムは、そのアウトプットがもたらす変化や便益を指します。いずれもSIMIのロジックモデル解説と用語集による定義です。教室を何回開いて何人が参加したかがアウトプットで、参加した人に学習の習慣がついたかどうかがアウトカムにあたります。内閣府の報告書は、提供したサービスの規模や範囲を示すアウトプットの測定のみをもって評価を行うことは、社会的インパクト評価ではないと明言しています。
Q. ロジックモデルとは何ですか?
A. ロジックモデルとは、事業に投入される資源、活動、アウトプット、アウトカムの論理的な結びつきを描いたものです。内閣府の報告書は、各要素を「もし〜なら、〜になる」という推論の連なりで結ぶと説明しています。活用される場面として挙げられているのは、プログラムの設計、プログラムの管理、評価と報告の3つです。似た言葉の変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)は、最終アウトカムに至る変化の経路を、より詳しく説明する図として使われます。
Q. SROIとIMMは何が違いますか?
A. SROIは、アウトカムを金銭に換算することを組み込んだ評価の進め方です。内閣府の報告書は、その要旨として、ステークホルダーの特定、アウトカムの測定と金銭換算、インパクトの確定、SROIの算出という流れを紹介しています。IMMはインパクト測定・マネジメントの略です。SIMIのガイドラインは、IMPによるインパクトの5つの基本要素やGIINのIRIS+を挙げています。インパクト投資では、これらを一連の手法として扱うようになってきたという説明です。
まとめ
社会的インパクト評価とは、事業が生んだ変化を把握し、その事業に価値判断を加える営みです。
後押ししてきたのは、休眠預金等活用法、成果連動型民間委託契約方式、インパクト投資という3つの流れでした。
手はじめに、気になる団体の年次報告を1つ開き、そこに並ぶ数字をアウトプットとアウトカムに仕分けてみてください。
参加人数の先に、その人たちに何が起きたかまで書かれているなら、その団体は一歩先にいます。
ココキャリアで求人を見るときも、その団体が何をもって成果としているかに目を向けると、選び方が変わります。
測り方を知ることは、社会を良くしたいという気持ちを、長く続けられる仕事に変える手がかりになります。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
