畜産業と聞くと、牧場や養豚場の景色は思い浮かんでも、どんな会社が何に取り組んでいるのかは、意外と見えにくいものです。
農林水産省の畜産統計(2026年2月1日現在、7月28日公表)によると、乳用牛を飼う農家は1万800戸で、前年より500戸(4.4%)減りました。
肉用牛は3万1,800戸で2,200戸(6.5%)減り、豚も2,880戸と、前回の2024年から250戸(8.0%)減っています。
一方で、乳用牛の1戸当たりの飼養頭数は119.1頭と、前年より4.7頭増えました。
畜産業がいま何に困っていて、そこにどんな会社が手を打っているのか。
担い手・飼料・温室効果ガス・アニマルウェルフェアの4つの課題を押さえたうえで、8社の事業と、その現場にある仕事を紹介します。
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畜産業とは
畜産業とは、牛・豚・鶏などの家畜を飼い、食肉・牛乳・卵などの畜産物を生産する産業です。
牛乳をとる酪農、牛肉をとる肉牛の肥育、豚肉をとる養豚、卵をとる採卵鶏など、家畜によって仕事の中身は変わります。
畜産業が抱える社会課題
畜産業が向き合っている問題は、農家の減少、えさの輸入依存、温室効果ガス、動物への配慮の4つに大きく分かれます。
農家の戸数が減り、1戸当たりの頭数が増えている
1戸当たりの飼養頭数は、乳用牛が119.1頭、肉用牛が77.8頭、豚が3,040.3頭で、いずれも前年や前回より増えています。
飼養戸数が減る一方で、1戸当たりの平均の頭数は増えています。
背景には、後継者が見つからずに廃業する農家と、残った経営体が規模を広げて生産量を保つ動きがあります。
規模が大きくなるほど設備や人手の負担も増えるため、省力化の技術が求められています。
えさの多くを輸入に頼っている
農林水産省の2024年度の資料によると、総合食料自給率(カロリーベース)は38%で、飼料自給率は26%です。
畜産物は、カロリーベースで国内で生産された割合(食料国産率)が65%ですが、輸入飼料による生産分を除く食料自給率は17%になります。
肉や卵、牛乳の生産は国内で行っていても、えさの多くを海外に頼っている構造が、数字に表れています。
温室効果ガスと環境への負荷
FAO(国連食糧農業機関)の2023年の発表によると、2015年の畜産関連の排出量は年およそ62億トン(CO2換算)です。
人為起源の温室効果ガス排出量の約12%にあたります。
飼料に関わる土地利用の変化や輸送、資材の製造など、供給の過程の一部を含む推計で、牛(肉と乳)が畜産全体の62%を占めるとしています。
日本では、環境省と国立環境研究所が2026年4月に公表した2024年度の排出量のうち、メタンは2,790万トン(CO2換算)でした。
その81.7%が、農業(家畜の消化管内発酵、稲作等)の区分で、家畜だけの数字ではありません。
排出を抑える手段のひとつとして、動物の細胞から食肉をつくる培養肉の開発に取り組む企業もあります。
大豆などを原料にした代替肉と違い、培養肉は動物の細胞を増やしてつくるため、肉としての食感や栄養に近づけやすいとされます。
アニマルウェルフェアへの対応
アニマルウェルフェアとは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態のことです。
国際獣疫事務局(WOAH)の勧告にあるこの定義を、農林水産省のページが紹介しています。
農林水産省は、家畜を快適な環境で飼うとストレスや疾病が減り、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながるとして、普及に努めています。
2023年7月26日には、乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラー、馬ごとの飼養管理の技術的な指針を公表しました。
2026年7月31日付では、指針のうち「実施が推奨される事項」の達成目標を設定しています。
採卵鶏では、鶏舎内を自由に動ける平飼いや、止まり木・巣箱を備えたエンリッチドケージなど、従来のケージ飼育に代わる方式の導入が課題になっています。
畜産業に取り組む企業一覧
ここで取り上げる8社は、アニマルウェルフェア、酪農のデータ活用、養豚のAI、培養肉、食品残さの飼料化と、取り組む分野が分かれています。
| 企業 | 取り組み分野 | 公式サイトで確認できた特徴 |
| 日本ハム株式会社 | アニマルウェルフェア・養豚DX | グループの養豚会社が3農場で妊娠期母豚のストールを廃止 |
| 株式会社HiOLI | 酪農の副産物活用 | 無脂肪乳などの副産物を使うクラフトスイーツ |
| 株式会社ファームノート | 酪農DX | 牛の状態を見える化するセンサーとアプリ |
| 株式会社みやじ豚 | ブランド豚・後継者の交流 | 単一農場のブランド豚。後継者のネットワーク |
| 株式会社Eco-Pork | 養豚のAI・IoT | クラウド型養豚経営支援システム「Porker」 |
| インテグリカルチャー株式会社 | 細胞農業(培養肉) | 細胞培養食品の生産技術を研究開発 |
| ダイバースファーム株式会社 | 培養肉(鶏肉) | 動物の細胞から食肉を作製 |
| 株式会社恋する豚研究所 | 養豚・食品残さの飼料化 | 使われなくなった食品を豚のえさに加工 |
日本ハム株式会社
日本ハム株式会社は、大阪市に本社を置き、食品の製造・販売を行う企業です。
2021年11月にアニマルウェルフェアポリシーを制定し、国際獣疫事務局が示す「5つの自由」の推進を掲げています。
グループで養豚を担う日本クリーンファーム(株)では、北海道と青森県の3農場で、妊娠期の母豚を収容するストールを廃止しました。
「国内畜産業の課題解決」のページでは、母豚の発情をAIが判定するスマート養豚システム「PIG LABO」を紹介しています。
人による発情確認作業を約8割削減できたとしています。
株式会社HiOLI
株式会社HiOLIは、2018年8月に創業したクラフトスイーツの会社です。
バターをつくる際に生まれる無脂肪乳などの副産物を、プロダクト開発に生かしています。
酪農家や農家の課題に寄り添い、サステナブルな社会の実現に向けた新しい価値づくりを目指すとしています。
株式会社ファームノート
株式会社ファームノートは、北海道帯広市に本社を置き、酪農・畜産向けのテクノロジーを提供する企業です。
センサー「Farmnote Color」は牛の行動データをAIで解析して状態を見える化し、アプリ「Farmnote Cloud」はスマートフォンでの牛群管理を担います。
2024年11月14日付のお知らせでは、明治ホールディングス株式会社と共同で、飼料添加物Bovaerを使った温室効果ガス削減の実証実験を始めると発表しました。
なお、2025年9月に旧社名の株式会社ファームノートホールディングスから改称したため、ココキャリアの掲載ページは旧社名の表記です。
株式会社みやじ豚
株式会社みやじ豚は、神奈川県藤沢市で、ブランド豚「みやじ豚」の生産・加工・販売を行う企業です。
規模の拡大を追わず、「きちんと手をかけていいものをつくる」姿勢で経営してきたとしています。
月間の出荷数は約130頭で、1経営体における平均生産頭数の4割程度です。
湘南藤沢の観光果樹園では、バーベキューイベント「みやじ豚BBQ」を毎月開き、生産者が参加者と直接話をします。
2009年には、代表の宮治勇輔さんが、全国の生産者の「こせがれ(息子・娘)」達をつなぐNPO法人農家のこせがれネットワークを設立しました。
株式会社Eco-Pork
株式会社Eco-Porkは、2017年11月に創業した、養豚を起点にしたデータカンパニーです。
Missionには「データを用いた循環型豚肉経済圏の共創」を掲げています。
クラウド型の養豚経営支援システム「Porker」は、ICT・IoT・AIで養豚の経営改善を支えます。
「Porker Sensor」シリーズは、気温、湿度、CO2、水、飼料などを測り、豚舎の飼養環境を見える化します。
AI豚カメラは、豚舎を端から端まで移動して、複数頭の体重を一括で測ります。
インテグリカルチャー株式会社
インテグリカルチャー株式会社は、2015年10月に設立された、細胞農業の研究開発を行う企業です。
細胞農業とは、生き物から採取した細胞を育てて資源をつくる取り組みです。
2026年2月25日のお知らせでは、培養液の製造プロセスの環境負荷を評価した論文が、学術誌Future Foodsに掲載されたと伝えています。
製造規模の拡大や機械化、再生可能エネルギーの利用などで、現在の手法より環境負荷を70%以上削減できる可能性が示されたとしています。
比較の対象は現在の培養液の製造方法で、畜産との比較ではありません。
インテグリカルチャー株式会社の事業内容や創業理由を詳しく見る
ダイバースファーム株式会社
ダイバースファーム株式会社は、埼玉県ときがわ町に本社を置く、培養肉(細胞性食品)を開発するスタートアップです。
動物から少量のタネ細胞を採取し、培養液の中で増やして食肉を作製します。
バイオベンチャーのティシューバイネット株式会社と料理店「雲鶴」が共同で設立し、鶏生産者の株式会社阿部農場も経営に参加しています。
テクノロジーのページでは「既存の畜産業と培養肉工場の共存・共栄」を掲げ、畜産農家と協力体制を整えているとしています。
温室効果ガスの削減効果も見込めるとしていますが、科学的な数値は未定だと書いています。
株式会社恋する豚研究所
株式会社恋する豚研究所は、2012年2月に設立された千葉県香取市の企業で、食肉や食肉加工品の企画・開発・製造・販売を行っています。
豚を育てるのは在田農場(有限会社アリタホックサイエンス)の1農場だけで、契約農場を増やすつもりはないとしています。
食品工場やスーパーマーケットなどから出る、使われなくなった食品を、粉砕や熱処理などで豚のえさに加工しています。
豚のふん尿は堆肥に加工し、田んぼや畑にもどして、コメや野菜を育てています。
さまざまな理由で住宅の確保が難しい人も、同社で働いています。
畜産業に関わる仕事・キャリア
畜産業の仕事は、牛や豚を世話する現場だけではありません。
家畜を育てる仕事、その環境を整える仕事、技術で支える仕事、届け方を考える仕事が、それぞれに広がっています。
家畜を育て、農家を支える仕事
飼養管理は、餌や温度、衛生状態を日々調整しながら、家畜の状態を見て手を打つ仕事です。
自社の農場だけでなく、契約する農家をまわって指導する役割もあります。
日本ハム株式会社では、委託農家に衛生・飼料プログラムや温度管理の指導を行い、鶏舎の清掃や修繕、雛の受け入れ準備といった実業務も支援しています。
畜産の現場は、家畜の生き死にと向き合う仕事です。
生き物相手なので休みが読みにくい一方、育てたものが食卓に届くまでを見届けられます。
技術で現場を変える仕事
センサーやアプリで牛の発情や健康状態を捉え、経営のデータを分析する。
株式会社ファームノートや株式会社Eco-Porkのような会社では、エンジニアやプロダクトマネージャーが、畜産の現場と同じ側に立って開発にあたります。
畜産の知識がなくても、ソフトウェア開発やデータ分析の経験から入れる領域です。
培養肉を手がけるインテグリカルチャー株式会社やダイバースファーム株式会社では、細胞培養や食品開発の研究職が中心になります。
育てたものを届ける仕事
株式会社みやじ豚は、豚の生産・加工・販売に加えて、湘南バーベキュー文化創造事業と農産物ブランディング事業を手がけています。
畜産物をどう売るか、どう知ってもらうかを考える仕事が、生産と同じくらい経営を左右するためです。
イベントの企画・運営、ブランドづくり、飲食店や小売との取引など、生産以外の入口もここにあります。
ココキャリアで探す
畜産業に取り組む企業を一覧で探したいときは、ココキャリアの畜産業カテゴリで、この記事の7社をはじめ掲載企業の情報を見られます。
募集の有無や条件は時期で変わるため、応募を考えるときは各社の採用ページで最新の情報を確認してください。
農業分野の仕事や入り方の全体像は、次の記事で整理しています。
≫持続可能な農業のキャリアとは?仕事内容・入り方・キャリアパスを解説
よくある質問
畜産業に取り組む企業について、よくある疑問にお答えします。
Q. 畜産業とは何ですか?
A. 畜産業とは、牛・豚・鶏などの家畜を飼い、食肉・牛乳・卵などを生産する産業です。牛乳をとる酪農、豚肉をとる養豚、卵をとる採卵鶏など、家畜によって仕事の中身は変わります。農林水産省の畜産統計は、乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラーなどの家畜ごとに調べています。2026年2月1日現在の飼養戸数は、乳用牛が1万800戸、肉用牛が3万1,800戸、豚が2,880戸で、いずれも前年や前回より減りました。一方で、1戸当たりの飼養頭数は増えています。
Q. アニマルウェルフェアとは何ですか?
A. アニマルウェルフェアとは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態のことです。国際獣疫事務局(WOAH)の勧告にある定義で、農林水産省のページで紹介されています。農林水産省は、家畜を快適な環境で飼い、ストレスや疾病を減らすことが、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながると説明しています。2023年7月26日には、乳用牛・肉用牛・豚・採卵鶏・ブロイラー・馬ごとの飼養管理の技術的な指針を公表しました。
Q. 培養肉とは何ですか?
A. 培養肉(細胞性食品)とは、動物から採取した細胞を培養液の中で増やして作る食肉です。ダイバースファームの公式サイトは、動物から少量のタネ細胞を採取して作製すると説明しています。原材料は食材として使われているものだけだとも述べています。インテグリカルチャーは、生き物から採取した細胞を育てて資源をつくることを細胞農業と呼んでいます。環境への影響は、ダイバースファーム自身が温室効果ガスの数値を未定としており、この記事では確定した数字を示していません。
Q. この記事の企業は、就職・転職の募集をしていますか?
A. 各社の現在の募集状況は、確認していません。公式サイトで確認できた範囲では、株式会社Eco-Porkが採用の案内でエンジニアとマネージャーの募集を紹介し、株式会社ファームノートは2026年9月時点で、人事マネージャーやリードエンジニアなどの募集ページを公開していました。ほかの企業については、募集の有無をこの記事では判断できません。募集職種や条件は変わるため、応募前に各社の採用ページで確認してください。
まとめ
畜産業は、農家の戸数が減り、えさの多くを輸入に頼り、温室効果ガスや動物への配慮も問われる、課題が重なった分野です。
8社の公式サイトには、牛や豚の状態をデータで見える化する会社、副産物や食品残さを生かす会社、細胞から食肉をつくる会社がありました。
農家の後継者や、住まいに困る若者に目を向ける会社もありました。
気になる会社が見つかったら、まずは公式サイトで、事業の説明ページと採用ページを続けて開いてみてください。
畜産以外も含めて、社会課題に取り組む企業を比べながら探したいときは、ココキャリアに企業ごとの情報がまとまっています。
遠く感じる畜産業も、公式サイトを1社ずつ開いていけば、取り組みの中身が見えてきます。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
