海の問題と聞くと、写真でよく目にする海洋プラスチックごみの山を思い浮かべる方が多いかもしれません。
けれども、海が抱える課題はプラスチックごみだけではありません。
乱獲による水産資源の減少、海水温の上昇、海洋酸性化、赤潮や生態系の破壊といった問題も、静かに進行しています。
海の問題にはどんな種類があり、何が原因で、日本と世界はどこまで対策を進めているのか。
この記事では、乱獲から海洋酸性化まで代表的な6つの問題を、環境省や水産庁、FAOが公表している数字とあわせて紹介します。
日本の水産資源や海水温の状況、国連海洋会議やBBNJ協定といった世界の動き、企業の取り組み、そして海の問題に関わる仕事についても順に解説します。
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環境問題に取り組む企業やキャリア情報は、以下のページにまとめています。
海の問題とは
海の問題とは、乱獲や水温上昇、酸性化、富栄養化、プラスチックごみなどで海洋環境が悪化し、生態系や暮らしに影響が及んでいる状態の総称です。
一つの原因で起きているのではありません。
複数の要因が同時に、しかも互いに影響し合いながら進んでいる点が、この課題の難しさです。
海洋プラスチックごみとの違い
「海の問題」と検索すると、プラスチックごみの話題が最も多く出てきます。
海洋プラスチックごみは、たしかに海の問題の代表格のひとつです。
ただし、海が抱える課題はプラスチック以外にも幅広く存在し、乱獲や水温上昇のように、目に見えにくい形で進んでいる問題も少なくありません。
海洋プラスチックごみ問題の現状や解決策については、以下の記事で詳しく解説しています。
プラスチック以外の問題は、数字を追いかけて初めて気づけるものがほとんどです。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」との関係
海の問題は、SDGs(持続可能な開発目標)の目標14「海の豊かさを守ろう」に直接つながるテーマです。
目標14は、海洋汚染の防止や水産資源の持続可能な利用、沿岸生態系の保全などを通じて、海の豊かさを守ることを掲げています。
SDGs目標14の現状と私たちにできることは、以下の記事で解説しています。
≫【SDGs目標14】海の豊かさを守ろうとは?現状と私たちにできること
海の問題の主な種類
海の問題には、水産資源に関わるものから、水質や気候に関わるものまで、いくつかの種類があります。
代表的なものは、乱獲、海水温の上昇、海洋酸性化、富栄養化・赤潮、生態系の破壊、プラスチックごみの6つです。
乱獲・過剰漁獲
乱獲・過剰漁獲とは、魚が自然に増える速さを上回るペースで漁獲を続け、水産資源そのものを減らしてしまう問題です。
国連食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖業白書2024」によると、2021年時点で生物学的に持続可能な水準にある水産資源は62.3%でした。
この割合は2019年から2.3ポイント低下しており、過剰漁獲の資源は数十年にわたり増加傾向が続いています。
獲りすぎが続けば、資源が減るだけでなく、その種が絶滅危惧種として扱われる段階まで進むこともあります。
参考:The State of World Fisheries and Aquaculture 2024(FAO)
漁業の課題に取り組む企業は、以下の記事で紹介しています。
≫漁業の課題に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
海水温の上昇
海水温の上昇とは、地球温暖化によって大気中に増えた熱の多くを海が吸収し続けた結果、海水の温度が長期的に高くなっていく現象です。
海水温が上がると、魚の分布域が変わり、これまで獲れていた漁場で獲れなくなったり、サンゴの白化が起きやすくなったりします。
海水は温まると膨張するため、水温の上昇は海面上昇にもつながります。
気候変動そのものの原因や影響については、以下の記事で解説しています。
≫【2026年最新】気候変動とは?原因・影響・対策をわかりやすく解説
海洋酸性化
海洋酸性化とは、大気中の二酸化炭素の一部を海水が吸収することで、海水の性質が徐々に酸性側に傾いていく現象です。
気象庁が日本の南方、東経137度の定線で行った1983年から2007年までの観測では、表面海水のpHが低下し続けていました。
低下のペースは、冬季で10年あたり0.018、夏季で10年あたり0.013です。
酸性化が進むと、貝やサンゴ、プランクトンなど、殻や骨格を炭酸カルシウムでつくる生き物が、その骨格をつくりにくくなります。
食物連鎖の下層にあたる生き物への影響は、巡り巡って漁業にも及びます。
富栄養化・赤潮
富栄養化とは、生活排水や農地からの肥料成分などが川を通じて海に流れ込み、窒素やリンといった栄養分が海水中に過剰にたまる現象です。
富栄養化が進むと、特定のプランクトンが異常に増殖し、海面が赤褐色に変わる赤潮が発生しやすくなります。
赤潮はプランクトンが魚のえらに詰まったり、水中の酸素を奪ったりするため、養殖業や沿岸漁業に大きな被害をもたらすことがあります。
生活排水を浄化する浄化槽は、河川や海への栄養分の流出を抑え、富栄養化を防ぐ役割を担っています。
この浄化槽をつくっているのが、フジクリーン株式会社(旧・フジクリーン工業株式会社)です。
同社の江濵誠さんは、浄化槽が水質改善だけでなく、生き物の生息しやすい水辺環境の再生にもつながると語っています。
≫「美しい水を守る」使命に挑む ~フジクリーン株式会社 江濵誠さん~
サンゴ礁など生態系の破壊
サンゴ礁は「海のゆりかご」とも呼ばれ、海洋生物の4分の1が一生のどこかの段階で利用するといわれる重要な生態系です。
海水温の上昇はサンゴの白化を引き起こし、白化が長引くとサンゴは死んでしまいます。
環境省が沖縄県の石西礁湖で行った2024年12月の調査では、平均白化率は65.5%でした。
同年9月調査時の84.0%からは低下したものの、死亡したサンゴの割合は25.5%にのぼりました。
参考:石西礁湖のサンゴ白化現象の2024年12月調査結果について(環境省)
海洋プラスチックごみ
海洋プラスチックごみは、レジ袋やペットボトルなどが自然分解されずに海へ流れ込み、生態系や漁業、景観に影響を与える問題です。
紫外線や波の力で細かく砕けたマイクロプラスチックは、魚や貝の体内からも見つかっており、食物連鎖を通じて広がっていきます。
この問題の現状、発生源、日本と世界の対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
日本の海が抱える問題
日本は四方を海に囲まれ、水産業や観光業など、海の恵みに支えられている産業が数多くあります。
その日本の海でいま起きているのが、水産資源の減少と、世界平均を上回る速さの水温上昇です。
日本の水産資源の状況
水産庁が公表した「令和6年度水産白書」によると、従来の3区分(高位・中位・低位)で評価された資源は36種50資源です。
このうち、資源水準が高位にあるのは10資源(20%)、中位は14資源(28%)、低位は26資源(52%)でした。
半数を超える資源が低位、つまり資源量が少ない状態にあるということです。
水産庁はこうした状況を受け、漁獲可能量(TAC)による管理対象魚種を増やすなど、資源管理の強化を進めています。
日本近海の水温上昇
気象庁が2026年3月5日に発表したデータでは、日本近海の海域平均海面水温は、2025年までの統計で100年あたり1.36℃の割合で上昇しています。
これは世界全体で平均した海面水温の上昇率(100年あたり0.63℃)の2倍以上にあたる速さです。
海の問題をめぐる世界の取り組み
海の問題は一国だけでは解決できないため、国際社会は条約や会議を通じて連携を進めています。
直近の大きな動きが、2025年の国連海洋会議と、2026年に発効したBBNJ協定です。
国連海洋会議とニース海洋行動計画
国連海洋会議は、海洋の保全と持続可能な利用について、各国が議論し、行動を約束し合う国際会議です。
2025年6月9日から13日にかけてフランス・ニースで開かれた第3回国連海洋会議(UNOC3)には、55か国の首脳に加え、市民社会・ビジネス・科学分野から約15,000人が参加しました。
会議では170か国以上が政治宣言「Our ocean, our future: united for urgent action」を採択しました。
この政治宣言と、各国・団体による自主的な取り組み(ボランタリー・コミットメント)をあわせて「ニース海洋行動計画」と呼びます。
政治宣言は、海洋保護区の拡大や海洋汚染対策の強化などの具体的な行動を各国に求める内容です。
参考:Closing press release: UN Ocean Conference delivers unified call to action(国連)
BBNJ協定(公海の生物多様性保全)
BBNJ協定とは、どの国の管轄にも属さない公海や深海底の生物多様性を保全するための国際条約です。
約20年におよぶ交渉を経て採択されたこの協定は、60か国が批准してから120日後に発効するという条件を満たし、2026年1月17日に発効しました。
発効時点での批准国は81か国で、日本もその中に含まれています。
BBNJ協定によって、これまでルールが曖昧だった公海の海洋保護区の設定や、深海の遺伝資源から得られる利益の分配などについて、国際的な枠組みが動き始めています。
海の問題に取り組む企業
海の問題には、水産業や商社、環境インフラなど、さまざまな立場の企業が取り組んでいます。
ここでは、マルハニチロ、三菱商事、フジクリーン株式会社の3社の取り組みを紹介します。
SDGs目標14に取り組む企業は、以下の記事でより多く紹介しています。
≫【SDGs目標14】海の豊かさを守ろうに取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー
マルハニチロ(Umios)
マルハニチロが展開するブランド「Umios」は、2006年にMSC「海のエコラベル」認証商品の取り扱いに向けた取り組みを始め、現在はホタテやベニザケなどを取り扱っています。
2024年度のMSC認証商品の取扱数量は1,802トンにのぼりました。
2030年度末までに、取扱水産資源の資源状態確認率100%、サステナブルシーフードの売上比率15%以上を目標として掲げています。
三菱商事
三菱商事は2005年から「サンゴ礁保全プロジェクト」に取り組んでいます。
現在は沖縄、オーストラリア、セーシェルの3拠点で、ボランティアとともにサンゴの白化現象や病気について研究しながら、保全プログラムを続けています。
フジクリーン株式会社
フジクリーン株式会社は「美しい水を守る」を企業理念に掲げる、浄化槽業界のリーディングカンパニーです。
下水道が整備されていない地域でも、家庭や施設から出る生活排水をその場で浄化し、自然に近い水質に戻して川や海へ返すのが浄化槽です。
フジクリーン株式会社は、この浄化槽を研究・開発から施工・メンテナンスまで一貫して手がけています。
水質改善だけでなく、生態系の保全や災害時の生活排水処理にも、浄化槽は関わっています。
同社で働く江濵誠さんには、「美しい水を守る」という使命への向き合い方を聞いています。
海の問題に関わる仕事
海の問題は、研究者だけが関わるテーマではありません。
水産・漁業の現場から、環境保全のNPO、国際機関や行政まで、さまざまな立場で関わることができます。
環境問題に携わる仕事全般については、以下の記事も参考にしてください。
≫環境問題に携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説
水産・漁業分野
水産庁や地方自治体の水産部局では、資源評価や漁業者への指導、TACによる資源管理の運用といった仕事に携わります。
民間企業では、マルハニチロのように持続可能な調達方針を策定する部署や、養殖技術で資源の負荷を減らす水産・食品メーカーでの仕事があります。
生物学や水産学の知識に加えて、データを読み解く力や、漁業者と行政の間で調整を担うコミュニケーション力が活きる分野です。
環境保全・NPOの現場
サンゴ礁の保全活動や海洋ごみの調査、赤潮の発生状況のモニタリングなど、NPO・NGOが担う現場の仕事も数多くあります。
企業の社会貢献活動の運営に携わる形で、海の保全プロジェクトに関わるキャリアもあります。
NPOで社会課題解決に関わるキャリアの詳細は、以下の記事で解説しています。
≫NPOで社会課題解決に関わるキャリアとは?仕事内容・2つのタイプ・入り口を解説
国際機関・行政
国連海洋会議やBBNJ協定のように、海の問題は国際的なルールづくりと切り離せません。
外務省や環境省での政策立案、JICA(国際協力機構)を通じた開発途上国の水産業支援など、国という単位で海の問題に関わる仕事もあります。
JICAで働くための職種や採用ルートは、以下の記事で解説しています。
≫JICAで働くには?職種・採用ルート・必要なスキルをキャリア視点で解説
海の問題に関わる企業やNPOの求人・採用情報は、ココキャリアでも確認できます。
よくある質問
海の問題について、寄せられることが多い4つの疑問に答えます。
Q. 海の問題とは何ですか?
A. 海の問題とは、乱獲や水温上昇、海洋酸性化、富栄養化、プラスチックごみなど、人間活動で海洋環境が悪化し、生態系や漁業、暮らしに影響が及んでいる状態の総称です。原因は一つではなく、水温上昇が酸性化やサンゴの白化を早めるなど、複数の要因が絡み合って進んでいる点が特徴です。SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」が扱うテーマでもあり、国際機関や各国政府、企業がそれぞれの立場で対策に取り組んでいます。海はひとつにつながっているため、影響は国境を越えて広がります。
Q. 海の問題にはどんな種類がありますか?
A. 代表的なものとして、乱獲・過剰漁獲、海水温の上昇、海洋酸性化、富栄養化・赤潮、サンゴ礁など生態系の破壊、海洋プラスチックごみの6つが挙げられます。FAOの報告では2021年時点で世界の水産資源の37.7%が過剰漁獲の状態にあります。気象庁のデータでは、日本近海の水温は100年あたり1.36℃のペースで上昇しています。原因や現れ方はそれぞれ異なり、対策も一様ではありません。種類ごとに現状を知ることが、海の問題全体を理解する近道になります。
Q. 海洋プラスチック問題との違いは何ですか?
A. 海洋プラスチック問題は、海の問題の中の一つの分野です。海の問題全体には、乱獲や海水温上昇、海洋酸性化、富栄養化・赤潮、生態系の破壊など、プラスチック以外の課題も幅広く含まれます。プラスチックごみは写真や映像で可視化しやすいため注目されやすい一方、水産資源の減少や水温上昇は目に見えにくく、気づかれにくい問題です。海洋プラスチックごみ問題の詳しい現状や対策は、別記事で解説しています。どちらも根っこでは同じ海の課題としてつながっています。
Q. 海の問題に関わる仕事にはどんなものがありますか?
A. 水産庁や自治体の水産部局での資源管理、水産・食品メーカーでの持続可能な調達など、現場に近い関わり方があります。NPO・NGOでのサンゴ礁保全や海洋ごみ調査も、身近な入り口のひとつです。外務省や環境省での政策立案、JICAを通じた開発途上国の水産業支援など、国という単位で関わる仕事もあります。生物学や水産学の専門知識が活きる仕事もあれば、行政や企業と現場をつなぐ調整力が求められる仕事もあり、自分の関心とスキルに合わせて選べます。
まとめ
海の問題は、プラスチックごみのように目に見えるものから、水産資源の減少や海水温の上昇のように、数字を見て初めて気づくものまで、さまざまな形で進行しています。
今日からできることとしては、旬の魚を選ぶ、資源管理に取り組む水産物のラベルを意識する、海の問題を伝えるニュースに関心を持つといった小さな一歩があります。
海の問題に取り組む企業やNPOの仕事内容が気になったら、ココキャリアに掲載されている企業のページを覗いてみてください。
海は遠い誰かの問題ではなく、日々の食卓や気候ともつながっている身近な存在だと知ることが、最初の一歩になります。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
