2026年11月5日、三重県の鳥羽水族館でラッコの「キラ」(メス・18歳)が死亡しました。

時事通信によると、国内で飼育されているラッコは、同じ鳥羽水族館の「メイ」(メス・22歳)の1頭だけになりました。

報道によると、1994年には国内28施設で122頭が飼育されていました。

飼育数はなぜ減り続けたのか、野生のラッコはどうなっているのか。

鳥羽水族館の公式情報や米国Marine Mammal Commissionの資料、国内の報道をもとに確かめます。

約50頭まで減った群れが約3,000頭に増えた海外の事例と、生物多様性の保全に仕事で関わる道も紹介します。

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ラッコ「キラ」の死亡と、国内飼育1頭の現状

ラッコとは、北太平洋の沿岸に生息するイタチ科の絶滅危惧種です。

鳥羽水族館の公式発表によると、キラは2026年8月頃から足腰に不安が見られ、検査や経過観察が続けられていました。

11月4日に展示を中止して治療・ケアを優先しましたが、翌5日午前7時頃に痙攣を確認し、保温・酸素吸入・投薬を施しても回復せず、午前10時40分に死亡しました。

死因は獣医師の所見で「呼吸不全による心肺停止」と推測されており、今後、病理検査で詳しく調べる予定です。

項目内容
名前キラ(メス)
年齢18歳(2008年4月21日生まれ)
死亡日2026年11月5日
死因(推定)呼吸不全による心肺停止
出生地アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)
入館日2021年3月17日(鳥羽水族館へ)
残る飼育個体メイ(メス・22歳、鳥羽水族館)

同居しているメイに今のところ変わった様子はみられず、鳥羽水族館はしばらく観察とケアを続けるため、展示は引きつづき中止するとしています。

参考:鳥羽水族館 お知らせ(2026年11月5日)、時事通信(2026年11月5日)


なぜ飼育ラッコは1頭になったのか

報道から、飼育数が減った背景は主に3つ見えてきます。

海外からの輸入が止まった

北海道新聞(2020年)によると、国内の飼育は1982年に米国アラスカからラッコを輸入したことから始まりました。

同記事によると、国際取引の規制が進むなか、1998年に米国がラッコの輸出禁止に方針を転換しました。

これで、新しい個体を迎えることが難しくなりました。

国内での繁殖が続かなかった

同記事は、国内の施設が近親交配を避けるため、繁殖目的で個体を貸し借りする「ブリーディングローン」を進めてきたと伝えています。

国内で飼育された約300頭のうち、約200頭は施設で生まれたとされます。

参考:北海道新聞

それでも、限られた個体の中で繁殖を続けることは難しくなりました。

2023年の東京新聞は、当時のキラは出産可能だったものの、福岡のリロとは兄妹で近親交配になるため、繁殖を諦めざるを得ないと報じています。

新しい個体が加わらないまま高齢化した

外から個体が加わらず、繁殖も続かなければ、残った個体は年を重ねていきます。

時期(いずれも報道・施設の発表による)飼育頭数施設数
1994年122頭28施設
2023年3頭2施設
2025年1月2頭1施設
2026年11月1頭1施設

参考:東海テレビ(2021年12月)、東京新聞(2023年)、TBSラジオ(2025年1月20日)、時事通信(2026年11月5日)

残るメイは22歳のメスで、国内の飼育下に繁殖相手のオスはいません。

現時点で、国内の飼育下で繁殖して頭数を増やすことは見込めない状況です。

国内の飼育ラッコの頭数。1994年122頭、2023年3頭、2025年1月2頭、2026年11月1頭を棒グラフで示す

世界のラッコはどうなっているか

ここからは、水族館ではなく野生のラッコの話です。

国際自然保護連合(IUCN)はラッコ(Enhydra lutris)をEndangered(絶滅危惧種)に分類しています。

鳥羽水族館の公式情報によると、野生のラッコは世界で10〜15万頭ほどまで回復しているとされ、3つの亜種に分かれます。

亜種主な生息地推定個体数
アラスカラッコアラスカ沿岸8〜9万頭
チシマラッコ千島列島・カムチャツカ1〜2万頭
カリフォルニアラッコカリフォルニア中部沿岸約3,000頭

参考:鳥羽水族館 ラッコの生態、Sea Otter Foundation & Trust

毛皮貿易で激減した歴史

ラッコの毛は1cm²あたり約10万本と密集しており、毛皮を目的に大量に捕獲されました。

狩猟が広がる前は15万〜30万頭が北太平洋に生息していたと推定されています。

1911年に日本・ロシア・イギリス(カナダ)・アメリカの4か国が膃肭獣(おっとせい)保護条約を結び、狩猟が禁じられました。

1975年に発効したワシントン条約で、国際取引の規制も始まりました。

海外で個体数が増えた事例

保護や移送によって、個体数が大きく増えた地域があります。

地域経緯確認できる個体数
カリフォルニア1911年頃に約50頭の群れが残っていた2,962頭(2019年)
ブリティッシュコロンビア1969〜72年にアラスカから89頭を移送少なくとも3,200頭(2001〜04年の調査)
南東アラスカ1960年代後半に移送で再導入推定22,359頭(2022年)

参考:Marine Mammal Commission、カナダ環境・気候変動省、Sea Otter Foundation & Trust

カリフォルニアでは2016年に3,272頭となり、1972年以降の最高値を記録しました。

その後は2017年に3,186頭、2019年に2,962頭と減っており、Marine Mammal Commissionが載せている最新の推計はこの2019年の値です。

ただし、カリフォルニアラッコの現在の生息域は歴史的な生息域の約13%にとどまっており、回復が完了したわけではありません。

野生のラッコが増えた海外の事例。カリフォルニアは約50頭の群れから2,962頭、ブリティッシュコロンビアは移送した89頭から少なくとも3,200頭、南東アラスカは推定22,359頭

野生のラッコがいなくなると何が起きるか

野生のラッコは、生態系の中で「キーストーン種」と呼ばれる、他の多くの種に影響を及ぼす存在です。

ラッコはウニを食べるため、ラッコがいる海域ではウニの数が抑えられ、海藻(ケルプ)の森が維持されやすくなります。

ラッコがいなくなるとウニが増え、ケルプが食べ尽くされることがあります。

ケルプの森は海の生態系の土台で、魚などのすみかになります。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校などの2012年の研究は、ラッコがウニを抑えて広がったケルプが、大気中の二酸化炭素をより多く吸収するとしています。

参考:UC Santa Cruz(2012年9月)、US Fish & Wildlife Service(2022年9月)

水族館の飼育数の減少と、野生のラッコの保全は別の問題です。

ただ、水族館のニュースをきっかけに野生のラッコを知ることは、海の生態系を考える入口になります。

日本の野生のラッコはどうなっているか

国内の飼育数を増やすことは難しい一方で、北海道には野生のラッコがいます。

北海道新聞は2020年11月、霧多布岬(浜中町)で赤ちゃんが生まれ、周辺の個体数が7頭になったと報じました。

鳥羽水族館も、霧多布岬では2023年時点で複数頭の繁殖が確認されていると紹介しています。

ただし、Sea Otter Foundation & Trustは、日本の個体群について、安定したと言えるほど数は多くないという専門家の見方を伝えています。

参考:北海道新聞(2020年11月2日)、鳥羽水族館 ラッコの生態


生物多様性の保全に仕事で関わる4つの道

野生のラッコの保護は、絶滅危惧種の保全という大きな社会課題の一部です。

この分野には、以下の4つのキャリアパターンがあります。

1. 自然保護官(レンジャー)・野生動物保護の現場職

国立公園や野生動物保護区で、希少種のモニタリング・生息地管理・密猟取り締まりに携わる仕事です。

環境省の自然保護官や、地方自治体の鳥獣保護行政がこの入口にあたります。

自然保護官(レンジャー)になるには?で、採用ルートや業務の詳細を確認できます。

2. 環境コンサルタント・アセスメントの専門職

開発事業が野生生物に与える影響を評価し、保全策を提案します。

環境影響評価法に基づく調査や、企業のTNFD(自然関連財務情報開示)への対応に関わります。

環境コンサルタントとは?で仕事内容と資格を確認できます。

3. 環境NGO・国際機関の職員

WWFやIUCNなどの環境保全団体で、種の保全プログラムや政策提言に携わる仕事です。

環境NGO職員になるには?で入り方と主な団体を紹介しています。

4. 生物多様性に取り組む企業での仕事

食品・化粧品・建設など多くの業界で、サプライチェーンにおける生物多様性への配慮が求められるようになっています。

CSRやサステナビリティ部門で、生物多様性方針の策定や森林認証の取得を担当する職種です。

生物多様性保護に取り組む企業10選で具体的な企業と取り組みを確認できます。

まとめ

国内の飼育ラッコが1頭になった背景には、輸入の停止、繁殖の壁、高齢化という複数の要因があります。

一方で、野生ではカリフォルニアの約50頭の群れが約3,000頭に増えた例があります。

日本でも北海道の霧多布岬で、野生のラッコの繁殖が確認されています。

生物多様性の保全には、環境省の自然保護官、環境コンサルタント、NGO職員、企業のサステナビリティ部門と、仕事として関わる道があります。

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よくある質問

ラッコの飼育や保全に関して、よく寄せられる質問に回答します。

Q. 日本の水族館のラッコはなぜ減ったのですか?

A. 北海道新聞(2020年)によると、1982年に米国アラスカから輸入して始まった国内の飼育は、1998年に米国が輸出禁止に転じたことで、新しい個体を迎えにくくなりました。国内の施設は近親交配を避けるために個体を貸し借りし、飼育された約300頭のうち約200頭は施設で生まれたとされます。それでも限られた個体の中で繁殖を続けることは難しく、2023年には近親交配を避けるため繁殖を諦めざるを得ないと報じられました。高齢化も進み、2026年11月に国内の飼育は1頭になりました。

Q. 日本にまだ野生のラッコはいますか?

A. はい、います。北海道東部の霧多布岬(浜中町)では、2020年11月に赤ちゃんの誕生と周辺の7頭が報じられ、鳥羽水族館も2023年時点で複数頭の繁殖が確認されていると紹介しています。飼育数が1頭になったのは水族館の話で、野生のラッコの数とは別の話です。ただし、Sea Otter Foundation & Trustは、日本の個体群について、安定したと言えるほど数は多くないという専門家の見方を伝えています。

Q. 野生のラッコがいなくなると生態系にどんな影響がありますか?

A. 野生のラッコは生態系の「キーストーン種」と呼ばれ、ウニを食べることで海藻(ケルプ)の森を保つ役割を担っています。ラッコがいなくなるとウニが増え、ケルプが食べ尽くされることがあり、魚などのすみかが失われます。水族館の飼育数の減少とは別の問題で、野生のラッコの保全として考える必要があります。カリフォルニア大学サンタクルーズ校などの2012年の研究は、ラッコがウニを抑えて広がったケルプが、大気中の二酸化炭素をより多く吸収するとしています。

Q. ラッコの保全に関わる仕事にはどんなものがありますか?

A. 主に4つの道があります。環境省の自然保護官(レンジャー)として国立公園で希少種のモニタリングや生息地管理に携わる道、環境コンサルタントとして開発事業の生物多様性影響評価を行う道、WWFやIUCNなどの環境NGOで種の保全プログラムを担当する道、企業のCSR・サステナビリティ部門で生物多様性方針の策定や森林認証の取得を担当する道です。詳しくは本記事の「生物多様性の保全に仕事で関わる4つの道」をご覧ください。

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