2026年4月1日から、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主にも、「男女間賃金差異」の情報公表が新たに義務づけられます。
301人以上の企業ではすでに2022年7月8日から義務化されており、対象がさらに広がる形です。
帝国データバンクが2025年7月に行った調査では、女性管理職の割合が平均11.1%と過去最高を更新しました。
一方で、政府が掲げる「女性管理職30%」を達成した企業は11.9%にとどまりました。
「ダイバーシティ経営」という言葉は聞いたことがあっても、こうした制度や数字とどうつながっているのかは、意外と説明しにくいものです。
この記事を読むと、ダイバーシティ経営という言葉を自分の言葉で説明でき、なでしこ銘柄のようなニュースの背景も理解できるようになります。
経済産業省の定義、法制度の動き、日本企業の現在地、取り組みの具体例、関わる仕事へと、順に見ていきます。
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ダイバーシティ経営とは
ダイバーシティ経営とは、多様な人材を積極的に生かし、その能力を発揮できる環境を整えることで、経営の成果につなげていく経営手法のことです。
経済産業省による定義
経済産業省は、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
ここでいう「多様な人材」には、性別・年齢・国籍・障がいの有無・性的指向といった属性の多様性だけでなく、キャリアや働き方の多様性も含まれます。
多様性の一つである性のあり方については、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは?やマイノリティとは?の記事でも詳しく解説しています。
単なる「多様な人を雇う」こととの違い
ダイバーシティ経営は、属性の多様化そのものを目的にする考え方ではありません。
多様な視点や経験を、イノベーションや価値創造という事業成果に結びつけることを前提としている点が、単なる採用の多様化との違いです。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、多様性を受け入れる考え方そのものを指します。
ダイバーシティ経営はその考え方を経営戦略や制度に落とし込んで実践する経営手法で、D&Iを土台に置いた実行の枠組みという位置づけです。
なぜ今、ダイバーシティ経営が求められているのか
背景には、労働力人口の構造的な変化と、投資家からの評価という2つの流れがあります。
労働力人口の減少という構造的な背景
総務省統計局の労働力調査によると、生産年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人まで減少すると見込まれています。
これは2021年時点から29.2%の減少にあたる水準です。
労働人口の減少ペースは年平均40万〜50万人程度とされ、2030年には労働需要7,073万人に対して644万人の労働力が不足するという試算もあります。
多様な人材にアプローチできない企業ほど、採用の母集団が狭まりやすいという構造的な課題を抱えることになります。
投資家からの評価という文脈
企業の人材戦略を投資判断に生かす動きは、ESG投資と呼ばれます。
ESGの意味や関連するキャリアについては、ESGとは?の記事で詳しく解説しています。
投資家がダイバーシティへの取り組みを評価するようになったことも、経営層がこのテーマに向き合う理由の一つです。
国際的に見た日本の現在地
日本のジェンダーギャップは、国際的な指標でも大きな課題として指摘されています。
世界経済フォーラムが公表した2025年版のジェンダー・ギャップ指数によると、内閣府男女共同参画局がまとめた資料でも、日本は148カ国中118位と、前年と同じ順位にとどまりました。
分野別に見ると、教育(0.994)と健康(0.973)は世界トップクラスの水準にあります。
一方で経済(0.613)と政治(0.085)の値は低く、この2分野の遅れが総合順位を押し下げる要因になっています。
G7各国のなかでは、英国が4位、ドイツが9位である一方、日本は100位にすら入らず、G7で唯一の圏外という結果でした。
こうした国際比較のデータは、ダイバーシティ経営が一企業の取り組みにとどまらず、国全体の競争力に関わる課題として語られる理由の一つになっています。
法制度の動きと開示義務
日本では、女性活躍推進法の改正を通じて、情報開示のルールが段階的に整えられてきました。
女性活躍推進法と男女間賃金差異の開示
厚生労働省によると、常時雇用労働者301人以上の事業主は、2022年7月8日から「男女間賃金差異」の情報公表が義務づけられています。
2026年4月1日に施行される改正では、対象が101人以上300人以下の事業主にも拡大され、女性管理職比率とあわせて公表項目に加わります。
公表は、事業年度終了後おおむね3か月以内に、自社のホームページや厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」で行うことになっています。
なでしこ銘柄という認定制度
「なでしこ銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所が共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を選定する制度です。
経済産業省の令和6年度レポートによると、令和6年度は2025年3月24日に、なでしこ銘柄23社と、性別を問わない両立支援に優れた「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」16社が選定されました。
こうした認定制度は、求職者や投資家が企業を選ぶ際の判断材料の一つになっています。
女性管理職比率は平均11.1%
制度が整う一方で、実態はどこまで追いついているのでしょうか。
帝国データバンクが2025年7月17日から31日にかけて実施した調査(対象2万6,196社、有効回答1万626社、回答率40.6%)によると、女性管理職の割合は平均11.1%で、調査開始以来の過去最高を更新しました。
一方で、政府目標である「女性管理職30%」に該当する企業の割合は11.9%にとどまっています。
管理職が全員男性という企業の割合は42.3%で、前年の43.0%から0.7ポイント低下したものの、依然として4割を超える水準です。
数字の上では制度と実態にまだ距離があることが読み取れます。
ダイバーシティ経営のよくある誤解
数字だけが独り歩きすると、誤解も生まれやすくなります。
女性活躍だけの話ではない
なでしこ銘柄や男女間賃金差異の開示は、女性活躍に関する制度です。
ただし経済産業省の定義における「多様な人材」には、年齢、国籍、障がいの有無、性的指向、キャリアの多様性も含まれます。
女性管理職比率だけを追いかけると、他の多様性の側面が見落とされがちです。
比率を満たせば終わりではない
女性管理職比率30%のような数値目標は、あくまで進捗を測る指標の一つです。
制度が整っていても、意思決定の場に多様な人が実質的に関われていなければ、形式的な数合わせにとどまってしまいます。
ダイバーシティ経営の主な取り組み
制度を整えるだけでなく、実際に運用されているかどうかが成果を左右します。
採用・登用における多様性の確保
性別や年齢にかかわらず、能力や適性を基準に採用・昇進の機会を提供する仕組みづくりが基本になります。
管理職に占める女性やマイノリティの割合を目標として掲げ、進捗を開示する企業も増えています。
柔軟な働き方の整備
時短勤務やリモートワーク、副業の許可など、個人の事情に合わせて働き方を選べる制度は、多様な人材が働き続けるための土台になります。
心理的安全性のある職場づくり
制度があっても、少数派の意見が言いにくい雰囲気があれば形骸化してしまいます。
異なる意見を歓迎する対話の場や、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に関する研修を取り入れる企業もあります。
ダイバーシティ経営に取り組む企業の事例
数値目標を掲げて公表している企業を見ると、ダイバーシティ経営が抽象的なスローガンではなく、具体的な経営指標として扱われていることがわかります。
株式会社資生堂の事例
株式会社資生堂は、2030年までにあらゆる階層で男女比率50:50を目指すという目標を掲げています。
同社は2020年に女性管理職比率40%を目標として設定し、2024年時点でこの目標を達成したと公表しています。
さらに直近では、国内グループの女性管理職比率が43.3%、グローバルでは60.3%に達しています。
目標を段階的に引き上げながら、取り組みを続けている形です。
D&Iに力を入れるその他の企業や、異文化理解の研修・制度に取り組む企業の事例は、D&Iに取り組む企業10選や異文化理解に取り組む企業10選でまとめています。
自社の取り組みを社外に発信する際の視点は、ジェンダーに関する取り組みを広告・PRしたいの記事も参考になります。
企業研究をする際は、制度の有無だけでなく、資生堂のように女性管理職比率の推移を年ごとに開示しているかを確認してみると、その企業の本気度が見えてきます。
ダイバーシティ経営に関わる仕事・キャリア
ダイバーシティ経営は、人事や経営企画だけの仕事ではありません。
企業の人事・D&I推進担当
人事部門やD&I推進室では、採用・研修制度の設計から、女性管理職比率などの数値目標の管理まで幅広く担当します。
法改正で開示項目が増えるなか、データを集計・公表する実務そのものも、これから重要性が増す領域です。
NPO・コンサルティングの立場から企業を支援する
企業の外側からダイバーシティ推進を支援する仕事として、研修やコンサルティングを提供する専門家や、政策提言を行うNPOという選択肢もあります。
ジェンダー課題を軸にしたキャリアの全体像は、ジェンダー課題のキャリアとは?で詳しく紹介しています。
よくある質問
ダイバーシティ経営について、よく見かける疑問にお答えします。
Q. ダイバーシティ経営とD&Iはどう違いますか?
A. D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、多様性を受け入れ、それぞれの個性を生かそうとする考え方そのものを指します。ダイバーシティ経営は、そのD&Iの考え方を経営戦略に組み込み、採用・登用・働き方の制度にまで落とし込んで、事業成果につなげる経営手法です。呼び方が違うだけで対立する概念ではなく、D&Iが土台にある考え方、ダイバーシティ経営はそれを実践に移した経営の仕組みと理解するとわかりやすくなります。
Q. 男女間賃金差異の開示は、どの企業が対象になりますか?
A. 常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、2022年7月8日からすでに「男女間賃金差異」の情報公表が義務づけられています。2026年4月1日に施行される女性活躍推進法の改正により、対象が101人以上300人以下の事業主にも拡大され、女性管理職比率とあわせて公表が必須項目になります。公表先は自社サイトや厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」で、事業年度の終了後おおむね3か月以内に行う決まりです。就職や転職で企業を比べるときは、このデータベースで同じ業種の複数社を並べて見ると数字の意味がつかみやすくなります。
Q. なでしこ銘柄とは、どのような制度ですか?
A. なでしこ銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を選定する制度です。令和6年度は2025年3月24日に、なでしこ銘柄23社と、性別を問わない両立支援に優れたNextなでしこ16社が選定されました。中長期の企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介し、各社の取り組みを加速させることを狙いとしています。選定された企業の取り組み内容は経済産業省のレポートにまとめられており、どの制度や実績が評価されたのかまで読めます。
Q. 日本企業の女性管理職比率は、実際どのくらいですか?
A. 帝国データバンクが2025年7月に行った調査(対象2万6,196社)によると、女性管理職の割合は平均11.1%で過去最高を更新しました。ただし政府目標である30%を達成した企業は11.9%にとどまり、管理職が全員男性という企業も42.3%を占めています。管理職が全員男性という企業も42.3%を占めており、前年の43.0%から0.7ポイント下がったものの依然として4割を超えています。制度面の整備は進んでいるものの、実態としてはまだ道半ばであることが数字から読み取れます。
まとめ
ダイバーシティ経営は、多様な人材を「生かす」ための経営の仕組みであり、女性活躍推進法の改正やなでしこ銘柄のような制度は、その動きを後押しする枠組みです。
帝国データバンクの調査が示す女性管理職比率11.1%という数字は、制度と実態の間にまだ距離があることを教えてくれます。
まずは気になる企業のホームページで、男女間賃金差異や女性管理職比率の開示内容を実際に読んでみてください。
ココキャリアで企業を探す際も、こうした開示情報を比較材料にしてみると、企業選びの視点が広がります。
一つの数字の背景にある制度や取り組みを読み解けるようになると、ニュースの見え方も変わってきます。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
