2022年11月に政府がまとめた「スタートアップ育成5か年計画」に、スタートアップを対象とした2021年の調査結果が引かれています。

国内のスタートアップの起業の動機で筆頭に挙がったのは「社会的な課題を解決したい、社会の役に立ちたい」で、73.7%でした。

その担い手を指す言葉として、2022年ごろから「インパクトスタートアップ」が使われるようになりました。

ただ、普通のスタートアップと何が違うのかまで説明できる人は多くないはずです。

企業の採用ページや投資のニュースで飛び交う「インパクト」は、何を指して使われているのか。

この記事では、定義、似た言葉との違い、日本で使われるようになった経緯、国内の企業、測り方、課題、関わる仕事までを解説します。

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インパクトスタートアップとは

インパクトスタートアップとは、社会課題の解決と持続可能な成長の両立を目指す企業を指す言葉です。

ただし、この言葉に法令上の定義はありません。

確認できたのは、業界団体が掲げる定義と、省庁の説明と、政府の計画書での使われ方という3系統で、表現はそれぞれ違います。

業界団体が掲げている定義

一般社団法人インパクトスタートアップ協会は、この言葉を次のように定義しています。

「インパクトスタートアップは、『社会課題の解決』と『持続可能な成長』の両立を目指す企業体を指します」

この協会は2022年10月14日に設立され、設立当初の正会員は23社でした。

2025年12月18日の発表では、2026年度の正会員として新たに81社が加わり、正会員は325社になりました。

賛同会員は15社で、2025年11月末日時点の数字です。

参考:インパクトスタートアップ協会の正会員が325社に拡大(一般社団法人インパクトスタートアップ協会、2025年12月18日)

正会員になるための入会審査では、次の点が基準になっています。

  • 創業の背景や企業の存在意義に、社会へのポジティブなインパクトを与えたいという意志が組み込まれている
  • 解決を目指す課題が具体化され、サービスを実際に提供している
  • 目標とするパフォーマンスにインパクトの指標がある、または数年以内に作ろうとしている
  • 成長志向を持った経営を行っている

社会性だけでも、成長だけでも足りない、という線の引き方になっています。

経済産業省による説明

経済産業省は2023年10月6日のニュースリリースで、社会的・環境的課題の解決や新たなビジョンの実現と、持続的な経済成長をともに目指す企業だと説明しました。

協会の定義と近い一方で、「新たなビジョンの実現」という要素が加わっている点が違います。

参考:官民によるインパクトスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup Impact」を設立(経済産業省、2023年10月6日)

政府の計画書では「社会的起業家」と併記されている

内閣官房がまとめる計画書になると、書きぶりがまた変わります。

2022年11月の「スタートアップ育成5か年計画」では「社会的起業家(インパクトスタートアップ)」と書かれています。

2025年6月13日の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」では、順番が入れ替わって「インパクトスタートアップ(社会的起業家)」です。

どちらの文書にも、この言葉そのものの定義は置かれていません。

輪郭がゆるいまま広がった言葉なので、企業が名乗るときは何をもってそう言っているのかを確かめる余地があります。

スタートアップという事業形態の中で社会性をどう捉えるかは、呼び名を変えて語られることもあります。

≫ソーシャルスタートアップとは?社会起業家との違い・特徴・事例を解説


インパクトスタートアップと似た言葉との違い

社会課題を事業で解決する取り組みには、時期や立場によって別の呼び名が付いてきました。

重なり合う部分は大きいものの、目的や組織の形態には線が引かれています。

通常のスタートアップ・ソーシャルビジネスとの比較

手がかりになるのは、目的と、組織の形態と、成果の測り方です。

観点 インパクトスタートアップ スタートアップ全般 ソーシャルビジネス
事業の目的 課題の解決を掲げる 限定されない 地域社会の課題の解決
組織の形態 会社が前提 会社 問わない
成果の測り方 インパクトの指標を持つか、数年以内に作る 共通の決まりはない 共通の決まりはない
言葉の出どころ 業界団体と国の施策 ー 経済産業省の施策

ソーシャルビジネスは、ビジネスの手法で社会課題に取り組む活動を広く指す言葉です。

経済産業省は、地域社会の課題解決に向けて、住民やNPO、企業など様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むものと説明しています。

組織の形態を限定しないところが、会社を前提とするインパクトスタートアップとの違いです。

参考:ソーシャルビジネス(経済産業省)

ソーシャルビジネスという言葉そのものは、もっと長い歴史を持っています。

≫ソーシャルビジネスとは?様々な定義や歴史、企業の事例を解説

社会的企業やソーシャルファームとの関係

社会的企業という呼び方も、組織の形態ではなく目的に着目した言い方です。

就労が難しい人を雇うこと自体を目的に置く事業体には、自治体がつくった別の枠組みがあります。

≫ソーシャルファームとは?定義や東京都の認証制度、働き方を解説

なぜ日本で使われるようになったのか

この言葉が日本で広がったのは、2022年以降の数年間です。

きっかけは、国の計画に書き込まれたことと、お金の流れが変わったことの2つでした。

国の計画に書き込まれた

2022年11月、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を決定しました。

その中に「社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進」という項目があります。

国内大学での教育プログラム開発や、社会的起業家を育成する拠点づくりの促進が並んでいます。

支援策の検討項目として挙げられたのは、次のようなものです。

  • 公共調達における優遇措置
  • 国から自治体へ向けた推奨企業リストへの掲載
  • 投資に対する支援措置
  • 休眠預金の活用
  • 成果連動型事業の拡大

同じ項目には、国際認証を踏まえた日本版の認証制度の創設を検討する、とも書かれています。

認証制度については、「検討を行う」という段階の記述にとどまっています。

参考:スタートアップ育成5か年計画(新しい資本主義実現会議、2022年11月)

流れはその後も続きます。

2025年6月13日の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」には、インパクトスタートアップへの支援という項目が立ちました。

総合的な支援パッケージを着実かつ迅速に実行していく、と書かれています。

参考:新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版(閣議決定、2025年6月13日)

インパクト投資の市場が広がった

もう一方の動きが、資金の側です。

GSG Impact JAPAN National Partnerが、2026年3月31日に調査報告書を公開しました。

これによると、日本国内のインパクト投資残高は18兆6,531億円です。

この金額は2025年3月時点のもので、一部に2025年9月時点の数字を含みます。

集計の対象になったのは、インパクト投資の要件を満たす47組織の投資残高です。

前年度の調査は17兆3,016億円で、報告書はこの1年の伸びを前年比108%としています。

ただし前年度に集計されたのは59組織で、母数そのものが年度ごとに動く点は押さえておきたいところです。

参考:日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2025年度調査-(GSG Impact JAPAN National Partner、2026年3月31日)

この18兆円を動かしているのは、金融機関や事業会社など具体的な顔ぶれです。

≫社会的インパクト投資に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー

金融庁が基本的指針をまとめた

投資する側の考え方も文書になりました。

金融庁は2024年3月29日、「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表しています。

指針が挙げる基本的要素は4つです。

  • 実現を意図する社会・環境的効果が明確であること
  • 投資の実施により、効果の実現に貢献すること
  • 効果の特定・測定・管理を行うこと
  • 市場や顧客に変革をもたらし又は加速し得るよう支援すること

指針自体は、インパクト投資に該当するために必須の実務的条件を網羅的に示すものではない、と断っています。

参考:「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」の公表について(金融庁、2024年3月29日)


国内の主なインパクトスタートアップ

経済産業省は2023年10月、官民の育成支援プログラム「J-Startup Impact」を設立し、30社を選定しました。

選ばれた30社には、水、福祉、金融と、扱う領域の異なる会社が並びます。

WOTA株式会社

水の再利用に取り組む会社です。

設立は2014年10月24日です。

手がけているのは、小規模分散型水循環システムの開発と、水処理自律制御システムの開発です。

使った水をその場で処理して循環させる仕組みは、水道につながっていない場所でも手を洗える状態をつくります。

参考:会社概要(WOTA株式会社)

株式会社ヘラルボニー

福祉とアートを結び直す会社です。

設立は2018年7月24日で、代表者は松田崇弥氏と松田文登氏です。

掲げているミッションは「異彩を、放て。」

知的障害というひとくくりの言葉の中にも、無数の個性があるという見方が出発点です。

さまざまな「異彩」を社会に送り届け、福祉を起点に新たな文化をつくりだすことを掲げています。

参考:ABOUT US(株式会社ヘラルボニー)

五常・アンド・カンパニー株式会社

金融サービスが届いていない人へ、その入り口をつくる会社です。

2025年3月時点で、グループと主要な投資先が14か国で340万人を超える顧客に金融サービスを届けています。

銀行口座を持てないことが、働くことや学ぶことの壁になっている地域は今も残っています。

参考:Gojo & Company, Inc.(五常・アンド・カンパニー株式会社)

社会課題に事業で向き合う会社は、この3社にとどまりません。

≫ソーシャルビジネスに取り組む企業25選!インタビュー記事付きで解説!

インパクトはどう測るのか

協会の入会審査基準にインパクトの指標が挙がっていたとおり、変化を示すことは名乗りとセットになっています。

実務では、事業に投じた資源と活動、その結果として生まれた変化を順に並べて考えます。

ただし測ること自体が目的ではなく、示した数字をもとに事業を直していくところまでが一続きです。

ロジックモデルをはじめとする具体的な手法には、すでに型があります。

≫社会的インパクト評価とは?手法やロジックモデル、関わる仕事を解説


インパクトスタートアップが抱える課題

言葉が広がるほど、扱いの難しさも増えます。

ウォッシュ、収益との両立、測る手法の未成熟という3つが、いま論点になっています。

名前だけの「インパクト」が混ざる

金融庁の検討会が2023年6月30日にまとめた報告書は、指針の役割の1つとして、いわゆるウォッシュへの懸念に応えることを挙げています。

欧州や英国、米国では、ファンドの名称に要件を課す動きも出ています。

参考:インパクト投資等に関する検討会報告書(金融庁、2023年6月30日)

収益との両立が前提になっている

金融庁の基本的指針は、社会・環境課題に対応する事業はコストがかかり、収益性が低いという想定を持たれることが多い、と指摘しています。

そのうえで、工夫次第で効果と事業は補い合う関係になり得るとして、市場や顧客の変革を支援することを基本的要素の4つ目に特記しました。

つまり、両立は自動的に実現するものではなく、意識して設計するものとして扱われています。

測る手法そのものが発展の途中にある

経済産業省は2023年10月の発表で、社会的インパクト向上を目指す取り組みについて、手法の確立やノウハウの普及はまだ初期段階にある、と述べています。

小さな会社にとっては、測るための人手と費用が重い負担になる場面もあります。

測定や資金調達の負担を、外から支える立場の企業も動いています。

≫社会起業家支援に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー

インパクトスタートアップで働く・関わる

会社の規模が小さいぶん、募集される役割は具体的で、任される範囲も広くなりがちです。

事業づくり、技術、インパクトの測定、資金の出し手と、関わり方には幅があります。

事業をつくる職種

新しい市場を相手にする会社では、顧客を見つけ、提供の形を決め、値付けまで担う役割の比重が大きくなります。

前職の業界知識がそのまま効く場面もあります。

BizDevと呼ばれるこの役割は、求められるスキルも成長の道筋もかなり具体的です。

≫社会課題解決 × BizDevのキャリアとは?求められるスキル・仕事内容・キャリアパスを解説

技術で仕組みごと変える職種

水処理の制御でも、作品の管理でも、金融の与信でも、中核にあるのは技術です。

エンジニアやデータ分析の担当者は、課題の現場に触れながら仕組みそのものを設計できる立場にいます。

インパクトの測定と開示を担う役割

指標を設計し、データを集め、投資家や自治体に説明する仕事も生まれています。

評価の知識と、社内の合意をつくる力の両方が求められます。

資金を出す側から関わる

働く場所は事業会社だけではありません。

投資する側、あるいは支援プログラムを運営する側から関わる道もあります。

≫インパクト投資に取り組む企業を一覧で見る

自分で始める

課題の当事者として、自分で会社を立ち上げる人もいます。

地方の採用の仕組みを変えようと起業した方に、COCOCOLOR EARTHで話を聞きました。

≫地方の採用をアップデートする。26歳CEOが挑む大分発・キャリア革命の挑戦

どの入り口を選ぶにしても、その仕事が誰のどんな変化につながるのかを面接で具体的に聞いておくと、入ってからのずれが小さくなります。

社会課題を事業で解こうとする会社の採用情報は、ココキャリアにまとまっています。


よくある質問

言葉を調べているときに引っかかりやすい点をまとめました。

Q. インパクトスタートアップとは何ですか?

A. インパクトスタートアップとは、社会課題の解決と持続可能な成長の両立を目指す企業を指す言葉です。一般社団法人インパクトスタートアップ協会は「『社会課題の解決』と『持続可能な成長』の両立を目指す企業体」と定義しています。経済産業省は2023年10月6日のニュースリリースで、社会的・環境的課題の解決や新たなビジョンの実現と、持続的な経済成長をともに目指す企業だと説明しました。法令上の定義はなく、資料によって表現に幅があります。

Q. ソーシャルビジネスとは何が違うのですか?

A. ソーシャルビジネスは、ビジネスの手法で社会課題に取り組む活動を広く指します。経済産業省は、地域社会の課題解決に向けて住民やNPO、企業など様々な主体が協力して取り組むものと説明しており、組織の形態を限定していません。一方でインパクトスタートアップは、業界団体の入会審査基準に成長志向を持った経営が挙げられているとおり、会社としての成長を前提に置いた呼び方です。重なる部分は大きく、同じ企業が両方に当てはまる場合もあります。

Q. 日本にはどんなインパクトスタートアップがありますか?

A. 経済産業省は2023年10月、育成支援プログラム「J-Startup Impact」を設立し、ロールモデルとなることが期待される30社を選定しました。応募は約500社あったと公表されています。選定企業には、WOTA株式会社、株式会社ヘラルボニー、五常・アンド・カンパニー株式会社などが含まれます。水の再利用、福祉とアート、金融包摂と、取り組む分野はそれぞれ違います。いずれも公式サイトで事業内容を確認できます。

Q. インパクトスタートアップで働くには何が必要ですか?

A. 特別な資格が要る仕事ではありません。事業をつくる職種、技術で仕組みを変える職種、インパクトの測定と開示を担う役割など、求められる役割は幅広く用意されています。前職で培った業界知識や実務経験が、そのまま課題解決の武器になる場面も多くあります。会社の規模が小さいぶん、任される範囲が広くなりやすい点も特徴です。応募の前に、その会社が何を成果として掲げているかを確かめておくと、入社後のずれを小さくできます。

まとめ

インパクトスタートアップは、社会課題の解決と成長の両立を掲げる企業を指す言葉として、2022年以降の数年で日本に根づきました。

法令上の定義はなく、業界団体、経済産業省、政府の計画書で、書きぶりがそれぞれ違います。

だからこそ、名乗りをそのまま受け取らず、その裏づけを自分で確かめる姿勢が効いてきます。

手はじめに、気になる会社のウェブサイトで、掲げている指標を1つ探してみてください。

指標が見つかり、その数字が毎年更新されているなら、その会社は言葉に責任を持とうとしています。

ココキャリアで気になる企業を開いたときも、同じ見方が役に立ちます。

言葉の輪郭がまだやわらかい領域だからこそ、自分の目で確かめた人から、関わる場所を選べるようになります。

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