宝印刷D&IR研究所の調査によると、2025年1月から12月末までに統合報告書を発行した企業は1,214社で、前年の1,150社から64社増えました。
決算資料や企業のサイトでこの言葉を見かけても、有価証券報告書や決算短信と何が違うのか、財務の話なのか環境や社会の話なのか、名前だけでは判断しにくいものです。
統合報告書がなぜ「統合」と呼ばれるのか、財務情報と非財務情報がどう1冊にまとまっているのかを、この先で具体的に確認していきます。
国際統合報告フレームワークの骨子や、法定開示書類・サステナビリティレポートとの違いを、一次資料をもとに確認します。
日本の発行状況、記載される内容、作成に関わる仕事についても順に見ていきます。
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ファイナンスに関わる企業やキャリアの情報は、以下のページにまとめています。
統合報告書とは
統合報告書とは、財務情報と非財務情報を1つにまとめ、企業が中長期的にどのように価値を創造していくかを説明する開示書類です。
英語ではIntegrated Reportと呼ばれます。
決算資料とサステナビリティ関連の資料を別々に読まなくても、1冊で企業の全体像をつかめるようにした書類です。
財務情報と非財務情報を1つにまとめる
これまで企業の情報開示は、財務情報を報告する有価証券報告書と、環境・社会への取り組みを報告するサステナビリティレポートに分かれるのが一般的でした。
統合報告書は、この両方を切り離さず、財務の実績と非財務の取り組みがどうつながって価値を生むかをあわせて説明します。
サステナビリティレポートとの違いは、以下の記事に詳しくまとめました。
≫サステナビリティレポートとは?記載内容や統合報告書との違いを解説
誰に向けて書かれているのか
国際統合報告フレームワークの冒頭は、統合報告書の目的を「財務資本の提供者に対し、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明すること」と述べています。
同時に、従業員や顧客、地域社会など、組織が長期にわたって価値を創造する力に関心を持つステークホルダーにも有益だとしています。
参考:国際統合報告フレームワーク(JPX ESG Knowledge Hub、2023年1月10日更新)
なぜ統合報告書が広がったのか
統合報告書が広がった背景には、国際的な枠組みの整備と、日本国内の開示ルールの変化があります。
IIRCの設立と国際統合報告フレームワーク
IIRC(国際統合報告評議会)は、財務資本の提供者が利用できる情報の改善を目指し、2010年にA4SとGRIによって設立された国際的な連合組織です。
IIRCは2013年に、統合報告書の作成に関する指導原則と内容要素をまとめた「国際統合報告フレームワーク」を公表しました。
その後、2021年6月には、IIRCとSASBの統合によってValue Reporting Foundation(VRF)が生まれました。
VRFは2022年8月1日に、IFRS財団に統合されました。
参考:国際統合報告フレームワーク(JPX ESG Knowledge Hub、2023年1月10日更新)、Integrated Reporting(IFRS財団)
有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄ができた
日本では、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、「サステナビリティに関する考え方及び取組」という記載欄が新設されました。
ガバナンスとリスク管理は必ず記載する項目で、戦略と指標及び目標は「重要性に応じて」記載する項目とされています。
法定開示に非財務情報の記載欄ができたことで、企業は法定開示を超えてどこまで発信するかを、あらためて考える必要が出てきました。
統合報告書は、その選択肢の1つです。
投資家との対話を意識して情報を発信する動きは、以下の記事でも取り上げています。
≫ESGとは?キャリアや関連職種・求められるスキル・キャリアパスを解説
参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(金融庁)
国際統合報告フレームワークの骨子
フレームワークは、6つの資本、価値創造プロセス、8つの内容要素、統合思考という考え方で構成されています。
6つの資本
フレームワークは、企業が使い、影響を与えるすべての資本への説明責任を果たすことを目的の1つに掲げています。
資本は、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本の6つに分類されています。
参考:Integrated Reporting(IFRS財団)
ビジネスモデルは、この6つの資本をインプットとして受け取り、事業活動を通じてアウトプットとアウトカムに変換していく仕組みとして描かれます。
この価値創造プロセスの図は、資本や情報の流れをタコの足のように描くことから、実務では「オクトパスモデル」と呼ばれることがあります。
取引先や地域社会もステークホルダーとして関わる点は、以下の記事でも整理しています。
≫ステークホルダーとは?意味や種類、企業経営との関わり方を解説
8つの内容要素
フレームワークは、統合報告書に含めるべき情報を、8つの「内容要素」として示しています。
| 内容要素 | 問いかけ |
|---|---|
| 組織概要と外部環境 | 組織は何を行い、どのような環境で事業を営むか |
| ガバナンス | ガバナンス構造は、価値創造能力をどう支えるか |
| ビジネスモデル | 組織のビジネスモデルは何か |
| リスクと機会 | 価値創造能力に影響する具体的なリスクと機会は何か |
| 戦略と資源配分 | 組織はどこを目指し、どう辿り着くか |
| 実績 | 当該期間の戦略目標の達成度と、資本への影響は何か |
| 見通し | 今後、どのような課題や不確実性に直面する可能性が高いか |
| 作成と表示の基礎 | 報告書に含める事象をどう決定し、どう定量化・評価するか |
参考:国際統合報告フレームワーク(JPX ESG Knowledge Hub、2023年1月10日更新)
各内容要素は独立した項目ではなく、中長期的な価値創造プロセスの中でつながり合う関係にあります。
統合思考という土台
フレームワークは、報告書の形だけでなく、社内の様々な部門が、組織の使う資本との関係を能動的に考える「統合思考」が浸透することを重視しています。
統合思考が組織に浸透すると、企業の行動が変わり、企業価値の向上につながるとフレームワークは説明しています。
参考:国際統合報告フレームワーク(JPX ESG Knowledge Hub、2023年1月10日更新)
有価証券報告書・サステナビリティレポートとの違い
3つの開示書類は、法的な位置づけと、想定する読み手が異なります。
法定開示書類か、任意開示書類か
有価証券報告書は、金融商品取引法に基づき、上場企業などに提出が義務づけられた法定開示書類です。
統合報告書とサステナビリティレポートは、どちらも法律で作成を義務づけられていない任意開示書類です。
| 項目 | 有価証券報告書 | 統合報告書 | サステナビリティレポート |
|---|---|---|---|
| 位置づけ | 法定開示 | 任意開示 | 任意開示 |
| 主な読み手 | 投資家 | 財務資本の提供者を中心とした幅広いステークホルダー | 投資家に限らない幅広いステークホルダー |
| 中心的な内容 | 財務情報・事業の状況(サステナビリティ情報は重要性に応じて) | 財務・非財務を統合した価値創造ストーリー | 環境・社会・ガバナンスの実績 |
| よりどころ | 開示府令などの法令 | 国際統合報告フレームワークなど | GRIスタンダードなど |
参考:サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ(金融庁)、国際統合報告フレームワーク(JPX ESG Knowledge Hub)
サステナビリティレポートとどちらを作るか
日本企業の多くは、有価証券報告書に加えて、統合報告書とサステナビリティレポートのどちらか一方、または両方を発行しています。
統合報告書は、投資家に向けて価値創造ストーリーを凝縮して伝える書類です。
一方でサステナビリティレポートは、環境・社会・ガバナンスの取り組みを、詳しいデータとともに幅広い読み手に伝えます。
投資家に限らない、企業を取り巻く関係者の全体像は、以下の記事にまとめました。
日本の発行状況
日本国内の統合報告書の発行数は、民間の調査機関が毎年公表しています。
発行企業数は増加が続いている
冒頭で触れた1,214社という数字は、宝印刷D&IR研究所が2026年2月25日に公表した「統合報告書発行状況調査2025」の値です。
対象期間は2025年1月から12月末までで、前年の1,150社から64社増えました。
同研究所によると、国際統合報告フレームワークの日本語版が発行された2014年の発行企業数は142社で、2025年までに8倍以上に増え、上場企業の3割程度が発行するまでになりました。
参考:「統合報告書発行状況調査2025」最終報告(宝印刷D&IR研究所、PDF)
発行するかどうかは企業ごとの判断に委ねられており、業種や企業規模によって発行状況にはばらつきがあります。
名称は企業によって異なる
「統合報告書」を名乗らず、「アニュアルレポート」などの名前で、財務・非財務情報を統合した報告書を発行する企業もあります。
中身が財務・非財務を統合した構成であれば、名称が違っても同じ性質の書類だと考えられます。
統合報告書に記載される主な内容
内容要素をもとに、実務でよく登場する構成要素を、4つに整理します。
経営理念とビジネスモデル
経営理念やパーパス、価値を生み出す仕組みを示すビジネスモデルの説明が、統合報告書の骨格になります。
内容要素でいう「組織概要と外部環境」「ビジネスモデル」にあたる部分です。
マテリアリティ(重要課題)
統合報告書には、企業が優先して取り組む重要課題であるマテリアリティと、その特定プロセスが記載されます。
マテリアリティの決め方や、企業ごとの公開例は、以下の記事で詳しく解説しています。
≫マテリアリティとは?意味やサステナビリティ経営との関わりを解説
財務ハイライトと非財務ハイライト
売上高などの財務ハイライトと、CO2排出量などの非財務ハイライトを、あわせて示す構成が一般的です。
内容要素でいう「実績」にあたる部分です。
ガバナンスとリスク・機会
取締役会の構成などのガバナンス情報と、価値創造に影響するリスクと機会の説明も、主要な内容要素です。
有価証券報告書のサステナビリティ情報記載欄でも、ガバナンスとリスク管理は必ず記載する項目とされており、両者は重なり合う部分があります。
参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(金融庁)
作成プロセスと関わる部署
統合報告書は1つの部署だけでは作れず、社内の複数部署が持ち寄った情報を1冊にまとめる作業です。
情報を集め、価値創造ストーリーにまとめる
経営企画部門は、中期経営計画の情報を提供し、統合報告書全体のストーリーラインを設計する役割を担うことが多い部署です。
経営企画の仕事の中身は、以下の記事で紹介しています。
≫社会課題解決 × 事業企画・経営企画のキャリアとは?全体を設計する視点で課題解決に関わるキャリア
IR部門と財務経理部門
IR部門は投資家が知りたい情報を把握して内容を調整し、財務経理部門は決算数値との整合性を確認しながら財務ハイライトを作成します。
サステナビリティ推進部門
サステナビリティ推進部門は、マテリアリティの特定プロセスや、環境・社会への取り組みの実績を取りまとめ、非財務情報の骨格を作ります。
複数部門の情報を1つにまとめる過程が、統合思考を社内に広げる機会になります。
統合報告書の作成に関わる仕事
統合報告書に関わる仕事は、社内でストーリーを作る仕事と、社外から支援する仕事に分かれます。
IR・広報
IR・広報は、投資家や証券アナリストとの対話を通じて、統合報告書に何を書けば伝わるかを見極める仕事です。
サステナビリティ推進
サステナビリティ推進は、環境・社会への取り組みを整理し、マテリアリティの特定プロセスを社内外の関係者と進める仕事です。
企業で社会課題に関わる働き方を比べたい人は、以下の記事も参考になります。
≫民間企業で社会課題解決に関わるには?CSR・サステナ・ソーシャルビジネスの違いと選び方
外部から支援する仕事
サステナビリティコンサルタントは、企業が統合報告書やサステナビリティレポートを作成し、開示の質を高める過程を、社外の立場で支援する仕事です。
≫サステナビリティコンサルタントとは?業務内容や必要なスキル・資格、取り組む企業を紹介
COCOCOLOR EARTHのインタビューに登場する、CSRデザイン環境投資顧問株式会社の宮澤大喜さんは、不動産会社やファンド向けのESGコンサルタントです。
海外機関投資家が求めるサステナビリティ調査「GRESB」の参加支援を担当しています。
統合報告書そのものの作成支援ではありませんが、投資家が求める非財務情報の開示を社外から支える仕事の一例です。
≫環境問題やESGを軸にしたキャリアの歩み~CSRデザイン環境投資顧問株式会社 宮澤 大喜~
CSRや広報、経営企画など、企業でこうした情報発信に関わる仕事を探したい人は、以下の記事にまとめています。
≫CSR活動に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業を中心に紹介
よくある質問
統合報告書について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 統合報告書とは何ですか?
A. 統合報告書とは、財務情報と非財務情報を1つにまとめ、企業が中長期的にどのように価値を創造していくかを説明する開示書類です。国際統合報告フレームワークは、財務資本の提供者に対し、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明することを主たる目的としています。同時に、従業員や顧客、地域社会など、組織が長期にわたって価値を創造する力に関心を持つ幅広いステークホルダーにも有益な書類だとしています。日本では宝印刷D&IR研究所の調査で、2025年に1,214社が発行しました。
Q. 統合報告書と有価証券報告書、サステナビリティレポートはどう違いますか?
A. 有価証券報告書は、金融商品取引法に基づき提出が義務づけられた法定開示書類で、投資家に向けた財務情報が中心です。統合報告書とサステナビリティレポートは、どちらも法律で義務づけられていない任意開示書類です。統合報告書は財務情報と非財務情報を統合し、価値創造のストーリーを財務資本の提供者に向けて伝えます。サステナビリティレポートは、環境・社会・ガバナンスの取り組み実績を、投資家に限らない幅広いステークホルダーに詳しく伝える書類です。
Q. 統合報告書には何が書かれていますか?
A. 国際統合報告フレームワークは、含めるべき情報を8つの内容要素で示しています。組織概要と外部環境、ガバナンス、ビジネスモデル、リスクと機会、戦略と資源配分、実績、見通し、作成と表示の基礎です。実務では、経営理念やビジネスモデル、マテリアリティとその特定プロセス、財務・非財務ハイライト、ガバナンスやリスク・機会の説明が、主な構成要素として登場します。各内容要素は独立しておらず、中長期的な価値創造プロセスの中でつながっています。
Q. 統合報告書の作成にはどんな仕事が関わりますか?
A. 統合報告書の作成には、経営企画、IR、財務経理、サステナビリティ推進など、社内の複数部署が関わります。経営企画は中期経営計画をもとにストーリーラインを設計し、IRは投資家が知りたい情報を反映させ、財務経理は数値の整合性を確認します。サステナビリティ推進は、マテリアリティの特定や非財務情報の取りまとめを担います。社外からは、サステナビリティコンサルタントが開示の質を高める過程を支援する仕事もあります。
まとめ
統合報告書は、財務情報と非財務情報を1冊にまとめ、企業が価値をどう作っていくかを説明する任意開示の書類です。
日本国内では2025年に1,214社が発行し、有価証券報告書やサステナビリティレポートと役割を分けながら、あるいは組み合わせながら使われています。
気になる企業を見つけたら、統合報告書の目次を開き、8つの内容要素のうちどこに一番ページを割いているか比べてみてください。
ページ配分の偏りに、企業が投資家へ伝えたい優先順位が表れます。
経営企画やIR、サステナビリティ推進のような情報開示に関わる仕事が気になった人は、開示に力を入れている企業をココキャリアで探してみてください。
ページ配分を読み解く力は、企業の意思決定を見抜く目に育っていきます。
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【企業様向け】統合報告書への取り組みをPRしませんか?

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
