2019年8月、米国の主要企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが、181人のCEOが署名した声明を発表しました。

声明は、顧客、従業員、取引先、地域社会、株主のすべてに価値を届けると約束しています。

日本でも、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが、従業員や顧客、取引先、地域社会など、様々なステークホルダーとの適切な協働を上場会社に求めています。

ニュースや企業の報告書で「ステークホルダー」を見かけても、誰を指す言葉なのか曖昧なまま読み進めている人は、少なくないはずです。

この記事を読むと、ステークホルダーの意味と種類、株主との違い、企業が向き合う理由を、自分の言葉で説明できるようになります。

語源や分類の考え方、企業の開示事例、関わる仕事までを、一次情報をもとに整理しました。

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ステークホルダーとは

ステークホルダーとは、企業や組織の活動によって影響を受ける、あるいは影響を与える人や集団のことで、日本語では利害関係者と訳されます。

英語ではstakeholderと書き、複数形のstakeholdersで使われることも多くあります。

語尾の長音を省いた「ステークホルダ」と書く場合もありますが、意味は変わりません。

「ステーキホルダー」や「ステークフォルダ」は誤記で、正しくは「ステークホルダー」です。

簡単にいえば、ある組織の動きが自分の生活や仕事に関わってくる人たちを指します。

語源と成り立ち

stakeholderのstakeは「賭け金」や「出資」を意味し、holderは「持つ人」を表します。

経営学者のR・エドワード・フリーマンによると、この語が経営学の文献に初めて現れたのは、1963年のスタンフォード研究所の社内メモです。

この語は、経営者が配慮すべき相手を株主だけに限る見方を広げる言葉として生まれました。

当初の定義は、支持がなければ組織が存続できない集団で、株主、従業員、顧客、供給者、貸し手、社会が挙げられていました。

1984年には、フリーマンが著書『Strategic Management: A Stakeholder Approach』を世に出しています。

この本で、組織の使命の達成に影響を与える、または影響を受ける集団や個人としてとらえ直し、経営戦略の中心に据えています。

参考:The Stakeholder Concept and Strategic Management(Cambridge University Press)

参考:Stakeholder Management: Framework and Philosophy(Cambridge University Press)

身近な例で考える

たとえば学校の文化祭では、生徒、先生、保護者、地域の人、出店を依頼する業者が、それぞれステークホルダーです。

企画が成功すれば全員が喜び、トラブルが起きれば全員に影響が及びます。

企業では、この相手が従業員、顧客、取引先、株主、地域社会などに広がります。

プロジェクトマネジメントでの使われ方

ビジネスの現場では、企業全体だけでなく、プロジェクトごとにステークホルダーを考えます。

プロジェクトの進み方や成果に影響を与える、または影響を受ける人や組織を洗い出し、期待や懸念を把握して関係を築く作業は、ステークホルダーマネジメントと呼ばれます。


ステークホルダーの種類

ステークホルダーの分け方には、決まった一つの型があるわけではなく、目的に応じて複数の切り口が使われます。

内部と外部

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)は、株主以外の重要なステークホルダーを、社内の関係者と社外の関係者に分けて示しています。

内部のステークホルダー

内部のステークホルダーとは、従業員をはじめとする社内の関係者です。

外部のステークホルダー

外部のステークホルダーとは、顧客、取引先、債権者などの社外の関係者です。

さらに、地域社会のように、会社の存続や活動の基盤をなす主体も含まれるとされています。

参考:コーポレートガバナンス・コード(日本取引所グループ)

一次と二次

学術研究では、マックス・クラークソンが1995年に発表した論文が、一次ステークホルダーと二次ステークホルダーという分け方を示したことで知られています。

一次ステークホルダーは、企業の存続に欠かせない株主、従業員、顧客、取引先などです。

二次ステークホルダーは、企業に影響を与えたり受けたりするものの、存続に直接は関わらない、メディアや特定の関心を持つ団体などです。

参考:クラークソン「企業の社会的成果を分析・評価するステークホルダーの枠組み」(1995年)

企業の主なステークホルダー

企業のステークホルダーは、次のように並べられます。

株主・投資家

株主・投資家は、企業に資金を出し、成長と株主還元に関心を持ちます。

従業員

従業員は、企業で働き、賃金や労働環境、成長の機会に利害を持ちます。

顧客・生活者

顧客・生活者は、商品やサービスを使い、品質や安全、価格を重視します。

取引先

取引先は、原材料の調達や販売で企業と結びつく存在で、サプライチェーンを構成します。

地域社会

地域社会は、事業所や工場のある地域で暮らす人々で、雇用や環境の面で影響を受けます。

行政・NPO・NGO・業界団体

行政やNPO・NGO、業界団体は、法制度や社会課題の観点から企業と関わります。

優先順位のつけ方

ステークホルダーの声は、すべてを同じ重さで聞けるわけではありません。

ミッチェル、アグル、ウッドは1997年の論文で、影響力、正当性、緊急性の3つの属性から、どのステークホルダーを優先するかを考える枠組みを示しました。

参考:ミッチェルほか「ステークホルダーの特定と顕著性の理論」(1997年)

ステークホルダーとシェアホルダーの違い

シェアホルダーとは、企業の株式を持つ株主のことで、ステークホルダーの一部にあたります。

英語ではshareholderのほか、stockholderとも呼ばれます。

株主だけに配慮する考え方と、株主を含めた全員に配慮する考え方の違いが、近年の議論の中心です。

株主第一主義とステークホルダー資本主義

経済学者のミルトン・フリードマンは、1970年9月13日号のニューヨーク・タイムズ・マガジンへ論考を寄せました。

企業の社会的責任は利益を増やすことだという主張で、株主第一の考え方を代表する論考として知られています。

ビジネス・ラウンドテーブルの原則も、1997年以降は株主第一の考え方を支持していました。

2019年8月19日の声明で、顧客、従業員、取引先、地域社会、株主のすべてに価値を届ける姿勢に改めました。

ステークホルダー資本主義とは、企業が株主だけでなく、従業員や顧客、取引先、地域社会にも配慮して価値をつくる考え方です。

参考:企業の目的に関する声明(Business Roundtable、2019年8月19日)

株主も大切なステークホルダー

株主とステークホルダーは、対立する存在ではありません。

株主・投資家も、企業を取り巻く大切なステークホルダーの一人です。

環境や社会への取り組みを投資判断に取り入れるESG投資では、投資家が企業のステークホルダーへの向き合い方も判断材料にします。


なぜ企業はステークホルダーを重視するのか

企業がステークホルダーを重視する背景には、制度、経営の考え方、社会の期待という3つの流れがあります。

コーポレートガバナンス・コードの求め

コーポレートガバナンス・コードの基本原則2は、上場会社に、株主以外のステークホルダーとの適切な協働を求めています。

コードによると、企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーの貢献の結果です。

上場会社には、そのことを十分に認識した協働への努力が求められる、という位置づけです。

解釈指針は、人的資本への投資や取引先との公正・適正な取引など、ステークホルダーとの適切な協働によって初めて、持続的な成長を達成できると述べています。

適切な対応は社会・経済全体に利益を及ぼし、その結果として会社自身にも利益がもたらされる好循環につながる、という考え方も示されています。

CSVと結びつく考え方

社会課題の解決と事業の成長を両立させる考え方に、CSV(Creating Shared Value)があります。

社会のニーズや課題を事業で解決して価値を生むCSV経営は、ステークホルダーへの配慮を事業に結びつける形のひとつです。

CSVの意味や、CSRとの違いは、以下の記事で解説しています。

≫CSV経営とは?生まれた背景やソーシャルビジネスとの違い、事例などを解説

マテリアリティの特定にも生きる

ステークホルダーが何に関心を持つかを踏まえて、自社が優先して取り組む課題を決める考え方は、マテリアリティと呼ばれます。

ステークホルダーエンゲージメントの実例

ステークホルダーエンゲージメントとは、企業がステークホルダーと対話し、その期待や関心を経営に生かしていく取り組みです。

企業が実際に開示している例を、公式サイトから見てみます。

味の素株式会社

味の素株式会社は、公式サイトで、各ステークホルダーが何に関心を持ち、何を期待しているかを理解して、事業活動につなげる必要があると述べています。

双方向のコミュニケーションを通じたエンゲージメントは、経営において重要かつ不可欠なものと位置づけられています。

対象は、お客様・生活者、株主・投資家、取引先、従業員、地域社会、社外有識者・NPO・NGO・業界団体などです。

株主・投資家には株主総会や決算説明会、取引先には調達方針説明会や監査、従業員にはCEOや本部長との直接対話や労使協議会といった場を設けています。

従業員向けには、ホットラインやハラスメント窓口に加えて、障がい者やLGBTの相談窓口も用意しています。

参考:ステークホルダーエンゲージメント(味の素株式会社)

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社は、ステークホルダーとの良好な関係の構築を、持続的な成長に不可欠な要素と位置づけています。

対象は、お客さま、ビジネスパートナー、社員、地域社会、同業他社・業界団体、国・行政機関の6つです。

実施にあたっては、国際的な基準のAA1000SESや、環境省の環境報告ガイドラインなどをもとにしています。

お客さまとの対話の手段のひとつに、Webサイトやアプリケーションのアクセシビリティを確保する取り組みが挙げられています。

参考:ステークホルダーエンゲージメント(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)

認証や経営の枠組みを使う企業

ステークホルダーへの向き合い方を、外部の認証や経営の枠組みで示す企業もあります。

B Corp(Bコープ)は、社会や環境への配慮を含む総合的な基準を満たした企業に与えられる認証です。

≫B Corp(Bコープ)とは?意味・最新審査基準・取得方法・日本と世界の事例まで解説

CSV経営に取り組む企業の具体例は、以下の記事で10社を紹介しています。

≫CSV経営に取り組む企業10選!就職・転職におすすめのベンチャーから大手企業


ステークホルダーに関わる仕事・キャリア

ステークホルダーとの関係づくりは、特定の部署だけでなく、多くの職種の仕事に含まれています。

サステナビリティ・CSR推進

サステナビリティ・CSR推進は、社内外の関係者と対話し、取り組みを企画して情報を発信する仕事です。

IR(投資家向け広報)

IRは、株主や投資家に経営状況を説明し、寄せられた意見を経営に届けます。

広報・コーポレートコミュニケーション

広報・コーポレートコミュニケーションは、顧客や地域社会、メディアとの関係をつくる役割を担います。

サステナビリティコンサルタント

サステナビリティコンサルタントは、企業のステークホルダーとの対話設計や情報開示を、外部から支える仕事です。

≫サステナビリティコンサルタントとは?業務内容や必要なスキル・資格、取り組む企業を紹介

民間企業で社会課題の解決に関わるキャリアの全体像は、以下の記事で紹介しています。

≫民間企業で社会課題解決に関わるには?CSR・サステナ・ソーシャルビジネスの違いと選び方

COCOCOLOR EARTHのインタビューには、株式会社エル・ティー・エスのコンサルタントとして働く池本悠香さんが登場します。

池本さんは、社会課題の解決には、民間企業、行政、研究機関など多様なセクターの協働が欠かせないと考えています。

そこで、利害の異なるステークホルダーをつなぎ、目的をすり合わせて物事を前に進める「架け橋」の役割に関心を持ったそうです。

いまは、プロジェクトマネジメントやステークホルダーマネジメントのスキルを学んでいると語っています。

≫「理不尽」を仕組みで解決する。ビジネスの力で社会課題へ挑む「ジェネラリスト」の現在地 〜株式会社エル・ティー・エス 池本悠香さん〜

よくある質問

ステークホルダーについて、よく寄せられる疑問に答えます。

Q. ステークホルダーとは何ですか?

A. ステークホルダーとは、企業や組織の活動によって影響を受ける、あるいは影響を与える人や集団のことで、日本語では利害関係者と訳されます。英語ではstakeholderで、複数形でも使われます。企業の場合は、株主や投資家、従業員、顧客、取引先、地域社会、行政、NPOなどが含まれます。経営学者のフリーマンによると、この語は1963年のスタンフォード研究所の社内メモに初めて現れました。「ステークホルダ」と書かれることもありますが意味は同じで、「ステーキホルダー」は誤記です。

Q. ステークホルダーにはどんな種類がありますか?

A. 従業員などの内部と、顧客や取引先などの外部に分ける方法が代表的です。内部の従業員と外部の顧客や取引先では、企業に期待することが異なります。学術研究では、企業の存続に欠かせない一次ステークホルダーと、それ以外の二次ステークホルダーに分ける考え方も使われます。影響力、正当性、緊急性の3つの属性で優先順位をつける枠組みもあります。コーポレートガバナンス・コードは、会社の存続や活動の基盤をなす地域社会も、重要なステークホルダーとして挙げています。

Q. ステークホルダーとシェアホルダーの違いは何ですか?

A. シェアホルダーは企業の株式を持つ株主のことで、英語ではshareholderやstockholderと呼ばれ、ステークホルダーの一部です。株主の利益だけを重視する考え方が株主第一主義で、株主に加えて従業員、顧客、取引先、地域社会にも配慮する考え方がステークホルダー資本主義です。2019年8月には、米国のビジネス・ラウンドテーブルが、顧客、従業員、取引先、地域社会、株主のすべてに価値を届けるとする声明を発表しました。

Q. ステークホルダーエンゲージメントとは何ですか?

A. ステークホルダーエンゲージメントとは、企業がステークホルダーと対話し、その期待や関心を理解して経営に生かす取り組みです。対象は、顧客、株主、取引先、従業員、地域社会など、企業ごとに整理されます。たとえば、株主総会や決算説明会で株主と、調達方針説明会で取引先と、CEOとの直接対話で従業員と向き合います。味の素株式会社のように、サステナビリティに関する公式サイトで、対象と手段を公開している企業もあります。


まとめ

ステークホルダーとは、企業や組織の活動に影響を与える、あるいは影響を受けるすべての利害関係者のことです。

株主だけでなく、従業員や顧客、地域社会なども含めてとらえるこの言葉は、1963年の社内メモに初めて現れました。

いまは、日本のコーポレートガバナンス・コードにも取り入れられています。

まずは、関心のある企業の公式サイトで、ステークホルダーエンゲージメントのページを開き、誰と、どんな場で対話しているかを読んでみてください。

自分自身についても、学校や職場、地域で、どんなステークホルダーの一人になっているかを書き出してみると、社会との接点が見えてきます。

企業とステークホルダーをつなぐ仕事が気になったら、ココキャリアで、社会課題に取り組む企業の取り組みを読み比べてみてください。

読み解く力は、そのまま企業を見る目になります。

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