環境省が実施した最後の「環境にやさしい企業行動調査」では、上場企業の66.4%が環境報告書を作成・公表していました。
一方、非上場企業では23.4%にとどまり、企業の規模によって取り組みに開きがあります。
就職活動や企業研究で「サステナビリティレポート」という言葉を目にしても、CSR報告書や統合報告書と何がどう違うのか、説明できる人は多くありません。
読み終えたときには、企業のサイトでサステナビリティレポートを開き、何が書かれた資料なのかを自分の言葉で説明できます。
GRIやISSBなど国際基準を定める組織の公式資料、環境省の調査、経済産業省のガイダンスを一次情報として、呼び名の変遷から関わる仕事まで確認していきます。
※【企業様向け】サステナビリティレポートへの取り組みをPRしませんか?
掲載を希望する企業様はこちら
環境や社会に取り組む企業やキャリアの情報は、以下のページからまとめて探せます。
サステナビリティレポートとは
サステナビリティレポートとは、企業が環境・社会・ガバナンスに関する取り組みを、投資家に限らず幅広いステークホルダーに向けてまとめた報告書のことです。
略してサステナレポートと呼ばれることもあります。
英語ではSustainability Reportと表記され、企業によっては今もCSRレポートという名称を使っています。
呼び名の変遷
サステナビリティレポートという呼び方は、最初からあったわけではありません。
1990年代から2000年代にかけては、温室効果ガスの排出量など環境負荷の情報を中心に伝える環境報告書が主流でした。
環境省の環境報告ガイドラインは、環境報告を行う媒体として、サステナビリティ報告書、アニュアルレポート、有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書などを挙げています。
複数の媒体で報告する場合は、その相互関係を示すよう求めています。
2000年代半ばになると、環境だけでなく人権や労働、地域貢献なども含めたCSR報告書という呼び方が広がりました。
CSRの意味やサステナビリティ・ESGとの違いは、以下の記事で解説しています。
≫CSRとは?意味・事例・サステナビリティ・ESGとの違いとCSR部門のキャリアを解説
さらに、経済・環境・社会を長期的に両立させるという考え方が広がり、報告書の名称もサステナビリティレポートへと置き換わっていきました。
サステナビリティ全体の考え方は、以下の記事にまとめています。
≫サステナビリティとは?企業が取り組むメリットや事例、PR方法などを解説
GRIが定めた国際的な位置づけ
呼び方が広がった背景には、国際的な基準づくりの動きがあります。
GRI(Global Reporting Initiative)は、1997年に米国ボストンで設立された非営利団体です。
非営利団体CERESとテラス研究所を母体とし、国連環境計画(UNEP)も設立に関わりました。
GRIは2000年に最初のガイドラインを発行し、版を重ねながら、現在はGRIスタンダードと呼ばれる基準を整備しています。
GRIスタンダードは、あらゆる組織が経済・環境・人への影響を、比較可能で信頼できる方法で報告できるようにすることを目的としています。
主な報告基準・フレームワーク
サステナビリティレポートを作るとき、多くの企業が何らかの基準やガイドラインを参考にしています。
環境省の調査でも、環境報告書を作る企業の6割以上が、複数の基準を組み合わせて参考にしていることがわかっています。
GRIスタンダード
GRIスタンダードは、3種類の基準で構成されています。
すべての組織に適用されるユニバーサル基準(GRI1・GRI2・GRI3)、業種ごとの開示を定めるセクター基準、テーマごとの開示をまとめたトピック基準です。
ユニバーサル基準は2021年10月に改訂され、2023年1月1日以降に始まる報告から適用されています。
SASBとISSB(IFRS S1・S2)
SASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、米国で発展してきた基準です。
業種別に、財務的な重要性の高い項目を定めています。
2021年11月3日、IFRS財団はCOP26(英国グラスゴー)で、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を発表しました。
参考:About the ISSB(IFRS Foundation)
2022年8月1日には、SASB基準と統合報告フレームワークを運営していたValue Reporting Foundationが、IFRS財団に統合されました。
参考:Integrated Reporting FAQs(IFRS Foundation)
ISSBは、全般的な開示要求を示すIFRS S1と、気候関連開示に特化したIFRS S2を公表し、投資家向けの国際基準として位置づけています。
環境報告ガイドライン(環境省)
日本国内では、環境省の環境報告ガイドラインも参考にされている基準の一つです。
環境にやさしい企業行動調査によると、環境報告書を作る企業のうち62.9%が環境報告ガイドラインを、43.3%がGRIのガイドラインを参考にしたと回答しています。
統合報告書との違い
サステナビリティレポートとよく混同される報告書に、統合報告書があります。
統合報告書そのものの詳しい解説は、以下の記事にまとめています。
≫統合報告書とは?意味や記載内容、サステナビリティレポートとの違いを解説
対象読者の違い
サステナビリティレポートは、GRIスタンダードが示すとおり、投資家だけでなく従業員や取引先、地域社会まで含めた幅広いステークホルダー向けの報告書です。
一方、統合報告書のもとになる統合報告フレームワークは、財務資本の提供者を主な読み手として位置づけています。
参考:Integrated Reporting FAQs(IFRS Foundation)
経済産業省は、価値協創ガイダンスの理念を共有するガイドライン等を、企業と投資家の「共通言語」と位置づけています。
統合報告書は、投資家との対話を強く意識した報告書だとわかります。
法的位置づけと作成の任意性
サステナビリティレポートと統合報告書は、どちらも日本で発行そのものを義務づける法律はなく、企業が任意で作成しています。
ただし、有価証券報告書には2023年3月31日以後に終了する事業年度から、サステナビリティに関する考え方及び取組の記載欄が設けられました。
参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(金融庁)
この記載欄で何を書くかを判断する際には、マテリアリティの考え方が使われます。
≫マテリアリティとは?意味やサステナビリティ経営との関わりを解説
内容の重点の違い
2つの報告書は、同じ企業が発行していても、重点の置き方が異なります。
| 項目 | サステナビリティレポート | 統合報告書 |
|---|---|---|
| 主な読み手 | 投資家を含む幅広いステークホルダー | 財務資本の提供者(投資家・金融機関) |
| 重点 | 環境・社会・ガバナンスの取り組みを網羅的に開示 | 財務情報と非財務情報を結びつけた価値創造ストーリー |
| よりどころ | GRIスタンダードなど | 統合報告フレームワーク、価値協創ガイダンス |
どちらか一方だけを読めば十分というわけではありません。
投資家は統合報告書で全体像をつかみ、サステナビリティレポートで詳細を確認するという読み方をすることもあります。
記載される主な内容
サステナビリティレポートには、GRIスタンダードなどの基準に沿って、企業の取り組みが体系的にまとめられています。
代表的な構成は、環境・社会・ガバナンスの3分野です。
環境(Environment)の取り組み
環境の分野では、温室効果ガスの排出量、エネルギー使用量、水資源、廃棄物、生物多様性への配慮などが記載されます。
環境報告ガイドラインは、事業者が重要と判断した環境課題への取り組みを、経年の実績評価指標とあわせて示すよう求めています。
社会(Social)の取り組み
社会の分野では、労働環境、人権、ダイバーシティ、地域社会への貢献、サプライチェーンにおける取り組みなどが記載されます。
環境・社会・ガバナンスをまとめた考え方は、以下の記事でも取り上げています。
≫ESGとは?キャリアや関連職種・求められるスキル・キャリアパスを解説
ガバナンス(Governance)の取り組み
ガバナンスの分野では、取締役会の構成、リスク管理体制、重要な課題への対応方針などが記載されます。
環境報告ガイドラインも、取締役会が重要な環境課題にどう関与しているかを、ガバナンスの記載事項の一つに位置づけています。
マテリアリティとKPI
多くのサステナビリティレポートは、自社にとって重要な課題であるマテリアリティを特定し、課題ごとに具体的な数値目標を示す構成をとっています。
マテリアリティの特定プロセスや企業の公開例は、以下の記事で詳しく解説しています。
≫マテリアリティとは?意味やサステナビリティ経営との関わりを解説
日本企業の発行状況
日本企業がどれくらいサステナビリティ関連の報告書を作っているかは、環境省の調査からうかがえます。
最後の調査となった平成30年度調査の結果を見てみます。
環境省の「環境にやさしい企業行動調査」平成30年度調査では、回答した1,215社のうち、環境報告書を作成・公表している企業は425社、35.0%でした。
上場企業に限ると327社のうち217社、66.4%が作成・公表しており、非上場企業の888社のうち208社、23.4%を大きく上回りました。
この調査でいう環境報告書には、CSR報告書やサステナビリティ報告書などの一部として作成されたものも含まれています。
この調査は令和元年度の実施をもって終了しており、環境省はそれ以降、同種の継続調査を公表していません。
そのため、直近の発行率を知りたい場合は、各企業のサステナビリティレポートを個別に確認する必要があります。
作成プロセスと関わる部署
環境報告ガイドラインが示す記載事項を並べると、関わる部署の広さが見えてきます。
経営から現場まで、複数の部署が情報を持ち寄ってはじめて1冊になります。
経営責任者のコミットメントには経営陣が、ガバナンスやリスク管理には管理部門や法務が、ステークホルダーとの対話には広報やIRが、それぞれ関わります。
マテリアリティの特定プロセスでも、広報、人事、IR、法務、営業、調達、製品開発など複数の部署が状況の整理に関わるとされています。
多くの企業では、CSR部門やサステナビリティ推進部門が、各部署から集めた情報を1冊の報告書にまとめる事務局のような役割を担っています。
CSR部門の役割やキャリアパスは、以下の記事で解説しています。
≫CSRとは?意味・事例・サステナビリティ・ESGとの違いとCSR部門のキャリアを解説
完成した報告書は、第三者機関による保証や、有識者のコメントを受けたうえで公表されることもあります。
サステナビリティレポートの作成に関わる仕事
サステナビリティレポートの作成には、社内外のさまざまな仕事が関わっています。
ここでは代表的な3つの立場を紹介します。
CSR・サステナビリティ推進部門
CSR・サステナビリティ推進部門は、各部署から情報を集め、報告書の骨子を組み立て、社内外の意見を調整する仕事です。
東京スター銀行でCSR推進を担当する牛堂望美さんは、3本の柱で活動しているといいます。
社会への貢献、次世代を担う人材の育成、ダイバーシティの推進と働きやすい職場環境の提供です。
2020年8月公開のCOCOCOLOR EARTHのインタビューで、活動の内容を語っています。
≫社会貢献を当たり前に~敷居を高くしない~#1~東京スター銀行 CSR推進 牛堂望美さん~
サステナビリティレポートそのものを主題にしたインタビューではありませんが、CSR推進の現場でどんな活動が行われているかを知る手がかりになります。
広報・IR部門
広報部門は報告書のわかりやすさや対外的な発信を担い、IR部門は投資家に向けた説明や統合報告書との整合性を担います。
社会課題に関わる働き方の違いは、以下の記事でも比較しています。
≫民間企業で社会課題解決に関わるには?CSR・サステナ・ソーシャルビジネスの違いと選び方
サステナビリティコンサルタント
サステナビリティコンサルタントは、企業が報告書を作成・検証する過程を、社外の立場で支援する仕事です。
具体的な業務内容や必要なスキルは、以下の記事で紹介しています。
≫サステナビリティコンサルタントとは?業務内容や必要なスキル・資格、取り組む企業を紹介
環境問題に関わる仕事全体を知りたい場合は、以下の記事も参考になります。
≫環境問題に携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説
基準を読み解く力、数字と文章の両方で説明する力、社内外の意見をまとめる調整力は、どの仕事にも共通して役立ちます。
よくある質問
サステナビリティレポートを調べる人が、つまずきやすい点をまとめました。
Q. サステナビリティレポートとは何ですか?
A. サステナビリティレポートとは、企業が環境・社会・ガバナンスに関する取り組みを、投資家に限らず幅広いステークホルダーに向けてまとめた報告書のことです。かつては環境報告書やCSR報告書と呼ばれることが多く、GRIなど国際的な基準づくりが進むにつれて、この呼び方が広がりました。GRIスタンダードのほか、ISSBが公表するIFRS S1・S2、環境省の環境報告ガイドラインなどが、作成の参考にされています。決まった書式はなく、企業ごとに構成や分量が異なります。
Q. サステナビリティレポートと統合報告書はどう違いますか?
A. 違いは、主な読み手と内容の重点にあります。サステナビリティレポートは、GRIスタンダードが示すとおり、投資家を含む幅広いステークホルダー向けに、環境・社会・ガバナンスの取り組みを網羅的にまとめます。一方、統合報告フレームワークは財務資本の提供者を主な読み手とし、財務情報と非財務情報を結びつけた価値創造ストーリーを重視します。経済産業省の価値協創ガイダンス2.0も、投資家との対話を意識した枠組みです。
Q. サステナビリティレポートにはどのような基準がありますか?
A. 代表的な基準は4つあります。あらゆる組織に使えるGRIスタンダードと、投資家向けの国際基準を示すISSBのIFRS S1・S2です。業種別の重要項目を示すSASB基準、環境省の環境報告ガイドラインも参考にされています。環境省の調査では、環境報告書を作る企業の62.9%が環境報告ガイドラインを参考にしたと回答しています。GRIの基準を参考にした企業も43.3%あり、複数の基準を組み合わせる企業が多くなっています。
Q. サステナビリティレポートの作成にはどんな仕事が関わりますか?
A. CSR・サステナビリティ推進部門、広報・IR部門、社外のサステナビリティコンサルタントなど、複数の立場が関わります。推進部門は各部署から情報を集めて、報告書の骨子を組み立てます。広報・IR部門は、わかりやすさや投資家向けの説明を担います。コンサルタントは、企業が基準に沿って報告書を作成・検証する過程を、社外の立場で支援します。基準を読み解く力と、社内外の意見を1冊にまとめる調整力は、どの仕事にも共通して役立ちます。
まとめ
サステナビリティレポートとは、企業が環境・社会・ガバナンスの取り組みを、幅広いステークホルダーに向けてまとめた報告書です。
統合報告書と近い位置にありながら、読み手の広さと内容の重点で役割が分かれています。
興味のある企業を1社選び、公式サイトでサステナビリティレポートのPDFを開いて、目次と巻頭の経営者メッセージだけでも読んでみてください。
どの課題を重要と位置づけ、どの部署がその情報をまとめているのかが、目次の並びから見えてきます。
読み進める中で気になる分野が見つかったら、ココキャリアでその分野に取り組む企業を探してみてください。
数字と言葉で語られる1冊の向こうに、その企業で働く人たちの日々の判断が積み重なっています。
関連記事
≫サステナビリティとは?企業が取り組むメリットや事例、PR方法などを解説
≫CSRとは?意味・事例・サステナビリティ・ESGとの違いとCSR部門のキャリアを解説
≫マテリアリティとは?意味やサステナビリティ経営との関わりを解説
【企業様向け】サステナビリティレポートへの取り組みをPRしませんか?

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
