最近マイノリティ(少数派)という言葉をニュースで耳にすることも多いのではないでしょうか。
マイノリティと同時に、よく論じられるのがマジョリティという言葉です。
マジョリティはマイノリティの反対で「多数派」を指します。
マイノリティの権利や尊厳を尊重する風潮が近年強まっている一方で、「サイレントマジョリティ」が議論に上がることも増えてきました。
今日は「マジョリティとマイノリティ」についてわかりやすく説明しますので、LGBTQなどの問題を深く考えるきっかけにしましょう。
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目次
マジョリティとは?
「マジョリティ」とは、ある集団の中で最も数が多い部分、つまり大多数を指します。
ビジネスや社会学で使われるこの用語は、意思決定やトレンド分析において重要な役割を果たしています。
また、単純に数が多いというだけではなく、力を持っている派閥という意味も含みます。
例えば、日本国内に住んでいる日本人などが挙げられます。
マジョリティとマイノリティの違い
マジョリティとマイノリティの違いについて解説します。
マジョリティが多数派を指す一方で、マイノリティは「少数派」という意味を持ちます。
こちらも絶対的な数だけではなく、力関係も指します。
マジョリティの重要性
まず、大前提として、少数派を尊重することが重要になります。
しかし、現代の民主主義においては多数決が原則であり、多数派の意見が通ることが多いのが事実です。
したがって多数派が公共の課題を正しく認識し、少数派にも譲歩しながらそれに対処するための意思決定を行うことが重要です。
サイレントマジョリティとは
サイレントマジョリティとは、その名の通り「物言わぬ多数派」という意味です。
この概念を初めて叫んだのはニクソン元大統領です。
1960年代から70年代初頭にかけて、アメリカはベトナム戦争で泥沼にはまり、反戦論が盛んに叫ばれていました。
しかし、ニクソンは反戦を叫んでいるのは一部であり、アメリカ人の多くは声を挙げていないだけで暴力的な反戦運動には眉をひそめていると演説しました。
また、ニクソンは活動的なマイノリティが静かなマジョリティの意見を押さえつけてしまうと自由な社会の未来はない、と訴えたのです。
この演説の前の1968年の大統領選において、ニクソンの選挙人得票率55.9%でした。
しかし、この演説の3年後、アメリカ大統領選挙でニクソンは選挙人得票率96.7%という驚異的な得票率で大統領に再選されました。
【参考】
左傾化する若者「ジェネレーションレフト」の祖先 東京大学・中野教授に聞くアメリカ史(後編)
Nixon’s Silent Majority Speech
1968 | The American Presidency Project
1972 | The American Presidency Project
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ノイジーマイノリティとは
ノイジーマジョリティとは、サイレントマジョリティの反対で声をあげる少数派という意味です。
ベトナム戦争の事例で言えば、反戦運動を展開していた人々です。
ひょっとするとニクソン元大統領の演説を聞くと、ノイジーマジョリティが悪という印象を受けるかもしれませんが、そうとは一概には言えません。
反対にサイレントマジョリティーで居続けると、忖度や思考停止状態に陥ってしまうという指摘もあります。
【参考】
空気に操られる怖さ、民主主義を児童書で伝える 「脱サイレント・マジョリティー」がテーマ:東京新聞 TOKYO Web
マジョリティ主義とは
マジョリティ主義とは、特定の識別要素を持つ多数派が力を持ち、物事の最終決定権を持つべきという主張になります。
特定の識別要素には人種、宗教、社会的地位、所属などを含みます。
例えば、日本の国会でも与党の法律案が通ることが多いですよね。
このように多数決は民主主義の根幹を成すものであるという一方で、「多数派による少数派への圧政」という危険性もはらむという主張があります。
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マジョリティとマイノリティの事例3選
マジョリティとマイノリティの事例を解説します。
- 社会的マジョリティとマイノリティ
- 政治的マジョリティとマイノリティ
- セクシュアルマジョリティとセクシュアルマイノリティ
社会的マジョリティとマイノリティ
私が今回紹介したいのはスリランカの事例です。
まず、スリランカの民族を大きく分けると人口の75%を占める仏教系のシンハラ人とそれぞれ15%と8%を占めるヒンドゥー教系のタミル人、に分けられます。
イギリスは植民地政策として、スリランカ国内の対立を煽りイギリスへの抵抗を弱めるためにタミル人を優遇しました。
スリランカは独立後、スリランカ自由党(SLFP)がシンハラ人優遇策を公約に1956年の選挙で圧勝しました。
この政策で仏教を唯一の国教とするなどしたため、タミル人が反発し、過激武装組織の結成を含めた対抗措置をとります。
1980年前半から政府軍とタミル人武装組織の対立が激化し、インフラの破壊、地雷の敷設、7万人の戦死者、28万人に及ぶ国内避難民の発生などの影響が出ました。
現在は停戦が成され、スリランカの一部地域にタミル人自治区を作ろうとしていますが、民族融和など課題が山積しています。
他にも少数民族と対立した事例には、ロヒンギャ問題もあります。
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政治的マジョリティとマイノリティ
もちろん政党によってもマジョリティやマイノリティがありますが、性別によっても政治的なマジョリティ・マイノリティがあるといわれています。
2021年の世界経済フォーラムによれば男女格差の指数は156か国中120位でした。
また2021年の国会議員に占める女性議員の数は衆議院で9.9%、参議院で23%となっています。
さらに実際に市長として働かれた方は、有権者というよりは役所などでジェンダーバイアスを感じることが多かったといいます。
もちろん、女性議員の数を増やせばいいという単純な話ではありませんが、職場に多様性があるとより革新的になるという指摘もあります。
このように女性を含めた男性以外の性別の人が、より政治に進出するには、多くの人が選挙に出馬しやすくする環境作りが必要とのことです。
参考
How diversity makes teams more innovative | Rocío Lorenzo | TED
政治の男女格差を減らそう | NHK | WEB特集
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セクシュアルマジョリティとセクシュアルマイノリティ
男性、女性という性別がセクシュアルマジョリティである一方で、いわゆるLGBTQであると自認する人も一定数います。
最近、日本でLGBT法が可決されましたが、例えば同性婚については裁判所で判決が割れており、まだ議論を続けていかなければならない部分も多いです。
性的マイノリティに関してはこちらの記事もご覧ください。
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アメリカの実例
アメリカでの体験: 概要
さて、私は現在アメリカ・マサチューセッツ州に住んでいます。
私が住んでいる街や大学には、日本人はほとんどいないので私はマイノリティという部類ですが、幸いマイノリティであることで差別を受けたことはほとんどありません。
しかし、私の知り合いとの会話や趣味である博物館めぐり、映画鑑賞を通じて学んだことを少し書きたいと思います。
白人とネイティブアメリカン
ネイティブアメリカンは、ヨーロッパ人の入植前からずっとアメリカ大陸に住んでいた人たちです。
ネイティブアメリカンはヨーロッパとは違う生活様式を持っていましたが、ヨーロッパからの入植者に迫害、同化され、現在は是正されてきているものの、まだ彼らの生活は圧迫されているとのことです。
私は、2023年3月にワシントンDCにあるアメリカン・インディアン博物館に足を運んできました。
彼らは、白人がアメリカに来る前から自然に敬意を払い、また独自の宗教を信仰してきました。
個人的に興味深いことは、口頭伝承が中心だったため、現代のように書面上の約束よりも口約束が重視されるということです。
その後白人が入植すると、一部共存を目指した植民地もありましたが、結果的にはネイティブアメリカンを駆逐・殺戮・奴隷化しました。
また、直接的に手を加えなくても、ヨーロッパから持ち込まれた病気によるものや強制移住でも多くの死者を出したそうです。
それに対抗してインディアン戦争が起こりましたが、最新の武器を持ったヨーロッパ軍によって破れてしまいました。
その後、民族の同化を行うべく、子どもにヨーロッパ文化の学習を施し民族のアイデンティティが失われたのです。
現在は、近現代のネイティブアメリカンによる運動によって権利・文化の保護が進められています。
例えば、私は以前ネイティブアメリカンの土地の整備をネイティブアメリカンと他の人種の人たちと協力して行っている団体のプレゼンテーションを聞いたことがあります。
しかし、失われた民族意識や土地を取り戻すことは簡単にはできません。
また、現代を生きるネイティブアメリカンの生活も厳しいと言わざるを得ません。
例えば、ネイティブアメリカンの2018年の貧困率は25.4%を越えています。
ちなみにアメリカン・インディアン博物館を含め、ワシントンDCにあるスミソニアン博物館群は大変勉強になる展示が多いうえ、入館料は無料です。
ぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。
また、ネイティブアメリカンの生活の厳しさを描いた映画もあるので興味のある方はぜひ見てみてください。
【参考】
Racial Wealth Snapshot: Native Americans » NCRC
Home Page | National Museum of the American Indian
白人と黒人
皆さんもご存じの通り、アメリカでは黒人は白人の圧政を受けてきました。
例えば、黒人は白人と離れた席で学校の授業を受ける、大学に入学できない、奴隷として過酷な労働を強いられるなどです。
現在、黒人と白人は法律上は平等ですが、実際のところ、2019年の時点で黒人の貧困割合は白人のそれの2倍以上になるなど、平等であるとは言い難い状態になっています。(黒人:18.8%、白人:7.3%)
印象に残っているのは、アフリカ系アメリカ人の知り合いが「独立記念日よりも奴隷解放記念日(Juneteenth)の方を祝いたい」と言っていたことです。
私個人としてはアメリカ人はインディペンデンスデイを大々的に祝う人が多いと聞いていたのですが、アフリカ系アメリカ人の中では自身のルーツをそこまで大切に思っているのかと感銘を受けました。
参考:Poverty Rates for Blacks and Hispanics Reached Historic Lows in 2019 (census.gov)
おわりに: 「マジョリティ」の限界
マジョリティは民主主義で意思決定をするのに欠かせない要素です。
しかし、今まで見てきた事例のように多数派を優遇しすぎたり、少数派を弾圧すると、ネイティブアメリカンの事例のように数百年続いてしまう問題になりかねません。
また、スリランカの事例は多数派を優遇したのに、インフラ破壊や内戦・テロなどで結果的に多数派にも甚大な被害を与えることになりました。
だからこそ、難しいことですがマイノリティも住みやすいように配慮して意思決定をしていくことが重要といえるでしょう。