「里山」と聞いて、田んぼの向こうに雑木林が広がる、どこか懐かしい風景を思い浮かべる方は多いかもしれません。

けれども、あの風景は手つかずの自然ではありません。

人が薪を取り、下草を刈り、田を耕してきたからこそ保たれてきた自然です。

その手が入らなくなった今、里山は静かに姿を変えつつあります。

この記事では、里山という言葉が指す範囲と、その風景が人の手で保たれてきた理由を解説します。

担い手の減少、荒廃農地の広がり、シカやイノシシの分布拡大。

いま里山で起きていることと、保全の仕組み、里山を仕事にする道筋までを紹介します。

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里山を含む環境分野の企業とキャリアの情報は、次のページから辿れます。

≫環境問題に取り組む企業・キャリア情報

 

里山とは

里山という言葉は日常的に使われますが、行政の資料では少し違う呼び方をします。

環境省がいう「里地里山」の範囲

里山とは、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、農地、ため池、草原などで構成される地域です。

環境省はこれを「里地里山」と呼び、農林業などに伴う人の働きかけを通じて環境が形成・維持されてきたと説明しています。

参考:里地里山の保全・活用(環境省)

二次林とは、伐採や植栽を繰り返したあとに育った林のことで、薪や炭を取るための雑木林が代表例です。

里山は国土のどれくらいを占めるのか

環境省は、里地里山が国土の約4割を占めると説明しています。

この割合は、全国の1kmメッシュのうち農耕地・二次草原・二次林が半分以上を占めるものの比率です。

環境省が1999年度から2001年度にかけて委託した調査では、その内訳は二次林が約800万ha、農地等が約700万haとされました。

動物の絶滅危惧種が集中する地域の49%、植物では55%が里地里山に分布しています。

参考:日本の里地里山の調査・分析(中間報告・環境省)

奥山や原生林との違い

原生林は人の手が入らないことで守られますが、里山は人の手が入ることで守られてきました。

陸の生態系をめぐる世界共通の目標については、以下の記事で解説しています。

≫【SDGs目標15】陸の豊かさも守ろうとは?現状と私たちにできること


里山はどうやってできたのか

いまの里山の姿は、3000年に及ぶ人と自然のやりとりが積み重なった結果です。

約3000年かけて作られた自然

農耕文明が伝わると、人々は湿地を水田に換え、水路やため池を造りました。

暗い原始の森林は薪や炭、肥料を採る場として使われ、放牧や採草を通じて草原も現れました。

環境省が2010年9月に策定した「里地里山保全活用行動計画」は、3000年に及ぶ人と自然のかかわりを経て、集落を中心に資源が循環する空間が形づくられたと説明しています。

参考:里地里山保全活用行動計画(環境省)

森林と人の関わりが失われると何が起きるかは、以下の記事でも取り上げています。

≫森林破壊とは?私たちが今すぐに私たちができること3選

人の手が入ることで保たれてきた生態系

薪炭林では伐採による更新や下草刈り、落ち葉かきが繰り返され、林の中に日光が届く明るい環境が保たれてきました。

カタクリやギフチョウのように明るい林床を好む動植物は、この環境があったから生き残ってきました。

水田や水路を生息の場としてきたメダカやタガメも、いまは絶滅危惧種です。

燃料革命が里山の使われ方を変えた

薪炭用材の伐採を通じて維持されてきた里山林は、石油やガスへの燃料転換と化学肥料の普及によって使われなくなりました。

参考:竹の利活用推進に向けて(林野庁)

里山が荒れた原因は、誰かが壊したからではなく、使わなくなったからでした。

里山が抱える課題

人の手も人の目も届かなくなった里山では、担い手の減少、荒廃農地の広がり、鳥獣害、竹林の拡大が重なって起きています。

管理の担い手が減っている

農林水産省が2026年2月にまとめた資料によれば、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年には102万人へ減りました。

参考:荒廃農地の現状と対策(農林水産省)

集落の維持が難しくなっている地域の実情は、以下の記事で解説しています。

≫限界集落とは?定義・現状・原因・対策をわかりやすく解説【2026年最新】

耕作されなくなった農地が広がっている

荒廃農地とは、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が不可能になった農地のことです。

農林水産省の集計では、2025年3月31日時点の荒廃農地は25.7万haでした。

うち再生利用が可能なものは9.8万ha、再生が困難と見込まれるものは15.9万haです。

田や畑が放棄されると水路やため池の管理も止まり、水辺の生きものは生息場所を失います。

シカとイノシシの分布が広がっている

環境省の調査によれば、ニホンジカの分布メッシュ数は1978年度の4,220から2018年度には11,563に増えています。

40年間で分布域は約2.7倍に拡大しました。

イノシシも同じ期間に5,188から9,641へと、約1.9倍に広がっています。

参考:ニホンジカ及びイノシシの生息分布調査(環境省)

環境省が2024年4月26日に公表した推定では、2022年度末時点の本州以南のニホンジカは中央値で約246万頭でした。

90%信用区間は約216〜305万頭、イノシシは中央値で約78万頭、90%信用区間は約58〜105万頭です。

イノシシは捕獲の効果で順調に減る一方、シカは依然として高い水準にあると環境省は説明しています。

参考:ニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果(環境省)

農林水産省の集計では、2024年度の野生鳥獣による農作物被害額は188億円で、うちシカが79億円、イノシシが45億円です。

参考:農作物被害状況(農林水産省)

竹林が周囲の森へ広がっている

林野庁の「森林資源の現況」によれば、日本の竹林面積は2022年3月31日現在で約17万haです。

参考:森林資源現況総括表(令和4年3月31日現在・林野庁)

竹林面積は、長期的に微増傾向で推移しています。

全国約1万6千点の森林生態系多様性基礎調査では、竹林と竹が25%以上侵入している森林を合わせた面積は約42万haと推計されました。

竹が優占した森林では植物種の多様性が大きく損なわれ、公益的機能の発揮にも支障が生じます。

参考:竹の利活用推進に向けて(林野庁)

生物多様性の「第2の危機」

環境省の生物多様性国家戦略2023-2030は、日本の生物多様性が4つの危機に直面していると整理しています。

第1の危機は開発など人間活動による危機、第2の危機は自然に対する働きかけの縮小による危機です。

第3の危機は人間により持ち込まれたものによる危機、第4の危機は地球環境の変化による危機とされています。

第2の危機の説明で最初に挙げられているのが、里地里山の薪炭林と、採草地などの二次草原です。

参考:生物多様性国家戦略2023-2030(環境省)

手入れが止まった林では植生の遷移が進み、タケ・ササ類が侵入して、明るい林が暗い林へ変わります。

環境省が2024年10月1日に公表した調査では、里地や森林・草原でスズメやヒバリの減少傾向が確認されました。

参考:モニタリングサイト1000里地調査(環境省)


里山を守る仕組み

里山を支える仕組みは、国内の制度と国際的な枠組みの両方にあります。

重要里地里山500

環境省は2015年12月18日、生物多様性保全上重要な里地里山として全国500箇所を選定したと発表しました。

選定の基準は、優れた二次的自然環境があること、里山特有の野生動植物が生息することなどです。

参考:重要里地里山の選定(環境省)

SATOYAMAイニシアティブ

SATOYAMAイニシアティブは、人の働きかけで維持されてきた二次的自然環境で、生物多様性の保全と持続可能な利用を進める取組です。

環境省と国連大学サステイナビリティ高等研究所が中心となって提唱してきました。

国際パートナーシップは、2010年10月に愛知県名古屋市で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議の期間に発足しました。

生物多様性条約そのものの内容や歴史は、以下の記事で解説しています。

≫生物多様性条約をわかりやすく解説!生物多様性の意味・歴史・課題まで

2023年7月に秋田県秋田市で第9回定例会合が開かれた時点では、78か国・地域の計304団体が参加していました。

参考:SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(環境省)

30by30と自然共生サイト

30by30は、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全することを目指す国際目標です。

国立公園などの保護地域だけでは届かないため、保護地域以外で保全に貢献している区域はOECMとして国際データベースに登録されます。

日本では、民間の取組等で生物多様性の保全が図られている区域を国が認定する自然共生サイトの制度が作られました。

2025年4月からは地域生物多様性増進法に基づく制度になり、2026年6月30日の発表時点で累計610か所が認定されています。

参考:自然共生サイトの認定(環境省)

里山を守る企業・団体の取り組み

里山の手入れを長く続けてきた企業と団体を3つ紹介します。

生物多様性に取り組む企業は、以下の記事でまとめています。

≫生物多様性保護に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー

三菱電機株式会社

三菱電機株式会社は、2007年10月から「里山保全プロジェクト」に取り組んでいます。

下草刈りや間伐、散策路の整備、清掃、植樹などを、地域の状況に合わせて続けています。

参考:里山保全プロジェクト(三菱電機)

本田技研工業株式会社

本田技研工業株式会社は、東京都八王子市の「上川の里」などで里地里山保全活動を行っています。

内容は里山保全活動、畑作活動、水田復元活動の3つです。

里山保全活動では、雑木林に生えた常緑樹を切って日当たりを良くし、どんぐりから育てた苗を植えています。

参考:里地里山保全活動(Honda)

森林の保全に取り組む企業は、以下の記事で確認できます。

≫森林保全に取り組む企業10選!就職・転職におすすめの大手企業からベンチャー

公益財団法人トトロのふるさと基金

公益財団法人トトロのふるさと基金は、1990年から寄付金を募って狭山丘陵の森を買い取る活動を続けています。

1991年に「トトロの森1号地」が誕生し、取得地は2026年6月現在で67ヶ所に広がりました。

買い取った森ではボランティアによる手入れの作業やガイドツアーが行われています。

参考:トトロの森を守る活動(トトロのふるさと基金)


里山保全・地域の自然に関わる仕事

里山には、制度を運ぶ人も、企業を動かす人も、現場で手を動かす人も必要です。

環境の分野にどんな職種があるかを知りたいときは、次の記事が役に立ちます。

≫環境問題に携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説

行政・自治体で制度を動かす

環境省や都道府県、市町村の自然環境部局では、重要里地里山や自然共生サイトに関わる制度の運用を担います。

農林部局では、荒廃農地の再生や中山間地域向けの交付金の運用が中心になります。

企業で自然資本の管理を担う

自然共生サイトの制度ができ、企業の社有林や事業所の緑地も国の認定の対象になりました。

サステナビリティ推進部門では、生物多様性の方針づくりや認定制度への申請といった仕事が生まれています。

NPO・財団の現場で手を動かす

トトロのふるさと基金のような団体では、森の手入れ、生きものの調査、ボランティアの受け入れが日々の仕事になります。

地域おこし協力隊という入口

制度の仕組みや任期後のキャリアについては、以下の記事で解説しています。

≫地域おこし協力隊とは?制度の仕組み・活動内容・任期後のキャリアを解説

宮崎県椎葉村で地域おこし協力隊として働いた藤江開生さんに取材しました。

藤江さんは、獣害や土砂崩れは他人事ではなく、生きる上での死活問題だと語っています。

山を守る人は年々減り、中山間地域の維持は全国的な社会課題になっているとも述べています。

担い手が減るという数字の意味は、現場に立った人の言葉のほうが早く伝わります。

≫新卒で「日本三大秘境」へ。地域おこし協力隊として見えた“山の社会課題”とキャリアの選択~藤江開生さん~

里山を守るために私たちができること

里山との関わり方は、仕事に限りません。

保全ボランティアへの参加が、いちばん直接的な方法です。

各地のNPOや自治体が、下草刈りや竹の伐採、田んぼの手入れの参加者を募集しています。

間伐材の製品や竹を使った商品、中山間地域の米や野菜を選ぶことも、関わり方のひとつです。

そして、近くの里山を歩いてみることです。

明るい雑木林と竹に覆われた林の違いは、一度見れば忘れません。

その目で生物多様性に取り組む企業の一覧を読むと、活動の中身が見分けられます。


よくある質問

里山を調べていると出てくる疑問に、4つ答えます。

Q. 里山とは何ですか?

A. 里山とは、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、農地、ため池、草原などで構成される地域です。環境省は行政文書で「里地里山」と呼び、農林業などに伴う人の働きかけを通じて環境が形成・維持されてきたと説明しています。国土の約4割を占め、薪炭林や採草地として使われ続けたことで、明るい林を好む動植物が生き残ってきました。手つかずの自然ではなく、人が使い続けることで保たれてきた二次的な自然である点が特徴です。

Q. 里山にはどんな問題が起きていますか?

A. 管理の担い手が減っていることが出発点です。基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年には102万人へ減り、平均年齢は67.6歳になりました。手が入らなくなった結果、2025年3月31日時点の荒廃農地は25.7万haに達しています。ニホンジカの分布域は1978年度から2018年度までの40年間で約2.7倍に広がり、2024年度の野生鳥獣による農作物被害額は188億円でした。環境省はこうした状態を、生物多様性の「第2の危機」と位置づけています。

Q. 里山はなぜ人の手を入れる必要があるのですか?

A. 里山の生態系が、人の利用を前提に成り立ってきたからです。薪炭林では伐採や下草刈り、落ち葉かきが繰り返され、林床に日光が届く明るい環境が保たれてきました。カタクリやギフチョウなど、この明るさを必要とする動植物はその環境に依存しています。手入れをやめると植生の遷移が進んで林が暗くなり、タケ・ササ類や灌木が茂って、もとの動植物相は変わっていきます。放置することが保護にならない点が、原生林との大きな違いです。

Q. 里山の保全に関わる仕事にはどんなものがありますか?

A. 環境省や都道府県、市町村の部局では、重要里地里山や自然共生サイトの制度運用、鳥獣の管理、交付金事業の窓口といった仕事があります。企業では、サステナビリティ部門が社有林や事業所の緑地を保全の対象として管理し、認定制度への申請を進める役割を担います。NPOや財団では、森の手入れ、生きものの調査、ボランティアの受け入れが日々の業務です。任期付きで地域に入る地域おこし協力隊も、現場から関わる入口のひとつになります。

まとめ

里山は、誰かが遠くで守ってくれている自然ではなく、人が関わり続けることでしか形を保てない自然です。

荒廃農地の面積やシカの分布域の数字は重い事実ですが、人の関わり方しだいで動く余地もあります。

週末の保全ボランティアに一度顔を出す、近くの里山を歩く、中山間地域の産物を選ぶ。

小さな関わりでも、続けば管理の手になります。

里山や地域の自然を事業にしている企業の名前は、ココキャリアで確かめられます。

団体の規模も、扱う課題も、思っているより幅があるはずです。

見慣れた雑木林が誰かの手で保たれてきたものだと気づくところから、里山との関係は変わり始めます。

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