今回は、性教育を通じて、誰もが自分らしく生きる社会の実現に取り組む「NPO法人ピルコン」を立ち上げた染矢さんにお話を伺いました。
当事者が声を上げづらい性の問題に、正面から取り組み続ける染矢さん。
ご自身の経験から、性の問題に取り組み始めたきっかけ、就職についての考え方、NPO法人の設立に至るまで、「性教育」に対する真摯な取り組みを、染矢さんご自身の経験とともにお伝えします。
NPO法人ピルコン 理事長石川県金沢市出身。
大学時代の中絶経験から、学生団体ピルコンを立ち上げ、性被害の啓発活動を行う。
その後、コンサルティング会社、化粧品メーカーを経て、2013年にNPO法人ピルコンを設立。
性教育に軸をおき、教育機関を中心に、性の問題について講演会などを行なっている。
現在は、海外の性教育動画AMAZEの日本語翻訳プロジェクトの統括も行う。
日本思春期学会性教育認定講師。
NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事。
一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会理事。
中高生のための性のモヤモヤ解決サイト「セイシル」アドバイザー。
著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」』。
2021年には、緊急避妊薬についての政策提言も行うなど、活動の幅を広げている。
ピルコンの活動を始めた、その思いとは
ーーー 現在の活動について教えてください。
NPO法人ピルコンの代表として、性教育に関する啓発や政策提言を行っています。
どの活動でも、私たちは「人生をデザインするため、性を学ぼう」をコンセプトに、次世代が自分らしく生きられるサポートを目指しています。
その中でも、活動の中心は中高生向け性教育です。
この活動は、若手ボランティア「フェロー」とともに行っています。
ーーー若い世代の性被害に関心をもった背景を教えてください。
私自身が、大学3年生の時に意図せず妊娠をし、中絶を選択した経験が関心を持った背景です。
妊娠検査薬で妊娠の判定を知るまで、中絶の問題は本当に遠い世界の話だと思っていましたね。
実際に、中絶するか生むかという選択を迫られて初めて、自分事として捉えられました。
当時は就職活動の時期で、将来についても考えていて「今が出産のタイミングではない」と中絶を選択しました。
しかし、人生を大きく左右する経験であり、常に心の中にあります。
ーーー実際に、性の問題に取り組もうと思われたきっかけはありますか?
大学の授業で行った「関心ある社会問題解決に行動を起こし、その報告をする」活動がきっかけです。
ちょうど、性の問題に関心のある友人も授業を取っており、一緒に中絶について調べることにしました。
調べる中で、当時の日本で中絶件数が年間30万件もあると知り、衝撃を受けました。
この実態をクラス内で問題提起したところ、知らなかったという反応が多かったです。
このような実態や、性教育の重要性が知られていないことに問題意識を感じました。
これが、性に関する活動の第一歩です。
ーーーその後も、性の問題に取り組み続けたのでしょうか?
そうですね。授業で行った活動を続けたいと考え、NPO法人ピルコンの前身となる学生団体ピルコンを立ち上げました。
まずは、自分たちが勉強しようと産婦人科の先生や医学生からお話を伺いました。
その学びを、フリーペーパーやブログで発信することで、学内にとどまらない活動に発展しました。
大切にしている価値観
ーーーピルコンの活動をされる中で、大切にしている価値観を教えてください。
性に対して、ポジティブな考えや見方を広げていくことです。
もちろん、性行為をしないことで、最も性被害のリスクを下げられます。
しかし、リスクに対処しながら、お互いの同意を大切にする性生活によって、幸せや自分らしい生き方に繋げられると思います。
リスクがある中で、選択肢を知り、それを選び取ることで、どのようにプラスの経験を増やせるかを考えたいと思っています。
性に対して、ポジティブな考えや見方を広げていくことです。
もちろん、性行為をしないことで、最も性被害のリスクを下げられます。
しかし、リスクに対処しながら、お互いの同意を大切にする性生活によって、幸せや自分らしい生き方に繋げられると思います。
リスクがある中で、選択肢を知り、それを選び取ることで、どのようにプラスの経験を増やせるかを考えたいと思っています。
ーーー性に対して、無意識にネガティブに捉えている人は多いのでしょうか?
そうだと思います。「性はいやらしいもの」とする規範があったり、ネガティブな経験をすると、それが強く印象に残る人もいると思います。
私も、海外の性教育動画教材AMAZEを翻訳させていただき、自分のこれまでの性教育は、異性愛が前提で、リスクやその対策に偏っていたと気づきました。
例えば、AMAZEの中では同性同士のカップルが随所に登場したり、「セックスは心も体も心地よいと思えることが大切」「お互いを気遣う二人であれば、最高の気分になれる」という表現が出てきます。
このように、AMAZEは、性に対するポジティブなアプローチや多様性を前提とする表現にあふれています。
性には様々な側面がありますが、性をポジティブに捉えられてこそ、学ぶことや話しあうことに繋がるのです。
まずは自分自身の性の価値観を見つめることが大切だと考えています。
ーーー日本での性教育は不十分だと思いますか?
そうですね。
性に関する情報が十分に行き渡っておらず、思いがけない妊娠・中絶や性感染症、性被害がまだ数多くあります。
例えば、日本の令和2年の中絶件数は約15万件に上り、10代に限ると約1.1万件。
つまり、10代の中絶は、1日に約30件起きていることになります。
また、10代~20代の若者に自覚症状の少ないクラミジアや、梅毒等の性感染症が流行しています。
SNSを通した児童買春や児童ポルノ事件など、子どもの性被害は増加傾向、もしくは高い水準で推移しており、若年層の性被害は看過できません。
そのような現状がある中で、中高生は上記のような性の問題について「知らされていない」と感じます。
学校で伝えられる機会はとても限られていますし、教育方法も様々です。
根本的に、性教育が義務教育におけるカリキュラムや社会の仕組みに十分含まれてこなかったことが問題だと思います。
国際的な流れに乗り遅れていると感じることもありますね。
ーーー海外と日本の性教育はかなり違いますか?
性教育に関しては、ユネスコなどが国際的な性教育のガイドラインを出しており、それに順ずる形や、それよりも多い時間数を学校で教える国が広がっています。
特に進んでいるのは、ヨーロッパ諸国です。
例えば、小学校の授業でコンドームを模型につける演習があるなど、幼い頃からスキル面に注目した実践的な性教育を行っています。
海外の性教育に関する研究数も、ここ最近で更に増えていると感じます。
日本における性教育は時間数や内容も限られます。また、学校の方針や教員によって左右され、学校間でのバラつきが大きいです。
就職活動について
就職活動について
ーーー就職活動についてお伺いします。民間企業への就職を希望されていた理由を教えてください。
共働き家庭で働く母親の姿を見て育った影響もあり、ばりばりとキャリアを積みたいと思っていました。
社会貢献への興味もありましたが、ピルコンの活動は大学4年から始めており、就職活動の時点では、自分のスキルを磨いておきたいという気持ちのほうが強かったです。
ーーー就職活動の中で大切にしていた軸を教えてください。
「新しいものを社会に生み出し、提供できること」を大切にしていました。
昔から、「もの」によって人を表現したり、幸せや豊かさを感じられることを「素敵なことだな」と感じていたからです。
その気持ちから、大学では、マーケティングやブランディングのゼミに所属していました。
人が魅力を感じるものを見つけ出し、戦略的に提供できる点に惹かれたからです。
実際に学んでみて楽しさを感じたので、新卒の就活でも、その分野に関われることを軸にしました。
最終的にブランディングを専門とするコンサルティング会社に就職、その後に転職して化粧品・雑貨メーカーにてプロモーション業務を担当しました。
ーーーピルコンの活動でも、その軸は関連しているのでしょうか?
そうですね。私は、ピルコンの活動を通じて、性教育から新しい価値を生み出していると感じています。
世間では少しネガティブに捉えられがちな性教育を、見せ方を変えることで魅力的でワクワクするものに変えていくという風に捉えています。
性教育をブランディングしている感覚ですね。
ピルコンの活動に戻るまで
ーーー社会人になってからのピルコンの活動について教えてください。
卒業した直後は、メンバー内で次の目標が見えてこず、活動自体を2年間ほど休止しています。
その後、会社員としての働き方に疑問を持ち、社会課題解決に少しでも貢献できればと感じ始め、社会人3年目頃から活動を少しずつ再開しました。
初めは土日を中心にピルコンの活動を行い、社会人5年目頃からは週3回勤務にして、より力を入れるようになりました。
ーーーピルコンの活動が「自分のやりたいことではないか」と感じ始めたのはなぜですか?
その時に働いていた職場に対して、「私がこの仕事をする必要があるのか、既に多くの素晴らしいものが世の中にあるのに新商品を生み出す意味はあるのか」と自分の仕事に違和感を抱くようになったからです。
それだけでなく、大学での経験から、「中絶や性の現状を変えたい」という使命感を持っていたと思います。
私にとって人生で一番つらい経験で、避けられるなら避けたかったことです。
だからこそ、同じ経験をしている人が未だに年間15万人いる現状への問題意識は、社会人になってからも常に感じていました。
当時の会社で働き続けることに疑問を感じながら、転職したいと思える企業も思い浮かびませんでした。
そこで、仕事にしていける自信はないけれど、できることからやってみようと、ピルコンの活動に戻る決断に至りました。
ーーーピルコンの活動を再開した時、性教育を中心にした理由を教えてください
自分の活動と社会課題解決の繋がりが見えなくなっていた時、それを結びつける方法として性教育に出会ったからです。
活動を再開した時は、性の問題に興味のある人で集まって勉強会やイベントの開催をしていました。
しかし、活動を続ける中で、当時の活動が社会的なインパクトに繋がっていないと感じ始めました。
勉強会では性や避妊への意識や関心がすでに高い人が集まっており、無関心な層には届いていない。
そうしている間にも、中絶を迫られている人がいるかもしれない。本来するべきことは、その状況を未然に防ぐことだからです。
「やりたいこと」を達成するために、何をすべきなのか悩んでいた時、秋田県の中学校・高校で行われた性教育によって、10代の人工妊娠中絶率が10年で3分の1に減ったと知りました。
思春期から性教育を行なうことが、自分のやりたいことに繋がると気づき、そこからは性教育に目を向けるようになりました。
ーーーNPO法人にされたのはなぜでしょうか?
学校などの教育機関と連携してピルコンの活動を広めたいと思ったからです。
当時、性の問題について取り組むにあたり私たちの団体は若い人が多く、世間から信用を得るのが難しいと感じました。
社会的に一定の信頼を得られる法人格にすることで、自分たちの気持ちを伝えられ、より広く受け入れられるのではないかと思いました。
活動に対する思い
活動に対する思い
ーーーNPO法人の運営において、必要なスキルは何だと思われますか?
運営自体を目的とせず、手段として法人の枠組みや組織を活用する意識を持つことです。
法人化することで、同じ思いを持つ仲間が集まる場を作り出し、自分の目指す社会を叶えられます。
また、特にボランティアが中心となる活動では、組織の大小に関わらず、構成員のビジョンや活動に参画する背景を共有することが継続のために大切だと思います。
ーーー染矢さんは、どのような思いを持って働かれていますか?
自分自身が楽しみながら、社会に必要とされていることを広げたいと思っています。
若者の性に関する問題に取り組む中で、若い人たちが自分で自分を守り、自分らしくいれるように変えるために、まずは大人達や社会が変わる必要があると痛感します。
性教育の充実や、性教育を受けられる権利、心配な時には安心して相談できる権利の保障は社会全体で取り組まなければならない問題です。
今は、社会に必要とされる新しい価値を生み出すことが、自分のやりがいやワクワク感に繋がっていると思います。
ーーーどのような社会の実現を目指していますか?
「誰もが自分らしく生き、性の健康と権利を実現できる社会」を目指しています。
現代では、多様な性のかたちが受け入れられるようになりました。
それを前提に、自分と他者、両方の心と体を大切にできる社会にしたいです。
そのためにも、私たちピルコンが、十分な支援や情報提供によって、個々人が生き方を選択できるようにサポートしていきたいと思っています。
これからの活動
ーーー今後の展望を教えてください。
海外における性教育事例を参考に、日本で包括的性教育が受けられる社会を実現することです。
包括的性教育とは、「性を性交や出産だけでなく、相手の立場も考えること」と捉える考え方、つまり、自分らしく生きることの大切さを率直に伝えてくれる教育です。
性教育については「寝た子を起こす」など、根拠のないネガティブな考えもあります。
私は、その見方を国内外のエビデンスに基づきながら、日本社会にも受け入れられるメッセージや表現によって変えていきたいと思っています。
また、政策提言も、社会の仕組みを変えられる点で有効だと思います。
2020年には、緊急避妊薬を処方箋なしで薬局で入手できるなど、アクセスを容易にすべきという提言や要望書を出し、政府での検討が始まるなど、政治へ影響を与えられました。
今後、包括的教育の義務化や推進も政策提言としてより力を入れていきたいと考えています。
ーーー最後に、読者のみなさんにメッセージをお願い致します。
NPO法人の設立と民間企業の勤務をどうするか悩んだ時に、NPO法人に関わる方に質問したところ、「自信がないのならやめれば?」ときっぱり言われました。
「やめていいのか?」と自問自答したところ、「やっぱりやりたい」と感じ、仕事を続けながら、まずは1年やってみようとスモールステップで活動を続けることを決断しました。
関連する他のNPO法人や団体に、ボランティアやスタッフとして関わったのもよい経験となりました。
今のピルコンでは、ボランティアやプロボノの方に活動の多くを支えて頂いています。
NPO法人設立や運営に限らず、色んな社会課題への関わり方があります。
どんなことでも、最終的には、自分が「やりたい」と感じるかどうかで決めていくといいと思います。

この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
