今回は、カンボジアの教育支援を行う、NPO法人Follow Your HEART代表理事の齊藤力さんにインタビューしました。

齊藤さんは、カンボジアでの教育支援を起点に、IT企業でのシステム開発ディレクターや個人事業主としての仕事など、複数のキャリアをパラレルに歩んでいます。

「生まれた環境による制限をなくし、誰もが挑戦できる社会」というビジョンを掲げ、日々奮闘されている齊藤さん。

本記事では、齊藤さんが社会課題に関心を持った原体験から、NPOの設立と現地就職というキャリアの意思決定、精神的な燃え尽き(バーンアウト)の経験とそこから得たリアルな教訓までを詳しく伺いました。

 

3つの柱で取り組むパラレルキャリア

ーーーまずは、齊藤さんの現在の仕事内容について、教えていただけますか?

現在の仕事を一言で説明するのは非常に難しいのですが、大きく分けて「3つの柱」があります。

1つ目は、私が代表理事を務めるNPO法人Follow Your HEARTでの仕事。

2つ目は、日本に本社を置きカンボジアに支社を持つIT企業での業務です。

ここでは時間や場所に縛られない形態で、正社員として関わらせてもらっています。

そして3つ目が、個人事業主として受託している日本国内のIT関連業務です。

それぞれ全く別の仕事に見えるかもしれないですが、私の中ではすべてを「本業」と捉え、同じ熱量で真剣に取り組んでいます。

ーーーすべてが本業という意識なのですね。

そうですね。周囲に説明する際は難しさを感じることもありますが、IT分野で培ったプロジェクトマネジメントのスキルや思考法は、NPOの運営にもダイレクトに活きています。

そのため、最終的にはすべての仕事が、私自身のキャリアとして一本の線で繋がっていると強く実感しています。


カンボジアで取り組む「情操教育」とは?

ーーーNPO法人Follow Your HEARTでは、どのような取り組みをされているのでしょうか?

カンボジアの子どもたちに向けた「情操教育」の支援がメインです。
情操教育とは、豊かな心や道徳心、創造性などを育む「心の教育」です。

具体的な取り組みには、アートやスポーツのワークショップ、日本人向けのスタディツアー、そして子どもたちの描いた絵を日本で展示・販売する国際交流イベントという3つのプロジェクトを軸にしています。

ーーーそもそも、なぜカンボジアで情操教育の支援が必要なのでしょうか?

カンボジアには、1970年代から80年代にかけての内戦やポル・ポト政権による知識層の粛清という悲劇的な歴史があります。

現在は教育の再建が進んでいますが、どうしても算数や語学といった主要教科が優先されます。そのため、特に公教育の現場においては体育や芸術といった情操教育は後回しにされ、ほとんど行われていないのが現状です。

ーーーワークショップに参加された子どもたちの反応はどうでしたか?

以前アートのワークショップを開催した際、参加した小学生の半数以上が「絵の具を使うのは初めて」という状況でした。

私たちの仕事が、子どもたちにとって新しい可能性を広げる1つのきっかけになればという思いで、情操教育の支援を続けています。


カンボジアに抱いた「違和感」と、一度目の就職活動

ーーー齊藤さんが社会課題、特にカンボジアの教育問題に関心を持った原体験を教えてください。

最初のきっかけは、高校の政治経済の授業でした。

教科書にあった「金銭的には貧しいが、幸福度は途上国の方が高い」というコラムを読み、先進国と途上国の違いに強い好奇心を抱いたのです。

その後、大学で国際協力の学生団体に所属し、3年生の春に初めてカンボジアの農村部へ現地調査に向かいました。

ーーー初めて訪れた現地で、何を感じたのでしょうか?

「もっと勉強をしたいけれど、仕事があるからできない」という子どもたちの生の声を直接聞きました。

埼玉で何不自由なく育ててもらった私自身の環境と対比し、生まれた場所によって選択肢が制限されてしまう世の中の不平等さに、強い「違和感」を覚えたのです。

ーーーその違和感を抱えたまま、就職活動を迎えたのですね。

はい。実は私は就活を2回経験しています。

1回目は、まず日本の教育に軸を置いてベンチャー企業などを中心に受けていました。
しかし、心の中には「カンボジアの教育に貢献したい」という思いが消えず、面接を受けながらも常にモヤモヤとした感情を抱えていました。

ーーーそのモヤモヤは、どのように解消されたのでしょうか?

あるイベントで、ロールモデルとなる方に出会ったことが転機になりました。

私は昔から、悩んだときはとにかく直接人に会いに行くようにしていたんです。

その方と話す中で「一度、自分が本当にやりたいと思うことをやってみよう」と決心がつきました。

そして大学4年生の4月に思い切って就活を中断し、自らNPO団体(現在のFollow Your HEART)を立ち上げたのです。


コロナ禍での「力不足」の痛感と、二度目の就職活動

ーーー就活を中断してNPOを立ち上げた後、なぜカンボジアでの就職を決意されたのですか?

設立直後にパンデミックが起こり、渡航や活動が大きく制限されました。

また、実際に自分で団体を運営してみたことで、自分自身の社会人としての「力不足」も痛感したのです。

このままでは持続的な支援はできない。

そう考え、確実に現地へ渡航し、スキルを身につけながらNPOを続ける手段として、カンボジアの現地企業への就職を志しました。

大学4年生の10月に2度目の就職活動を再開し、SNSを通じて現地の事情に詳しい方へ連絡を取り、紹介していただいたのが現在の会社です。

ーーー社会人2年目の頃には、JICAのプロジェクトにも参加されていましたね。

はい。現地調整員として、カンボジア農村部の小学校教員養成学校でのプロジェクトに携わりました。

現地の指導教員へのヒアリングや日本への視察調整、また私自身が体育の教員免許を持っていることもあり、先生役として短距離走の授業なども担当しました。

ーーー教育のプロフェッショナルが集まる現場で、印象に残っていることはありますか?

チームメンバーの仕事の進め方が、驚くほど緻密だったことです。

一つの授業案を作る際も、現地の授業を秒数単位で区切って分析・議論し、膨大な時間をかけていました。

「教育に対してこれほどまでに深く向き合うのか」と、プロの姿勢に大きな衝撃を受けましたね。

言葉のミスコミュニケーションが招いた「燃え尽き」と再生

ーーーこれまでの挑戦の中で、「大きな失敗」や「遠回りだった」と感じる経験はありますか?

2023年、東京の企業で修行していた際、自身の「言葉の甘さ」から深刻なトラブルを経験しました。

当時、私は社長に「コンサルタントになりたい」と伝えていたのですが、真意は職種そのものではなく、その「問題解決能力」を学びたいという点にありました。

ーーー自分の本当の意図と、発した言葉にズレがあったのですね。

その通りです。正確な言語化を怠ったことで大きな期待値のズレが生じました。

私が他の仕事も広げたいと相談したことを機に関係が悪化しました。

過酷な業務を突きつけられ、精神的なハラスメントに近い状態にまで追い込まれてしまったのです。

ーーーそれは非常に苦しい状況ですね。NPOへの影響はありましたか?

2024年初頭についに限界を迎え、2〜3週間ほど自宅から起き上がれなくなる「バーンアウト(燃え尽き)」を経験しました。

NPOも一時休止せざるを得ず、加入直後のメンバーとの懇親会中に泣き出してしまうほど、精神状態はボロボロでしたね。

ーーーそのどん底の状態から、どのようにして立ち直ることができたのでしょうか?

同じ個人事業主として苦労を知る弟の助けもあり、実家で療養しながら自分を見つめ直しました。

「言葉の捉え方は人によって違う」という当たり前の事実に対する配慮や、伝え方の繊細さが自分に不足していたと痛感したのです。

この経験は、自分の意図を正確に伝えるための「言葉の重み」を学ぶ、必要な過程だったと捉えています。

ーーーこの経験を学びへと昇華されたのですね。

はい。中学時代の厳しい野球部で培った「打たれ強さ」を武器に、徐々に立ち直っていきました。

後にその社長と偶然再会した際、そのまま一緒に焼肉へ行くことになりました。

相手の謝罪を受け入れるとともに、「大切なことを教えていただき感謝しています」と、学びへの感謝を直接伝えることができたのです。

今では精神的にも完治し、あの遠回りがあったからこそ今の自分があると心から思えています。

また、近々その社長に改めて近況報告にも行けたら良いな、と思っています。


「現場の叩き上げ」で習得した語学力と、海外拠点のリアル

ーーー現在の仕事を続ける中で、身につけておいて良かったと感じるスキルはありますか?

現場での実践を通じて習得した「語学力」です。

私はTOEICの点数が特別高いわけでも、語学を専攻していたわけでもありません。

しかし、カンボジアでの生活や外国人との仕事という「現場の叩き上げ」で、実用的な英語とクメール語を身につけてきました。

ーーーどのくらいのレベルでコミュニケーションが取れるのでしょうか?

クメール語に関しては、日常生活でのやり取りや最初のアイスブレイクに活用できるレベルです。

それでも、現地語で歩み寄る姿勢があるだけで、信頼構築のスピードは格段に速まります。

難しい語彙を知らなくても、現場で通じる語学力が身についたことは、仕事の幅を広げる大きな武器になっています。

ーーー仕事とプライベートの両立という観点で、カンボジアに住んでいるからこそ苦労している点はありますか?

日本の友人の結婚式に参加するハードルが非常に高いことですね。

帰国のたびに多大な渡航費がかかりますし、現地業務とのスケジュール調整も難航します。

この年齢になるとお祝いの機会も増えるため、物理的な距離ゆえのハードルの高さには、正直なところ日々頭を悩ませていますが、その分たくさん稼げるように頑張ります(笑)。

理不尽な不平等を、一人でも減らしていくために

ーーーご自身のキャリアを振り返って、理想に対する「満足度」と「達成度」を教えてください。

満足度は「80%」、達成度は「60%」と考えています。

満足度が高い理由は、周囲の多大な支えのおかげで、自分がやりたい仕事に心ゆくまで取り組めているからです。心から感謝しています。

一方で、達成度が60%に留まっているのは、掲げているビジョンに対して、私自身の「言葉の重み」や結果がまだ伴っていないと感じているからです。

成し遂げるべきことは、まだまだ山積みです。

ーーーNPO法人Follow Your HEARTが創立6周年を迎えるにあたり、今後のビジョンや挑戦について教えてください。

恵まれた環境で育った自分とは対照的に、理不尽な不平等や苦境に置かれている人々を、一人でも減らしていくことが私のビジョンです。

事業を通じて、そうした方々にポジティブな影響を与え続けたいと考えています。

また最近は、必ずしも「カンボジア」という場所に固執しすぎる必要はない、とも感じています。

カンボジアを最初の起点として培った経験や仕組みを活かし、将来的には他の国々や日本国内の課題も含め、支援の輪を広げていきたいです。

ーーー最後に社会課題の道を志す学生へメッセージをお願いします。

「社会とは何か」を自分に問い続け、自分なりの答えを持って行動してみてください。

社会貢献とは決して壮大なものだけではありません。

身近な人と楽しく、機嫌よく過ごすことも立派な貢献の一つです。

その上で、興味を持ったテーマには好奇心を持ち続け、具体的なアクションを起こしてほしいです。

迷ったときには多くの人に直接会い、本気で相談してみてください。

そこで得られる対話や言葉は、これからのキャリアにおいてかけがえのない財産になります。

社会課題に本気で向き合う大人の背中は、本当にかっこいいものです。

私はまだまだ道半ばですが、皆さんと一緒に「時には楽しく、時には緩く、時には真剣に」突き進んでいけたら嬉しいです。

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