IEA(国際エネルギー機関)によると、2025年の世界のエネルギー関連CO2排出量は、約384億トンで過去最高でした。
それでも排出量の伸びは約0.4%で、世界のGDPの伸び(約3.1%)を下回っています。
日本では、環境省の資料で、2024年度の実質GDPが2013年度より4.8%増え、温室効果ガス排出量は24.9%減っています。
経済が伸びれば、環境への負担も増えるはず。
そう考えていた人には、腑に落ちにくい数字かもしれません。
しかも「デカップリング」は米中関係のニュースにも出てくる言葉で、環境の話なのか経済の話なのか、迷うことがあります。
デカップリングの環境分野での意味と、相対的・絶対的の違いが、公表された数字で見分けられるようになります。
OECD、UNEP、IEA、環境省などの資料をもとに、定義、世界と日本の現状、限界と批判、企業の例、関わる仕事までをたどります。
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デカップリングとは
デカップリングとは、経済成長と環境への負荷の増加を切り離すことです。
英語のdecouple(切り離す)が語源で、GDPが伸びても、排出量や資源使用量などの環境負荷が、同じ割合では増えない、あるいは減っている状態を指します。
OECD(経済協力開発機構)の環境大臣会合は、2001年5月16日に、環境戦略を採択しました。
この戦略は、環境への圧力を経済成長から切り離す(de-couple)ことが必要だと述べています。
OECDは2006年の報告書で、これを「環境にとって悪いことと、経済にとって良いこととの結びつきを断つこと」と説明しました。
分野によって意味が違う
検索すると、環境、経済安全保障、金融などの説明が混ざって出てくるため、先に整理しておきます。
| 分野 | 切り離すもの |
|---|---|
| 環境(本記事の中心) | 経済成長と、排出量や資源使用量などの環境負荷 |
| 経済安全保障 | 米国と中国の経済交流。RIETIの関志雄氏は、コラムで、米国が対中政策を「関与」から「デカップリング(分断)」に転換したと書いている |
| 景気・金融 | 米国の景気と新興国の景気の連動。内閣府の2008年の報告は、当時の「デカップリング論」に、慎重な見方が必要と述べた |
農業政策やITの分野でも、別の意味で使われます。
経済安全保障では、G7広島首脳コミュニケ(2023年5月)が「デカップリング又は内向き志向にはならない」と述べ、経済的強靱性にはデリスキング(リスクの低減)と多様化が必要だと認識しました。
資源と影響の2つの側面
UNEP(国連環境計画)の国際資源パネルは、2011年の報告書で、環境分野のデカップリングを2つに分けました。
資源デカップリング
資源デカップリングとは、経済活動あたりの資源使用量を減らし、同じ成果をより少ない資源やエネルギーで生み出すことです。
影響デカップリング
影響デカップリングとは、経済が成長する一方で、排出や廃棄物といった環境への悪影響を減らすことです。
相対的デカップリングと絶対的デカップリングの違い
デカップリングには、切り離しの進み具合による2つの段階があります。
OECDは、経済の指標が伸びているときの、環境負荷の伸びで区別しています。
たとえば、GDPが10%増えた期間を、説明用の仮の数字で表にしました。
| 状態 | 環境負荷の動き(仮の例) | OECDの区分 |
|---|---|---|
| 連動している | 10%増える | デカップリングではない |
| 相対的デカップリング | 4%増える | 伸びはプラスだが、経済の伸びより小さい |
| 絶対的デカップリング | 5%減る(横ばいも含む) | 伸びがゼロまたはマイナス |
相対的デカップリングでは、経済が伸びるあいだ、環境負荷の総量は増え続けます。
世界と日本の数字を当てはめる
同じ定義を、公表されている数字に当てはめてみます。
世界の2025年は、相対的デカップリング
IEAによると、2025年の世界のエネルギー関連CO2排出量は約0.4%増で、GDPの約3.1%増を下回りましたが、総量は過去最高です。
日本の2013年度から2024年度は、絶対的デカップリング
環境省の資料では、2024年度の実質GDPは2013年度比で4.8%増え、温室効果ガス排出量は24.9%減りました。
OECDの定義に当てはめると、絶対的にあたります。
ただし、この2つの分類は、OECDの定義を数字に当てはめた本記事の整理です。
環境省の詳細版は、エネルギー起源CO2の図で、2014〜2018年度と2021〜2024年度を「経済成長しつつ、排出量が減少する、いわゆるデカップリングを実現」と注記しています。
世界は2025年の1年間のエネルギー関連CO2、日本は11年間の温室効果ガス全体と、期間も指標も違うため、そのまま比べることはできません。
OECDは、経済が縮小しているときは、どちらの型でも望ましい状況とは限らないと注意しています。
参考:IEA「Global Energy Review 2026」
デカップリングが求められる背景
UNEP国際資源パネルは2011年の報告書で、資源の消費は、世界規模では、なお経済の豊かさに伴っていると指摘しました。
同じ報告書は、世界全体では、資源の使用量の伸びが経済の伸びより緩やかな状態(相対的な資源デカップリング)だとも述べています。
同パネルの2024年の報告書によると、世界の資源の採取量は、1970年からの約50年で約300億トンから約1,060億トンへ、およそ3倍になりました。
資源の採取と加工は、地球温暖化の原因となる排出の6割超を占めると説明され、採取量は2060年までに60%増える見込みだとしています。
資源の使い方を見直す考え方に、サーキュラーエコノミーがあります。
≫サーキュラーエコノミーとは?リニアエコノミーとの違いや欧州の動向、事例をわかりやすく解説
世界と日本の現状
公表されている数字を、指標と時点を区別して整理します。
世界
世界のエネルギー関連CO2排出量は、2025年も総量で過去最高でした。
IPCCの第3作業部会(2022年)は、少なくとも18か国が、生産ベースの温室効果ガスと消費ベースのCO2の削減を、10年以上続けていると報告しました。
生産ベースは国内で出た排出を、消費ベースは国内で使うモノやサービスを作るために出た排出(海外分を含む)を数える方法です。
ただしIPCCは、その削減が世界全体の排出増加を一部相殺したにとどまるとしています。
日本の温室効果ガス
環境省によると、2024年度の排出・吸収量は約9億9,400万トンで、森林などの吸収量を引いた値です。
2013年度の排出量と比べて28.7%減り、初めて10億トンを下回りました。
吸収量を引く前の排出量では、2013年度比24.9%減です。
環境省は、2013年度からの減少の要因に、省エネの進展などによるエネルギー消費の減少と、電力の脱炭素化に伴う電力由来のCO2の減少を挙げています。
一方、環境省は、2023年度から2024年度の1.9%の減少の要因に、製造業の生産量の減少によるエネルギー消費の減少も挙げています。
また、2013年度と2024年度の2時点の比較なので、間の年には、2021年度のように排出量が増えた年もあります。
電力の脱炭素化を支える再生可能エネルギーの全体像は、次の記事で読めます。
≫再生可能エネルギーとは?脱炭素社会を支える新しい働き方を紹介
日本の資源と汚染物質
資源の面では、環境省の令和8年版白書で、2023年度の資源生産性は約50.9万円/トンでした。
資源生産性はGDPを天然資源等の投入量で割った値で、2000年度と比べて約101%の上昇です。
平成24年版の白書は、1990年以降のデータの大まかな傾向として、硫黄酸化物(SOx)は経済成長にかかわらず減少傾向(デカップリング)を示したと整理しています。
一方、CO2は、GDPの増減と連動した動きでした。
参考:環境省 平成24年版白書
デカップリングの限界と批判
切り離しが進んだという数字だけでは、環境問題が解決したとは言えません。
効率化が、総量の増加に打ち消される
UNEP国際資源パネルは、資源の生産性が上がると、かえって経済成長が加速して資源の使用が増える場合があるとし、これを「リバウンド効果」と呼んでいます。
OECDも、デカップリングが進んでも、環境が耐えられる水準に収まるとは限らないと注意しています。
貿易を通じた排出の移転
国内の排出が減っても、排出の多い製品を輸入に切り替えただけなら、地球全体の排出は減りません。
PNASの研究(2011年)は、1990〜2008年に、貿易される財・サービスの生産に伴うCO2排出が、世界のCO2排出の20%から26%に増えたと示しました。
途上国から先進国への排出の純移転も、0.4から1.6ギガトンCO2に増え、京都議定書の削減量を上回ったといいます。
調達先まで含めた排出の見方は、サプライチェーンの記事に詳しく載っています。
≫サプライチェーンとは?意味や人権・環境問題との関わりを解説
研究者による整理と批判
2020年の論文(Haberl et al.)は、835本の査読論文を整理しました。
結論は、相対的デカップリングはよく見られるが、長期の絶対的デカップリングの例は稀、というものです。
ただし近年は、一部の先進国で、生産ベースのCO2(消費ベースでは弱く)がGDPと切り離された例があります。
同論文は、観察された速さのデカップリングでは、資源利用と排出の急速で大幅な削減はできず、消費そのものを抑える取り組みなどとの組み合わせが必要だとしています。
研究者7人が欧州環境事務所向けにまとめた2019年の報告書は、必要な規模でのデカップリングを裏づける実証的な証拠はない、という結論です。
同報告書は、デカップリングの取り組み自体ではなく、効率化だけに頼る方針に疑問を向けています。
なお、Haberl et al.は、成長を保ったまま十分な削減が可能とみる「グリーン成長」と、成長より削減を優先する「脱成長」などに、政策を分類しています。
デカップリングを進める方法
環境省が排出減少の要因に挙げた省エネと電力の脱炭素化に、資源の使用量を減らす資源の循環利用を加えた3つを、この記事では手段として紹介します。
省エネルギー
省エネルギーとは、同じ成果を、より少ないエネルギーで生み出すことです。
電力の脱炭素化
電力の脱炭素化とは、再生可能エネルギーなどで、同じ量の電気を排出の少ない方法でつくることです。
使う電力を100%再生可能エネルギーにする企業の国際的な枠組みには、RE100があります。
資源の循環利用
資源の循環利用とは、使用済みの製品や部品を回収して再び資源にし、新しい資源の採取を減らすことです。
デカップリングの考え方に近い企業の例
公式資料で確認できた3社を紹介します。
確認できた範囲で「decouple」の語を使っているのはUnileverだけで、リコーと味の素は、成長と環境負荷の削減を同時に掲げる例です。
いずれも各社が示した目標や考え方で、達成状況は各社の最新の報告で確認してください。
Unilever PLC(ユニリーバ)
Unilever PLCの公式サイトは、2010年に始めた「Unilever Sustainable Living Plan」を、成長を環境への影響から切り離す戦略と説明しています。
株式会社リコー
リコーグループは、環境保全と事業成長を同時に実現する「環境経営」を掲げ、経営と環境の意思決定が一体となった体制で進めるとしています。
自社の直接の排出と、購入した電気や熱に伴う排出(スコープ1・2)は、2030年度に2015年比で75%の削減が目標です。
味の素株式会社
味の素株式会社は、2023年2月の「中期ASV経営2030ロードマップ」で、環境負荷を2030年までに50%削減する目標を示しました。
同じ資料は、その指標として、温室効果ガスのスコープ1・2を2018年度比で50%削減することなどを挙げ、事業利益の成長目標もあわせて掲げています。
気候変動に取り組む企業を事業内容から探したいときは、次の記事が役立ちます。
≫気候変動に取り組む企業10選!就職・転職におすすめのベンチャーを中心に紹介
参考:Unilever「Our History 2010-2020」
参考:リコー「環境目標」
デカップリングに関わる仕事
環境省は、企業の脱炭素経営を「知る」「測る」「減らす」の順に整理しています。
サステナビリティ推進・環境企画
サステナビリティ推進・環境企画とは、自社の排出量を測り、削減目標と計画をつくって、進み具合を社内外に伝える仕事です。
数字を整理する力と、部署をまたいで調整する力が活きます。
資源循環・循環型ビジネスの企画
資源循環・循環型ビジネスの企画とは、廃棄物の再資源化や、回収の仕組みを組み込んだ事業をつくる仕事です。
事業企画の力と、素材や物流の知識が活きます。
再生可能エネルギー事業
再生可能エネルギー事業とは、発電所の計画、建設、運営を通じて、電力の脱炭素化を進める仕事です。
廃棄物処理・資源リサイクルの会社から、太陽光発電所の建設プロジェクトマネージャーへ進んだ、北俊宏さんのインタビューがあります。
インタビューは2020年12月公開の内容で、現在の所属とは異なる場合があります。
≫仕事もプライベートも環境問題の解決に注ぐ#1~juwi自然電力 北俊宏さん~
環境コンサルタント
環境コンサルタントとは、企業や自治体の排出量の算定や削減計画づくりを、外部から支える仕事です。
業務内容や必要な資格は、次の記事に詳しくまとまっています。
≫サステナビリティコンサルタントとは?業務内容や必要なスキル・資格、取り組む企業を紹介
環境に関わる業界や業種を幅広く知りたい場合は、次の記事を読んでみてください。
≫環境問題に携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説
よくある質問
意味、2つの種類、日本の現状、米中との違いを、短い答えでまとめます。
Q. デカップリングとは何ですか?
A. デカップリングとは、経済成長と環境への負荷の増加を切り離すことです。GDPが伸びても、温室効果ガスの排出量や、資源の採取・使用量といった環境負荷が、同じ割合では増えない、あるいは減っている状態を指します。環境負荷を減らしながら経済を成長させる、という発想です。OECDは、2001年の環境戦略で、環境への圧力を経済成長から切り離す必要性を述べています。経済安全保障や金融など、環境以外の分野では別の意味で使われます。
Q. 相対的デカップリングと絶対的デカップリングの違いは何ですか?
A. 相対的デカップリングとは、経済が伸びるとき、環境負荷も増えるものの、その伸びが経済の伸びより小さい状態です。絶対的デカップリングは、経済が伸びる一方で、環境負荷の伸びがゼロまたはマイナスになる状態です。たとえばGDPが10%増える間に、環境負荷が4%増えれば相対的、5%減れば絶対的です(仮の例)。相対的では環境負荷の総量が増え続けるため、OECDは、CO2のように総量が問題になる物質では、絶対的が特に重要だと述べています。
Q. 日本はデカップリングできていますか?
A. 環境省の資料では、2024年度の実質GDPは2013年度比で4.8%増え、温室効果ガス排出量は24.9%減りました。OECDの定義に当てはめると、この期間は絶対的デカップリングにあたります。ただし、この分類は本記事の整理で、期間と指標を区切って見る必要があります。環境省は、2023年度から2024年度の減少の要因に、製造業の生産量の減少も挙げています。貿易を通じた排出の移転は先進国について指摘されていますが、日本への影響は確認していません。
Q. 米中デカップリングと、環境のデカップリングは同じ意味ですか?
A. 同じ言葉ですが、意味は異なります。米中デカップリングは、米国と中国の貿易や投資、技術面の交流を制限する、経済安全保障の話です。RIETIの関志雄氏は、コラムで、米国が対中政策を「関与」から「デカップリング(分断)」に転換したと書いています。環境のデカップリングは、経済成長と環境負荷の切り離しを指し、農業政策やITでも別の意味があります。G7は2023年5月の首脳コミュニケで、デカップリング又は内向き志向にはならないとしたうえで、経済的強靱性にはデリスキングと多様化が必要だと認識するとしました。
まとめ
デカップリングとは、経済成長と環境への負荷の増加を切り離すことで、OECDは、負荷の伸びが経済より小さければ相対的、ゼロかマイナスなら絶対的と区別します。
世界のエネルギー関連CO2の2025年は相対的、日本の温室効果ガスの2013年度から2024年度は絶対的にあたります。
ただし、両者は期間も指標も違い、貿易による排出の移転という見方も欠かせません。
「排出量が減った」と報じられたときは、同じ期間のGDPや生産量もあわせて探すと、切り離しなのか、経済の縮小なのかが見分けられます。
ココキャリアには、社会課題に取り組む企業の創業理由や事業内容が載っています。
排出量の算定や資源循環を仕事にしている会社が見つかるか、のぞいてみるのも一つの方法です。
数字を確かめながら考える人が増えるほど、切り離せるのかという問いの答えは、はっきりしていきます。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
