2025年2月18日、日本政府は、2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%の削減目標を、国連気候変動枠組条約の事務局に提出しました。
「パリ協定」という言葉はニュースでよく目にしますが、いつ、誰が、何を決めた協定なのか、京都議定書とどう違うのかまで説明できる人は、多くありません。
日本の「2035年度に60%削減」も、何と比べた60%なのかは、ニュースだけでは確かめにくい数字です。
この記事を読むと、ニュースの「60%削減」のような数字が、いつの何と比べたものなのかを、公的な資料でたどって確かめられます。
採択の経緯と京都議定書との違い、目標と仕組み、日本の現状、企業の取り組み、関わる仕事の順に、条文と一次資料を開きながら進めます。
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パリ協定とは
パリ協定とは、2015年12月12日に、COP21(国連気候変動枠組条約の第21回締約国会議)で採択された、気候変動対策の国際的な協定です。
協定が発効したのは、2016年11月4日です。
発効の条件は、55か国以上が批准などの手続きを終え、その排出量が世界全体の推定55%以上になることでした。
環境省は、パリ協定を、京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減のための新たな国際的な枠組みと説明しています。
参考:国連条約集「Paris Agreement」、環境省 脱炭素ポータル
気候変動そのものの原因や影響を先に確認したい方は、以下の記事へどうぞ。
≫【2026年最新】気候変動とは?原因・影響・対策をわかりやすく解説
採択までの経緯
気候変動枠組条約は1992年5月9日に、京都議定書は1997年12月11日に採択されました。
京都議定書は、採択から発効まで約7年かかりましたが、パリ協定は採択から1年足らずで発効しました。
京都議定書との違い
1997年の京都議定書と、3つの点で比べます。
| 項目 | 京都議定書 | パリ協定 |
|---|---|---|
| 採択 | 1997年12月11日 | 2015年12月12日 |
| 目標を負う国 | 附属書Iの先進国 | すべての締約国 |
| 目標の決め方 | 議定書で国ごとの数値を割り当て | 各国が自ら決めて提出 |
京都議定書は、附属書Iに挙げられた先進国に、2008年から2012年の約束期間に、全体で1990年比5%以上減らすことを求めました。
資源エネルギー庁は、途上国に削減義務がないことが不公平感を生み、それが一因となって、当時最大の排出国だった米国が京都議定書を批准しなかったと説明しています。
パリ協定の、各国が自主的に目標を決める方法は、資源エネルギー庁によると、国際交渉のなかで日本が提唱してきたものです。
参考:国連条約集「Kyoto Protocol」、同議定書の条文、資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」」(2017年)
パリ協定の目標と仕組み
パリ協定は、世界共通の長期目標を掲げ、その達成に向けて、各国が自ら目標を決めて点検し合う仕組みを備えています。
世界共通の長期目標
パリ協定の長期目標とは、世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求することです。
条文は、1.5度に抑えれば、気候変動のリスクと影響が大きく減ると認識しています。
第4条の道筋は、世界の排出量をできるだけ早くピークにして、その後は科学にもとづいて急速に減らすことです。
ただし、途上国がピークに達するまでには、より長くかかるとも、同じ条に書かれています。
そのうえで目指すのは、今世紀後半に、人間活動による排出量と、吸収源による除去量とを釣り合わせることです。
この釣り合いを実質ゼロ(ネット・ゼロ)と呼ぶこともありますが、条文にこの語はありません。
NDCと5年ごとの見直し
NDC(国が決定する貢献)とは、パリ協定に基づき、各国が5年ごとに提出・更新する、温室効果ガスの排出削減目標です。
条文は、目標を準備・通報・維持し、その達成を目指して国内の対策を進めることを、各国に求めています。
新しい目標は、それまでより前に進んだものにする、というのも条文の決まりです。
資源エネルギー庁は、各国が自主的に決めるため、基準年度や指標がそろっていないと説明しています。
2017年の資料には、主要国の約束草案の基準年が、日本は2013年、米国は2005年、EUは1990年だった例と、比較には注意が必要との記載があります。
参考:パリ協定の条文(UNFCCC、英文)、資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」」(2017年)
グローバル・ストックテイク
グローバル・ストックテイクとは、パリ協定の目的や長期目標に向けた世界全体の進み具合を、定期的に点検する仕組みです。
第14条は、最初の点検を2023年に行い、以後は、別段の決定がない限り、5年ごとに行うと定めています。
結果は、各国が次のNDCや対策を見直すときの材料になります。
最初の点検は、2023年11月30日から12月13日にアラブ首長国連邦で開かれたCOP28で、結論が出ました。
成果文書は、世界の温室効果ガス排出量を、2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%減らす必要があると認識しました。
この数字は、気温上昇が1.5度を超えないか、超えても限定的にとどまる場合に必要な量です。
あわせて、2050年に二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする必要も、示しています。
適応・資金・透明性・市場メカニズム
パリ協定は、排出削減のほかに、次の4つも定めています。
- 適応(第7条):気候変動の影響に対応する力を高め、被害の受けやすさを減らす取り組み
- 資金(第9条):先進国が、途上国の削減と適応を助ける資金を提供する
- 透明性(第13条):各国の行動と支援の状況を、互いに確かめられるようにする枠組み
- 市場メカニズム(第6条):国どうしが自主的に協力し、削減の成果を自国のNDCに使える仕組み
罰則はあるのか
目標を達成できなかった場合の罰則は、条文に定められていません。
遵守を促す委員会は、第15条により、専門家で構成され、促進的で、対立的でも懲罰的でもない形で運営されます。
パリ協定から約10年、世界はどこまで進んだか
採択から約10年、目標や気温を数字で確かめられるようになりました。
各国の目標を足し合わせると
国連気候変動枠組条約の事務局は、2025年11月10日付の更新で、新しいNDCを出した113の締約国を分析しました。
その国々は、2019年の世界の排出量の69%を占めます。
全体を推計した世界の2035年の排出量は、土地利用などを含めて、2019年比で約12%減る見込みです。
パリ協定の採択前は、気候政策がないか、ごく穏やかな想定のシナリオで、2035年に20%から48%増える見通しでした。
一方、COP28の成果文書が示した1.5度の道筋は、2035年に2019年比で60%減です。
算定の範囲は同じではありませんが、2つの数字を並べると、各国の目標と、必要とされる水準の間には、差があります。
参考:UNFCCC事務局のNDC統合報告の更新(2025年11月10日)
観測される気温と「1.5度」
世界気象機関(WMO)は、2025年1月10日に、2024年の世界の平均気温が、1850〜1900年の平均より1.55度(±0.13度)高かったと発表しました。
ただしWMOは、1年だけ1.5度を超えても、パリ協定の長期目標を逃したことにはならず、この目標は数十年の単位で測ると説明しています。
WMOが設けた国際的な専門家チームの暫定的な見立てでは、2024年の評価による長期的な温暖化の水準は、約1.3度でした。
米国の離脱と再離脱
第28条では、その国で発効してから3年後以降に、書面で通告すれば脱退でき、効力は受領から1年後に生じます。
国連条約集には、米国の経過が次のように記載されています(2026年9月時点)。
- 2016年9月3日:協定を受諾した
- 2019年11月4日:脱退を通告し、2020年11月4日に効力が生じた
- 2021年1月20日:受諾書を寄託した
- 2025年1月27日:再び脱退を通告し、2026年1月27日に効力が生じた
米国の判断の理由や、協定への影響には、この記事では触れていません。
日本の目標と現状
日本は、パリ協定のもとで、削減目標を段階的に引き上げてきました。
日本のNDCの変遷
| 決定・提出 | 削減目標(2013年度比) |
|---|---|
| 2015年7月17日(約束草案) | 2030年度に26% |
| 2021年10月22日 | 2030年度に46%(50%の高みに挑戦) |
| 2025年2月18日 | 2035年度に60%、2040年度に73% |
2025年2月18日には、地球温暖化対策計画が閣議決定され、同じ内容の新しいNDCが、国連気候変動枠組条約の事務局に提出されました。
環境省は、この目標を、世界全体の1.5度目標と整合的で、2050年ネット・ゼロに向けた直線的な経路にあるものと位置づけています。
2024年度の排出量
環境省が2026年4月14日に公表した算定結果では、2024年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は、約9億9,400万トン(CO2換算)でした。
2013年度比で28.7%減、2023年度比で1.9%減にあたり、2013年度以降で最も少なく、初めて10億トンを下回りました。
排出・吸収量は、排出量の合計から森林などの吸収量を差し引いた値で、削減目標の進み具合も、この値で評価されます。
排出量だけで見ると、約10億4,600万トンで、2013年度比24.9%減です。
2030年度の目標は、2013年度比46%減です。
2024年度の28.7%減と並べると、約17ポイントの差が残っています。
経済成長と排出量が連動するかどうかは、次の記事で取り上げています。
≫デカップリングとは?意味や種類、日本の現状をわかりやすく解説
参考:環境省の報道発表(2026年4月14日)、同・詳細版(PDF)
GXという国の戦略
GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、化石燃料中心の経済・社会・産業構造を、クリーンエネルギー中心に移行させ、社会システム全体を変革する取り組みです。
環境省は、目標の達成に、脱炭素、経済成長、エネルギー安定供給の同時実現を目指すGXの推進が不可欠としています。
参考:環境省 脱炭素ポータル
パリ協定を受けた企業の取り組み
国が目標を決めても、実際に排出を減らすのは、工場やオフィス、店舗を動かす企業です。
SBT・RE100・TCFDからISSBへ
企業の脱炭素経営の広がりは、環境省が、次の取り組みで整理しています。
- SBT:パリ協定の目標達成を目指した削減シナリオと整合する目標の設定と実行を、企業に求める国際的な取り組み
- RE100:事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な取り組み
- TCFD:気候関連の財務情報の開示を促した民間主導のタスクフォース。2023年10月に活動を終え、役割はISSB基準に引き継がれた
ISSB基準に整合する日本の基準は、SSBJ基準です。
RE100の加盟条件や参加企業の動きは、別の記事にまとめました。
株式会社リコー
リコーグループの目標は、2050年までの温室効果ガス排出のネット・ゼロです。
自社の工場や車両などからの直接の排出(スコープ1)と、購入した電気や熱に伴う排出(スコープ2)は、2030年度に2015年比75%の削減を掲げています。
2040年度は、自助努力で90%削減し、残りの排出をオフセットして、実質ゼロを達成する目標です。
これらの削減目標は、2050年のネット・ゼロとあわせて、SBTイニシアチブから、パリ協定の1.5度目標に整合するものとして認定されています。
使用電力の再生可能エネルギー比率は、2040年までに100%が目標で、2025年度は55.7%でした。
参考:リコー「気候変動対応」、同社の発表(2024年3月18日)
積水ハウス株式会社
積水ハウス株式会社は、2023年6月8日に、SBTイニシアチブから1.5度目標の認定を取得しました。
2030年までに、スコープ1・2を2013年度比75%削減する目標です。
取引先にも広げ、2027年までに、購入する商品やサービスの排出量ベースで、サプライヤーの65.8%がSBTを取得することを掲げています。
取引先を含む流れ全体の見方は、以下の記事が詳しいです。
≫サプライチェーンとは?意味や人権・環境問題との関わりを解説
2022年度の新築戸建住宅(北海道以外の請負・分譲)では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の比率が93%でした。
設計の工夫でエネルギーの使用量を減らす考え方は、次の記事で扱っています。
≫パッシブデザインとは?意味や手法、メリット・デメリットを解説
イオン株式会社
イオン株式会社は、パリ協定の目標を踏まえて、2018年に策定した「イオン脱炭素ビジョン」の目標を改定しました。
2050年としていた目標を、1.5度目標に整合させたうえで、達成年度を2040年に前倒しし、グループ全体のCO2排出のゼロ化に向けた取り組みを加速させています。
同社によると、CO2排出の約9割が電力由来のため、店舗の電力削減と再エネへの転換が主な手段です。
参考:イオン「脱炭素ビジョン」
気候変動に取り組む企業は、次の記事でも探せます。
≫気候変動に取り組む企業10選!就職・転職におすすめのベンチャーを中心に紹介
パリ協定に関わる仕事
協定の条文や国の目標は、職場では、排出量を数える、電気を選ぶ、開示を書く、といった日々の仕事に形を変えて現れます。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)と国際労働機関(ILO)によると、2024年の世界の再生可能エネルギー分野の雇用は、1,660万人でした。
サステナビリティ・脱炭素推進
サステナビリティ・脱炭素推進は、排出量を算定し、削減目標をつくり、開示する仕事です。
排出量の数字を整理する力と、部署をまたぐ調整力が活きます。
再生可能エネルギー・エネルギー
再生可能エネルギー・エネルギーの分野は、電力の調達や発電設備の導入を進める仕事です。
電力や設備の基礎知識と、数字を扱う力が役立ちます。
再生可能エネルギー業界の仕事内容は、以下の記事に詳しく載っています。
≫再生可能エネルギー業界で働くには?仕事内容・必要スキル・キャリアパスを解説
開示・コンサルティング・金融
開示・コンサルティング・金融は、企業の目標設定や情報開示を、専門家として支える仕事です。
ISSBやSSBJの基準文書を読み解く力が活きます。
NGO・NPO・行政・研究
NGO・NPO・行政・研究は、政策や社会の動きに働きかける仕事です。
COCOCOLOR EARTHで取材した清水イアンさんは、大学在学中に、気候変動NGO「350.org」の日本支部の設立を支援しました。
2021年5月公開のインタビューで、清水さんは、政策や企業の決定を変える活動に興味を持ち、日本支部の1人目のスタッフから、インターンに誘われたと語っています。
≫環境問題を無視して生きていくことはできない~weMORI代表 清水イアン~
環境分野の仕事を、業界や職種ごとに見渡したいときは、以下の記事が手がかりになります。
≫環境問題に携わる仕事がしたい!就活・転職に役立つ業界・業種を解説
よくある質問
パリ協定を調べるときに出てくる疑問を、3つ取り上げました。
Q. パリ協定とは何ですか?
A. パリ協定とは、2015年12月12日にCOP21で採択され、2016年11月4日に発効した、気候変動対策の国際的な協定です。世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求することを、長期目標に掲げています。先進国か途上国かを問わず、すべての参加国が、自ら決めた削減目標を5年ごとに提出し、更新します。今世紀後半には、人間活動による排出量と吸収量を釣り合わせる状態が目標です。
Q. パリ協定と京都議定書の違いは何ですか?
A. 京都議定書は、1997年に採択され、2005年に発効しました。附属書Iの先進国に、2008〜2012年の約束期間に、全体で1990年比5%以上減らすことを求めました。パリ協定は、2015年に採択され、2016年に発効し、先進国か途上国かを問わず、すべての参加国が、自ら決めた目標を5年ごとに提出します。目標の決め方は、国ごとの数値の割り当てから、各国の自主的な提出に変わりました。目標の未達に対する罰則は条文になく、進み具合を点検し合います。
Q. 日本のパリ協定にもとづく目標はどうなっていますか?
A. 日本は、2025年2月18日に、新しいNDCを、国連気候変動枠組条約の事務局に提出しました。2013年度比で、2035年度に60%、2040年度に73%の温室効果ガスを削減する目標です。同日に閣議決定された地球温暖化対策計画と同じ内容で、2030年度の目標は、同じ2013年度比で46%削減です。環境省が2026年4月に公表した算定結果では、2024年度の排出・吸収量は、2013年度比28.7%減で、2013年度以降で最も少ない水準でした。
まとめ
パリ協定とは、世界の平均気温の上昇を2度より十分低く、できれば1.5度に抑えるための、2015年に採択された国際的な協定です。
各国が目標を自ら決めて提出し、5年ごとに見直す仕組みで、日本は、2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%の削減を目指しています。
次に「〇%削減」というニュースを見かけたら、何年度と比べた数字なのか、吸収量を含む数字なのかを、確かめてみてください。
脱炭素に関わる仕事が気になったら、ココキャリアで企業の事業内容を読み、削減目標を公表しているかを、その会社の公式サイトで探す方法もあります。
数字の基準を確かめる習慣は、ニュースだけでなく、企業の脱炭素の目標を読むときにも、そのまま使えます。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
