ILOの人事報告によると、2025年末時点のILO職員は3,454人でした。
そのうち、国ごとの職員数の目安が決められている専門職ポストで働く日本人は26人です。
ILOが日本について「望ましい」としている人数は42〜70人で、実際の人数は下限にも届いていません。
「働く人が安全に、公正に働ける社会をつくりたい」。
そう考えたとき、候補に挙がる国際機関がILOです。
ただ、ILOでどんな仕事をしていて、どの入り口から入れるのか、日本語の情報は多くありません。
ここでは、ILO職員の仕事と職種、採用ルート、求められる学歴・経験・語学、日本人職員の現状、最近の採用環境の変化を、ILOや政府の公式情報をもとに紹介します。
ILOに入らなくても、労働組合や企業の立場から働くルールづくりに関わる道があることも、後半で取り上げます。
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ILOとは
ILO(国際労働機関)とは、働く人の権利や労働条件についての国際的なルールをつくり、各国で働きがいのある人間らしい仕事を広げるために活動する国連の専門機関です。
厚生労働省によると、ILOは1919年6月に設立され、本部はスイスのジュネーブにあります。
国連が生まれる前から続く国際機関で、1946年には国連の専門機関になりました。
設立50周年にあたる1969年には、ノーベル平和賞を受賞しています。
加盟国は187か国で、2022年10月からはトーゴ出身のジルベール・ウングボ氏が事務局長を務めています。
日本は設立当初からの加盟国ですが、1940年に脱退し、1951年に再加盟しました。
政府・労働者・使用者の三者構成
ILOのいちばんの特徴は、国連機関で唯一、政府・労働者・使用者(政労使)の代表で構成される「三者構成」をとっていることです。
毎年6月にジュネーブで開かれるILO総会には、各国から政府だけでなく、労働組合と使用者団体の代表も出席し、それぞれが投票権をもちます。
2026年6月の第114回総会では、日本から厚生労働副大臣、日本労働組合総連合会(連合)、日本経済団体連合会(経団連)の代表が参加しました(参考:経団連)。
この総会では、配達アプリなどで働く人を対象にした「プラットフォーム経済におけるディーセント・ワークに関する条約(第193号)」が、賛成406票で採択されています。
ILOが取り組む社会課題
ILOが扱うのは、児童労働や強制労働の撤廃、職場の安全、差別の解消、社会保障、雇用の創出など、働くことに関わる課題全般です。
ILOとUNICEFの推計によると、2024年に児童労働をしていた子どもは約1億3,800万人で、そのうち約5,400万人は健康や安全を脅かす危険な労働をしていました。
2020年からは2,200万人以上減ったものの、2025年までに児童労働をなくすという国際目標は達成できませんでした。
強制労働については、2022年9月に公表された2021年の推計で、約2,800万人が強制労働の状態にあったとされています。
ILOがつくる条約のうち、強制労働や児童労働、差別の禁止などを定めた10本は、すべての加盟国が守るべき「基本条約」とされています。
日本は2026年4月1日に職業上の安全と健康に関する第155号条約を批准しました。
これで日本が批准していない基本条約は、雇用と職業の差別待遇に関する第111号条約だけになりました(参考:労働政策研究・研修機構)。
働きがいのある人間らしい仕事は、SDGsの目標8にも掲げられており、その背景はSDGs目標8「働きがいも経済成長も」の記事で解説しています。
ILO駐日事務所の役割
日本には、ILO事務局長の直轄事務所であるILO駐日事務所があります。
前身の東京支局が1924年に業務を始めた、100年以上の歴史をもつ事務所です。
東京・渋谷の国連大学本部ビルに入っており、国際労働基準やILOの政策を日本に広める仕事、日本の労働情報をILOに伝える仕事、開発協力の推進などを担っています。
外務省国際機関人事センターと協力して、日本人職員を増やす取り組みも行っています。
ILO職員の仕事と職種
ILOの仕事は、働くルールをつくる仕事と、途上国の現場でそのルールを実現する仕事に大きく分けられます。
国際労働基準をつくり、守られているかを確かめる仕事
ILOの中心にあるのが、条約や勧告といった国際労働基準をつくる仕事です。
総会で議論する条約案の準備や、各国が批准した条約をきちんと守っているかを審査する仕組みの運営を、職員が支えています。
労働法や人権法の専門知識が生きる仕事です。
途上国で働く環境を良くする開発協力の仕事
ILOの人事報告によると、2025年末の職員3,454人のうち、2,279人がジュネーブ本部以外の地域・各国の事務所で働いていました。
また、1,773人は、通常予算ではなく開発協力の資金で雇われている職員です。
たとえば「ベターワーク」は、ILOと国際金融公社(IFC)が共同で進める、縫製工場の労働環境を改善するプログラムです。
安い服の裏側にある縫製工場の過酷な労働は、スウェットショップとはの記事で解説しています。
ほかにも、職業訓練、社会保障制度づくり、児童労働の撤廃などの事業を、各国の政労使と一緒に進めています。
調査・統計と組織を動かす仕事
ILOは、世界の雇用や賃金の動向を調べる報告書や、労働統計のデータベースも公開しています。
経済学や統計学の専門家が、こうした調査と政策提言を担っています。
さらに、財務、人事、IT、広報、法務など、組織を動かすための仕事もあります。
ILO職員になるルート
ILOの採用サイトでは、国際専門職、開発協力の事業、現地採用、短期の仕事、JPO、インターン、コンサルタントといった入り口が案内されています。
空席公募
空席公募は、空いたポストごとに職員を募集する、基本的な採用方法です。
ILOの職員の契約には、1年未満の短期契約、1〜5年で更新できる任期付き契約、定年まで続く無期限の契約があります。
新しく採用される職員は、任期付き契約が基本です(参考:ILO理事会文書)。
JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)
JPOは、各国政府が費用を負担して自国の若手を国際機関に送り出す制度で、日本は外務省が派遣しています。
ILOの人事報告によると、2025年末時点でILOのJPOの費用を負担していた国は、日本を含めて12か国でした。
外務省のJPOの応募条件や、国際機関で働くキャリアの組み立て方は、国際機関で社会課題解決に関わるキャリアの記事で解説しています。
ジュネーブ本部などのインターン
ILOのインターンは、修士課程などの最終学年に在籍しているか、応募前年に修了した人が対象で、期間は3〜6か月です。
英語・フランス語・スペイン語のいずれかで働けることが条件で、年齢制限はありません。
大学や政府などから支援を受けない場合は、生活費をまかなう手当が支給されます(参考:ILO採用サイト)。
2025年には37か国から81人がインターンとして働きました。
ただし、ILOの人事報告によると、資金不足を受けてインターン制度は停止され、2025年9月以降は新しい受け入れの契約が結ばれていません。
応募を考えている人は、募集が再開されているかを採用サイトで確認しましょう。
ILO駐日事務所のインターン
日本にいながら挑戦できる入り口が、ILO駐日事務所のインターンです。
2024年2月の募集では、大学院に在籍中か既卒1年以内で、日本語と英語で仕事ができる人を対象に、週2.5日・3〜6か月の勤務で月5万円が支給されました。
業務は「ビジネスと人権」に関する調査や、発表資料の作成・翻訳、イベントの運営などです。
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部が2022年に紹介した小池都司さんは、証券会社とコンサルティング会社で働いたあと、英国の大学院で移民学を学びました。
2019年6月から10月までILO駐日事務所でインターンを経験し、その後は在ジンバブエ日本大使館の専門調査員を務めました。
2022年1月末にJPOとしてILOに派遣され、紹介当時は雇用政策局で若者雇用の取り組みを担当していました。
コンサルタント
特定の調査や事業のために、専門家として個人でコンサルタント契約を結ぶ形もあります。
職員としての採用ではありませんが、専門分野での実績があれば、ILOの仕事に関わるきっかけになります。
国連機関の職員の区分や給与の仕組み、YPPとJPOの違いは、国連職員になるには?の記事で解説しています。
ILO職員に求められる学歴・経験・語学
ILOの専門職を目指すうえで準備したいのは、学歴・職務経験・語学、そして三者構成の中で仕事を進める力です。
学歴
学歴は、JPOやインターンの条件から見ても、修士号が一つの目安になります。
労働経済学、労働法、開発学、社会政策、統計学などは、ILOの仕事に直結する分野です。
職務経験
職務経験は、応募するポストの分野に関連していることが大切です。
政府の労働行政、労働組合や経済団体、企業の人事やサプライチェーン管理、開発協力の現場などでの経験は、ILOの仕事に直接つながります。
国際機関・JICA・NGO・民間企業など、国際協力の経験を積む入り口は国際協力を仕事にするとは?の記事にまとめています。
語学
語学は、ILOの作業言語である英語・フランス語・スペイン語が基本で、英語に加えてもう一つ使えると強みになります。
三者の対話を進める力
三者の対話を進める力は、ILOならではの資質です。
政府・労働組合・使用者団体という立場の違う人たちの意見を聞き、合意に向けてまとめる場面が、ILOの仕事には多くあります。
ILOの日本人職員は目安を下回る26人
ILOの人事報告によると、2025年末時点で、国ごとの目安の対象となる専門職ポストで働く日本人は26人でした。
内訳は女性17人、男性9人です。
日本の望ましい範囲は42〜70人で、ILOは日本を職員が不足している国に分類しています。
一方、2026年の日本の分担率は6.933%で、米国(22.000%)、中国(20.012%)に次ぐ3番目の大きさです(参考:ILO)。
なお、外務省が発表している「国連関係機関の日本人職員979人(2024年末)」は、44の機関を合わせた人数で、ILOだけの人数ではありません。
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部が2020年に紹介した及部周介さんは、民間企業で8年間、内部監査と海外マーケティングを担当しました。
インド駐在中に中小企業の職場環境の課題に触れたことから、ロンドンの大学院で人口開発学の修士号を取り、JPO試験に合格して2019年2月からILO本部で働き始めました。
紹介当時は中小企業ユニットで、政労使への聞き取りをもとに途上国の事業環境を査定し、政策を提言するプログラムを担当していました。
ILOではありませんが、COCOCOLOR EARTHが取材した斎藤珠里さんも、民間から国連機関に移った一人です。
新聞記者として16年働いたあと46歳でパリに渡り、取材当時はUNESCOで持続可能な開発のための教育を担当していました。
語学力と説得力のあるコミュニケーションが大切だという話は、UNESCO斎藤珠里さんのインタビューで読めます。
ILOの職員は1年で4.5%減少
ILOを目指すなら、ここ数年の資金不足と人員削減の動きも知っておく必要があります。
分担率22%の米国は、2025年末時点で約1億7,361万スイスフランの分担金を払っていませんでした。
2026年10月2日時点では、米国の未払いは約2億5,682万スイスフランに増えています(参考:ILO)。
冒頭で紹介した2025年末の職員3,454人は、前年より4.5%少ない人数です。
2026年8月のILO理事会文書は、2027年12月まで採用を凍結しても約2,200万米ドルの節約が必要だとしています。
この額は、2027年1月からフルタイム換算で約120人分のポストを減らすことに相当します。
これを受けて、2026年9月7日の特別理事会は、無期限契約の職員が就くポストを最大73削減することを承認しました。
採用凍結が2027年12月までの前提になっているため、当面は募集が限られると考えておきましょう。
ILOだけを目標にせず、次に紹介する道で経験を積みながら機会を待つのが現実的です。
ILOの外から働くルールづくりに関わる道
働く人を守るルールづくりに関わる方法は、ILOの職員になることだけではありません。
厚生労働省・労働組合・使用者団体
三者構成のILOには、日本からも政府・労働者・使用者の代表が参加しています。
政府側では厚生労働省が窓口となり、条約の批准に向けた国内法の整備や、ILO総会・理事会への対応を担っています。
労働者側では連合、使用者側では経団連が日本代表を出しており、それぞれが国際労働基準の議論に意見を届けています。
労働行政の公務員や、労働組合・経済団体の国際部門で働くことも、ILOの外から国際基準づくりに関わる道です。
制度や政策の側から社会課題に関わる働き方は、社会課題解決×研究・政策のキャリアの記事で紹介しています。
JICA
JICA(国際協力機構)は、日本の政府開発援助(ODA)を担う機関で、途上国の職業訓練や産業人材の育成なども支援しています。
職員の採用ルートは、JICAで働くには?の記事にまとめています。
NGO
児童労働や人身売買の被害者を支えるNGOも、現場で働く人を守る担い手です。
ネパールで人身売買の被害にあった女性たちにサリーを届ける活動は、TSUBAKI project久安瑞貴さんのインタビューで読めます。
企業の人権デューデリジェンス
企業の中にも、取引先の工場で働く人の権利を守る仕事があります。
日本政府は2020年10月に「ビジネスと人権」に関する行動計画をつくり、2022年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。
行動計画は2025年12月に改定されました。
企業が自社と取引先で人権侵害のリスクを調べ、防いだり減らしたりする取り組みを「人権デューデリジェンス」といいます。
服や製品がどこでつくられているかと人権の関わりは、サプライチェーンとはの記事で解説しています。
株式会社ファーストリテイリング
株式会社ファーストリテイリングは、「ユニクロ」などの衣料品ブランドを展開する会社です。
2019年9月にILOとパートナーシップを結び、2021年までの2年間で180万米ドルを拠出しました。
資金は、生産拠点のあるアジア7か国での労働市場と社会保障制度の調査や、インドネシアでの雇用保険づくりの支援に充てられました。
ILOが主導する社会保障の取り組みとしては、過去最大の民間資金によるプロジェクトです(参考:株式会社ファーストリテイリング)。
パナソニック ホールディングス株式会社
パナソニック ホールディングス株式会社は、家電や電子部品などを手がけるパナソニックグループの持株会社です。
ILOとジェトロが2024年にまとめた日本企業の人権デューデリジェンスの事例集で、取り組みが紹介されました。
グループの従業員だけでなく取引先の従業員も使える通報窓口「グローバルホットライン」を設け、事例集の時点で32言語に対応していました(参考:ILO・ジェトロ)。
こうした企業の人権対応を外から支える仕事には、サステナビリティコンサルタントもあります。
世界で起きている人権の課題は人権問題とはの記事で、働きがいのある職場づくりに取り組むほかの会社は働きがいも経済成長もに取り組む企業10選で紹介しています。
労働や人権以外の課題を担う国際機関も含めた全体像は、国際機関一覧の記事で紹介しています。
よくある質問
ILOで働くことについて、よく寄せられる質問にお答えします。
Q. ILOのインターンに給料はありますか?
A. ジュネーブ本部などのインターン(期間3〜6か月)では、大学や政府などから支援を受けない人に、生活費をまかなう手当が支給されます。ただし資金不足を受けて制度は停止され、2025年9月以降は新しい受け入れの契約が結ばれていないため、募集の再開を確認する必要があります。ILO駐日事務所のインターンでは、2024年2月の募集で、週2.5日の勤務に対して月5万円が支給されました。募集は不定期なので、駐日事務所の発表を確認しておきましょう。
Q. 新卒でILO職員になれますか?
A. 大学を卒業してすぐILOの専門職になるのは、簡単ではありません。若手の主な入り口であるJPOでも、35歳以下で修士号と2年以上の職務経験が求められるためです。学生のうちはILO駐日事務所のインターンに挑戦し、卒業後は厚生労働省、労働組合、企業の人事やサプライチェーン管理、開発協力などで経験を積むのが現実的な道筋です。及部周介さんも、民間企業で8年働いたあとロンドンの大学院で修士号を取り、JPOとしてILOに入りました。
Q. ILO駐日事務所ではどんな仕事をしていますか?
A. ILO駐日事務所は、ILO事務局長の直轄事務所として東京・渋谷の国連大学本部ビルにあります。国際労働基準やILOの政策を日本の政府・労働組合・使用者団体や市民に広める仕事、日本の労働情報を集めてILOに伝える仕事、開発協力の推進などを担っています。外務省国際機関人事センターと協力して、日本人職員を増やす取り組みも行っています。2024年2月のインターン募集では、「ビジネスと人権」に関する調査やイベント運営などが業務でした。
Q. ILOで働く日本人は何人いますか?
A. ILOの人事報告によると、2025年末時点で、国ごとの職員数の目安の対象となる専門職ポストで働く日本人は26人でした。日本の望ましい範囲は42〜70人なので、実際は下限を大きく下回っており、ILOは日本を職員が不足している国に分類しています。外務省が発表している979人という数字は、44の国連関係機関を合わせた日本人職員数です。日本はILOのJPOの費用も負担しており、若手の日本人がILOに入る道は開かれています。
まとめ
ILOで働くには、労働や社会政策の専門性と実務経験、英語を中心とした語学力、そして政労使の対話を進める力が求められます。
入り口は、空席公募、JPO、インターン、コンサルタントで、日本人の若手にとってはJPOが代表的なルートです。
いまは資金不足で採用が絞られているため、まずはILO駐日事務所のインターンや、厚生労働省・労働組合・企業での経験から始めるのが現実的です。
企業の人権デューデリジェンスの仕事も、取引先の工場で働く人の権利を守る点で、ILOと同じ課題に向き合っています。
働きがいのある職場づくりや人権に取り組む企業は、ココキャリアで探すことができます。
ILOの日本人職員は目安より少なく、日本からの応募が求められている職場です。
あなたの「働く人を守りたい」という思いを、一歩ずつキャリアにつなげていきましょう。
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この記事の監修者
吉田宏輝
COCOCOLOREARTH代表、社会活動家。
COCOCOLOREARTHでは、社会課題解決を軸にした就職・転職活動を支援するインタビューメディアの代表として、100人以上の社会活動家にインタビュー、記事執筆やイベント登壇などを行う。
