農林水産省によると、農山漁村に滞在する「農泊」に取り組む地域数は、令和7年3月末時点で全国673地域にのぼります。

農泊の年間延べ宿泊者数は、令和5年度実績で794万人泊となり、政府が掲げていた700万人泊という目標をすでに上回りました。

旅行先で農業を体験したり、農家に宿泊したりする過ごし方が、統計の上でも着実に広がっていることがわかります。

この記事を読むと、アグリツーリズムの意味や、似た言葉であるグリーンツーリズムとの違いを自分の言葉で説明できるようになります。

農泊の実績データ、類似用語との違い、地方創生への効果、関わる仕事へと、順に見ていきます。

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アグリツーリズムとは

アグリツーリズムとは、農村に滞在しながら、農作業体験や地域住民との交流を楽しむ観光のスタイルのことです。

海外では、農家に宿泊しながら収穫体験をしたり、生産者から直接話を聞いたりするスタイルとして広まってきました。

グリーンツーリズムとの違い

日本では、アグリツーリズムよりも先に「グリーンツーリズム」という言葉が使われてきました。

農林水産省は、農山漁村での滞在型余暇活動の普及を「農泊」として推進しており、1992年度に提唱した「グリーンツーリズム」の考え方がその土台になっています。

グリーンツーリズムが農山漁村全体(漁村も含む)を対象にするのに対し、アグリツーリズムは農業・農村により焦点を絞った言葉として使われる傾向があります。

厳密な使い分けが定まっているわけではなく、実際には重なり合う部分の多い言葉として理解しておくとよいでしょう。

アグリビジネスとの違い

似た言葉に「アグリビジネス」がありますが、こちらは農業を事業として捉える経済活動全般を指す言葉です。

アグリビジネス全体の意味については、アグリビジネスとは?の記事で詳しく解説しています。

アグリツーリズムは、そのアグリビジネスの一形態として位置づけることができます。


農泊の宿泊者数は794万人泊に達した

農林水産省の資料によると、農泊に取り組む地域数は令和7年3月末時点で673地域に達しています。

年間延べ宿泊者数は、令和5年度実績で794万人泊となり、政府が令和7年度(2025年度)までの目標として掲げていた700万人泊を、実績値としてすでに上回る結果になりました。

インバウンド需要の拡大も背景にあり、農山漁村での滞在体験は、外国人観光客にとっても魅力的な選択肢として位置づけられています。

数字の伸びは、旅行者の関心が「見る観光」から「体験する観光」へと広がっていることの表れともいえます。

農泊が目指しているのは観光だけではない

農林水産省が農泊を推進する目的は、観光客を増やすこと自体ではありません。

資料には、農山漁村における「しごと」を作り出し、持続的な収益を確保して地域に雇用を生み出すことが狙いとして書かれています。

さらに、移住・定住も見据えた関係人口の創出の入り口にすることも挙げられています。

立ち寄るだけの通過型観光では滞在時間が短く、地域にお金が落ちません。

宿泊をともなう滞在にすることで、食事や体験、土産の購入といった消費が積み上がります。

一度泊まった人が何度も訪れるようになり、やがて移住を考えるところまでつながることが期待されています。

宿泊をきっかけに地域と関わり続ける人は、関係人口と呼ばれます。

つまり農泊は、観光施策の形をとった地域の担い手づくりの施策でもあります。

この位置づけを知っておくと、求人票に書かれた業務内容の意味も読みやすくなります。

実際の募集では、宿泊施設の運営だけでなく、地域の農家との調整や体験メニューの開発、SNSでの発信までが一人の業務範囲に入ることがあります。

小さな組織で幅広く動く働き方になるため、特定の職種の経験よりも、複数の役割をまたげるかどうかが問われます。


アグリツーリズムが地方創生に果たす役割

農業体験や農泊は、都市部の人が農村を訪れるきっかけをつくり、地域外からの交流人口を増やす効果があります。

地方創生というテーマ全体の課題や取り組みについては、地方創生とは?の記事で詳しく解説しています。

地元で採れた農産物をその場で味わってもらう体験は、地産地消の考え方とも重なります。

農家にとっては、収穫した農産物を販売するだけでなく、体験や宿泊という形で新たな収入源をつくれる点もメリットです。

農泊地域はどこまで増えたのか

農林水産省の資料を見ると、農泊に取り組む地域の数がどう増えてきたかがわかります。

平成29年度は206地域でしたが、平成30年度に352地域、令和元年度に515地域と急に増えました。

その後も令和2年度554地域、令和3年度599地域、令和4年度621地域、令和5年度656地域と伸び続けています。

宿泊者数のほうは、令和5年度時点で年間延べ794万人泊に達しました。

これは令和7年度までに700万人泊という国の目標を、2年前倒しで達成した数字です。

コロナ禍で大きく減った時期を挟みながら回復したことになります。

国は交流人口についても令和7年度までに1,540万人という目標を置いています。

ただし課題も示されています。

農泊地域の1泊あたり平均宿泊費は、観光旅行全体に比べて安い水準にとどまっているという指摘です。

人は来ているが、一人当たりの消費額が伸びていないという状態で、農水省は農泊の高付加価値化を課題に挙げています。

数を増やす段階から、単価を上げる段階に移りつつあるのが現在の局面です。

消費額を伸ばす方向は、訪れる人の数を抑えながら質を上げるサステナブルツーリズムの考え方とも重なります。

参考:農泊をめぐる状況について(農林水産省)


受け入れる側に必要な手続き

農家が宿泊客を受け入れるには、法律上の手続きが必要になります。

有料で人を泊める場合は旅館業法の営業許可が要り、許可を取った農家は農家民宿と呼ばれます。

許可を取らずに、体験を主目的として受け入れる農家民泊という形もあります。

どちらの形をとるかで、受け入れられる人数や提供できるサービスの範囲が変わります。

農林水産省は、農家民泊から旅館業法の営業許可を取得した農家民宿に転換する場合、1経営者あたり上限100万円を加算する形で改修費を支援しています。

古民家を活用した滞在施設の整備や、農家レストランの整備も交付金の対象です。

こうした支援があるのは、設備投資の負担が個々の農家にとって重いためです。

客室に必要な設備、調理場の衛生基準、消防設備といった条件を満たすには、住まいをそのまま使うだけでは足りない場合があります。

食事を出す場合は食品衛生法の許可も別に必要で、提供する内容によって求められる設備が変わります。

地域協議会がまとめて手続きを支援する形をとる地域もあり、個々の農家が一から調べなくて済むようにしているところもあります。

アグリツーリズムが広がるかどうかは、体験の魅力だけでなく、この手続きと投資の壁を越えられるかにかかっています。

担い手の確保という点では、地域に入って活動するグローカルな人材が受け入れ体制づくりに関わる例も出てきました。

農家の高齢化が進むなかで、宿泊の受付や情報発信を外から来た人が担う分担の形が見られます。

アグリツーリズムに取り組む企業の事例

生産と消費の距離を縮めようとしている企業を3社紹介します。

株式会社Perma Future

エコビレッジと協力した健康茶ブランド「EARTH MIND」などを展開する会社です。

農薬や化学肥料に頼りにくい生産背景や、暮らし方そのものを含めて価値を伝えています。

代表の池田航介さんは、インタビューで、エコビレッジから環境問題の解決を目指す考えを話しています。

商品を売るだけでなく、その背景にある暮らしを見せる形は、農泊の発想と重なります。

株式会社ビビッドガーデン

生産者が直接発送する産直通販「食べチョク」を運営する会社です。

「生産者のこだわりが正当に評価される世界へ」を掲げ、価格に反映されにくい価値が伝わる仕組みをつくっています。

作り手の工夫やストーリーが届くほど、収益と継続の意欲が上がります。

現地に来てもらう農泊と同じ狙いを、別の手段で実現している形です。

オイシックス・ラ・大地株式会社

有機野菜やミールキットを販売し、「これからの食卓、これからの畑。」を掲げる食品企業です。

規格外の食材や未利用資源のアップサイクルを含むフードロス削減にも取り組んでいます。

食べる人と作る人をつなぐ方法を広げるという点で、農泊が果たす役割と目的を共有しています。

ほかの企業は、農業問題に取り組む企業10選でまとめています。


アグリツーリズム・地方創生に関わる仕事・キャリア

アグリツーリズムを支える仕事は、農家だけにとどまりません。

地域おこし協力隊・地方創生の仕事に関わる

自治体や地域おこし協力隊として、農泊の受け入れ体制づくりや、地域と旅行者をつなぐ企画・広報に携わる仕事があります。

農泊に取り組む地域が673地域まで広がった背景には、こうした受け入れ側の体制づくりを担う人材の存在があります。

地方創生・まちづくりに関わる仕事の全体像は、地方創生・まちづくりに携わる仕事がしたいの記事で紹介しています。

持続可能な農業のキャリアとして関わる

農業そのものに関わりながら、観光や体験プログラムの企画にも携わるキャリアの選択肢もあります。

具体的な仕事内容や入り方については、持続可能な農業のキャリアとは?の記事で詳しく紹介しています。

よくある質問

アグリツーリズムについて、よく見かける疑問にお答えします。

Q. 農泊の実績は、実際どのくらい伸びていますか?

A. 農林水産省によると、農泊に取り組む地域は平成29年度の206地域から令和5年度の656地域まで増えました。年間延べ宿泊者数は令和5年度時点で794万人泊に達し、令和7年度までに700万人泊という国の目標を前倒しで達成しています。一方で農泊地域の1泊あたり平均宿泊費は観光旅行全体に比べて安い水準にとどまり、農水省は高付加価値化を課題に挙げています。数を増やす段階から単価を上げる段階に移りつつあります。

Q. アグリツーリズムとグリーンツーリズムは同じ意味ですか?

A. 重なる部分が大きい言葉ですが、対象の範囲が違います。アグリツーリズムは農業や農村の暮らしを体験することに焦点があり、グリーンツーリズムは農村だけでなく山村や漁村も含めた自然環境のなかでの滞在を広く指します。日本の政策では「農山漁村滞在型旅行」を農泊と呼び、農山漁村に宿泊して地域資源を活用した食事や体験を楽しむ旅行と定義しています。実務上はほぼ同じ場面で使われることもあります。政策上の呼び名としては、農泊という言葉が使われます。

Q. アグリツーリズムには、具体的にどんな体験がありますか?

A. 田植えや稲刈り、野菜の収穫、果物の摘み取りといった農作業の体験が中心になります。加えて、とれた食材を使った加工や調理、農家の家に泊まって暮らしを共にする滞在、棚田や里山の景観を歩くプログラムもあります。農林水産省は古民家やジビエ、棚田といった地域資源を活用した観光コンテンツを挙げており、その土地でしかできない体験を組み合わせることが前提になっています。宿泊とあわせて滞在時間を長くすることが狙いになっています。

Q. アグリツーリズムに関わる仕事に就くには、農業の経験が必要ですか?

A. 必須ではありません。地域協議会や中核法人で、体験プログラムの企画、宿泊予約の受付、国内外へのプロモーションを担う仕事があり、観光やマーケティングの経験が生きます。自治体の農政課や観光課で交付金の申請や地域の調整を担う立場もあります。農作業そのものを教える役割には経験が必要ですが、受け入れの体制をつくる側の仕事は農業以外の経験でも入りやすい領域です。地域協議会や中核法人が受け入れの窓口になっている地域が多くあります。


まとめ

アグリツーリズムは、農業と観光を組み合わせることで、旅行者に新しい体験を提供すると同時に、地域に新たな収入源と交流の機会をもたらす取り組みです。

農泊地域数673地域、延べ宿泊者数794万人泊という農林水産省のデータは、この取り組みが着実に広がっていることを示しています。

農家として関わる道だけでなく、地域おこし協力隊や企画・広報という立場から関わる道も用意されています。

ココキャリアでは、地方創生に取り組む企業の情報も掲載されています。

一度の農業体験が、その土地との長い関わりの始まりになるかもしれません。

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